【作品#0652】海外特派員(1940) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

海外特派員(原題:Foreign Correspondent)

【概要】

1940年のアメリカ映画
上映時間は120分

【あらすじ】

新聞記者のジョニーはハバーストックという名でヨーロッパに派遣された。和平のキーとなるヴァン・メア氏への取材を試みようとしたところ、ハバーストックの目の前でヴァン・メア氏は暗殺されてしまい、ハバーストックはその犯人を追うが…。

【スタッフ】

監督はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はアルフレッド・ニューマン
撮影はルドルフ・マテ

【キャスト】

ジョエル・マクリー(ジョニー/ハバーストック)
ラレイン・デイ(キャロル・フィッシャー)
ハーバート・マーシャル(ステファン・フィッシャー)
ジョージ・サンダース(スコット・フォリオット)

【感想】

アルフレッド・ヒッチコック監督にとってアメリカ進出2作目である本作は、1作目の「レベッカ(1940)」とともに同年アカデミー賞作品賞候補になった(受賞したのは「レベッカ(1940)」)。また、オファーを受けたゲイリー・クーパーは「スリラー映画は嫌い」との理由でオファーを断ったが後にそれが間違いだったと認めている。

本作も他のヒッチコック映画の例に漏れず、主役の二人が結ばれるというロマンスが用意されている。ハバーストックはアメリカから派遣された特派員であり、キャロルは平和運動の活動家の父を持ち、ともに活動をしている。彼らが知り合ってから、ハバーストックの目の前でカメラマンに扮した男により取材予定だったヴァン・メア氏が殺されてしまう。いつものヒッチコック映画なら主人公が犯人に仕立て上げられるところだが本作は異なる。

ハバーストックとキャロル、別の特派員スコットはその犯人を追って風車の立ち並ぶ田舎までやって来るが見失ってしまう。風車が怪しいと踏んだハバーストックはキャロルとスコットには警察を呼びに行かせ、単身その風車に乗り込む。そこにはドイツ語を話す男たちが大勢おり、本当のヴァン・メア氏が誘拐されていることを突き止める。

ところが、警察を連れて風車に戻ってくると彼らはいなかった。その晩、ハバーストックがホテルに泊まると部屋に警察と称した男たちがやって来て、彼らから殺されると思ったハバーストックは機転を利かせて部屋を脱出し、キャロルの元へ助けを求めに行く。しかし、キャロルはハバーストックが嘘つきであり、警察の前で恥をかかされたことを糾弾する。ハバーストックはこうなったら殺されるしかないと口にするとキャロルが「待って」と言い、彼らは恋仲になっていく。この流れはかなり理解し難い。後に彼らが恋人同士になったからこその展開は用意されているが、何でもかんでも主役の二人が結ばれる話は安易である。また、後に父を信じるキャロルと父を疑うハバーストックの間で対立するという寄り道こそあるが、最終的に彼らは結ばれることになる。

戦争が目前に迫るヨーロッパにおいて、父親は平和運動の騎手として活動しており、娘のキャロルもその運動を支持して活動している。また、ハバーストックは目の前で暗殺を目撃し、犯人を追うと暗殺されたのは別人だったことやドイツ人が関与している事情を知ることになる。これほど切羽詰まった状況で恋仲になるのはいささか呑気であると感じてしまう。

また、ハバーストックは何度も敵の刺客により殺されかけるが、その度にやり過ごしてきた。ホテルに二人組の男が乗り込んできた場面でも、ハバーストックは風呂に入るふりをして窓から逃げている。ハバーストックを殺すのが目的ならさっさと殺してしまえば良いのにこの二人組の男は何がしたかったのかよくわからん。さらにフィッシャー氏が雇った探偵という名の殺し屋ローリーはハバーストックを道路に押し出したり、展望台から突き落とそうとしたりするがうまくいかず、最終的には展望台から突き落とそうとしたところをハバーストックによけられて転落死してしまう。いくらなんでも間抜けすぎるだろう。

一方で、本題に入る手早さは流石である。解雇間近のジョーンズ(ハバーストック)は社長に呼び出される。警察官を殴ったこと、ヨーロッパの事情に詳しくないことが決め手となり社長からヨーロッパに送り出されることになる。警察をあまり良く描かなかったヒッチコックらしく、警察官を殴った男を認める展開が用意されている。また、ヨーロッパへ派遣するというのにジョーンズ(ハバーストック)はヨーロッパの事情に何ら詳しくない。おそらく何の偏見もない記者を送り込みたかったというのが意図だろうが、記者をやっている男がヨーロッパの事情に疎いという設定はややリアリティに欠ける。その割にはヨーロッパの言語をそれなりに操り、事情にもそれなりに精通しているんだから設定の整合性は取れているとは言い難い。

そして、陰謀が暴かれ、フィッシャー氏は自らが捕まってしまうことを悟る。メインキャラクター全員が乗る飛行機はドイツの潜水艦から爆撃を受けて墜落する。浮かぶ飛行機の翼に捕まる彼らをよそ目に、フィッシャー氏は海に飛び込み命を断つ。他の連中が助かるための犠牲ということらしいが、ちょっと分かりづらい。

過去のヒッチコック映画であれば、メインキャラクターの死は有耶無耶にされたり、事情を知らない人がその人を讃えたりすることがあった。本作でもそうなりかけるのだが、フィッシャー氏の娘キャロルは公にしても構わないと主張する。最終的にフィッシャー氏が関連した陰謀はすべてアメリカに伝わり、従軍記者となったハバーストックはラジオ放送でヨーロッパを灯し続ける必要性を訴えて映画は終わる。ナチスドイツが台頭するヨーロッパを牽制する意味合いのプロパガンダ映画である。

振り返ると主演の二人はあまりに印象が薄く、力強さは感じない。上述のようにヨーロッパの事情に疎いはずのハバーストックは未踏の地で次々に問題を乗り切り、黒幕フィッシャー氏の娘キャロルは平和運動が世界を救うと考える割と頭の中お花畑状態の女性である。ハバーストックにはもう少し正義に目覚めていく過程を丁寧に描くべきだったし、キャロルを演じたラレイン・デイからは目前に迫る戦争と平和運動の騎手として活動する父親が黒幕であることの間に立たされるジレンマも感じなかった。

偽物のヴァン・メア氏が殺される場面での黒い雨傘の場面や、飛行機墜落の場面は印象に残る。黒い雨傘の場面はおそらく「THE BATMAN-ザ・バットマン−(2022)」で引用されているだろう。また、飛行中の旅客機の外からカメラが中の様子を移す場面も「アンタッチャブル(1987)」の列車の場面、「ホワット・ライズ・ビニース(2000)」のミシェル・ファイファーが乗る車の場面で引用されている。そういった印象的な場面は多いものの、主役の二人が如何せん魅力不足だったように思う。いつものヒッチコック映画らしいところもある一方で、そのらしさをいい意味で裏切る要素もあるだけにやや残念。




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