【作品#0651】幸福の条件(1993) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

幸福の条件(幸福は「しあわせ」と読む)(原題:Indecent Proposal)

【概要】

1993年のアメリカ映画
上映時間は117分

【あらすじ】

若くして結婚したデヴィッドとダイアナは夢のマイホームを多額のローンの末に購入した。ところが、不況の影響でデヴィッドは会社をクビになり、ローンの支払い期限が迫る中、お金を増やすためにラスベガスのカジノへ向かうが…。

【スタッフ】

監督はエイドリアン・ライン
音楽はジョン・バリー
撮影はハワード・アサートン

【キャスト】

ロバート・レッドフォード(ジョン・ゲージ)
デミ・ムーア(ダイアナ)
ウディ・ハレルソン(デヴィッド)
シーモア・カッセル(シャックルフォード)
オリヴァー・プラット(ジェレミー)

【感想】

1988年にジャック・エンゲルハードが発表した小説の映画化。全世界で2億6千万ドルを売り上げるヒットを記録したが、ラジー賞では最低作品賞含む計3部門を受賞するなど否定的な評価が下された。当初はトム・クルーズ、ニコール・キッドマンという当時の夫婦が映画で夫婦役を演じ、億万長者をウォーレン・ビーティが演じる予定だったらしい(他にも検討されたキャストは多数いるようだ)。

エイドリアン・ラインという作家は歪んだ愛の形を題材にすることが多く、本作以前では「ナインハーフ(1985)」「危険な情事(1987)」、本作以降では「ロリータ(1997)」「運命の女(2002)」、そして20年ぶりにメガホンを取った「底知れぬ愛の闇(2022)」などが挙げられる。そんな作品群に並べると本作のお話はまだ想像の範囲内というかまともに見える。

本作は金のない若い夫婦に億万長者の男が現れ、奥さんを一晩貸してくれたら100万ドルあげるという話である。悩んだ末にその誘いに乗ったことから二人の関係はこじれていく。最後は出会った頃を思い出した二人がプロポーズをした場所で再会して映画が終わる。何の意外性もない物語である。

本作の最大の欠点は若い二人の夫婦に共感しづらい点であろう。親の反対を押し切って結婚するのも、多額のローンを組んでマイホームを購入するのも別に構わないのだが、ロバート・レッドフォード扮する億万長者が登場するまでの20分ちょっとで彼らの人となりが描けたとは思えない。若さゆえの向こう見ずという感じにも思えず、ただこの二人の頭が悪いだけに見えてしまう。

マイホームを購入するかどうかは個人の自由だが、お金が払えなくなった時のリスクは賃貸よりも大きい。そのリスクを冒してまでマイホームが欲しいそれなりの理由は提示すべきだったと思う。また、そんな危ない橋を渡る二人だからか、ラスベガスのカジノで必要な5万ドルを稼ごうとする。それがうまくいかないのは観客には容易に想像できるのだが、それでも応援したくなる二人という感じではない。

そんな二人の元へロバート・レッドフォード扮する億万長者が現れ、例の提案を持ち掛ける。最初は断る二人も少し考えただけで提案を承諾することになる。人間誰しも弱みに付け込まれたら誤った判断を下してしまうことはある。それがこの二人に降り注ぐわけだが、100万ドルという大金が手に入ったとしても、夫以外の男性と体の関係を持つという文字通り体を張るのは妻の方である。一方で夫の方は何もできずにいる。同じ100万ドルが二人の元に転がり込んでくるとしても、割を食うのはどう考えても、実際に体を張った妻の方だと思う。

にもかかわらず、夫の方はその夜に何があったのかを細かく問いただし、あの男に惚れたのかとまで言い始める。「ほれ見たことか」と言いたくなるところだが、夫の精神年齢があまりに幼すぎないか。共感できなくもないが、少なくともこの一件に関して二人でもっともっと話し合えよ。結局、若さという名の勢いに任せて結婚して、多額のローンを組んでギリギリの生活を送ってきた。この二人の間に愛があるのは確かだと思うが、共に生活する上で話し合うべきことを話し合わず、何となく生きてきたんだろうなという感じがしてしまう。というか、靴を机の上に置くってどんな神経してるんだ。

基本的にキャラクターに奥行きがない。特に夫を見ていると、妻の側が「もし受け入れたらこうなるだろうな」と想像がつくはずだし、案の定そうなったという感じである。こういった細部の作り込みの弱さが本作の最大の欠点であろう。

一方で、愛なんていとも簡単に壊れてしまうものだという普遍的なメッセージは多少なりとも描けていると思う。実質、金のない男が妻にふられ、妻は金のある男前の紳士についていった。さらには体の方も良かったと言う(多分本当だったんだろう)。これだけ男女が世の中に溢れていたら他の選択肢を考えないことの方が不自然かもしれない(浮気や不倫がこの世からなくならないわけだ)。

ジョン・ゲージは二人の目線を見てダイアナを諦めたような言いぶりだった。何でも手に入れられると思っている男がダイアナに対して徐々に本気になっていくのはちょっと違うかな。もっと機械的でも良かったと思う。ダイアナを手に入れられなくても別にどうってことないってくらいの感じで良かった。

たとえ一生の愛を誓った二人でも、他の異性について一度も考えたことのないなんてそんな話はないはずだから、億万長者の男前という超人設定とはいえ、ちょっとした隙に付け込まれる可能性はいくらでもある。この点から言えば非常に現実的だと言える。ただ、物語の終わらせ方は割とロマンティックというか理想主義的に見える。これはまだ若い二人への、あるいは見に来たお客さんへの優しさみたいな結末だろうが、やはり甘い結末に見えてしまう。これならもっと苦々しい結末の方が印象に残ったと思う(そうなればこんなヒットは記録していなかったと思うが)。

【音声解説】

参加者
├エイドリアン・ライン(監督)

監督のエイドリアン・ラインによる単独の音声解説。「10年前」という言葉を使っているので、DVD化に際して収録された音声解説と思われる。キャスティング、ロケ地、拘った箇所、カジノのサイコロの撮り方、犬の使い方、ユーモアの程度など語ってくれるが、興味深い話はなかった。

 

 

 

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【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

音声特典

├エイドリアン・ライン(監督)による音声解説

 

<BD>

 

収録内容

├上記DVDと同様