神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展
The Empire of Imagination and Science of Rudolf II
会期: 2018/1/6(土) ~ 2018/3/11(日)
公式サイト: http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_rudolf/
アルチンボルド推しのポスターゆえ、当初スルーするつもりだった展示ですが。内容よくみると、ブリューゲル含めフランドル絵画や当時流行した天文学錬金術博物学関連のコレクションも沢山あるらしいということで覗いてみました。するとなんと、予想外にどストライクな展示でした!観たばかりだった「ブリューゲル」展との関連もあったりして、面白ささらにマシマシ。そしてー、音声ガイドはなんと安田顕さん!んもー、いいとこついてくるなぁ(笑)。でも、1時間ちょっとしか時間がなかったので取りあえずスルーしました。そして、予想を反して充実の内容だったために、全然時間足りず、もう1回会期終了までにお代わりをしよう!と決心。
その後、時間的にも体力的にもブログ記事書くスタミナ欠乏していた間に時間が経ち、先日晴れて2回目訪問かないました♪今度は安田顕さんの声と一緒に、たっぷり、じっくり。大満足。なので、2回分の感動を反芻しながらの振り返りです(*´꒳`*)。まずはルドルフ2についての忘備メモから。
アドリアン・ド・フリース 《ルドルフ2世の胸像》
マクシミリアン2世を父に持ち、叔父である大航海時代のスペイン王フェリペ2世の元で厳格なカソリック教徒的な環境の下で幼少期を過ごし、1576年から1612年には神聖ローマ帝国皇帝として在位したハプスブルグ家の一員で、祖父、父、と拡大し続けてきた支配地を引継ぎ神聖ローマ皇帝のみならずハンガリー王、クロアチア王、ボヘミア王、オーストリア大公でもある、膨大な富と権力の座を生まれながらに約束された人。
但し、政治や争い事は好まず専ら学問芸術に傾倒し世界各地の珍しいもの、最新の知識を収集して膨大なコレクションを形成し、首都をプラハに移してからは殆ど外出もせず、プラハ城内に集めたコレクションを陳列し日々眺めて過ごしたそうな。生涯独身。想像も及ばない富と責任と孤独を背負った聡明で繊細な芸術家肌、といったところでしょうか。ルドルフ2世の先見の明と趣味の高さによって、当時のプラハはヨーロッパでも随一の文化、芸術、学問の中心地として栄えたそうです。
それにしても、当時の神聖ローマ帝国の、ハプスブルク家の富って本当に桁違い・・・現代のサウジの王族なんか目じゃないくらいではないの?という気もしてくる。いったい世の中どんなことになっていたのか・・・そして、ルドルフ2世の好きなもの、夢中になったものはどれもこれも私も大好き!なものばかり。そして、ある種病的なまでの収集癖と引きこもりも、一般庶民の私ですら日頃の過密な仕事の疲労とストレスの発散のための現実逃避にアホかっつーくらいの勢いで映画に本に美術館に博物館にミュージカルにお芝居にオペラに・・・と遊び狂っていることを鑑みて、なんだかとてもわかる気がしてくるのです・・・規模違いすぎますけどっ宇宙レベルで(笑)。
作者不明 《バベルの塔》 1575-1599年頃 油彩/カンヴァス コルトレイク市美術館蔵
先の「ブリューゲル」展にもブリューゲルっぽい《バベルの塔》が展示されていましたが、こちらにはその同じルーカス・ファン・フォルケンボルフの《バベルの塔の建設》という作品が展示されていました。それと並んで作者不明のコチラ↑も。バベルの塔が人気のモチーフだったということと、その中でもやっぱりブリューゲルのバベルは群を抜いたインパクトで”バベルの塔と言えば~?”なくらいの代名詞的存在だったんだろうなぁというのが改めて感じられました。
ルーカス・ファン・ファルケンボルフ 《ノイゲボイデ城近くの散歩道に立つ皇帝》 1593年頃 油彩/銅版 ウィーン美術史美術館蔵
赤いズボンと金羊毛騎士団の首飾りが目印のルドルフ皇帝、両脇は兄弟。でもどの兄弟だったかな・・・愛称最悪で、後にルドルフ2世を帝位から引きずり下ろすことになる弟マティアスではきっとないんだろうな・・・と、後から振り返って思うのですが。遠景にあるのはルドルフ達の父親マクシミリアン2世がコレクションを収蔵していたノイゲボイデ城で、この絵は3人の息子の父親へのオマージュとされているそうです。でも、遠目にも美しく立派なノイゲボイデ城も、後にルドルフ2世がプラハ城に移ってからはすっかり荒廃してしまったそうですが。
ルーラント・サーフェリー 《動物に音楽を奏でるオルフェウス》 1625年 油彩/カンヴァス プラハ国立美術館
フランドルやネーデルランドの新進の画家が大好きで大勢を呼び寄せたルドルフ2世。彼のお気に入りの1人だったサーフェリーの作品があんなに一度に見られたのも感激でした!沢山あったサーフェリーの中で、あえてとっときを絞るなら、一番はコチラ↑でしょうか。動物沢山♪でも、肝心のオルフェウスはどこ・・・?!実は1回目の鑑賞時にはとうとう見つけられず(苦笑)、自宅に戻って図録で確認し、2回目の鑑賞で実物でも無事目視確認(笑)。
小さい画像になってしまったらますますわかりづらいのですが・・・廃墟の前、岩場の上に動物たちに囲まれてちんまり竪琴(リュートらしい)を引いてらっしゃいます。白馬の右、牛の上、ダチョウの左。オルフェウスが主題の絵なのに主役はすっかり廃墟のある森の風景と動物たち、なのでオルフェウス自身には光も当たらずむしろ陰になっているのでほぼ後ろの木々と同化しちゃってますが・・・目をこらすと、木の陰だと思っていたところに、小さい人が見えてきます^^;。
ルーラント・サーフェリー 《2頭の馬と馬丁たち》 1628年 油彩/板 コルトレイク市美術館
沢山ありすぎて、好き過ぎて、サーフェリーもう1点。なんて美しいお馬さんたちー♡ ルドルフはお馬さんも大好きで、世界中から熱心に美しい純血種の馬を集めていたそうです。このお馬さんたち、毎日世話をしてくれている馬丁さん達よりずっといい食事もらって贅沢な生活をしていたんだろうなぁ・・・^^;。サーフェリーは世界各国から珍しい、美しい動植物を集めて(剥製も含めて)、プラハ城内の庭園の一部は動物園や植物園になっていたので、サーフェリーにとってもプラハでの滞在はさぞかし素晴らしい幸福な体験だったろうなぁと思います。
サーフェリーが描いたルドルフ2世の美しいサラブレッドは、もしかしたら今、世界で一番美しい馬として有名なフレデリック君の遠い祖先だったりかもしれませんね~、なんて^^。
ヤン・ブリューゲル1世 《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》 1607年頃 油彩/板 ウィーン美術史美術館
ピーテル・ブリューゲル1世とヤン・ブリューゲル1世の父子もルドルフ2世に招かれた画家のうち。「ブリューゲル」展でも「花のブリューゲル」の作品が沢山展示されていましたが、こちらにも!そして、ぼんやり綺麗だな~昆虫もチラホラいたりして楽しいな~なんて眺めていただけでしたが、この花たち、実は咲く季節がバラバラ。花のボリュームも花瓶のサイズに比べてあり得ない量だし、現実にはあり得ない図なんですね。
目の前にある静物を写し取ったかのようでいて、実はこの世には存在しない夢幻の世界。さすがブリューゲル。この世のものならぬ幻想世界の実現と同時に、本物の高価な花の代わりの贈りものとしての注文も多かったそうです。花瓶の前にさり気なく散りばめられた指輪や紋章などの小物が、きっと贈り主もしくは相手を暗喩しているのかもしれませんね。こんなプレゼント・・・素敵すぎる(´艸`*)。
ハンス・フォン・アーヘン 《パリスの審判》 1588年 油彩/カンヴァス シャルトリューズ美術館蔵
ギリシャ神話の「パリスの審判」もよく描かれますが、今まで観た中でも特に印象的な絵画でした!トロイアの第二王子ながら羊飼いとなっていたパリスが、「一番美しい女神は誰?」と居並ぶヘラ、アフロディーテ、アテナの3人のうち、アフロディーテが一番美しとして黄金のリンゴを差し出す有名な場面です。女神たちは自分を選んでもらおうと、それぞれパリスに向かってアピール合戦。解かりやすく言えば賄賂作戦(笑)。アテナは戦場での誉と名誉を約束し、ヘラは富と権力を約束し、アフロディーテはパリスが望む女性の愛を約束。名誉よりも地位よりも愛を選んだパリスですが、そのパリスが望んだ相手がよりによってトロイアの王女ヘレネだったから後に大事に。10年にも及ぶトロイア戦争の発端となってしまったのですね・・・。
遠景には海の神トリトンの姿も見えますし、アフロディーテの足元にはキューピットがいたり、選ばれなかったアテナががっかりしていたり、色々と描かれているモチーフに目がいくのですが、最も注目なのが、右下のわんちゃん!カメラ目線というか、客席目線?でこちらを振り返り、シェイクスピア劇の進行役さながら我々に向かって「この顛末、なんだかこの後よくないことが起りそうですよ?」と不穏な予感を示唆しているかのようです。まっすぐ語りかけてくる深い黒目といい、今にも本当に語りかけてきそうです。釘づけ!
ペーテル・ステーフェンス2世 《聖アントニウスの誘惑》 1595-1605年 グレナ財団蔵
相変わらずの「聖アントニウスの誘惑」好きなワタクシです( *´艸`)。「ビュールレ・コレクション」展で観た、官能美を湛えた美女達に主役の座を追いやられたかのようなセザンヌの《聖アントニウスの誘惑》も素敵でしたが、一方こちらは正統派寄りというか。ボスやブリューゲルにも共通する雰囲気で、かなり好みです。ベーテル・ステーフェンス2世、初めて名前を認識しましたが、フランドル出身で1594年からルドルフ2世の宮廷画家となって皇帝の死まで仕えた画家だそうです。これもまた、細かいところまで隅々じっくり、いつまでも観飽きない興味深い作品です。
その他、当時盛んだった天文学、占星術、錬金術関連の装置や書物文献の類もどれも精緻で美しかったし、仕掛け時計や珍しい好物や貝殻を使った工芸品の数々、イッカクの角やダチョウの卵などの珍品などの博物館的なコレクションもどれもこれも興味深く、大好物で1点1点楽しく鑑賞しました。が、今回は絵画メインで記録残すことにします。絵画に絞っても、まだまだこの倍以上に、言及しておきたい感動の名作が沢山あったのですけれど。東京の会期は3/11まで。もうすぐ終わってしまいますが、まだ週末も2回ありますよ~。私同様、スルーしようと思っていた方も、意外と見応えのある展示だと思いますので機会があれば是非~いかがでしょう♪