至上の印象派展 ビュールレ・コレクション (国立新美術館) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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至上の印象派展 ビュールレ・コレクション

会期: 2018/2/14(水) ~ 2018/5/7(月)

会場: 国立新美術館

公式サイト: http://www.buehrle2018.jp/

 

 

昨年後半~年初は忙しく、なかなか時間が都合つかないうちに会期終了間際にギリギリ駆け込みor間に合わなかった(T_T)美術展続出だったので、行けれる時は早めに足を運んでおこう。というわけで国立新美術館のビュールレ・コレクション展も開始早々に行ってきたのでした(アウトプットは遅くなりましたが^^;)。ふーん、印象派~。ふーん、個人のプライベート・コレクション~。とユルイ心構えで行ったら期待以上に濃厚で豪華!どれもこれもメイン級の至宝、46点がどどーん。眼がくらみました(笑)。

 

しかもまだ開始直後で世間がこの豪華さにあまり気が付いていないのか、金曜の夕方が穴場だったのか、勿体ないほど空いていて、贅沢な鑑賞が出来ました(´艸`*)。ドガ、ドラクロワ、マネ、モネ、いかにもマティス、が確立される以前のマティス(めっちゃ好み)、ルノワール、セザンヌ、ピカソ・・・怒涛のコレクション。たった一人でこんなに集めた(しかもこれで全コレクションの1/10にも満たない)ビュールレっていったい何者だったのか、途端に興味が湧いてくるのです(´ω`*)。というわけで、まずはサックリとビュールレさんについて。

 

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スイスの大実業家エミール・ゲオルク・ビュールレ(1890-1956年)。生まれはドイツのポルトハイム、ごく普通の家庭でしたが第1次世界大戦に兵士として出征後、銀行家の娘との結婚を機にビジネス界でのサクセス伝説が始まります。義父の傘下にあった機械工場に入社後、同社が買収したスイスの機械工業エリコン社のCEOに就任し、第2次世界大戦中には武器取引をメインに富を増やしました。青年時代にモネなど印象派の作品に強く心を打たれ、「いつかモネやルノワールの絵を購入して自宅に飾りたい」という夢を持ち、大学では美術史と哲学を学びました。

実業家として成功し十分な資金を手に入れたビュールレは1937年から1956年にかけて美術品蒐集に情熱を費やします。17世紀オランダ絵画から20世紀の近代絵画に至る作品を中心に構成されたコレクションは、幅広いようでいて、印象派・ポスト印象派を強く愛したビュールレの嗜好が強く反映されており、印象派の始まりから返還、印象派が影響を受けた若しくは印象派の影響を受けた絵画など目に見えない一貫性により有機的に結び付けられています。ビュールレさんのコレクターセンス、相当洗練されています(*‘ω‘ *)。最も、過去には贋作をつかまされた苦い勉強も経験していたり、本人は芸術文化のパトロン事業に乗り気なのに相手かまわずの武器商人として悪い評判をたてられたり、そのため上流階級や文化人からはあからさまに無視されたりと、歯がゆい思いも苦い経験も沢山つまった生涯だったようです。

それでも後世の我々と芸術品にとって何より大切なのは、素晴らしい作品がその価値を正しく見抜ける審美眼を持った人間の手に渡り心から愛され、大切に保管されて今日まで保存されてきたということでしょう。チューリヒの湖を臨む瀟洒な自宅の別邸は、ビュールレの死後美術館として彼のコレクションが一般公開されていましたが、2008年に大掛かりな盗難事件が発生したため以後は公開が限定され、今後は閉館し全コレクションをチューリヒ美術館へ移管することが決まったそうです。その移管前の貴重なジャパン・ツアー。選りすぐりの64点が来日中で、その約半分は日本初公開だそうです。「この絵ってビュールレ・コレクションにあったんだ!」の驚きの連続です。

ではでは。展示構成の順番は多少前後するかもしれませんが、特にお気に入りの作品たちをご紹介します^^。
 

アントーニオ・カナール(カナレット) 《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツア》(部分) 1736-1742年 油彩/カンヴァス 

 

風景画や都市景観画って、好きなんですよね~(*‘ω‘ *)。カナールも、好きな画家です。カナールの作品も複数展示されていました♪絵の前に立って眺めていると、絵の中の景色が時間の経過とともに日暮れて、夜更けて、朝日が昇って・・・と変化していく様を見られるような気がしてきます。デジタルがなかった時代のバーチャル旅行。想像力とか浪漫とか余韻とかが介入する余白がたっぷりある分、よけいに夢があります。やはり、人の手によるワザって、素晴らしいなぁ。

 

アンリ・マティス 《雪のサン=ミシェル橋、パリ》(部分) 1897年 油彩/カンヴァス

 

いかにもマティス、な色彩や技法が確立される前の時代のマティス。当時住んでいたアパートの窓から見えた景色のようです。マティス前夜のマティス・・・めっちゃ好みだわ・・・(*‘ω‘ *)。しばらくこの絵の前でウットリ眺めていました。寒いのは苦手ですが、眺める分には冬の景色って素敵です( *´艸`)。

 

カミーユ・ピサロ 《ルーヴシエンヌの雪道》(部分) 1870年頃 油彩/カンヴァス

 

ピサロも沢山。ピサロも好き。自分が雪国で暮らせるとは思えませんが、絵画に描かれた雪景色ってどうしてこんなに心惹かれるんでしょう。雑音を全て吸収したシン・・・とした静謐な空気、研ぎ澄まされた透明度の高い大気、光を反射して世界をお化粧する雪・・・そういったものがすぐそばに感じられるような気がします(都合よく、素敵なとこだけつまみ食い^^)。

 

ウジェーヌ・ドラクロワ 《モロッコのスルタン》 1862年 油彩/板に貼られたカンヴァス

 

1832年にフランス政府から派遣された外交使節団の記録係としてモロッコのスルタン訪問に随行したドラクロワが帰国後持ち帰ったスケッチブックは7冊にもおよび、それを元に心動かされた異国情緒溢れる色彩や民俗文化を題材にした作品を沢山制作したそうです。このスルタンも、繰り返し取り組んだお気に入りのモチーフだったそう。そういえば去年の「シャセリオー」展でも、 「19世紀のオリエンタリスム絵画」 の展示エリアでやはりモロッコのスルタンを描いたドラクロワの作品が展示されていたような気がします。

 

エドゥアール・マネ 《燕》(部分) 1873年 油彩/カンヴァス

 

マネも素敵な作品ばかり~( *´艸`)。1873年の夏に家族と共にフランス北東部の海辺のこの町ベルク=シュル=メールに滞在し、居心地の良さにすっかり気に入ったマネはこの場所を題材にした作品を複数制作しました。この絵の中央にいる女性2人はマネの実母(黒い衣装)と妻シュザンヌ(白い衣装)だそうです。印象派の影響も感じられる、こんなに素敵な作品なのに当時のサロンでは仕上がりが不十分だと不評だったとかΣ(゚Д゚)。時代の価値観って不思議ですね~。でも、一般受けはしなかったからこそ、ビュールレが購入できたんだろうと思うと、巡り合わせの不思議を感じずにいられません。

 

クロード・モネ 《ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑》 1879年頃 油彩/カンヴァス

 

モネの赤いひなげしもまた、大好物(´艸`*)。なんて美しい風景。元々風景画は好きですが、印象派の時代の作品では特に、人物メインのものよりも風景メインの作品ばかりが気になる、惹かれる、ということにふと気が付きました。どの時代でも風景画は好きでしょ、と言ってしまえばそれまでなんですけれど^^;。でもやっぱり、私にとって印象派は人物よりも、風景画、な気がします。

 

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》 1880年 油彩/カンヴァス

 

印象派は人物より風景画の方がずっと好き・・・と自覚した矢先にアレですが・・・これはもう、飛びぬけて別格です!絵画史上最強の美少女と謳われるルノワールの描いたイレーヌ嬢は、柔らかく光を反射するウェーブのかかった髪の毛、長く繊細なまつ毛、桃のようなうぶ毛までも感じさせる陶器のような白く抜ける肌、体温を感じさせる頬や耳の赤味、、、見る者の視線をそらせさせない引力。暫く立ちすくんだまま動けなくなりました。一旦会場を出ようとして、もう一度戻ってきたほど。絵画史上最強、は間違いじゃありませんでした。むしろその表現でも足りないくらい。自分の姿がこんな絵になったら・・・いったいどんな気持ちになるんだろう・・・(*'ω'*)。

 

ポール・セザンヌ 《聖アントニウスの誘惑》 1870年頃 油彩/カンヴァス

 

セザンヌの作品も、イレーヌ嬢と並んで目玉の《赤いチョッキの少年》を筆頭に素晴らしいものが何点もありましたが(《 庭師ヴァリエ(老庭師) 》も好きです)、とりわけ気になったのは、《聖アントニウスの誘惑》。西洋絵画の伝統的モチーフの中でもとりわけ好きで、色々な展示会で観てきた聖アントニウス。セザンヌの描くアントニウスはまたひと際独創的です。様々な誘惑に対峙する聖アントニウスよりも、彼を誘惑しにやってきた(悪魔が姿を変えた)美女たちの生々しい官能美の方に焦点があてられています。むしろ、聖アントニウスは隅っこの方に追いやられているようにも見えるほど。主役乗っ取られて、立つ瀬のない聖アントニウス(´艸`*)。

 

エドガー・ドガ 《控室の踊り子たち》 1889年 油彩/カンヴァス

 

私の記憶の中では、中学校の時の美術の教科書で初めて記憶に残った「ドガ」がこの作品。初めて実物と会えました!どの作品でもそうですが、実物のもつオーラはやはり全然違います。踊り子たちを照らす逆光の光の輝きまでカンヴァスに閉じ込められているようで、眩しさと憧れに思わず目を細めてしまいました。この絵も、ビュールレ・コレクションにあったとは。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《古い塔》 1884年 油彩/板に貼られたカンヴァス

 

1883年の暮れから2年間を過ごしたニューネンで滞在していた部屋から見えた、15世紀末頃に建てられて廃墟となったとされる古びた教会を繰り返し描いたゴッホ。中でもこの絵は一番気になります。ゴッホ展でこないかなー、観られないかなぁーと思っていたので、まさかここで出会えるとは。観劇しました。てか、これもまたビュールレ・コレクションだったのかΣ(・ω・ノ)ノ!

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《日没を背に種まく人》 1888年 油彩/カンヴァス


ゴッホでもう1点。黄色い日没を描いたこちら。同じモチーフ、構図の別の《種まく人》が、先日のゴッホ展(巡りゆく日本の夢)で展示されていました!

 

フィンセント・ファン・ゴッホ 《種まく人》 1888年 ファン・ゴッホ美術館蔵

 

こちら↑がゴッホ展(巡りゆく日本の夢)で展示されていた種まく人。間を置かず関連する2つの作品を立て続けに見比べることができるなんてラッキーでした^^。ビュールレ・コレクションの方はタイトルに「日没を背に」とわざわざ入っているし、太陽は黄色いけれども光線は夕焼けの赤っぽい暖かい色あいを感じさせます。《種まく人》の方は、構図は同じで、同じ黄色い太陽ですが、こちらは時間帯が違うんでしょうか(日中)?太陽が昇る方向と沈む方向が同じというのはまぁ不自然ですけれど、そこはゴッホ・ワールドの超自然ですから気にしないとして。それとも、同じ夕暮れの時間帯の別の表情を写し取ったのかなぁ。気になります^^。

 

ジョルジュ・ブラック 《ヴァイオリニスト》 1912年 油彩/カンヴァス

 

キュビスムと言えば真っ先に思い浮かべるのはピカソですが、ジョルジュ・ブラックが気になります(*'ω'*)。ジョルジュ・ブラックとピカソは親しく交流し、お互いに影響しあって作成に励んだようです。初期の頃の実験的な作品たち、対象物を切子面に分解した作品群を並べると、友人たちはどれがどちらの作品か判別できないほど類似していたそうです。その後、互いの独自性を極めていったんですね。この作品は、真ん中に光があったっているかのような淡いベージュが立体感と奥行きを生み出していて、音楽も聞こえてきそうで、吸い込まれそうでした。ブラックはいくつもの楽器の演奏も得意だったそうです。美術と音楽、建築って常にどこかで繋がっていますね。もちろん文学も^^。

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クロード・モネ 《睡蓮の池、緑の反映》 1920/1926年頃

 

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そして最後のお楽しみは、なんとモネの本邦初公開の大きな「睡蓮」を、写真取り放題。高さ2メートルx横幅4メートルの大作!初来日どころか、スイスを出たのすら初めての門外不出の隠れた名作だそうで、ビュールレ・コレクションのチューリヒ美術館への移管前だからこそ実現された展示なんでしょうね~。幸いなことに会場が意外なほど空いていたので、うんと贅沢に好きなだけ行ったり来たり立ち止まったり、たっぷり堪能できました。シアワセ。

本当に至宝級の作品ばかりで、ポストカードで入手できたものを中心にうんと絞ったものの、通常よりモリモリの記録になってしまいました。見応えありすぎて、感動しすぎて、まだ消化しきれていないので、期間中にもう一度訪れて、記憶と感動をしっかり定着させたいと思っています。もう、あんなに空いている贅沢な鑑賞は無理かもしれないけれど。

ちなみにこの展示、図録の出来が素敵です。髪質や大きさ、質感、手に持った時の重さや柔らかさが馴染んで程よい感じ。そして美術展の図録って、学術的すぎて解説や論文が読み物としての面白味にやや欠けていたり、活字が読みづらかったりすることもあるのですが、ビュールレ・コレクションの図録はフォントと字の大きさ、レイアウトまで気が利いていて目に優しく、内容も解かりやすく素人に楽しめる文章でした。買ってよかった~♪

さらにビュールレ・コレクション。美術館はClose中ですが公式サイトでコレクションのバーチャル鑑賞が可能であることを発見!

http://www.buehrle.ch/index.php?lang=en

 

英語とドイツ語に対応。文章はわからなくとも、画家や作品の英語名はネットで調べたら簡単にわかるので、コレクションをあますところなく検索して鑑賞することができます。なんて素敵なサービス。エルミタージュ美術館のドキュメンタリー映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」で、元学芸員の女性が「名画は「美術品を奪われたり、誰かの手に渡ること自体は哀しいけれども問題ではない。1番の罪は、美術品を公開しないことです」と語っていた言葉を思い出しました。