バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

1987年 西ドイツ
監督: パーシー・アドロン
原題: Bagdad cafe / Out of Rosenheim


何年かに一度観直したくなる名作、「バグダッド・カフェ」。多分まだ学生だった頃、自宅近くのレンタル店で偶然手にして、あまり期待せず見ていたら思いがけず心がジィンとくる内容に感動して忘れられなくなった作品。午前十時の映画際で上映されると知り、去年のうちから楽しみにして、張り切って2月最初の週末のチケットもネット予約したのですが・・・まさかの体調不良で起き上がれず、断念(T_T)。悔しい。悔し過ぎる。あまりに悔しくて諦めきれず、その後Amazonプライムでレンタルしてまで観ました(笑)。西ドイツの映画だったとは初めて認識。アメリカ映画っぽくないよな~と思っていたら、ハナから違っていたのですね^^;。

 

 

アメリカはモハヴェ砂漠の外れ、ラスベガスをルサンゼルスを結ぶ人気のないさびれた道を太ったドイツ人の中年女性が徒歩で歩いています。彼女は夫と旅行中に喧嘩してしまい、夫の運転する車から降りてしまったのです。あてどなく歩き続ける彼女が行きついた先は、カフェとガソリンスタンドを併設するうらびれたモーテル、バグダッド・カフェ。他には何もない、さびれた通り過ぎるだけの街のはずでした。

 

 

謎の異邦人、しかも太った中年女性=ヤスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)の出現により、砂漠よりも乾燥しささくれていた人々の心に水が沁み込むように変化が起こっていく物語。全体的にけだるい雰囲気が漂い、ゆったりと淡々と解かりやすい起承転結があるわけでもないのですが、ちょっとづつ、ちょっとづつの変化がジワジワと感じられて、登場人物たちと一緒にこちらまで段々笑顔になっていく、観おわった後は心が温かくなる素敵な映画です。

 

 

モーテルの女主人のブレンダ(CCH・パウンダー)は、とにかく不機嫌。いつも何かが気に食わないし、すぐにイライラしてはだれかれ構わず怒鳴り散らすし、結果何も思い通りにならないのでまた癇癪を起す。メリハリつきすぎでしょ、なくらい能天気でおっとりお気楽な夫のサル(ダロン・フラッグ)は毎日何十回もブレンダの地雷を踏み続け、ついにこの日、家を追い出された悔し紛れに意地になってそのまま家出。子供か(笑)。

 

ところがこのサル、戻ってこないくせにずっと近くをウロウロし、こっそり車から双眼鏡でバグダッド・カフェの様子を覗いては「ブレンダ・・・お前ってやつは・・・はぁ」なんてため息ついてたりするのが、またバカっぽくて笑えます。覗き見してため息ついてないで、お前が何とかしろ、と四方八方からツッコまれること間違いなし(笑)。

 

 

ブレンダをイラつかせるのは夫のサルだけではありません。他の家族も好き勝手し放題でまったく役立たず。娘のフィリス(モニカ・カローン)は遊ぶことと男の子のことしか頭にないし、息子のサロモはジャスミンにはちっとも理解できない、キンキン音にしか聞こえない音楽をピアノで弾いてばっかりで(バッハです)、自分の息子の赤ん坊の世話もろくにしない。カフェの従業員のカヘンガ(ジョージ・アグィガー)もいまひとつ機動力に欠ける。ジャスミンからしたら誰も彼もが役立たず。

 

モーテルの常連客たちも、クセもの揃い。カフェの側に止めたトレーラーで生活している、ハリウッドからきた画家くずれの中年男ルーディ(ジャック・パランス)や、とらえどころのないタトゥー彫りのデビー(クリスティーネ・カウフマン)など。いまいちかみ合わないし生産性もないものの、それなりに均整のとれていた?日常に突然の異物混入(ヤスミンね)で、ブレンダは根拠のない不安に煽られるのしょうか、ヤスミンが何かをする度に大騒ぎ。

 

 

まず、得体の知れない外国人だし。こんな砂漠に車も男もなしで突然現れるなんて絶対普通じゃない。はきはき物も言わないから何を考えているのか解からず不気味。しかも、ヤスミンの部屋を掃除する時に見た彼女の荷物の中身は、男物の洋服や髭剃り用のシェーバーなど。ナニコレ?!絶対ヤバいでしょ!大慌てで保安官に通報するけれど、旅券も航空券も問題ないし宿泊費はちゃんと払っている。誰もヤスミンを取りあってくれない。こうなったら触らぬ神に祟りなし、できるだけ干渉しないようにしようと思っているのに、何故か子供たちや他の客たちがどんどんヤスミンに懐いていく。理解できない!理解できないものは許せない!と、もう、ブレンダ大変^^;。

 

 

それでも、ヤスミンはバグダッド・カフェに滞在しつづけるし、周囲の皆もヤスミンとの交流を温めていきます。ヤスミンの魅力のとりこになったルーディは、彼女をモデルに絵も描き始めます。モデルのヤスミンが、最初は緊張してきちんと洋服を着こんでいたのに、気心が知れてくるにつれ、ちょっとづつ衣装が減っていき、最後はルーディがカンヴァスに向かっている間に自分でチョロって肩をはだけて見るのがなんだかとってもキュート(´艸`*)。沢山着こんでいた心の鎧を、少しづつ剥がして素直になっていく、自分らしさを見せていく、リラックスしていくカフェをめぐる人間関係と同じ。他にも給水塔の水が砂漠に沁みこむとか、旅の青年がブーメランをひたすら投げ続けるとか、印象的で解かりやすく象徴的なシーンも沢山^^。

 

 

一番の見どころは、鉄壁の不機嫌女ブレンダがついにヤスミンに籠絡されていくその過程。ヤスミンって怒鳴りんぼだしヒステリーだし乱暴者ですが、息子たちを怒鳴る半分は、お客様に迷惑をかけるなとか、気を使えという内容だったりします。ヤスミンのことも、不気味がって怖がっているけれど、ちゃんとお金を払っているお客さまなので、ブータレ顔ではあってもきちんと礼儀は通そうとするし、決して理不尽な暴君ではない、頑張り屋さんで本来は素直な人柄なんだということがわかります。そんなブレンダ、いったんヤスミンを好きになったらその友情はもちろん硬いのです(´ー`)。

 

 

最初はただの正体不明の変なオバサン、だったのがどんどん魅力的になっていくのがまた不思議&お見事。多くを語らないヤスミンだけれども、バグダッド・カフェの人々のことが好きになって皆の役に立ちたい、何か喜ばせてあげたいと思い始める様子が可愛らしくていじらしいです。トランクに入っていたマジック・セットで真剣に練習しはじめると、いつしかプロなみの腕に(笑)。ぜったいあのパーティー・グッズ的セットの内容ではまかなえてないでしょ、というほど本格的なマジックの達人になってカフェでショータイムまで(笑)。

 

クチコミで人気が広がり、ドライバーたちのたまり場に。映画の冒頭とは見違えるほど活況なカフェに早変わり!ミュージカル仕立てのシーンもあったりして、ブレンダもヤスミンも皆笑顔でニコニコ、大入りの客もにっこにこ♡ ところが、ある問題が持ち上がり・・・せっかくハッピー・ゴー・ラッキーなムードに盛り上がったバグダッド・カフェの命運はどうなる?

 

 

ブレンダには役立たず扱いされてますが(笑)、カフェの従業員カヘンガの存在感も、またいい感じ(*´з`)。でしゃばらず、長いものに捲かれるフリして何気に自己主張。そして皆を優しい目で見守っています。ルーディたちが好む薄いアメリカン・コーヒーと、ルーディに言わせれば泥水のような、ドイツ人好みの濃いコーヒーの間で地道にトライ・アンド・エラーをしているのも素敵^^。

 

 

ちょっとネタバレかもしれませんが、ルーディが花束と白いミュールを手にヤスミンの部屋を訪ねるシーンでのヤスミンが最高です。ドアをノックし、窓越しにおはようの挨拶を交わす2人。部屋に入ってもいいか、とルーディが聴くのですが、

 

- 紳士として?それとも男として?

- 男として。

ー じゃあ、服を着るわ。

 

ヤスミンの返しもオシャレだし、「服を着るわ」といいつつ実際にヤスミンがとった行動もラブリー!ルーディ、蕩けるわ~(笑)。そして、まぁ、どう考えてもヤスミンにプロポーズする(としか思えないですよね、このいでたちじゃ(笑))わけですが、その返事もまた、くうぅぅ~!!でいかしてます。(でもこの台詞、男性には理解しづらいという説も)もう、最後に幸せにしかなれない!そんな映画です^^。あー、スクリーンで観たかったなぁ(T_T)。

 

そして!忘れちゃいけない、この映画の魅力を余すところなく伝えるもう一つの要素、それが音楽!ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲の「コーリング・ユー」も超有名に。そして、けだるさ、切なさ、愛しさが本当に素晴らしく映画にマッチしています。ミュージカル映画ではないけれど、観おわった後しばらく曲と、その曲から呼び戻される映画のシーンや感動が数日後を引きます(ミュージカル映画でよくある現象)。このCalling Youだけでもお酒3杯いけます、そんな気分(´艸`*)。大人になってから改めて聴くと、これまた昔以上に歌詞が五臓六腑に沁みわたります。いい曲だぁ・・・素敵な映画。というわけで、世界の中心ではなくバグダッド・カフェで愛を叫ぶ、Calling Youご一緒にどうぞ♪