「送信管」はすべて業務用の規格で作られています。しかしプロの機材にも必ず信号レベルの低い部分はあり、6AU6やら12AX7やらを使いますが、そこだけ家庭のラジオやステレオ用の安物ではいけません。プロ用で大事なのは突発的故障が少ない事なので、それら用途向けに型番は同じでも製造上の管理を厳しくしたのが「通測用」とか「通信用」です。性能で選別した結果ではないので、民生用機器には単に高価なだけですから使う理由がありません。だからこそトリオの終段管用に6146を元にコストダウン版のS2001が作られたのです。また、通測用とは類似かつ別のカテゴリで型番から違う「高信頼管」というのもあります。
東芝の場合、通測用の真空管は化粧箱の緑色の帯が目印だったように、トランジスタでもTO-3やTO-39などメタルキャンでは印字が緑色でした(民生や一般用は赤文字)。ブラスチック・モールド品では「丸にG」マークです。そのGはもちろんGreenの略でしょうから、hFE分類もGR(een)は2文字なのでしょう。私の手元には通測用の真空管は沢山、グリーン・トランジスタは探せば結構いくつも、丸Gはジャンクの2SC371/372が大量にあります。日立は「丸にH」だったか、とにかく各社に産業用規格はあります。
ロジックICではTI社由来の「54シリーズ」があります。例えばQuad 2-NANDは7400に対し、5400が温度や電圧の許容範囲が広いMIL spec.です。私は1970年代も前半からデジタル工作を手掛けたのでジャンクも含め随分とICの手持ちがありますが、54シリーズは3個くらいしかありません。極めて高価なHP社製の計測器でもDEC のコンピュータでも74ですし、54はそうは目にしないものですが、ある時JRCの業務用無線機の内部を見たらロジックICが全部54シリーズなのに気付きました。その調達価格は74とは10倍くらいも違ったかも知れません。考えてみれば精密な測定器もコンビューターも温度などの環境を整えて使うものですが、通信機は極限下でのSOSもあり得るからなのでしょう。
追記 東芝のhFE分類はR, O, Y, GR, BL, V で"BL"も2文字です。これは改良品にA, B, Cとかのサフィックスを付けることがあったためでしょう。なお実際にこの規則による"A"は多くありますが、"B"まで進んだ例は初期に僅かにあるだけです。