前回の続きです。
一応、時代は全管球式からハイブリッド機を経てソリッド・ステート初期までに置きますが、トリオ製品は使い勝手に関してまさに「痒い所に手が届く」という程に良く練られているのが特長でした。これはオーディオ界で老若男女の万人を相手してきた経験が生きたのでしょう。それに対し、八重洲の方は「もう少し考えてから作れ」と言いたくなるほど操作性には無頓着なところが多々ありました。
例をあげると、スター・八重洲OBの田山彰氏がその著作「SSBトランシーバー」(NHK出版)でトランシーブ操作につき、セパレート機は受信機のVFOで送信機をコントロールできれば充分でそれ以上は過剰サービス・・という本音を吐露されています。そのような認識から余り踏み出さないのが八重洲、思いついた以上は実装しておくのがトリオ、などと感じていました。実際、FL/FRDX400ラインは完全な「たすき掛けVFO」ではありませんし、FL/FR-101ラインは八重洲の最終型セパレート機だというのに、たすき掛けの切り替えが送信機・受信機両方のスイッチの同時操作が必要という知育ゲームで、しかもFR-101受信機にはセパレート機のくせにスプリット運用上の制約さえあります。こんな仕様はトリオでは考えられない事です。
私は八重洲を主力にしたからこそトリオの操作性は(599ラインとか何台かは所有しましたが)隣の芝生みたいなもので褒めることが多くなるのです。ただし八重洲はトリオよりは確実に内部にお金が掛かっていて動作は無難、丈夫かつ修理も容易、という印象を持っていました。また、小改良を即刻実施するのも八重洲の特徴で、実物と回路図は(新品付属であってさえ)違う点は探せばどこかに必ずあります。
その頃から見れば、今ではメーカーの個性は大変薄くなりました。いずれにせよ、自分がそれしか持っていない物を「〇〇が最高」と言っていいのは高校生までです。一方、大人になって「舶来が最高」の結果ありき、になってしまう人も多いのですが。