「カンマツ」の真空管は私の世代の経験ではなく、もう昔話でした。「神田+マツダ」の略で、さらに分解すると神田は秋葉原の隣駅です。戦後まず電気関係のジャンク屋や露天商が出たのは神田寄りの地区だったからで、その時代を知る私の親世代は今でも秋葉原を指して「神田の電気街」という言い方をします。
「マツダ(MAZDA)」はGE社の管球製品ブランドで、日本でのライセンシーは東芝です。従って他国では同じMAZDA名でもメーカーは違います。対象は照明用電球と真空管、余り知られていない物では写真用の閃光電球(発光一発使い捨て)とその発光器もです(昔は東芝も写真用品を製造したので)。とにかく昔は真空管は東芝製が信頼されていたので、安い他社品のロゴを消してマツダ印に書き換え、市場に流した偽物が「カンマツ」です。
その後、国産はどれも優秀な品質になり、続いてカラーテレビまでもが半導体化すると「カンマツ」詐欺は姿を変えました。オーディオ界が舶来・高価・ビンテージを崇めるようになったので、独テレフンケン、英マラード、米ウェスタン・エレクトリックなどの贋物が出回るようになり、これを今風に「アキバフンケン」(一般的ではありません)と呼んだ人がいたのも理解できます。
私は1985年頃にこの偽物作者の一人から特定の「作品」の特徴を聞いたことがあり、それはまだ秋葉原に何軒も存在した真空管ショップでもよく見ました。彼らも「私らプロですからねー」とか言いながら節穴目なのか、「怪しいけど分かるまい」と思ったか、どちらにせよカンマツを流通させた業界ですから全部が優良店ではなかったはずです。
現在は店頭からは消えました。供給が絶えて全て末端消費者に収まったのでしょう。ほぼオーディオ用の管種なので、真実を知るより騙されたままの方が幸せなのですが、一つだけ気になっている事があります。それは昔、ハムフェアで展示されたJARL収蔵資料の中に含まれていたことで、これだけは死ぬまでに明かそうかなと思っています。