SSBに使うフィルターの性能として最も重視されるのは周波数帯域ですが、その他に位相歪にかかわる群遅延特性があります。アマチュアが口にするようになったのは、ハム・ジャーナル誌上で JA1BLV 関根氏が、メーカーはこれに気付いていないか無視している、と解説したあたりからだと思います。群遅延は昔からある評価概念なのでフィルターのメーカーが気付いていなかったとも思わないのですが、無線機メーカーは確かに無頓着でいたかも知れません。
例としてモードをAMからSSBに切り替えると顕著なキャラキャラした音の感じは群遅延から来る歪です。その点、メカニカル・フィルター(メカフィル)ならばクリスタル・フィルターよりも肩特性は甘いものの、群遅延の特性では優れ、良い音(歪っぽくないという意味)が出ます。私も所有する八重洲のFLDX/FRDX400ラインは送受信機ともですが、近代的機種にはメカフィルの採用がなく、あとはJRCにあったくらいでしょうか。メカフィルは455kHzとか低い周波数でしか作れないので、3MHz台とか9MHz台にできるクリスタル・フィルターの方がオールバンド機は設計しやすかったのです。これらは455kHzよりはhigh frequencyなので、当時の資料ではしばしば「ハイフレフィルター」と書かれています。
ただし古くはコリンズが自社製のメカフィルを多用しました。KWM-2やSラインが公称2.1kHzと狭い目の帯域のフィルターでも良い音を出していたりするのは、まずは節度のある使い方ですが次はメカフィルだからで、マイクの選択、とりわけ高価で舶来の製品とかが理由ではないと思います。
ところで、JA1BRS 須賀川氏がフィルターの帯域内リプルを気にしてAFで補正したところ、珍妙な音になってしまったのは後から思うと位相歪ではないか?、とCQ誌にちょっとした回想を書いていたのは群遅延という言葉をハムが使い始めるずっと前のことでした。後々お空で「群遅延特性が悪くて」とリグ談義をしていた人達は、この頃にはフィルターの個体差には気付かなかったのでしょうか?