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アマチュア無線の裏側で

1970から1980年代の忘れがたい記憶から

私が引っ越しを機に所有の雑誌すべてを1986年に廃棄したことは「はじめに」で書いた通りです。また単行本の理工学書も昔から沢山抱えていたので、約30年前と10年ほど前に古書店街で有名な東京・神保町の専門店にて売却したことがあります。

 

その感想は「捨てた方が腹が立たないだけマシ」、です。「BOOKOFF」にタダ同然で置いて来るよりは値は付きますから、買取価格の問題ではありません。その店というのは、こちらが買う側でも無機質な接客しかしませんが、まして売りに行くと「こっちが客だ」、という態度も露骨にカスタマー・ハラスメントに出るからです。10年ほど前には買取価格に苦笑いの表情をしただけで中年男に、何だその態度は、と言いがかりをつけられました。私は「安い」とも何とも一言も口に出していないのにです。今現在はどうか知りませんが、従業員が次々と入れ替わるような規模の会社とかでもあるまいし、30年前も10年前も雰囲気の悪かった店の体質がそうそう変わるとは私は思いません。

 

これは古物商・道具屋の世界からの想像ですが、恐らく古書店にも業者間の交換会があるはずです。各店が仕入れでは雑多な分野が入っても、そのうちから自分の専門外のジャンルは放出し、逆に専門の物を集める、それで理工学なら理工学の専門店の在庫が形成されるという仕組みだろうと思います。

書籍を捨ててしまうのは社会的損失、と思われる方はオークションとかメルカリにが一番ですが、実入りを無視した次善の策としてはジャンルを問わずに一緒にまとまった数を集め、まともな書店に持ち込むことです。数が必要な理由は、「全部まとめて引き取って」、といえる程度の数でないと「これは引き取れます、これは要りません」とその場で選別されてしまうからです。

これならば不愉快店と取引する必要もなく、また汚いからと廃棄されることもないでしょう。実際、その後の私が実行してきた方法なのです。

モニターについて歪の確認のことを先に書きましたが、それに次ぐメリットはゼロイン、つまり相手の周波数にビタリと合わせるのに有用なことです。

 

SSBならば本来の音程は聞いて当たりが付きます。しかしCWではフィルターの帯域内で自由な高さの音で聞けるので個人差が出てしまいます。相手の周波数と一致させるにはセパレート機ならばモニター音と受信音の音程を合わせれば良いのですが、トランシーバーではモニターができないからそれが無理、という理屈です。後にトリオがTUNEモードでのゼロビートがゼロイン周波数、という工夫も始めますが、やはり勝手は良くありません。これらの問題は完全ゼロインを求められる機会が比較的が少ないことから「何となく」過ごされてきました。

 

ただし昔のトランシーバーでも絶対的に不可能でもないのです。「自分の環境では受信音が何ヘルツの時がゼロイン状態」、ということを調べておき、その音程になるようにダイアルを回せばよいのです。ただしこれは絶対音感を求めていることに他なりません。以前、JA1BRS 須賀川氏が、音を覚えよう、それで色々な判断ができるようになる、とCQ誌に書いていましたが結局それも同じことで、現実には誰にでも出来る技ではないのです。

と、書いていて思いついたのですが、ゼロイン相当の周波数のAF発振器を作っておき、それと聞き比べれば絶対音感は不要ですね。

 

私が「トランシーバーはモニターができないのでビギナーには向かない」、と読んだ当時の初級局用セパレート機と言えば、八重洲FL/FR-50Bと、トリオTX/JR-310、もはや実用的ではなかったTX-88D/9R-59D、それだけでした。しかもこれら全部の送信機はVFOを内蔵しておらず外部オプションなのです。これでは素のままでは近接の三次歪も調べられないし「ビギナーに向かない」、という指導も全く実効のないものに既になっていました。

私が電話級になった頃に読んだ入門記事では、「トランシーバーはモニターができないのでビギナーには向かない」とはっきり書かれていました。

 

確かに送信機と別に動作する受信機がなければ自分の電波のモニターはできません。トランシーバーでは八重洲のFT-901が機能満載を特色として発売され、MONITORなるノブを備えていましたが、これはマイク入力をそのまま増幅して流すだけなので、「心理的モニターに過ぎません」とレビュー記事で書かれてしまいました。しかし高周波のマイクへの回り込みは容易に起こる事なので、そのチェックには使えるでしょう。トリオのTS-820はモニター専用の検波回路を搭載して送信IFをモニターするように少々工夫されましたが、それでも出来ることはスピーチ・プロセッサのレベル設定用みたいなもので、高周波段の動作の事は何も分かりません。

 

自分の電波を聴いてみることの目的として最大のもの、かつメリットは歪の確認です。ところが他人の声ならいざ知らず、歪率がある程度大きくない限り、リアルタイムで聞こえる自分の声で歪を感ずるには少しは修練を要するのです。つまり、入門記事が説くようにビギナーがモニターさえしていれば安全、というものでもありません。これに加えて、ビギナーからもう少しレベルを上げたら三次歪というものの存在を理解し、自分の出ている周波数の上下まで探ってみる、ということも必要になります。

 

早くから耳の訓練を始めろ、という趣意なら分かりますし、モニターは自発的に始めたくなる習慣ではないので、そういう指導も有効でしょう。ただし私がその記述を読んだ頃には、もうトランシーバーの形態が主流になりかけていました。

 

モニターのもう一つの目的はゼロイン、つまり相手の周波数にビタリと合わせることですが、ここで回を改めます。

 

アマチュアのFM通信も、またNHKのFMステレオ放送も1960年代から普通に行われていたにもかかわらず、アマチュア無線がステレオ通信を手掛けたという話は耳にしません。私が思い出せるのは、JA4PC 高原氏による全てディスクリートのMPX回路で、応用として5WにデチューンしたトリオTR-7100で2mバンドに出てみるという「トランジスタ技術」誌に投稿された記事くらいです。かなり回路も複雑だったためか、普通ならこういうニッチ系に乗って来るようなガレージメーカーも興味を持ちませんでした。今はステレオ変調も専用のICがあるので自作派のミニFM局は簡単に利用できていますが、それでもなぜか今もハムはステレオ化には関心がなさそうです。

 

昔、祖父の家で見たステレオにはAMチューナーが2系統入っていました。これはまだFMの本放送以前である1960年前後に、中波放送局の2局が協力して左右別の音源を送出したステレオ放送の歴史があるからです。1990年代に始まったAMステレオをなまじ知っている人は「そんな昔にAMステレオがあったはずがない」とか言いますが、需要も実態もあったのです。

 

今やほとんど廃止の決まったAM放送ですが、かつては付加価値向上を目指した時期もあり、ひとつはブリエンファシスの導入。もう一つが現在に至ると言いますか、絶滅寸前の新方式によるAMステレオ放送でした。

この放送が始まった頃に読んだある座談会記事のことですが、オーディオ評論家の面々の中から「ステレオ放送はよく聴くとFMよりもAMの方が音がいい」、と言い出す人物がいれば、皆が相槌を打つというような内容でした。アマチュア無線家諸氏はステレオという事に特に思い入れも先入観もないようですが、これを読んでどうお感じでしょうか。個人の感性ですから「音がいい」要素が何かあっても構わないのですが、横から異の一つも唱えられないのも変な話と私は感じたのですがいかがですか。

昔の電子工作で「真空管式ワイヤレスマイク」と言えば、中波用の微弱電波のAM送信機を意味しました。100Vに繋がるのでワイヤレスでもないのですが、電子工作用語として定着していました。wirelessは英語なら転じて電波利用、の意味で通るので(wi-fiとか)そちらが語源でしょう。典型的な構成は発振・AF増幅・整流の3球式で、並三ラジオとは部品も回路も共通部分の多いものです。

 

この「ワイヤレスマイク」は自作人気が高く、繰り返しラジオ雑誌に掲載されました。発振器の負荷は意図的に抵抗器かRFCで済ませるため微弱な電波しか出ないものの、「同調回路にすると出力は上がります」とそこまで書く筆者もいました。また「「ラジオの製作」誌のQ&A」コーナーにも「これで動きますか?」との投稿が頻出しますが、それらがまた6AR5とか出力管を使った上に同調負荷という代物で、中には5球クラスの完全にハム用送信機がモデルらしきものもありました。回答者の近藤氏も毎回「免許を取って使ってください」、と書けば今度は「どんな免許ですか?」という質問が来る始末。とにかく送信機を作って次は出力アップしてみたい、という電子工作の入門者は多く存在し、私も同類としてアマチュア無線を志したのです。

 

さて私の場合、元の並三ラジオの部品のみでもワイヤレス改造できたはずなのですが、当時はまだ回路も理解していません。雑誌の作例が6BE6を使っていれば買って来てその通り作るのみですが、全くこれが動作しません。ところが随分と後に4球スーパーの球と交換してみたら一発完動(そのくらい徹底して配線チェックはしてありました)。判明したのは、新品と言われて買ったはずの6BE6が電極タッチの不良品だったのです。秋葉原で購入したのは箱無しの裸の真空管を棚にズラリと並べた店でしたが、今思うと印刷もやたらと文字が大きくゴム印で押したようで不自然でした。「カンマツ」はこういうところから流れていたのでしょうか。

前回からの流れで、再生式並三、4球スーパーと作った次にはいよいよ「通信型受信機」の9R-59D(キット)に取り掛かりました。並三ならば組み立て即完成ですが、スーパーヘテロダインでは肝心なのは調整です。

 

やるべきは、連動バリコンの全域でRF増幅・周波数変換の同調とローカル発振のトラッキングです。ラジオの場合、「三点調整」を実施すれば実用範囲に追い込めます。ところが、9R-59Dでは同様に試みてもなかなか上手く行かず、調整次第でバンド上下で大きな感度差が出てしまうのです。これはギャングレス(親子)型ではない等容量の連動バリコンを使うマルチバンド機では宿命で、感度を犠牲にして全域なるべくフラットにするか、それともどこかに重点を置くかの折り合いを強いられるものなのです。私もまだ大した測定器も持っておらず、9R-59Dをディップメーターだけで調整した当時はその落とし所に自信は持てませんでした。それは第一にディップメーター出力の周波数依存性が極めて大きいからで、本当はSSGが必要です。通信に使える程に仕上げるには、9R-59Dは誰にでも優しいキットではありません。

 

ところが、もっと上等なHFのSSB機のダイアルは、VFOという「RF連動機構のない」ただの発振器なのを知って最初は不思議でした。それこそゲルマラジオ以来、選局はフロントエンドの同調で行なうものと刷り込まれてきたのに、それが「プリセレクター」とか呼ばれる独立した小さなノブを精密でも微妙でも何でもなく、それこそ適当に回すだけなのですからね。このラジオとの設計思想の違いを、少なくとも初心のラジオ少年向けに解説した例は私は見たことがありません。

 

なお、コリンズR-388とかの業務用・軍用の受信機では物凄い部品数のギヤトレィンとカムで全部の同調を連動させています。コストを無視した世界とは言え、そこまで複雑化させては失うものの方が多くはないかな、と思うほどです。同じく同調を連動する形式でも「そこがやっぱりただのラジオ」としか思わせない9R-59Dとは対極的でした。

 

 

 


 

私は小学生の時に並三、および4球スーパーを作りましたが、本当か?としばしば疑われることはありました。子供がそんなに工具も持っているはずがないのに、力仕事のシャーシ加工ができたのか?という意味のようです。ところが、シャーシにはラジオ専用の既製品があったのです。

 

戦後、ラジオは高価なメーカー製品に対抗して、街の電気屋やアマチュアが組み立てて販売することが普通でした(私はその世代ではないので伝聞)。

回路はNHKや真空管メーカーの発表した標準設計があり、それに部品も合わせて製造され寸法も規格化、その通りに穴を開けたシャーシも、またケース・キャビネットまでもが新品の部品として小売りされたのです。その時代が過ぎた後年もそのアルミ板のプレス型が活用され、「並三用」とか、「スーパー用」という加工済のシャーシは当初の役目を終えてはいましたが趣味向けに生産されていました。従って私が買った工具は、少々寸法の違う部品に合わせて修正するためのハンドドリルとテーパーリーマー程度で、あとは自宅にあった家庭用工具セットと半田鏝でラジオは組み立て出来たのです。参照はもちろん、ラジオ雑誌の実体配線図です。

 

超再生受信機」の投稿にも書いたように、強電界の都市部に居たので再生式の並三では「感度と選択度の向上」、という再生検波の恩恵には気付くことなく終わりました。続いて4球スーパーでは実体配線図で電源ダイオードの極性が逆だったというミスにつられて、しばらく不動。気付いて直した後は、スーパーヘテロダインというものは組み立てよりも調整こそ自作の肝ということを知ります。なお、並三の方はその後ワイヤレスマイクに改造しましたが、これについては改めて。

 

私は中学を受験したので以上までで工作は中断し、再開後に作ったのがトリオ9R-59Dの受信機キットでした。

 

前回、損得両方を考えてみるべきと書いた、その続きになります。

 

原会長時代にハム人口は爆増しました、というより、積極的に爆増に誘導されました。「アマチュア無線は儲かる」という風潮で業界に突き動かされる形で、免許のハードルを下げさせ続けたのが最大の要因です。これは氏の晩年、読売新聞紙上に連載された「時代の証言者」の中でも「増やし過ぎたかな?」と回想していますが、全くその通りです。

私の考える原会長時代の最大の問題点がそれで、実際、増加に呼応してアマチュア無線の関連業界は新規参入が相次ぎ、拡大の一途を辿りました。大丸とかのデパートにさえハムコーナーが設けられ無線機が販売されましたし、東急ハンズにも(当時は既に中古ですが)コリンズと純正パーツが並びました。雑誌も何種類も創刊されています。このように一時は業界も著しい興隆を迎え、我々も選り取り見取りに良質な機器類を、しかも安価に手にできたのです。

 

ところが日本経済の悪夢で示された通り、バブルの末期というものは軟着陸で終えられないのは宿命で、弾けるしかありません。アマチュア無線界においては財界バブルとは理由もタイミングも違いますが、「JAIA」の投稿でも書いた通り、ハム人口の低下に合わせて何十社もあった加盟各社のほとんどが消えて行きました。しかし、それに気付いた時には、もう一方のハム大国であるアメリカのメーカーも他ならぬ日本勢が潰してしまったようなもので、頼ろうにも後の祭りでした。バブルの肥大化がなければ業界も縮小均衡もできたかも知れませんが、崩壊前の規模が大きければ大きいほど弾けた後に生き残れる者も少なくなってしまうものです。

 

長い目で見れば、アマチュア無線という趣味の凋落は必然だったとは思いますが、それにしても原氏が会長でなければ、それによりハム関連業界を煽っていなければ、もう少し現在のアマチュア無線界には楽しみが残っていただろうと私は思うのです。

故・原昌三氏は超長期のJARL会長時代1970-2011を築きました。

原氏は本職での社会的地位にも、また血筋にも恵まれた人物で、政府諮問の電波関係の委員にも就任していました。また、オリンピック委員会の委員に就いたばかりか、馬術連盟でもトップに立てたのは出自が怪しくては絶対に無理だったでしょう。馬術は昔から軍人や貴族の嗜みという歴史的背景に立つものだからです。

 

さて、アマチュア無線は許認可を要する趣味なので政界・官界との交渉事が色々とあったはずです。それに当たっては、いくら「私は何十万人のハムの代表です」、と言ったところで地位や経歴の伴わない、まして人品骨柄の卑しそうな者では、ブライドの高い議員や高級官僚の皆が皆、先入観で応対しないとは言えません。アマチュア無線家は大成しない?」でも書きましたが、その点、原氏のような経歴とバックはアマチュア無線家には稀有なもので、それこそが「余人を以て代え難い」点でしょう。「運用も知らないペーパーライセンスがトップ」、とよく揶揄されましたが、大きくなってしまった組織の代表に適する一番の要件はそこではありません。

逆に仲良しこよしの関係になって丸め込まれることもあり得ますが、電波利用料の導入の時などはどう動いたのでしょうか? つまり「結局良かったか?悪かったか?」の二分法ならば損得合わせての判断をしなくてはなりません。

 

かつて馬術連盟でトラブルがあった際、渋い表情で代表会見に応じる原氏がテレビに映し出されたことがあり、兼任する馬連の方でも名ばかりでなく実際に責務を果たしているのだなと思いました。その上で、ハム関係の地方の会合にも実にマメに出席した写真が残っており、売れっ子芸能人並みの多忙さだったのでしょう。世の中高齢になると名誉職のように振る舞い、判断力の低下に付け入られて悪しき取り巻きの傀儡にされる、は定年のない団体ではよくあることですが、原氏はそれには遠かったと思います。

 

もちろん褒めるばかりではありません。続きは「その2」へ。

 

以前の「2SC710と2SC460」の投稿で、代替するには規格表で想定用途の似た小信号トランジスタを選べばいい、ということを書きました。トランジスタは真空管よりは桁外れに品種が多いですが、互換性のある組み合わせもまた非常に多くあります。また、真空管よりも遥かに特性の分布が広いものですが、回路の工夫で差を吸収するのも設計の常識なので融通が結構効くのです。

しかしながら、必ず付記されるのが、「高周波のパワー用でない限り」という一言です。

 

昨今、メーカー製品や自作の終段に重用された品種ばかりが品薄になってしまいましたが、これらは本当に互換性に乏しいのです。自作なら設計を変えるのが第一ですが、その代替候補までもが入手しにくいという有様。まして100ワット以上のメーカー製無線機の終段素子がドロップインで差し替え可能、ということはまずありません。そもそもメーカーの特注品であったり、大変にスペック幅の狭い選別品だったりするからです。

 

しかるに発生したのが偽物半導体問題で、「カンマツ」的にマークを書き換えた贋物がAliexpressやオークションなどで当たり前に出回るようになりました。要は「日本では高値で売れるらしい」、と目されると「何でもAli」です。オーディオ回路のOPアンプやトランジスタはまぁそれなり動く場合が多いでしょうが、高周波のパワー用はそうは問屋が卸しません。全くゲインが足りないとか、暴走して壊れるなどが平気で起こります。自作や修理で有名な品種についてならば、偽物情報は探せばしばしば見つかりますので、買う前に確認することは不可欠です。

 

本物が残っている店舗を見つけることも稀にはありますが、それは以前の投稿「内緒にすべき話題」でも書いた、買い占めを警戒すべき代表例です。それらは本当に必要とする人達の手に渡ればよいのですが。