最近改訂させて頂いたDTMマスタリングのやり方にトゥルー・ピーク・リミッターのことを少し書いたのですが、ブログでもうちょっと考察してみたいと思います。

 

 

昨今はトゥルー・ピークに対応したリミッターは珍しくなくなりましたが、トゥルー・ピークとはデジタルデータのサンプル間を繋ぐ時に現れるデジタルデータの振幅よりも大きなピークのことです。

 

 

インターサンプルピークとも呼ばれますが、デジタルデータはいわずもがない方眼紙の目のようにアナログ音声をビットレートとサンプリングレートの数値に従って保存しています。ご存じの方も多いと思いますが、簡単におさらいしてみましょう。

 

 

02

波形を極限まで拡大

 

 

波形編集ソフトで波形を最大まで拡大すると上の画像のように1サンプル単位まで拡大することが出来ます(出来ないソフトもあります)。

 

例えばCD音質の44.1kHz/16bitなら一秒間に44,100回画像のようにポイントを取って保存していることになり、1秒間に何回サンプリング(標本化)するか?を決める単位をサンプリングレートと呼びます。

 

上の波形データは44.1kHzのものですので、横軸方向の点一つ一つが44,100分の1秒になり、この点が44,100個横に並ぶと一秒分のデータということになります。

 

次に音の大きさをどれだけ詳細に(何段階で)保存できるかはビットレートという単位で決まります。16bitなら2の16乗で65,536段階となります。上の画像では縦方向の細かさが見られませんが、16bitのデータなので縦軸には65,536段階の区切りがあることになります。

 

 

方眼紙の目の細かさと同じで細かいほど実際の音声を正確に保存することができ、数値が小さいと、イメージとしてはドット絵のようになって荒い低音質な音になっていきます。

ここまではデジタル音声の基礎知識で、ここからがトゥルー・ピークの話になります。

 

 

 

truepeak

 

この記事の最初の画像は点と点の間が繋がっていますが、あれはあくまでデジタルデータの点同士を疑似的に繋いでいるだけであって、実際のアナログ化された時の波形ではないはずです。

 

 

実際のデジタルデータは上の画像の左側の青い点のように保存されており、44.1kHz/16bitなら横軸の目盛り一つが44,100分の1秒であり、縦軸の目盛りは65,536段あるわけですが、我々がこのデジタルデータを音として聴くためにはスピーカーやヘッドホンからアナログの空気振動に変換する必要があります。

 

 

変換される際は右側の画像のように点と点を繋ぐわけですが、0dBを越えてクリップと書いてある部分のようにデジタルデータの青い点そのものは0dBを越えていなくても、実際に再生される際はには右側の緑の線のようになって再生されるのでクリップしてしまう場合があるわけです。

 

 

03

アナログデータはこのように波の状態になっています。

 

 

デジタルデータ上ではクリッピングしていないため、データをどれだけつぶさに見ても発見することは出来ず、アナログに変換されて初めて起こることですので、私もデジタルデータ上ではDAWのフェーダーにクリップランプが付かないのに、なぜかスピーカーで聴くと「ブチ」っと音割れしてしまった経験があります。

 

 

このようにアナログ変換された時に生じるピークをトゥルー・ピークというわけですが、このトゥルー・ピークをリミッッティングしてくれるのがトゥルー・ピーク・リミッターなわけです。

 

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Nugen Audio ISL 2 True Peak Limiter

 

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Flux:: Elixir

 

05

Waves WLM Plus Loudness Meter

 

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Sonnox Oxford Oxford Limiter V2

 

 

Nugen Audio ISL 2 True Peak LimiterFlux:: ElixirWaves WLM Plus Loudness MeterSonnox Oxford Oxford Limiter V2などほかにもトゥルー・ピーク・リミッターが今はたくさんあり珍しくない状態です。

 

私が使っているのはOxford LimiterとElixirがメインでWAVESのWLM Plus Loudness Meterは一応トゥルー・ピーク・リミッターが付いていると言えば付いているのですが、このプラグインはあくまでメーターリングソフトでリミッターはおまけくらいに考えています。

 

 

この記事を書くに差し当ってElixirの最新版のインストールをしようとしたら、旧バージョンのアンインストールが上手くいかず、新しいバージョンも入れられず、使えなくなってしまったのでメーカーに問い合わせ中ですが、とりあえず残りのOxford LimiterとWLMでちょっと比較画像を作ってみました。

 

 

001

オリジナルの矩形波

 

まずオリジナルの矩形波です。綺麗な直線を描いています。これにのOxford LimiterとWLMのトゥルー・ピーク・リミッターを使ってみます。

 

WLM Plus Loudness Meter

001

WLM Plus Loudness Meter 拡大

 

 

0001

WLM Plus Loudness Meter

 

 

WLMはかなり波形の形が変わって「かまぼこ」みたいな形になっています。実際の音楽の波形は言うまでもなくこんな単純ではありませんが、原音をどれだけ歪めてしまうのか?という参考にはなります。

 

 

音質的にはWLMは専用のリミッターではありませんので、最終的に使おうという気持ちにはなりません。あくまでメーターリングソフトの付加機能という感じであり、音の質感もあまり好きにはなれません。

 

 

オリジナルの矩形波に比べて波形(音)がかなり変わってしまっている点がポイントです。

 

Oxford Limiter V2

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Oxford Limiter V2 拡大

 

 

001

Oxford Limiter V2 

 

Oxford LimiterとWLMを比べると明らかにOxford Limiterの方が波形(音)の変化が少ないのがわかります。多少「かまぼこ」っぽくなっていますが、WLMに比べると変化量が少ないのが見てわかります。音質的にはOxford Limiterが好みです。

 

 

0001 使用するかどうかは選択できます。

 

 

トゥルー・ピーク・リミッター機能が付いているのはOxford Limiterの「V2」からですが、使い方云々というよりは完全にプラグインの性能依存の問題なので色々試して自分が良いと思ったものを選ぶ感じになります。

 

 

トゥルー・ピーク問題はこれで一応の解決なのですが、そもそも極限まで音圧を稼ぐ事で発生する問題ですので、トゥルー・ピークが発生すること見越して、ほんの少しだけ(0.5dB程度)予め音量を下げておくという方法を個人的には取っています。

 

 

MP3などの圧縮フォーマット変換時の問題

MP3やOGGなどに変換する際の波形の乱れから音量が僅かに大きくなってしまう問題もトゥルー・ピーク・リミッターを使えばある程度までは押さえ込めるようです。

 

 

01

オリジナルの矩形波(-2.5dB)

 

 

オリジナルの矩形波はピークが-2.5dBです。これを320kbpsと192kbpsのMP3フォーマットに変換してみます。

 

 

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MP3 320kbps 少し崩れる

 

 

320kbpsでは多少波形が崩れてます。-2.5dBを少しだけオーバーしている(画像の右下が顕著)のがわかりますが、これくらいな大丈夫と思えます。

 

 

 

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MP3 128kbps かなり崩れる

 

 

128kbpsだとかなり波形は乱れ、0dBに届きそうなくらい音が大きくなってしまいます。

 

もし元々のマスタリング済みの波形が0dBまで大きくなっていた場合に、MP3にエンコードしたらどうなるかは説明するまでもないですが、トゥルー・ピーク・リミッターを使えば、bpsが低くてもそれなりに押さえ込めます。

 

 

どれだけ波形が乱れるかはエンコーダーの性能やフォーマットやbpsに依存するので、一切の例外なくどんな劣悪なbpsでも大丈夫かどうかは今のところ明言は出来ませんが、bpsが低いほど波形の乱れが大きくなり、私が実験する限りでは、トゥルー・ピークを0dBにした場合、無劣化のWAVEの状態では大丈夫ですが、128kbpsや96kbpsなどの低音質にエンコードするとピークメーターはクリップしなくてもトゥルー・ピークは0dBを越えてしまいます。

 

 

 

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トゥルー・ピークを0dBにして128kbpsのMP3にエンコードした場合

 

 

色々実験してみて確実に言えることは0dBまで音圧を上げる場合、トゥルー・ピークリミッターを入れたほうがMP3変換時のクリップを避けるには有益であるということです。

 

 

こういうことがあるので0dBまで挙げずに多少天井にスペースを作っておくことを私個人としては推奨したいです。

 

もちろんエンコーダーの性能もあるでしょうし、MP3よりもOGGの方が波形の乱れは少なく高音質です。bpsによる劣化具合も関係するので一概には言えませんし、トゥルー・ピークもDAコンバーターの性能に依存する部分があると思いますが、そもそもMP3化された後のことをどれだけ私たちが考える必要があるかも疑問だったりします。

 

 

作品の形態をMP3が最終形態なのか、CDが最終形態なのか、それとも動画の各種フォーマットやOGGが最終形態なのかはケースバイケースなので、私たちが作品を作るときに192kbpsのMP3に変換したときに音割れしないようにしようと考えて、作業する必要はあるのかどうかは難しい部分です。

聴いてくれる方がもっと低いbpsで変換することがあるかもしれませんし、何処を下限と考えるかは人それぞれ違うと思います。

 

そもそも音楽のダイナミクス表現を潰して、極限まで音圧を稼ぐせいでこんな問題が発生するわけで、私個人としてはいわゆる音圧戦争的なものには反対であり、多少こういったことを考えつつも音が大きければ良いという風には考えずにトゥルー・ピークやMP3エンコードを常識的な範囲で見越して作業しています。

 

 

もちろん音が大きいほど良いという風に考える方もいらっしゃり、人それぞれですが、何処を上限にし、何処を下限にするかを考えるのはなかなか難しい問題です。

 

 

ちょっと天井を空けておくだけで問題の大部分は解決するので、個人的にはそのほうが良いのかなと、やはり思ったりもします。

 

最後までお読み頂き有り難う御座いました。

 

 



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