バッハの最高傑作は?と問われれば意見は色々でしょうが、教育的な作品、芸術的な作品、宮廷勤務時代の貴族の娯楽的作品、そして宗教的な作品などに分けて分類することができ、宗教的な作品としては何といってもマタイ受難曲がバッハの宗教的な作品群の中で規模も内容も特に優れています。

 

ルター以降の音楽修辞法に加えて、バッハ独自の様々な描写表現を駆使したマタイ受難曲は非常に興味がそそられる箇所が多く、現代人が作曲する上で伝統という意味と純粋な技法という意味で大いに価値のある作品であると言えます。

 

 

今回は最初の合唱「来たれ,娘たちよ。われと共に嘆け」の冒頭を少しだけアナリーゼしてみましょう。

 

 


〇前置き

マタイ受難曲で面倒なのは外国の宗教の内容なので歌詞がドイツ語なので何を言っているのかわからず、にもかかわらずドイツ語の歌詞の内容やキリスト教の話を理解していないと音楽の技法も理解できないという点です。

 

本格的に勉強するならドイツの単語1つ1つを調べて日本語や英語に翻訳する必要があります。

 

さて1曲目は言ってみればアニメや映画などの主題歌的なオープニング曲でバッハの中では長く、二重合唱で規模も大きい曲になります。

 

日本語訳の歌詞を見てみましょう。


来たれ、娘たちよ。われと共に嘆け。
見よ。誰を?

花婿を。
見よ。どのような?
子羊のような。
見よ。何を?
彼の忍耐を。
見よ。どこを?
私たちの罪を。
愛と慈しみのために木の十字架を自ら担ぐ彼を見よ。

 


おぉ。神の子羊、
罪がないのに十字架の上で殺されて、

いつでも耐えた。

あなたは全ての罪を負っているが、
そうでなければ私たちは絶望してしまう。
おぉ。イエスよ。我らを憐れんで下さい。

 

これはイエスがゴルダゴダの丘で十字架に架けられて殺される直前の場面の内容であることがわかります。

死刑に使う十字架を罪人自らに運ばせるわけです。

 

 

 

 

〇アナリーゼ

 

 

 

 

冒頭~

 

楽譜は曲の冒頭からです。場面としてはイエスがローマ人に拷問を受けてボロボロになり、フラフラな足取りで思い十字架を背負ってゴルゴダの丘を登っていくシーンですが、バッハをそれを巧みに描写しています。

 

 

色々な解釈がありますが、まず12/8拍子はイエスの重苦しい足取りを表現していると言われています。速めのテンポで演奏する指揮者もいますが、ゆっくり歩くくらいテンポの方が場面に合っていると個人的には思います。

4/4の三連符のようにも聞こえるのでゆっくり、のっそり歩く印象を受けます。

 

 

またトニックペダルの上で旋律や和声の調が非常に揺らいでいる点が興味深いです。KEY-Emでディグリーを付ければ上記の通りですが、最初のⅠmのあとすぐに下属調のKEY-Amへ転じ、さらに属調のKEY-Bmに転じてKEY-EmのⅤ7に戻ってきますが冒頭からとても転調的な動きと言えます。

 

 

メロディーもフルート1とオーボエ1のトップの音が1小節目はソが♮なのに2小節目でいきなりソ#になり、同じく2小節目ではVn1はド♮なのに、フルート1とオーボエ1ではドが#になっています。

 

 

1小節目のB7の箇所でソが#しているので、KEY-Eっぽく聞こえますが実際にド#(9th)とソ#(13th)がいるのでBミクソとなりKEY-Eの響きです。

開始からいきなり同主長調に揺れています。

 

 

2小節目のAmではドが♮ですが、すぐ後のEmではドが#しているのでこれは主調のKEY-Emのトニックではなく、後ろのKEY-Bmの下属和音であることがわかります。

 

 

さらに3小節目のF#7の箇所ではレ#(13t)とソ#(9th)が聞こえ、ソ#の方はクロマティックオルタレーションですぐにソ♮(KEY-Bm)が鳴りますが、最後のソ♮が出てくるまではミクソのように響き、つまりKEY-B出身のⅤにも聞こえます。

 

 

上の画像の一番下に出身キーが書いてありますが、最初の3小節はEm(KEY-Em)→B7(KEY-E)→E7(KEY-Ahm)→Am(KEY-Em)→Em(KEY-Bm)→F#7(KEY-B、KEY-Bm)→B7(KEY-Em)となって借用の連続で同じ出身キーの和音が連続して続くことはありません。

hm=ハーモニックマイナー

 

こういう短いのは転調と言わずに借用和音扱いになりますが、時間が短いか長いかだけの違いなのである意味で転調と言ってもよいかもしれません(実際部分転調と呼ぶ人もいます)。つまり1和音ごとに転調していて調は極めて不安定です。

 

 

もっともバッハはバロック時代の人なので後期ロマン派に見られるような広い転調領域など望むべくもなくいわゆる近親調やその周辺のみだけですが、バッハの時代なりの和声法できわめて不安定な響きを作り出しています。全部の和音の出身キーが違うと言うのは時代を考えればかなり前衛的な手法と言えるかもしれません。

 

私にはこれがイエスのフラフラ歩く状況を表現しているように感じます。

 

 

続きを見てみましょう。

 

 

 

4小節目~

 

次も似たような手法で書かれています。やはりレとレ#、ファとファ#などが入り混じって不安定な響きになっています。6小節目のE mコード到達するまではすべてのコードの出身キーが毎回変わるっているのがわかります。

 

面白いのは5小節目の①と②の部分で①のレ#はKEY-Emの導音として取れますが、普通に考えると②のソ#はM7となります。

 

5小節目のAmはKEY-EmのⅣであり、またKEY-AmのⅠとも考えれば②のソはKEY-Amの導音とも取れますが、不思議な響きです。①も②も次の音へのクロマティックオルタレーションと解釈もできますが、いずれにしてもバッハがイエスのフラフラの不安定な足取りを調や旋律の不安定さで表現しようとしていると考えるとなぜこんな不安定な響きにしているのか?に納得がいきます。

 

 

 

6小節目の音階上行はイエスがゴルゴダの丘への坂道へ上る描写で、最後はC音はChrist(キリスト)のCであると言う人がいます。

 

本当のところはバッハに聞いてみないとわかりませんが、God=G(ソ)やDeus=D(レ)のような音楽修辞法的な用法はバロック時代の曲によく見られる表現なのであながち間違っているとも言えません。

 

 

こんな感じで合唱が入ってくる前の序奏は不安定なハーモニーを響かせながら、12/8拍子ののっそりと歩みで進んでいきます。イエスがフラフラ苦しそうに歩きながら坂道を上っていく描写を上手に表現しています。

 

 

〇6声対位法

僅か7小節しかまだ見ていませんが、合唱が入ってくる16小節目までは6声対位法で書かれています。

 

和声書法に慣れきっている人にとっては6声対位法は新鮮に響くかもしれませんし、マタイ全体を通しての対位法的な各種の書法は現代の我々にとっても参考になる用法が非常にたくさんあります。

 

 

〇まとめ

楽器はフルート2本、オーボエ2本、ヴァイオリンⅠ、ヴァイオリンⅡ、ヴィオラ、通奏低音としてオルガンというオーケストラと呼ぶには小さい編成ですが(バロック時代にはまだ古典期以降のオーケストラ編成はありません)、こういうった6声対位法の書法は現代人にとっても示唆に富んだものであり、近代の管弦楽法でアレンジすればもっと豊かな表現が可能なはずです。

 

 

またこれはバッハに限ったことではなくベートーヴェンやモーツァルトの作品にもよくあるのですが当時の楽器が未発達だったために出せなかった音や鳴らせなかったフレーズを「もし楽器が現代と同じなら大作曲家たちはこうしたはずだ」という現代人なりの解釈で楽器を増やしたり、フレーズを書き換えているものは非常にたくさんあります。

 

これについては賛否両論で私個人としては当時の音をそのまま鳴らす方がいいんじゃないかと思いますが、ロマン期から現代に架けてはよく行われてきたことでした。

 

バッハのマタイ受難曲もYouTubeなどの動画で見ると、普通にバッハの楽譜のには存在しない楽器が登場していることがあります。この辺は割り引いて聞くしかありません。

 

 

また表現したい情景描写を音楽で如何に表現するか?という技法についてもマタイ受難曲は目を見張るものがあります。

 

特に面白いのは修辞法と不協和と歌詞との関係性でしょうか。ここでは音楽修辞法的な話がまだ全然登場していませんが、もちろん先を見ていくとそういった表現はたくさん登場し、加えて今回のアナリーゼで見てきたような調の揺らぎや旋律の不安定のように修辞法以外のバッハ独自のいわゆるBGM的な表現の手法は非常にたくさんあり語るべき内容には枚挙に暇がありません。

 

 

 

マタイ受難曲に関してはいくらでもネタがありますので、また機会があれば続きを書いてみたいと思っています。

 

 


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FETコンプレッサーの王様とも呼ぶべきUNIVERSAL AUDIOの1176実際のアタックタイムが気になったので、本当のところは何秒なのか調べてみました。

 

一応メーカーからは800μs~20μsとマニュアルにあります。1000μsは1msなので=800μsは0.8ms、20μs=0.02msになり、最短で1/50000秒という超高速アタックタイムを持っています。

 

最遅の800μsでも1/1250秒で1msを切っており、この極端に速いアタックタイムがパンチのあるカッコ良いサウンドを生み出すためにボーカルを始め色々なトラックで愛用されています。これは光学式や真空管式と比べると極端に機敏な動作でFETならではの個性とも言えます。

 

しかし、本当にこの通りであればサウンドにパンチを出す効果としてはアタックタイムが速すぎるので実際はもう少し遅いのではないか?と思いました。

 

 

1176は「1~7」で右側の数字が大きいほど速くなる

 

 

1176は普通のコンプと逆になっているのでわかりにくいですが、アタックもリリースも右側が速くなります。つまみの7が最速(20μs)で1が最遅800μsになります。

 

 

〇実際に最速と最遅を調べてみました。

WAVESのCLA-76

 

 

測定にはWAVESのCLA-76を用いました。

 

最も遅い「1」約8ms(公称800μs=0.8ms)

 

公称800μs=0.8msですが、実際にはその10倍で8msです。これでも十分速く耳ではっきりアタック感を残せる20msあたりのアタックには出来ませんが、個人的には速い設定の中の遅い設定という感じです。

 

 

 

最も速い「7」(公称20μs=0.02ms)

 

公称20μs=0.02msの設定は実際には0.4msでした。1msを切っており、十分すぎるスピードを持っています。

 

 

色々なメーカーから1176はモデリングされているのでほかのメーカーの1176プラグインは違った結果が出るかもしれません。

ともあれ実際のアタックタイムは0.4ms~8msであることがわかりました。ほとんどのコンプに言えることですが、額面上の数値よりも実際の動作は遅くなることがほとんどです。

 

 

〇それ以外の中間的な数値。

 

1176は1~7のダイヤル式で整数の中間の値の設定も可能なのですが、小数点の数値は飛ばして整数だけの残りの値も調べてみました。

 

 

「2の目盛り」=6ms

 

 

「3の目盛り」=3ms

 

 

「4の目盛り」=2.5ms

 

 

 

「5の目盛り」=2ms

 

 

「6の目盛り」=0.75ms

 

 

〇有名なドクターペッパー設定は?

 

1176の有名なセッティングのドクターペッパー設定では「アタック」を10時方向、「リリース」を2時方向、「レシオ」は4になっています。

 

アタック10時なら3の目盛りあたり

 

3の目盛りあたりなら3msのアタックタイムというになります。速い部類に入りますが、ほんの少しだけ音の頭が抜けてパンチ感が出る値であり、なるほどロック系のボーカルなどではカッコ良い感じになる美味しい位置と言えます。

 

 

ちなみにリリースののドクターペッパー設定である2時は目盛りでいうと5の辺りであり、測ってみたところ大体80msくらいでした。速くもなく遅くもなく無難な値です。

 

 

 

 

実際にボーカルで1176が使われている例は枚挙に暇がないくらい多く、1176が好きでよく使うという方も多いのではないかと思いますが、ドクターペッパー設定だと上のような波形イメージになります。

 

3ms程度のアタックによるほどよいパンチと当たり障りのない80msくらいのリリースでいい感じのセッティングであり、別に1176でなくても使えるセッティングで似たような設定を使う方は多いのではないかと思われます。

 

 

〇まとめ

 

前回の記事で適切な処理を出来るかどうかということについて述べましたが、ミックスでは求める効果は千差万別です。もっと遅い20msのアタックや1msの極端に短いリリースが必要なら1176では不可能なので「なんとなくカッコ良いから、ネットで評判が良いから」などの理由で1176を使うのは不適切ということになります。

 

 

WAVES C1

 

仮にドクターペッパー設定ががっちり自作のボーカルコンプにハマったならデジタル系のコンプで似たような設定にしてみる実験を行うと良いかもしれません。

(これもプラグイン上の数値と実際の数値の違いを測る必要があります)

 

 

仮にWAVES C1でドクターペッパー設定にすれば当然1176でのドクターペッパー設定と似たような音になります。Bulestripeのようなヴィンテージ的な歪みは入りませんが、逆にこれ以上歪ませたくないクリーンな処理がしたいケースもありますのでそういう場合はむしろデジタルコンプの方が良いとも言えます。

 

 

ミックスでは「なんとなく」ではなく、ちゃんと目的やコンセプトを明確にして適切な処理を行うことが重要であり、それが果たせるならデジタルコンプでもミックスでの調整は可能ですし、果たせないなら1176やLA-2Aや670などのプラグインを買っても十分な性能を発揮することは出来なかったりします。

 

 

初学者の方であれば「じゃあEDMやメタル系の激しい系の音楽にはどういうコンセプトがあって、それぞれはどういうEQやコンプの処理でそれを実現できるの?」という疑問が起こるかもしれません。

 

それに関してはある程度ミックスが上手な方は方法論とか定石をお持ちでしょうが、ジャンルごとの方向性や個人の趣味嗜好、あるいは曲ごとのケースバイケースなど色々で一概に〇〇〇と言えなかったりします。

 

 

ミックスでは高いコンプやEQを買うことよりもむしろそちらの方が重要だと個人的には感じていますが(高いものを買うのを否定しているわけではありません。むしろお金に余裕があるならある程度揃えた方が良いと思います)この部分がミックスの難しいところでもあり、また面白いところでもありますが、それについては機会があれば別の記事でまた述べてみたいと思います。

 

 

 


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今回はミックス初学者の方へのアドバイスです。

音楽制作においてエフェクトに何を求めるかは個人の趣味嗜好や方法論などによって千差万別ですが、ここでは大雑把に

⓵ミックスにおいて馴染ませたり全体のバランスを取るためのエフェクト

②掛け録りまたは音色作りのためのエフェクト

の2タイプに大別してエフェクトの意義を考えて使い分けることについて述べています。

 

生徒さんなどで両者をごっちゃにしてしまってミックスのクオリティーが上がってこない方をよく見かけますのでまとめてみました。

 

 

■前置き

 

⓵レコーディング用とミックス用の違い?

 

・レコーディング用はざっくりとした音作り

・ミックス用は細かい調整

 

 

ヴィンテージ系コンプやEQはミックス用?録り用?

 

 

・ミックス的な視点から

ミックス用は細かい調整はトラックを磨いたり、相互関係における調整を行うための行程です。

例えばイコライザーであれば普通はミックスにおいて全トラック間の相互関係を考えてスペースを生み出したり、安定した力強い低音やパンチのあるサウンド、抜けてくるボーカルなどを作り出すためにいろいろな周波数を調整します。コンプレッサーやほかのプラグインでも同じです。


 

DMG AUDIO EQUILIBRIUM

 

一例を挙げるならボーカルは2.5kHzを広めのQ幅でブーストして抜けてくるようなサウンドにし、対してギターはボーカルの基音や低次倍音がいる500Hzあたりと2.5kHzあたりは軽くカットしてボーカルにスペースを提供し、代わりに1.5kHzや4kHzをブーストし、ドラムの金物系は5kHzあたりで攻撃的なニュアンスを強調する…などのそれぞれのトラック同士の相互関係からEQのブーストorカットを考える場合です。言葉にすると細かいかもしれませんが、どなたもやっていらっしゃるであろう処理です。

 

 

こういうのは一般的なミックス行程の範疇で小回りが利くパラメトリックEQが用いられます。

 

 

Fabfilter Pro-Q3

 

私の好きなDMGのEQUILIBRIUMやFabfilterのPro-Q3などのデジタルEQ、あるいはBRAINWORXのbx_hybridやWAVESのRenaissance EQ、DAWに付属しているようなパラメトリックEQなどは完全にミックスで使用するためのもので、サージカル(手術)的な処理から自然な音作りまで色々可能です。

 

ヴィンテージ的な音色はないかもしれませんが、ミックスに必要とされる様々な細かい調整・補正に適しています。

 


 

・録りや音色作り的な視点から

NEVE 1073

 

次に有名なNEVE1073を見てみましょう。こういったタイプはパラメトリックEQに比べて細かい処理に難があります。

 

 

例えばミックスでのキック処理でベースのとの競合を避けるために150Hz付近をピークディップの細いQ幅でカットしたいとします。このときNEVE1073は低音は110Hzと220Hzのスイッチ式なので150Hzをそもそも指定することが出来ませんし、何よりもシェルビングタイプオンリーなので目的の処理(細いQ幅でのピークディップ)を行うことは不可能です。

 

 

また低音をブーストするにしてもピークディップにも出来ず、Q幅も変更できませんし、キックで80Hzをブーストしたいとしても50Hzと100Hzのスイッチ式なので80Hzを指定すること自体が不可能です。

 

HPFも6dB/octや12dB/octのようにカットカーブをコントロールすることも出来ません。

 

 

API 550A
 

API550Aもヴィンテージ系では人気のある有名機種ですが同じくキックの処理でベースのとの競合を避けるために150Hz付近を細いQ幅でカットしたいとします。このときAPI550Aは低音は100Hzと200Hzのスイッチ式なので150Hzをそもそも指定することが出来ませんし、Q幅も変更できません。

 

ほかに例を上げることはできますが、ミックスにおける細かい処理をするのに向いてないわけです。

 

 

この手のタイプはギターアンプやシンセなどのざっくりとした「BASS」「MID」「TREBLE」のようなトーンコントローラー的なものと考えても良いかもしれません。

 

 

 

ギターアンプの簡易EQ(トーンコントローラー)

 

NI社 MASSIVEのEQ(トーンコントローラー)

 

ミックスで行うようなイコライジングではなくてアレンジやレコーディングの段階の楽器の音作りなどで例えばギターアンプについている簡易的なEQ(トーンコントローラー)をギタリストが最初にアンプで音作りをするときにミックスのことを考えて先ほどの「今回の曲はロックだからボーカルでは2.5kHzあたりを強調するだろうから自分のギターをそのあたりを少し控えめにして逆に4kHzを強調しよう」なんてことを最初から考えたりする人はあまりいないはずです。

 

 

そもそもアンプ付属の「BASS」「MID」「TREBLE」みたいな簡易トーンコントローラーでは細かい調整は不可能ですし、別途ストンプやマルチエフェクターでEQを入れる場合でも全トラック出揃った上でそれぞれの役割を考えた上で決めることなので最初のギターの音作りから緻密に考えることはあまりありません。

 

NEVE1073やAPIなどのヴィンテージタイプのイコライザーは、さすがに3バンドの簡易EQよりも細かい処理は可能ですがざっくりとした音作りしかできません。

 

 

いろいろな考えがあると思いますが、ミックスで行う予定の処理と矛盾するような音作りは推奨出来ませんし、レコーディングの経験を積めばエンジニアとのやりとりや実際に自分のギターがどう仕上がるのか?という結果によってライブとは違ってレコーディング特有の音作りみたいなアプローチも生まれてくるのかもしれませんが、ミックスを言葉通り曲全体の各トラックを馴染ませたり、バランスを取ったりするという意味において「2.7kHzを3dBブーストして~」「15kHzにLPFを入れて~」などのような緻密なイコライジングを最初のギターアンプでの音作りで行うのはナンセンスと言えます。ほとんどのギタリストは自身の感性に従ってカッコいい音、曲の雰囲気に合った音を作るのが普通です。つまり純粋に音色作りの側面からEQを使うわけです。

 

 

 

ギター用コンプはミックスでのコンプと使う目的が異なります。

 

コンプでもギターのエフェクターとしてコンプはピッキングによる音の粒を揃えたり、音をパキパキした感じにしたり、長いサスティーンを得たりなどのミックスで使うのとは違う目的(演奏の表現・効果)でコンプをギタリストたちは使っていて、ミキシングエンジニアが行うようなほかのトラックと比べて、あるいは平歌とサビに差をつけるためにパンチのあるサウンドにするためにコンプを使ったり、全体のダイナミクス管理をしたり、全トラック間での奥行きをコントロールするためにコンプを選択し、また設定を決めているわけではありません。純粋に音色作りの面からカッコ良いギターの音にするというコンセプトで使う人がほとんどのはずです。

 

全く同じことがシンセなどのほかの楽器にも言えます。

 

 

 

 

TELETRONIX LA-2A

 

 

ボーカル録音で愛用されるLA-2Aも同じで、この機種は最も有名な光学式コンプですがレシオ、アタック、リリース、ニーなどすべてが固定で自分で変更することが出来ません。

 

 

しかし実際のミックスではアタックをもっと遅くした方が良いとか、レシオをもっと下げてコンプ感を減らす、逆に上げて音圧を出すなどのアレンジの方向性全体に即した処理やほかのトラックとの相互関係で変えていくことがほとんどです。

 

 

録りの段階でのざっくりとした音作りには向いていますがミックスにおける調整という意味では不適切と言えます。

 

 

UNIVERSAL AUDIO 1176

 

 

またキックの音をカッコよくしたい、パンチのあるキックの音を作りたいと言う目的でネットや雑誌などでよく見かける1176を使っている生徒さんをたまに見かけます。

 

この機種はFETなのでアタックタイムが非常に速くキックのパンチのあるサウンドを作るのに適したアタックタイムである20msくらいの値を作ることが出来ません。

(公称20μsec~0.8msです)

 

 

ネットでよく見るヴィンテージのカッコいい機種だからなんとなく使うみたいな感じだとキックのアタックは逆にベチャっと潰れてしまいパンチのあるサウンドにするという目的からは真逆になってしまいます。むしろそのべチャッっとした感じが目的とした音なのであれば話は変わってきます。

 

 

LA-2Aや1176は非常に優れたコンプレッサーですが、細かい調整がし難かったり特性がピーキーだったりするのでミックスでの音作りを細かく追い込んでいくためのものというよりは録りの段階でのざっくりとした音作りで使うのに適しています。

 

 

 

それがギターでもボーカルでもベースでもドラムでもシンセでもそれぞれの奏者やトラックの音をまずはカッコ良い・曲の雰囲気に沿ったものにするべきであって、全トラックが揃った時点での細かい調整はミキシングの領分です。この音色作りとミックスでの調整が自宅DTMでの作業ではごっちゃになってしまい、結果としていまいちミックスのクオリティーが上がってこない原因の1つになっているケースがあります。

 

 

 

WAVES C1

 

細かい調整を行うならデジタルのWAVES C1みたいなコンプの方がよほど小回りが利くので調整には適しています。1176やLA-2Aのほうがなんとなくカッコ良いと思う人がいるかもしれませんが、ミックスでは何よりもその曲やトラックに適切な処理が出来るかどうかです。

 

 

いくら高級で人気があるハサミでも、カッターの方が適切な場面であればカッターを使ったほうが良い結果が得られる場合があるということです。

 

 

初学者の方でミックスでの細かい調整が必要なトラックに対して細かい調整が出来ないヴィンテージ系を(多分ヴィンテージでカッコ良いとかネットで音が良いなどの記事を見たからなどの理由で)使うことで逆に意図から離れてしまっているのを見かけますが、本来するべき適切な処理をせずに1176やLA-2Aなどを使うよりも、しっかりと音色作りを行って、WAVESのC1のようなデジタルコンプできっちり適切な処理を行った方が結果として良いミックスになる例はいくらでもあります。

 

 

少なくともミックスではコンプやEQの種類よりも適切な設定やコンセプトが重要であると言えます。もちろんそれらを踏まえた上でヴィンテージでも高級機でも任意のものを選択するのは良いことです。

 

不適切な処理ではあるけれど有名な、あるいはヴィンテージのコンプレッサーやイコライザーを使う場合とDAWに最初から付属しているレベルの簡易的なコンプやEQではあるけれど、その曲のコンセプトにがっちりはまった適切な周波数処理やコンプのセッティングをするなら明らかに後者の方が良いに決まっています。

 

 

 

・おすすめのアプローチ

 

DTMで作業を行うときに個人的にお勧めなのが「音作り」と「ミックス」を分けて考えることです。

 

 

 

 

例えばNEVE1073を使ってレコーディングされたボーカルがセッションに並んだときにEQ処理が不要か?というとそんなことはありません。全体の中でちゃんとボーカルが抜けるように、またトラック全体に馴染むように処理を行うのが普通です。ドラムでもギターでもベースでも同じはずです。

 

 

では1073はEQを全く触らないのか?というとそういうケースもあるかもしれませんが、最終的な完成像を見据えてEQの設定を行うのが普通かと思います。

ここで行うEQはあくまでざっくりとした音色作りでギターアンプの簡易トーンコントローラーみたいなニュアンスであるということです。

 

 

つまりざっくりとした音色作りの領分とミックスの調整の領分に分かれているということであり、音色作りという面では1176、LA-2A、1073などのヴィンテージタイプにアドバンテージがあり、逆にミックスでの調整という意味ではデジタルのパライコやWAVESのC1などのようなデジタルコンプにアドバンテージがあります。

 

 

 

両者をごっちゃにすることも可能ですし、自宅DTMでの作業は全部の行程を一人で行うので区別して考えにくいという側面があるのも事実です。ソフト音源から書き出された音をそのままミックスするときに調整が必要なトラックにヴィンテージ系のコンプやEQをインサートするという人も多いのではないでしょうか。
 

 

エンジニアが(調整が必要という意味の)ミックスでLA-2Aや1176を使っているのをyoutubeなどの動画で見たことがある方もいらっしゃると思います。

 

それ自体は決して悪いことはなく、問題は必要なミックスにおける調整が出来ているか?目的のサウンドに近づいているか?です。

それが合致するなら問題はありませんし、実際そういう使い方をする方もいらっしゃいます。

 

エンジニアの方たちはそれぞれのプラグインの個性・特性などを熟知しているので必要な処理に合ったプラグインを選んでいくことができますが、初学者の方が同じことをするのは難しいかもしれません。

 

 

細かい調整が必要という意味でのミキシングにおいて細かい調整が不可能なタイプのヴィンテージ系のプラグインを使うのはアレンジ、録音、ミックスは一連の繋がった行程とすればそれも決して間違いではないのですが、個人的にはやはり実際のレコーディング現場で使い分けられているように自宅DTMでも分けて考えた方が良い結果になるのではないかと思います。

 

 

 

音作りはそれぞれのトラックでとりあえず曲の方向性に沿って自分が良いと思う音を作っていけばいいわけで、細かいことはミックスで行います。アレンジの中で高域や中域など特定の音域が薄い場合にある特定の楽器のハイやミッドをブーストしたりすることもありますが、あくまでざっくりとした考えで行うのが普通です。

 

 

つまり音作りのコンプやEQというのはミックスで行うような相互関係や聴きやすいサウンドにするための調整・微調整ではなく、純粋にカッコいい音や曲の雰囲気に合った音を目指していけばいいわけです。

 

 

 

・まとめ

 

DTMの世界ではいわゆる往年の名器と呼ばれるヴィンテージ機材のプラグイン化が進んでおり、有名どころはほぼコンプリートで1176,LA-2A、1073などをモデリングしているメーカーは大手から中小のメーカーまでたくさんあります。

 

 

こういったヴィンテージ機器はカッコよいイメージもあり、また宣伝も巧みで購買意欲を唆るものも多く、特に初学者の方にこういうのを買えば良いミックスが出来るんだ~みたいなイメージを漠然と与えたりします。

 

 

既に述べたように切なのはイメージや明確なコンセプトであり、それに沿った各種の(処理)技術行程です。良い道具も使うべき場所とタイミングで適した使い方をしなければ自分の目的から離れてしまい、時には逆効果になることすらあり得ます。

 

 

宣伝やネットの記事で持ち上げられている1176やLA-2Aを自分の曲のミックスに挿したのにいまいち曲のクオリティーが上がってこない。せっかい高い金出して良さそうなプラグインを買ったのに…というケースは少なからず初学者の方にはあり得ます。

 

 

本当に必要とされる適切な処置が出来るならミックスにおいて実際はそんなにたくさんのコンプやEQが必要なわけではありません。

 

 

 

逆に音色作りやキャラクター作りの側面から見ると、特にヴィンテージ系はそれぞれが特有の強い個性を持っているのでいくつも欲しくなったりします。だからこそ1176やLA-2Aや1073などの機種は長年愛されてきたわけですし、多分これからもそれぞれの個性的な音は多くのエンジニアやクリエイターに愛され続けると思います。

 

 

両者の行程をごっちゃにせずに、住み分けで考えることでミックスのクオリティーが上がることは十分にあり得ますので、心当たりがある方は是非試してみてください。

 

 

 

 

 


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よくドビュッシーやラヴェルは旋法的と言われますが個人的にはラヴェルの方が旋法色が強いと感じています。

 

一般的に旋法と言っても長いスパンで使われることはあまりなく、どちらかというと一時的に調性感をあやふやにしたりして和声的な多彩感を得るために用いるケースが目立ちますが、ここではその使い方を少し述べてみます。

 

 

■ドビュッシーの例

 

 

ドビュッシー 牧神 50小節目

 

 

ドビュッシーの牧神の50小節目を見てみましょう。E♭7-5(=A7-5)はKEY-A♭のドミナントでコードでトニックであるA♭M7にドミナントモーションしています。

 

ここだけ見れば普通にⅤーⅠなのですが、旋律がソミ♭ドソミ♭と下がってきて最後にレが♮になります。

 

 

KEY-A♭は♭4つの調ですが、レが♮になるとKEY-E♭になりA♭M7コードはKEY-E♭の4番目、つまりリディアン化されます。これは古典和声でいうところの借用転位音ですが、瞬間的にリディアンを混ぜて古典的なわかりやすい調性感から脱しています。

 

 

その後A♭M7はA♭7にドミナント化されてKEY-D♭のⅤになり再び転調していきます。

 

 

ドビュッシー 牧神 107小節目

 

 

上の譜例は牧神のラストです。無調的な平行和音っぽいフレーズのあとにドビュッシーお得意のE6の付加6の和音が続きますが、ラが#している点がポイントです。

 

 

KEY-Eは#4つのキーなのでファドソレまでが#しますが、ここではラまでが#しているのでKEY-Bの#5個になりコードがE6なのでやはりEリディアン化しています。

 

 

その直前の107小節目も無調っぽく、最後はリディアンなのですが全体として牧神は調性での分析が可能であり、調を彩るために旋法やモードやホールトーンが用いられているという表現が適切であると言えます。レッスンでも理論の理解度の確認や近代フランス和声の勉強をしたい方に対してよく課題に出しています。


 

2つ例を上げましたが、1つ目の例は一瞬、2つ目の例は最後の3小節だけで長い時間使い続けるというよりは大前提として調的な作られ方をしているけれどもところどころスパイス的に旋法が短く用いられているという感じです。

 

 

使い方としては短く感じるかもしれませんがスパイスとしてはこのくらいでも十分な効果があります。トウガラシや胡椒は少しかけるだけで良いのと似ているかもしれません。

 

 

 

■ラヴェルの例

 

次にラヴェルの例を見てみましょう。まずは前述のドビュッシーと同じような使い方をしている例を見てみましょう。

 

ラヴェル クープランの墓より前奏曲 冒頭

 

最後のBmはKEY-Emなのでドがナチュラルのはずですが、ラヴェルはこれをフリジアンからエオリアン(またはドリアン)化しています。ドが#するのでちょっと違った雰囲気が一瞬混ざりこみます。

 

こういった例は枚挙に暇がなく先輩のフォーレにも多数見られます。また古くはベートーヴェンやモーツァルトにも見つけることが出来るのですが、近代フランスではこれを意図的に強調して使っているように感じます。

 

 

次に旋法の用法を別の角度から見てみましょう。ラヴェルはドビュッシーと比較すると旋法色が幾分強いように思えますが、色々なケースがあるので一概には言えないもののそう感じる理由の一つに長いスパンで旋法を使うことが多いというのがあります(ドビュッシーも1つの旋法を長く使うことはあります)。

 

 

 

例えばDmG7Cという進行があったとしましょう。これは普通に考えればKEY-CのⅡ→Ⅴ→Ⅰと誰もが答えるはずで当然旋法ではありません。しかし最初のDmが10分間続けば少なくとも最初の10分間はDドリアンモードなわけで、これをドリアンモードの曲と判断しても最初の10分間だけを切り取って考えるなら間違いではありません。

 

 

トニックコードを出さないこと、ドミナントモーションを避けること、Ⅰ以外のいずれかの和音を中心和音のように扱うこと、ある程度長いスパンで用いること、これらを守ると結果的に旋法のような響きになります。

 

 

 

ラヴェル 弦楽四重奏 展開部に入って間もない部分

 

 

上の譜例ではチェロのミとシを2重ペダルと考えれば偶成でBmDが入っていますがE7が長く続く箇所です。KEY-Dの部分なので古典和声でいうところのⅤのⅤの和音なのですが、トニックコードが鳴らずにそれ以外の和音の持続時間が長いので旋法感が強くなります。

 

ラヴェルの弦楽四重奏にはロクリアン#2スケールやコンディミを長時間用いることで調性感を埋没されている箇所がいくつも見られます。

 

 

トニックコードが登場しない、あるいはⅤ-Ⅰなどのドミナントモーションが存在しないと調の確定度は下がります。調号から判断するという意味で#や♭が1つもなかったらKEY-Cという判断もありなのかもしれませんがDm7FM7の反復しかなくこれが30秒続くなら、少なくともバッハやモーツァルトのような古典的な意味での長調とは言えません。

 

ラヴェルの曲では使い方は色々ですが、トニックコードを出さずにドミナントモーションも避け、代わりにⅡ度やⅣ度やⅤ度のコードを中心和音のように扱うことで結果として旋法的な響きになっている例が多数あります。

 

 

 

■ホールトーンやコンディミも似ている

 

古典的な意味での調性ではないという意味では旋法もホールトーンもコンディミも同じです。調性から離れて新しい響きを出すための選択肢はいくつもありますが、いずれにしても【調から離れる】という点では共通しています。

 

 

ラヴェル 水の戯れ 5小節目

 

ラヴェルの水の戯れはもちろん調性ですが6小節目でホールトーンが出てきます。これをやると一時的に調性がぶっ飛んでしまいますが、すぐにまた調に戻ってきます。

 

 

 

 

ドビュッシー 牧神 91小節目

 

 

ドビュッシーもラヴェルの例と似ていてG#m→G#7とドミナント化した後でG#7の間に偶成和音としてホールトーンの刺繍和音が入ります。

 

ホールトーンは古典的な意味での調性ではないのでコードネームは便宜的なものですが、調性の中にホールトーンやコンディミを混ぜて一瞬だけ調がぶっ飛ぶという点では同じであり、コンディミでも同じ例が多数あります。

 

 

しかし旋法と同じである程度長いスパンで用いる例もあります。興味があればラヴェルの弦楽四重奏の展開部4群や5群を見てみましょう。それなりに長いスパンでコンディミが用いられているのがわかるはずです(しかし調的な分析は可能です)。

 

 

ホールトーンをかなり長いスパンで用いている例としてはドビュッシーの前奏曲集の「帆」が挙げられます。この曲は珍しく長いスパンでホールトーンを用いているので調性の中でのアクセントというよりは無調的なニュアンスの強い曲になります。

 

 

 

 

 


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今回はネットでイラストや音楽などのお仕事をなさる方向けに制作物の持ち逃げなどをされないためのアドバイスを書いてみたいと思います。

お仕事である以上は様々なトラブルが付き物ですが、残念ながらは同人サークル界隈ではよくありますし、商業の世界でも様々な事情であったりします。


既にお仕事をなさっておられるクリエイターの方の中には「うちもやられたことある」という方も多いのではないかと思います。私もやられたことがあります。

 


お店での万引きや食い逃げみたいなもので完全に防ぐことは難しく音楽やイラストだけでなくその他全般のビジネスでよく聞く話ですし、ネットの普及によって個人事業で少額の制作を行う方も近年では多数おられますので被害もちょくちょくネット上で散見します。


ここではそういったネット経由で制作物の依頼→納品を行う方のために作品を騙し取られないためのあくまで私なりのやり方や考え方ですが紹介していきます。



またクリエイター視点で書いてありますが、クライアント視点から見ても仕事をする上で両者の信頼関係を築くという点では同じように役に立ちます。




①相手のことを調べる
最近はネットでちょっと検索すれば相手の企業名、サークル名、ハンドルネームなどすぐに出てきます。過去の作品などが既にあり、名前が世に出ているならクライアント側にも不義理をすれば当然リスクがありますから、制作物の持ち逃げされるリスクは減ります。


減るというだけでゼロになるわけではありません。クライアント側にも企画が倒れたとか、会社が倒産したとか、病気や事故などの止む無き事情で結果として制作物の持ち逃げというケースはありえます。

全く名前が出てこない場合は完全な新人か偽名かのどちらかになるので慎重になる必要があります。

 



②-1覚書(契約書)を交わす
仕事として制作物を作る上で明確にしなければならないのは【具体的な内容】【納期】【報酬】そして万が一【それらが守られなかった場合の処置】です。

参考になるかわかりませんが、私が普段使っているものを掲載します。

具体的な内容は毎回変わってくるので使用する際は随時改変・追加・削除して文言を変えてください。

まず見積もりを出します。ご依頼の内容に対してこれくらいの金額になりますというものを書面にします。

 

次に覚書(契約書)です。先ほどの【具体的な内容】【納期】【報酬】【それらが守られなかった場合の処置】細かい内容を具体的にします。

 




具体的な内容を決めておくメリットは例えばBGMの依頼が1曲あった場合、
通常はWAVEやOGG形式で納品して完了ですが、
・納品後にサントラを出したいからDDPにして欲しい。
・ループ用と完全に終わる用で2バージョン作って欲しい。
・曲中の〇〇秒の部分から区切って別バージョンを用意して欲しい。
・付属の特典として楽譜を作って欲しい。
・MP3の色々なkbpsのバージョンを一通り作って欲しい。
etc…

時にはある仕事に付属して別の内容がくっついてくることがあります。無料でやっても良い簡単なものもあれば、別料金でやる必要がある大変な内容もあります。


クライアント側としては「頼むついでに一緒に無料でやって欲しい」と思っているかもしれません。大切なのは何をどこまでやるのかという明確な線引きをすることです。
ラーメン屋で醤油ラーメンを一杯注文したからついでに「煮卵」と「チャーシュー」と「味付け海苔」のトッピングを無料で付けて欲しいと言えば別料金と言われるでしょう。自分の仕事にメニューのようなを作るとわかりやすくてお互いのためにもなります。



追加で言われたことに対しては追加で対応するのも良いですが、最初に仕事の量や内容と報酬を具体的に明確にしておいた方がトラブルは回避しやすいはずです。【納期】【報酬】に関してはケースバイケースで、【それらが守られなかった場合の処置】も両者協議の上で相談程度で良いでしょう。もちろん相手が何かペナルティーを望む場合は交渉が必要です。




②-2覚書(契約書)を交わすメリット
契約書を交わすメリットは上記の件もそうですが、お互いの氏名や住所などの個人情報を交換出来る点も大きいです。氏名や住所がお互いに知られていれば代金や制作物の持ち逃げもしにくいです。


ちなみに最初からだまし取ってやろう、詐欺に嵌めてやろうとして画策してくる人はこの個人情報の交換をとても嫌います。
氏名や住所が相手にバレるのは犯罪が露見した時の大きなリスクですし、契約書ももし警察のやっかいになった際に重要な証拠になります。


現実問題として少額の仕事であれば制作物を持ち逃げされても代金の回収は面倒で難しいのが現実ですが、仕事を始める前のフィルターにはなります。


企業の場合はむしろ向こうから契約書の取り交わしを求めてくることが多く、
同人サークルの場合は口約束が多いのでトラブルが発生することが多いです。


中には(氏名や住所知られるのが嫌で)契約書を嫌がる同人サークルもいるでしょう。
そういった場合は初めての方には全員お願いしている旨を説明し、それでも相手が自分の個人情報を知られるのを嫌がる場合は何かあると考えるのが妥当です。


スマホの契約なんかでも住所や氏名を書かされますが、それを頑なに嫌がるのは最初からこちらを詐欺に嵌めるつもりか、過去に脛に傷があるかという場合はほとんどでしょう。



②-3覚書(契約書)の交わし方

少額の同人の仕事であればそこまでしなくても良さそうですが、その辺は随時自己判断になります。

前金で全額もらえるなら制作物が持ち逃げされるリスクはないわけでこちらとしては偽名以外何も知らないという状態でもありかな?と思います。少なくとも相手が詐欺である可能性はゼロです。


少額なので住所と氏名と業務内容の確認さえできれば良いというのであればネット経由でPDFなどで十分ですが、この場合は住所と氏名が偽情報かもしれません。
確実なのは割印をして書面を交換することです。

 

 

やり方は以下の通りです。

まず②で説明した覚書(契約書)を作ります。契約内容と自分の住所や氏名などを書き込んだ契約書は2通用意しますが当然2つの内容は同じものです。



1.契約書を2通用意する

相手にも住所や氏名は手書きでお願いするのでこちらもその部分だけは私は手書きにしています。原本と写しと2枚ともに書き込みます。

ここでのポイントは割印が押してある両者が同意した全く同じ2通の契約書を双方が保管していることです。

 

 

2.割印する

 

 

甲は自分で乙は相手です。紙を2枚少しずらして重ねて印鑑が2枚の紙の両方に半分ずつ押されるようにします。上の画像では甲乙両方に印鑑が押してありますが、相手に送る際はまず自分の甲の部分だけ先に印鑑を押しておきます。

 

 

3.相手先に郵送して氏名住所と乙印を押してもらう

 

契約書、自分の住所氏名、割印が出来たら相手の住所に郵送して、同じく2通の契約書に両方に住所氏名を書いてもらい、同じように割印をしてもらいます。この時点で相手の住所が偽称でないことが確定します。

 

割印は知らない方のために鉛筆や付箋でマークを付けて割印を押して欲しい場所をわかりやすくしておくと親切でしょう。

 

 

2枚とも送らないと相手が割印できませんし、2通の内容が同じであることを確認してもらえませんので必ず2通とも送ります。

 

 

 

相手も割印をしてもらうと最終的には上の画像のようになります。2枚セットでないと印鑑がちゃんと見れないのでお互いが納得した契約書ですという意味になります。

 

 

 

4.原本の方を返送してもらう

乙印の箇所に印鑑を押しもらったもののうち原本を返送してもらいます。間違って2枚とも送り返してくるケースがありますが、最初に述べたようにお互いが納得し割印がある同じ契約書を1枚ずつ両者が持っていることに意味があります。写しの方は相手側で大切に保管してもらいましょう。

 

 

これらの行程のメリットは相手が誠実な人間かどうかというのがわかりますし、双方にとって制作物の持ち逃げ、お金の持ち逃げをされないための縛りにもなります。

 

 

印鑑や氏名はともかく住所まで偽って依頼を出すのは相手側も面倒でしょうし、別の特殊詐欺ならともかく音楽やイラストなどの依頼でそこまでする人はいないはずです。

 

 

お互いに個人情報を交換し、契約書を交わせば安心して仕事をすることが出来ますし、万が一何かトラブルがあっても円満解決でき努力をしやすくするための土台にもなります。

 

 

必ずしも契約書は交わさなくても仕事はできますが、少なくとも制作物を持ち逃げされたときに相手の偽名しかわからないというケースを避けることは出来ます。

 

 

またこういった行程は煩雑なので額が少なく、後述の④の前金でもらえるなら契約書はなくても良いという判断もあり得ます。主に金額や規模の大きい仕事でのやりとりになります。

 



④一番良いのは前金

クリエイター側にとって未払いのまま作品を持ち逃げされるリスクを避けるための最も良い方法は前金で全額もらうことです。
 

予め制作内容と金額を綿密に決めて(出来れば契約書を交わす)前金で全額もらえば少なくとも作品の持ち逃げされるリスクはなくなりますが、そうすると逆にクライアント側がこちらがお金を持ち逃げる可能性を憂慮するかもしれません。


契約書があってもそれは完全な仕事を履行するかどうかの保証にはなりませんし、実際郵送で契約書を交わすのは面倒なのも事実です。

 

 

相手が大手であればあるほど持ち逃げリスクは減りますが、そこは会社の方針や個人のこだわりなどがあるので必ずしも前金で全額もらえるとは限りません。

 

 

無名でネットで検索しても何も名前が出てこず、偽名かどうかも疑わしい相手なら全額前金でもらわないと着手しないとか、既に過去に何度も取引があって信頼できる相手なら後金でも良いとか、中間的な感じなら着手前半金に、納品後に半金とか、あるいは分割とか色々なケースが考えられます。

 

 

相手側から見てもこちらが信用できるかどうかは過去の職歴が豊富なのか?身元がしっかりしているか?実務経験ゼロの完全な新人なのか?などによって変わってくるでしょう。過去に○○の作品を担当したなどの職歴があると信用度は高まります。こちらが完全な新人の場合はクライアントから見て信用して貰うのは難しいのが現実です。

 

 

そのあたりは交渉が必要になります。中には同人サークルの場合は契約書を嫌がり、ハンドルネームだけしか教えずに自分の名前や住所は絶対に教えないし、代金は納品後の後払いしか認めないという相手もいるかもしれません。

 

 

交渉の出来ない相手に対してどういう対処をするかはケースバイケースですが、クリエイター側にも自分の身を守る権利は当然ありますから、無茶な要求や不審な対応をされた場合は早い段階で身を引くということも考える必要があります。

 

 

 

④-2アドバイス

「郵送での割印ありの契約書を嫌がる」「住所や本名を教えたがらない」という相手は注意が必要であり、また相手の信頼度が測りきれない場合は出来れば「前金」をお願いしましょう。

 

数千円程度の規模の小さい仕事なら契約書というほどはありませんし、前金か後金かはケースバイケースでしょう。しかし仕事の規模が大きければ10の仕事を2か3つに割ってその都度清算というのもありでしょうし、月締めでその月末までに納品した分を月ごとに支払ってもらうという手法もあります。

 

 

例えばBGMの依頼が20曲だった場合に20曲全部と後払い報酬という風にせずに、例えば3曲~5曲を1セットに分けて納品完了分から4~7回に分けて振り込んでもらうとか、その月に納品完了した分だけ翌月に払ってもらうとか(規模が大きい場合はこれが一番おすすめ)、色々なやり方があり得ます。

 

 

契約書も交わさずに相手のハンドルネーム以外何もわからず、全部納品した後に相手がそれを持ち逃げ出来る環境を作り出すのはある程度のリスクがあるということを覚えておきましょう。

 

 

 

先に食券を買うスタイルか、食後にレジで精算するスタイルかというイメージですが、制作は食堂やレストランではないので、規模の大きい仕事はクライアントさんの負担にならないレベルで分割清算、規模の小さい仕事では前金が望ましいけれど嫌がられる場合もあるので要交渉といった感じが現実的かと思われます。

 

 

 

⑤早い段階で説明しておく

額面の大きい仕事の場合は早い段階でお互いに住所や氏名や印鑑(割印)が必要になる契約書を郵送を用いて交わすことを説明しておくと良いでしょう。

 

具体的な仕事の詳細を詰めるために何度もメールなどでやり取りしてもいざ住所や氏名や契約書という段階になってそれなら結構ですという風になってしまうとそれまでの労力が無駄になります。

 

 

数千円の仕事なら契約書は不要でしょうが最初に依頼の規模や金額を聞いてそれが小さいか大きいかで判断しましょう。

 

 

お互いの信頼のために住所や氏名を交換することが失礼になるということはありませんし、持ち逃げされたり、住所や氏名が嘘だった場合でも数千円の仕事なら持ち逃げされてもそこまで大きなダメージではないはずなので(やられたらくやしいでしょうけれど)そこは割り切るしかありません。食い逃げや万引きを完全にゼロにするのは難しいのです。

 

 

現実問題として警察に被害届を出すかどうかはケースバイケースですし、相手のハンドルネームしかわからなければ代金の回収は非現実的です。住所や氏名がわかっても裁判までやるのはこちらにも膨大な負担が掛かります。

 

 

詐欺師側もそれを狙ってくるわけですが、前述のようにしておくことである程度までクリエイター側は自分の身を守ることが出来るようになりますので是非とも検討してみ欲しく思います。

 

 

 

⑤クラウドソーシングのサイトを利用する

ここで述べているのはあくまでクライアントとクリエイターの直接的なやり取りに対するアドバイスですが、ココナラなどのクラウドソーシング系のサービスを利用すれば色々な面で安心です。

 

もしトラブルが発生しても間に入ってくれますし、代金のとりっぱぐれもないでしょう。各クラウドソーシングのサイトを利用できるので自分でサイトを作ったりして宣伝する手間も省けます。手数料(中間マージン)が取られてしまいますが、小さな仕事を請け負うなら個人で負う制作以外の契約書などの手間やリスクを幾分かの手数料で避けることが出来るのでこういったサービスの利用も十分メリットがあると思います。

 

 

 

色々書きましたが残念ながら万引きや食い逃げならともかく、クリエイターを食い物にして騙し取った制作物でゲームや動画を作る倫理観の欠落した人間がいるのは事実です。同業者からも被害をたまに聞きますし、ネットで検索してもそういった話はちらほら出てきます。

 

 

 

クリエイター側としては前払いなら持ち逃げリスクがありませんが、相手側からすれば逆にクリエイター側がお金を持ち逃げするリスクもあるわけで一概にどのような形式が良いのかは判断が難しく、ケースバイケースで適宜判断となります。

 

 

しかし全く何も対策をしないのと、ある程度まではちゃんと準備をしておくのでは全く違ってきます。

 

 

この記事がクリエイターさんのお役に立てば幸いです。

前回の続きです。

今回は中間部を見ていきましょう。

 

 

 

〇中間部の構造

まず主題音型Aの元の形と反行形の対位法的展開から始まります。調も再びイ短調に戻ってきますが、この曲では転調は非常に制限されていて主調と平行調しか出てきません。これは調域を敢えて制限したり、音楽の構造を単純化しようとしているブラームスの意図的なものでしょう。

 

最初の主題の展開の後すぐに旋律的な要素は崩れて分散和音的なフレーズになっていきます。次の15小節からは5度下がって前の4小節と同じような内容から始まりますが、途中からラの音から開始するバスの半音階が始まります。これはラ→シ→シ#(ド)→ド#→レ→レ#→ミと主調の属音まで半音階で盛り上がっていき、最後は主題に回帰します。

 

全体的には前回の第1部と同じで音型Aのみで構成されていると言って良いでしょう。第3部(再現部)も音型Aが中心に出来ているのでこの曲はほとんど単一素材で構成されていると言えます。

 

制限された調域と単一素材という簡素さを土台に内容が豊かな曲が書かれているというところがブラームスの狙いであり凄いところであり、また学ぶべき部分と言えます。

 

 

 

〇音型Aの使われ方

 

 

音型Aは元の形と反行形が同時に用いられています。ピアノだとわかりにくいですが

もしこれが管弦楽化されるなら元のAの型は弦楽器、反行のAの型はオーボエやクラリネットを連想させます。

 

また第1部では音型Aの長い音符は和声よりも長い非和声音として用いられていましたが、ここではすべてが和声音になっています。使う音型は同じでも使われ方が違うところに工夫があります。

 

 

ブラームスらしい?対位法的な展開ですが、あと16小節目で同じフレーズが出てくるだけでたった1小節のみでおしまいです。曲自体が短いのでこんなものかもしれません。すぐに全体は分散和音的に崩れていきます。

 

 

〇やはり半音階とエンハモ

17小節目から主題回帰に向けてラの音から開始するバスの半音階が始まります。これはラ→シ→シ#(ド)→ド#→レ→レ#→ミと主調の主音から属音まで半音階で盛り上がりますが、こういった半音階化は古典にもあるものの既に述べたようにロマン和声の主要ポイントです(古典では頻度が少ないという意味です)。

 

 

18小節目のB7(♭9)のバスは正しくはシ#ではなくドなのですが、これは半音階で上がっていくということを表わすためにシ#で書かれており、こういった異名同音の理論的な正しさよりも半音上がる(または下がる)の音の動きを重視した記譜は普通によく見かけるものです。

楽譜はあくまで演奏者のためのものであり、理論的な正しさよりも楽譜の見やすさが優先される例は枚挙に暇がありません。

 

 

もしシ#を正しく取るならG#7ということになりますが、これはダイアトニックコードでないですし、ここは普通にブラームスによくあるB7→AmというⅡーⅠと解釈するべきでしょう。

 

 

〇うねるデュナーミク

 

この部分のデュナーミクの付け方が面白く、最初は分散和音の下行に沿ってデクレッシェンドしますが、途中からクレッシェンドしたり、sfのあとデクレッシェンドしたり、最後は普通にクレッシェンドしたりします。一貫してバスは半音上行していますが、その上で波打っているかのようなデュナーミクは芸が細かいです。

 

 

〇ブラームスによくあるバスの先取音

 


 

ブラームスによくあるバスの先取音にも注意しましょう。上の譜例ではⅡ7の最後の低音でミが鳴っています。スラーやペダルの位置的にもこれは後ろのE7に属しているのがわかりますが、このように小節や和声の変わり目で一瞬先にバスで次の和音の根音(転回形の時もある)を鳴らすのはブラームスによく見かけるテクニックです。

 

 

主題音型維持のための和声変更

主題回帰直前のC/Eの箇所は何もなければ普通はE7(Ⅴ7)にされたかもしれませんが

、そうすると主題のド→シ♭→ラという〇で囲った音を出すのに障りがあります。

もしE7ならⅡーⅤーⅠで綺麗なカデンツになります。

 

 

しかし♭13thとしてドを出すことも出来たでしょうが、ブラームスは主題の頭のドを出すためにE7(Ⅴ7)ではなくC/E(♭Ⅲ)という和音を選択しています。

 

 

C/EはバスがミのためE7と似た響きなので代用しているわけです。これは転回形の一般的な考え方ですが、E7→Amというありきたりなドミナントモーションを避けて一風変わった和声にもなっていますし、主題音型も維持できていますし、半音階も崩れていませんし、良いことだらけの選択です。バスが属音であるというだけで属和音の機能を少なくともある程度は持っているとブラームスは考えているわけです(実際そうです)。

 

 

 

ただこのC/EをKEY-AmのⅤの代理ではなく、KEY-FのⅤと考えるならC/E→AmはⅤ→Ⅲになるので、C/Eは純粋にKEY-FのⅤかもしれません。

 

 

冒頭がAフリジアンモードっぽいのか、あるいはKEY-Fなのかはなんとも言えないということを前回の記事で書きましたが、やはりこの部分もどちらとも言いにくいです。

 

 

次回に続きます。

 

 


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最近ブラムースの晩年のピアノ小品にハマっています。数としてはそんなにたくさんあるわけではなく7つの幻想曲op116を皮切りに、3つの間奏曲op117、6つの小品  Op.118、4つの小品 op119と全部で4つの曲集(全20曲)でほぼ全部がブラームスが59歳(1892年)のときに作ったものです。

 

今回はその中から 6つの小品  Op.118の1曲目をアナリーゼしてみましょう。

 

 

 

 

楽譜はこちら

 

 

■曲の背景

若い頃は大作をたくさん作り作曲家としての名声を十分に得ていたブラームズも57歳頃からは自身の創作力が衰えたのを感じて、大作を手がけるのをやめてそれまでの作品を整理したり、気が向いたときに小品を作りながら余生を送ることを考えていました。

 

1891年(59歳)の時には遺書まで書いており、遺産の分配や残った草稿などの処分の仕方などを決めて自分がいつ死んでも良いように準備していたと言います。

 

現代日本の感覚ですと60歳で定年退職する時代ですから59歳で遺書は早すぎると感じるかもしれませんが、ブラームスは1833年生まれで1897年に亡くなっています。

 

 

 

 

上の画像にドイツの平均寿命はありませんが彼の時代の平均寿命は概ね40歳~50歳であり、それを考えると59歳で遺書というのは早すぎるとは言えません。

 

もちろん平均寿命の算出の仕方に問題があって、昔は医学が未発達だったために入乳幼児の死亡率が高かったため現代と同じに考えることは出来ません。実際は上の表にプラス15年~20年くらい足して良いはずです。

 

 

もし100人の人間が生まれて50人が0歳児で死亡し、残りの50人が100歳まで生きたなら平均寿命は50歳になりますが、実際に社会で暮らしている人たちによってはこのケースであれば老人は100歳まで生きると感じることでしょう。

 

そういう意味ではブラームスの時代は概ね老人は60歳ぐらいでみな亡くなっていたのではないかと思います。

 

 

 

 

これらの曲集はブラームスが1889年(57歳)から亡くなる前年の1896年(64歳)まで毎年夏になると過ごしていたバート・イシュルというウィーンから西に200kmほどの風光明媚な温泉地で書かれています。ブラームスはここがずいぶんと気に入ったらしく老後をのんびり過ごすにはピッタリの場所だったのでしょう。

 

 

バート・イシュルの風景

 

 

景色も良く温泉も出る保養地ででのんびりしながら気が向いたときに作曲するという感じで夏は過ごしていたようですが、すっかり創作意欲が減退したブラームスは1891年(58歳)のときにマイニンゲン(ドイツの真ん中あたりの都市)で優れたクラリネット奏者であるリヒャルト・ミュールフェルトというクラリネットの名手を知ってクラリネットの新しい可能性を見出し、一度は衰えた創作意欲が再び盛り返してきます。

 

 

クラリネット三重奏クラリネット五重奏を書き上げ、その後今回取り上げている4連のピアノ小曲集を作り、またクラリネットソナタ1番、2番を書いたりもしています。

 

 

 

晩年の作品群は創作意欲が衰えたとは言いますがそれはブラームスの主観の話であって、実際の作品を見ても私個人としてはそうは感じず、優れた技巧とアイデアに満ちた素晴らしい芸術作品であることには代わりありません。少なくとも私にはそう見えます。

 

むしろ規模の小さい作品の中に優れた技巧や凝縮されたアイデア、単純化とその展開、形式への工夫などが見られて個人的には非常に興味を唆られています。

 

 

 

〇実際の分析

 

まずはいつもの和声分析

 

まず冒頭から全体の和声と特徴的なポイントを見ていきましょう。印象的ななのはイ短調(ブラームス本人がそう言っているし、最後のピカルディーでイ長調で終止する)のはずなのに、シがシ♭になっている点です。

 

KEY-Fから始まってAm→FをⅢm→Ⅰとも解釈できますが、個人的にはフリジアン的に響きます。

 

旋法はドビュッシーによって大いに復興されますが、それ以前にも完全に消滅してしまったわけではなく例えばバッハの曲にはフリギア終止がたくさんありますし、ドリアのⅣは古典和声に組み込まれた旋法と言えます。

 

フォーレは旋法由来のドリアのⅣを好みますし、ベートーヴェンにも「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌(弦楽四重奏15番)」なんてのもあり、細々と作曲家たちによって、または音楽理論としては大いに旋法は知られていました。

 

 

ブラームスがどちらのつもりだったのかはわかりません。ブラームスは旋法を主体とした曲を当然書いていませんのでKEY-Fから始まってAm→FをⅢm→Ⅰと解釈するべきなのかもしれませんが、ベートーヴェンのリディア旋法による~なんて曲もありますし(彼にとっては珍しいですが)旋法性も否定出来ないところではあります。

 

 

〇音素材の単純化

 

 

主旋律のみを追っていくと音型Aが支配的なのがわかります。この音型Aが展開することによってこの曲が作られていると言えなくもないでしょう。

 

歌うような意味での旋律というよりは単なる半音階を含む音階下行で歌謡性は感じられません。ブラームスにも美しい旋律はたくさんありますが、単純な音型を発展させることによって曲を広げていくブラームスらしさでもあり、晩年のピアノ作品に見られる単純化とも言えます。

 

 

〇非和声音の方が長い

 

これは後期ロマン期のほかの作曲家にも見られる特徴ですが、和声音よりも非和声音の方が長いという点も特徴的です。

和声を取るときに音符の長い方をメインで見るとC7ということになり、シ♭が長くなっているのでそういう風に見えてしまうかもしれません。しかし長い(3/4小節も!)倚音はラに解決しています。

 

これは芸大和声で述べるところの経過的倚音ですが、こうすることによってハーモニーが和声音の主体のものからより発展的なテンション多めのものになっていくわけです。もう少しあとの時代のドビュッシーやラヴェルなどはむしろ非和声音(テンション)を和声音のように使っていますので過渡期的な音使いとも言えます。

 

 

モーツァルト ピアノソナタ第5番K.283(非和声音が短い)

 

 

古典にも長い倚音はありますが、基本的には非和声音主体に音楽が作られているということはなくむしろ和声音を飾る音として用いられています。上のモーツァルトの例は一般的な(経過的)倚音の使い方でF/Aの箇所ではソが非常に短いですし、Cの箇所では解決音のミと倚音のレ#は同じ長さであり、非和声音の方が長いわけではありません。

 

 

非和声音の分量が増えるということは音楽全体がよりテンション的なサウンドになり、これが過剰になると近代音楽やジャズやフュージョン、あるいは調の崩壊にいきつくわけです。

 

 

〇半音階が目立つ

後期ロマン派の音楽の一大要素はなんと言っても半音階です。一口に半音階と言ってもその使い方はそれぞれですが、ブラームスの場合は出来るだけカデンツに沿って使っているのがポイントです。

 

主体となっているのは古典的なカデンツなので例えばリシャルトシュトラウスのようなはちゃめちゃな感じではありませんし、同じくカデンツに沿っているワーグナーのトリスタン和声ほど強烈でもありません。

 

しかし古典時代の作曲家と比べれば圧倒的に半音階を好んで用いています。

 

 

〇カデンツは単純

音型だけでなく、カデンツも非常に単純です。

KEY-AmでⅠm♭ⅥⅡ7-5で開始します。これはポピュラーのⅠⅥⅡⅤと同じでなじみ深いものです。

 

お約束である平行長調であるKEY-Cに転じて大きくみればです。

主音上のⅤや偶成が含まれていますが土台となっている和声進行は非常に古典的且つ単純なものです。

 

しかし実際に聞こえてくる音としては非常にロマン的でブラームス的な重々しく悲劇的な感じなのは非和声音が長いこと、フリジアンっぽい音使いであること(ヘ長調と言う人もいるでしょうけれど)、半音階が随所にあることなどによります。

 

 

〇隠された変拍子

ここではあまり深く突っ込みませんが、古典時代には隠された変拍子とも呼ぶべきリズムのギミックがたくさんあります。

 

 

実際この曲も3/4拍子と誤認するかのように聞こえる箇所が冒頭にあり、もちろんこれはモーツァルトやベートーヴェンと同じように意図的なものです。

 

 

バルトーク ミクロコスモス6巻から抜粋

 

上の譜例はバルトークのものですが、音楽の歴史において作曲家は曲の途中で調を変える転調はかなり早い段階からためらいもなく行ってきましたが、曲の途中で拍子を変えるという変拍子に関してはかなり保守的でした。バルトークみたいな極端な変拍子が出てくるのは近代まで待たなければなりません。

 

しかしこれはそういう記譜が生まれるのが近代になってからというだけであって拍子記号を記譜上は書き替えないけれど実際は変拍子しているという例は古典やバロックに山のようにあります

 

 

ブラームスもそのことをよく知っており自身の曲で多用しています。

 

 

次回へ続きます。

 

 


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SONIBLEのTRUE:BALANCEの体験版を試してみました。

アナライザー系は複数持っているのですが、3バンドごとのレベルとステレオの広がりを確認出来るという現時点(2022年11月)では競合製品のないタイプでしたので気になった次第です。

 

 

 

 

 


 

 

 

競合製品としてiZotopeのTonal Balance Control2があります。SONIBLEのTRUE:BALANCEは2022年11月にリリースされているので競合製品というよりiZotopeのTonal Balance Controlを下敷きに+αの機能を足して作ったようなプラグインに感じます。

 

 

 

見た目はよく似ています。

 

 

 

Tonal Balance Control2との違い

・3バンド個別に音量レベルを計ることが出来る。

・3バンド個別にステレオの広がりとコレレーションメーターが見られる。

左側のバーは10Hz~10kHz、右側のバーは40Hz~20kHzまで動かせます。

・リファレンスを同時に8曲までロード出来る

 

Tonal Balance Control2と同じでリファレンスを読み込むか、あるいはプリセットをロードしてそれに合わせていくことも可能です。

 


プリセット一覧(Ver.1.0.0の時点)

 

 

 

〇プリセットチェック①

TVアニメ『艦隊これくしょん -艦これ-』オープニングテーマ「海色(みいろ)」でチェックしてみました。

 

 

この曲はジャンルとしては明らかにロック、あるいはメタルです。ということでその2つのプリセットを試してみました。この曲をDAWに読み込んでSONIBLEのTRUE:BALANCEの指定する枠内に収まるかどうかを確認します。

 

 

プリセット「Rock」に対して艦隊これくしょん!海色

 

薄い灰色のゾーン(Rockのプリセット)の範囲に収まるようにミックスしていくのですが、Rockのプリセットに対して海色は低音は足りず3kHzあたりが出過ぎていると状態になっています。

 

 

プリセット「Metal」に対して艦隊これくしょん!海色

 

Metalの方がマシですが、TRUE:BALANCEが求める低音は大きすぎる気がします。個人的にはこの曲を聴いてローが足りないとは感じておらず上手く仕上がっていると思っています。

 

 

 

〇プリセットチェック②

もう1曲今度はポップな感じ(カルマルカ*サークル OP 【Floating Up】Full)で試してます。ジャンルとしては可愛いキラキラ系のポップスと呼んで良いと思います。

 

 

 

 

 

 

 

プリセット「Pop」に対してカルマルカ*サークル OP 【Floating Up】

 

 

やはりTRUE:BALANCEが求める低音に対してはギリギリ、2kHz~5kHzは出過ぎています。中域はドンシャリ感を出すためにスクープされていて個人的には素晴らしいと感じますが、TRUE:BALANCEはやり過ぎと言っています。エアー感も最低のギリギリです。

 

 

 

プリセット「Electronic」に対してカルマルカ*サークル OP 【Floating Up】

 

 

原曲はポップスですが、Electronicのプリセットを試してみました。Popsよりはマシですが、そもそもこの曲をElectronic(EDM)とは思えないので実際に作業するときにElectronicのプリセットを選ぶことはないはずです。


こうして見るとSONIBLEのTRUE:BALANCEのプリセットと実際の商業の作品のスペクトラムバランスは違ってしまっていることになります。

 

 

〇プリセットチェック③

アニソン系がいかんのか?と思ったので洋楽に切り替え近年のヒット曲「Uptown Funk - Mark Ronson ft. Bruno Mars」にしました。タイトルに入っているとおりジャンルとしてはFunkです。

 

 

 

 

 

プリセット「Electronic」に対してUptown Funk

 

 

やはりTRUE:BALANCEが求める低音は多すぎてUptown Funkの低音はギリギリ足りていないことになっています。4kHzのハイエンドも出過ぎ、エアー感もギリギリと言った感じです。

 

 

 

Uptown FunkはYoutube再生数47億回以上、ダウンロード+ディスクの売り上は2000万枚以上で史上最も売れた曲の一つです。この曲を聴いて「ミックス下手だなぁ~」と思う人はいないでしょう。普通に現代のミックスにおけるリファレンスとすべき曲であるはずです。

 

 

ほかにもやってみましたがSONIBLEのTRUE:BALANCEは基本的に低音が必要以上に求められ、中域はやや太さが求められ、高域をもっと出せとアドバイスしてくるように感じました。

 

ミックスやマスタリングの感覚は個人的なものですが、今回取り上げた3曲だけ見ても個人的にはSONIBLEのTRUE:BALANCEのプリセット表示は「いや、それはちょっと…」となってしまいます。

 

あまりプリセットは当てにならず、特に低音に関してはこのソフトの言うとおりにやったら明らかにやり過ぎなのではないかと思います。

 

 

 

ちなみにTonal Balance Control2で艦隊これくしょん!海色を読み込むと下図のようになります。

 

プリセット「Rock」に対して艦隊これくしょん!海色

 

SONIBLEのTRUE:BALANCEで低音足りない、4kHzあたり出過ぎと言われた曲はTonal Balance Control2ではちゃんと枠内に収まっています。それはそうでしょう。Tonal Balance Control2に不審な点を感じたことは今のところはありません。

 

 

 

〇リファレンスを8曲同時に読める

 

リファレンスは8曲までロード可能

 

Tonal Balance Control2でもリファレンスは読めますが、SONIBLEのTRUE:BALANCEは8曲もリファレンスをロード出来ます。
 

 

カルマルカ*サークル OP 【Floating Up】に同曲を読み込んだ場合

 

多分このソフトはプリセットを使うというより、リファレンスを主体として使うことを目的としているのかもしれません。その点では普通に有益なソフトだと思いますが、ある曲をリファレンスとして読み込んでガイドラインを作り、全く同じ曲を再生するとズレが生じます。

 

これは曲中に静かな箇所や楽器の入れ替わりがあるから仕方ない問題ですが、実際に作業するときは上の図のピンクのように生じるずれを考慮しなければなりません。完全に合わせていこうとすると「それはおかしい」という感じなりかねません。

 

 

読み込み時間を長くしたり、TRUE:BALANCEの設定である程度コントロール出来ますが、リファレンスを8曲もいらないという方にとってはTonal Balance Control2との差がこの点においてないことになります。

 

 

これはTRUE:BALANCEやTonal Balance Control2がどうこうというより、そもそもリファレンスラインと100%合わせる必要がないということを意味しています。

メロディーもコード進行も楽器もアレンジも何もかも違う曲なのに、スペクトラムバランスを100%同じにする必要はないし、またそれは無益なことでしょう。あくまで「目安」です。

 

 

Tonal Balance Control2の濃い緑の枠がある程度広いのはそのためで、この範疇に納めた上であとは耳での判断ということになります。Tonal Balance Control2ではリファレンスのラインはTRUE:BALANCEと違って出ませんが、出ない方が惑わされないのでむしろ良いのかもしれません。

 

 

濃い緑の枠の中に納めるようにする

 

 

 

またizotopeから新しいリファレンスを分析するソフトとしてAudiolensが出ました。これはデスクトップアプリでPCで聞いている音を保存し、OZONE10とも連携が図れるソフトのようです。

 

11.22まで ¥0(税込)【期間限定で無料】

 

 

 

〇TRUE:BALANCEのソフトの良いところ

アナライザーは基本的にミックスの耳を補助するものです。耳でけでは判断出来ないこともアナライザーを使えば見えてくるというのが利点であり、その点においてなんといってもこのソフトが凄いところは3バンド個別にメータリング出来る点でしょう。

 

 

これはTonal Balance Control2にはない機能です(2022年11月の時点では)。

 

 

これは内部でEQを下の図のようにわけてそれぞれにメータリングを付けていると思われます。

 

3バンドにEQで分割してそれぞれにメーターリングソフトを入れている?

 

 

 

もっと高度な技術があるのかもしれませんが、例えばミッドだけ聞きたければローとハイのシェルビングを組み合わせて下図のようにバンドパス状態を作り、その後ろにメーターを入れれば同じ事が出来るはずです。

 

 

中域だけをバンドパス

 

 

あとはラウドネスメーターやステレオイメージングを計測出来るプラグインを挿せば少なくとも一応は使えることになります。もちろん3バンド同時ではありませんし、リファレンスを追うことも出来ません。

 

 

 

個人的にはTonal Balance Controlが将来アップグレードすればこのバンド別のメータリングやリファレンス曲をもっとたくさん読み込める機能が追加される可能性があるとすら思っています。少なくとも技術的にそれほど難しいことではないはずです(特許とかがなければですが…)

 

 

ソフトウェアですからいくらでもアップデート出来ますしこれからSONIBLEのTRUE:BALANCEが良くなっていく可能性も大いにあります。現時点ではVer1.0.0で出たばかりです。

 

 

ここで挙げた内容も改善されていく可能性は大いにありますし、音楽の趣味嗜好やアナライザーに何を求めるか?は人それぞれなので一概に良いとか悪いとか述べることは出来ません。

体験版で30日間使えますので気になる方は是非お試し下さい。

 

 


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Cableguys ShaperBox 3にアップグレードしました。ShaperBox 3にアップグレードしても2バージョンはそのまま使えます。KICK STARもバージョン2になっていましたので合わせてアップグレードしました。

 

 

 

 

今回アップグレードでフィルター(任意の周波数が選べる)がすべてのShaperで使えるようになり、LiquidとCompressorが新しく加わっています。Liquidはフランジャーやフェイザーのようなエフェクトです。

 

 

サイドチェインもAUDIOとMIDIで出来るようになりました。

 

 

LiquidとCompressorが新しく加わっています。

 

 

個人的に魅力的なのがフィルターがすべてのShaperで使えるようになった点です。

 

全部のShaperにフィルターが付きました。

 

 

上の画像では114Hzから919Hzの部分だけが黄色になっていますが、例えばVolume Shaperでベースにサイドチェインを掛けたいときに狙った周波数だけに好きなカーブを描くことが出来るようになりました。

 

ほかにもスネアに合わせてLiquidでフランジャーサウンドにするなどの場合も全部に掛けるのではなく狙った周波数だけに特定の効果を掛けることが出来ます。

 

 

サイドチェインの最も一般的な用法であるキックとベースのサイドチェインにおけるダッキングの効果だけならKICK STARTが良くにています。

 

 

KICK START2もアップグレードしましたが、「カーブにある程度の補正が入れられること」と「LPFが追加されたこと」と「MIDI、AUDIOのサイドチェインが追加されたこと」が大きな違いです。

 

 

 

大きくは出来ませんが、カーブもある程度まで変更出来ます。

 

 

LPFが使えるようになりました。


 

キックとベースのサイドチェインだけならKICKSTART2でもいいのでは?という風に思いますが、KICKSTART2はフィルターがLPFしか使えないのでHPFやバンドパスでダッキングさせることが出来ません(あまりしませんが)。

 

 

こんな複雑なカーブはKICK START2では不可能です。


 

加えてKICK START2はあくまでカーブをプリセットから選ぶだけですが、Volume Shaperは自分で好きなカーブを描くことが出来ますので微調整に有利だったり、特殊なニュアンスも加味出来ます。

 

 

用途がボリュームのダッキングだけで、フィルターはLPFがあれば十分ならKICK STAR2でもVolume Shaperの代用品として十分使うことが出来ます。

 

 

ShaperBoxの中でVolume Shaperは最もよく使う機能の1つですが、TIME、DRIVE、NOISE、CRUSH,PAN、WIDTHなども周波数を限定してサイドチェイン出来るので、Ver.2でも個人的にはかなり有用でしたが、ver.3になってよりEDM系でのギミックとして強力になった感じです。

 

 

3kHzより上に自分で書いたカーブでディストーション

 

 

例えば上の画像のようにに3kHzより上に自分で書いたカーブでディストーションを掛けることが出来ます。MIDIでのサイドチェインも可能なので先頭だけを連続でループさせたり、最後までカーブに追従したりと出来ることが増えました。

 

 

既にver.2をお持ちの方は本家サイトのページでログインすると自動でアップグレード価格が表示される画面になります。Pluguin Bonteqでも扱いがあります。

 

 

 


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前回VSXの記事を書いたのでよく質問されるヘッドホン選びについてどなたかのお役に立つかもしれないので簡単に記事をまとめてみます。

 


どんなヘッドホンが良いのかは用途によります。まず大前提としてヘッドホンにはオープンバック(開放型)とクローズバック(密閉型)が存在します。


 

〇解放型の特徴

開放型は色々あります。これはAKG のK702です。

 

解放型のメリット・得意分野

・イヤーカップに穴があるのでそこから音が抜けてカップ内に圧力が溜まらないため密閉型と比べるとスピーカーに近い音を再現出来る。

・そのためリバーブの広がりや密度、低音や高音のEQバランスなどをモニターするのに向いている。

・要するにミックスやマスタリング時のモニター向き。

・スピーカーは別途必要、スピーカーの代用品ではありません。

 

解放型のデメリット・苦手分野

・耳が疲れにくいかも(解放されているので)

・音漏れがすごい(図書館や電車の中などではうるさくて使えないかも)

 

 

 

〇密閉型の特徴

 

 

密閉型の代表的ヘッドホン SONY MDR-900ST

 

密閉型のメリット・得意分野

・ノイズチェックや細かい音などをモニターするのに向いている。

・遮音性が高く音漏れも少ないので周囲に迷惑にもならない。

・要するに確認のために音を聞きたいときやレコーディング時のチェック向き。

 

密閉型のデメリット・苦手分野

・イヤーカップ内部が密閉なので内部反響が起り、低音を正確に取ったりしにくい。

・同じくカップ内での反響のため残響などが正確に設定しにくい

・耳が疲れやすいかも(密閉されているので)

 

 

〇所感

私はミックスやマスタリングでは開放型、ノイズチェックや細かい音を厳しく調べたいときは密閉型を使っています。

 

 

もっとも代表的な密閉型のヘッドホンはSONYのMDR-900STでよくボーカリストや声優さんがレコーディングの時に付けているのを写真で見かけます。

 

画像検索するとMDR-900ST率は結構高いですが、これはレコーディング時のリップノイズやブレスノイズなどの細かいノイズや、声の音色や音調のニュアンスを正確に聞くために密閉型のヘッドホンをしているわけです。スタジオにもおいてあることが多く、ボーカルやギターなどの楽器の録音時のチェックにも向いています。

 

 

密閉型はリバーブの広がりや密度、全体的なEQバランスなどを取るには不利ですが、声優さんが自分の声を確認するのにそんなことをする必要は全くなく、むしろ周囲の音から断絶し、細かい音を正確に聞ける密閉型は用途に適していると言えます。

 

 

 

対して開放型は穴から音が抜けていくので図書館や喫茶店や電車の中などで使うにもかなり勇気が必要です。音漏れがすごくて耳から外しても小さなスピーカーみたいな感じで音が聞こえます。

 

反面、音がイヤーカップの穴から抜けていくことで内部に圧力が溜まることがないので密閉型よりはスピーカー近い音になります。

 

リバーブの設定をするときに密閉型のヘッドホンだと内部に音が反響し濃いめに聞こえるため、それでベストバランスをとってもスピーカーで聞くと足りないと感じることがあり、逆のことも起こります。

 

開放型はその中間くらいでもちろんスピーカーでのチェックは必要ですが、比較的リバーブやEQなどもスピーカーに近い環境でモニターすることが出来ます。

 

 

 

例えばサウンドハウスで開放型価格の高い順密閉型価格の高い順を見てみましょう。

 

 

 

■開放型価格の高い順

 

 

 

 

 

■密閉型価格の高い順

 

 

開放型に比べると密閉型のヘッドホンはかなり価格が安いです。これはおそらく遮音性や細かい音を正確に聞くだけならどれもあまり変わらずそれほどお金も掛らないが、ミックスやマスタリングに求められるような空気感や低音の正確なモニター、ステレオの広がりなどを正確にヘッドホンで再現するにはとても大変で好みもそれぞれだということでしょう。

 

 

〇おすすめ?

密閉型はギターやボーカルなどを自宅で録音する時に前述のようなチェック用として使うのに向いています。ですのでyoutuberとか声優さんとかが自宅で使うならMDR-900STは十分良い選択と言えます。

私もちょっと鍵盤を弾いて音を確かめるだけ、メロとコードや和声を作るときだけの時は密閉型を使うことがあります。

 

 

この記事をご覧になる型はミックスやマスタリング用途でのヘッドホンのお勧めを知りたい方が多いのではないかと思うのですが、開放型をお勧めするのは当然としても、具体的な品番となると好みや作る音楽や予算によって変わってくるので一概に言えません。

 

 

個人的にはAKGの開放型を愛用しています。ある程度都会に住んでいればヨドバシやビックカメラなどのヘッドホン売り場でたくさん並んでいますから、色々と開放型を試してみるのが一番です。お近くのお店で是非付け心地やサウンドを体感してみて下さい。

 

 

長時間作業には圧迫感や付け心地なども重要ですし、聞こえてくる音の好みもあります。

 

 

ガチガチのプロは別として自宅DTMerなら10万円も出せば十分と思いますが、5万円以下でも十分使えるヘッドホンはたくさんあると感じています。そもそもヘッドホンだけで作業する人はいないでしょうし、あくまで立ち位置はスピーカーがメインになり、ヘッドホンは補助と考えるべきです。

 

 

 

〇VSXは?

前回の記事のVSXは密閉型ではありますが、おそらくこれはメーカーがヘッドホン内部の反響などもちゃんと計算にいれてそれぞれのモニター環境を再現していると思われますので、むしろ密閉型が適しているからこそそうしているのではないか?とまで思います。

 

開放型に比べると多少密閉されている分だけ圧迫感はあります?が、これはここで述べているヘッドホンの特性云々とはちょっと毛色の違う話になります。

 

 

この記事がどなたかのお役に立てば幸いです。

 

 


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