綺麗に低音を補強出来るプラグインとして最近人気のLEAPWING AUDIO「Rootone」を購入しました。サブハーモニックプラグインとしては最も評価の高いものの1つだと思われますが、実際非常に良い感じに低音を補強することができます。
LEAPWING AUDIO Rootone
この手のプラグインはたくさんありますが、やはり後発のものが良いはずで今回はWAVESの新技術であるOrganic ReSynthesisテクノロジーで作られたWAVES「Submarine」と比較してみたいと思います。
WAVES Submarine
Organic ReSynthesisテクノロジー?という新技術を謳っているしWAVESのSubmarineがあればLEAPWING AUDIOのRootoneは要らないかな?と思っていたのですが、体験版を試したところ非常に出来が良いのでRootoneを購入しました。
ほかにもBrainworx bx_subsynthやWAVESからもRenaissance BassやMaxx Bassなど昔からこの手のプラグインはありますが、中身としては楽曲中の最低音を検出して1オクターブ下、あるいは2オクターブ下の音(基本的にはサイン波)を足していくもので、実際にはもっと複雑な処理をしていると思われますが、使用することで単体のトラック、またはマスタリングで楽曲全体の音を綺麗に太くすることが出来るプラグインです。
こちらの方が非常に理知的な記事を書いていらっしゃるので是非ご参考下さい。私もこの記事を拝見してこの製品に興味を持ちました。
単音でベースを鳴らしているならともかく和音パートだったり、マスタリングで行う2mixが素材の場合は音が混み合っていますのでその素材の最低音を正確に見つける技術が非常に重要になり、それを上の記事では実際に検証なさっていますが、正確に最低音を見つける技術と位相問題の2点においてRootoneは非常に優れています。
■ちょっとだけ位相の復習
位相についてご存じの方は読み飛ばして下さい。位相がずれるとか揃っているとかよく言われてますが、簡単におさらいしてみます。
この問題はマスタリング2mixのLとR、あるいはドラムのマルチマイク、ベースのラインとアンプのミックスなど基本的に同じ(似たような)音が2つ以上同時に鳴る場合にどうなるのか?という問題です。ここではaとbという単純な正弦波で説明しており、両者が同時に鳴った場合にどうなるかを説明しています。
■位相が揃っている場合
aとbが合算されるので結果的に波形は大きくなります。耳で聞いても大きく聞こえます。
■位相が正反対(逆位相)の場合
aとbが全く同じ波形で、完全に正反対の場合は音が消滅します。1と-1を合わせると0になります。
■位相が中途半端にずれている場合(正位相より)
実際の波形は完全に揃っている(正位相)か鏡のように真逆(逆位相)になっているのかの二択ではなく、中途半端にずれていることが多いです。また両者の波形も100%同じではないケースがほとんです。
上の例はaとbの位相がずれていますが真逆になっているのではなく、どちらかというとやや正位相よりです。aとbを合算したものがaとbより少しだけ大きくなっている点に注目してください(山の上の線を越えている)。耳で聞くと少しだけ大きく聞こえます。
■位相が中途半端にずれている場合(逆位相より)
今度は中途半端にずれていてやや逆位相よりの場合です。上の例はaとbの位相がずれてはいますが逆位相よりになっているのでaとbを合算したものがaとbより少しだけ小さくなっている点に注目してください。耳で聞くと小さくなったように聞こえ、音痩せもこれが原因であることが多いです。
実際にはこんな理論上にしか存在しないような正弦波を楽曲で扱うことは稀で(シンセのサブベースくらい)で、ちょっとだけずれているとか、ある部分は揃っているが別の部分が少しずれているなど複雑です。
周波数別にもこの問題は発生して、ある周波数は揃っているけれど別の周波数ではずれているなどというケースもありえます。
WAVES In phase
位相問題は面倒かつ正解があってないような問題であり、機械的に揃えれば良いという話ではなかったりします。Protoolsでは昔からサンプル単位でずらして耳で調整ということをやってきましたし、現在では位相問題を解決するための様々なプラグインがあります。
キックのINマイク(下)とOUTマイク(上)の位相
上の画像はバスドラムのINとOUTのマイクの波形を拡大したものです。赤い線の部分は位相が揃っており両方とも上向きなので音が大きく聞こえます。逆に青い部分は逆位相っぽくなっているので打ち消し合います。
オートで機械的に揃えてくれるプラグインもありますが、単に音が大きくなるとか小さくなるだけならフェーダーを弄るのと変わらないのでたいした問題にはならないものの、問題は音色が変わることです。
実際は上の画像のようにある部分を揃えると別の部分がずれるなどのようなケースが多く、どこをどんな風に揃えるかで音色がクッキリしてきたり変に痩せたりします。
機械的に頭を揃えるよりも、たとえ視覚的に多少ずれていても耳で聞いた音色としてはその方が好みというケースもあるので難しいのが実情です。
しかしここではあまり難しく考えず、位相が揃っていたら音が大きい・太くなり、逆位相になっていたら音が小さい・痩せると大雑把に考えて下さい。
■RootoneとSubmarineの比較
まずSubmarineを見てみましょう。このプラグインはどの周波数帯を補強するのか?1オクターブ下と2オクターブ下をどれくらい補強するのかを決めることが出来ます。
下のGIFでは効果を適応する周波数をずらしているのですが、水色の原音に対してサブハーモニックトーンの紫の位相が適応させる周波数に応じて動いていく点に注目して下さい。
つまりある周波数ではぴったり位相が揃うかもしれないけれど、別の周波数では逆位相になる可能性があるということです。もちろん耳で聞いて判断していくことになりますが、実際には中途半端な位相になることも多いでしょう。
これに対してRootoneは欲しい周波数帯をフェーダーで上げていくタイプです。
位相が揃っている(周期が上向きの部分に注目)
Submarineのように適応する周波数をずらしていくと位相がずれていくということはなく、ちゃんと正位相になるように意図的に固定されて設計されています。
Harmonicsを上げていくと位相はずれていきます。
但しHarmonicsのフェーダーを上げていくと位相はずれていきますが無理に上げない限りは基本的に位相が揃うので、これが音が綺麗に太くなるポイントなのかも?と思います。少なくとも実際の使用において低音の位相が逆位相よりになることがあれば、原音とサブハーモニックトーンは打ち消し合いますので音は痩せていきます。
Submarineも位置によっては揃うこともあり決して悪いプラグインではないのですが、ここでは述べていない低音を検出する技術やデリケートな位相問題を考慮するとマスタリングやバスでも使えるグレードとしてはちょっと不安が残ります。
そもそもSubmarineはマスタリングやバスで挿すことを想定していないかもしれませんが、Rootoneはプリセットにもそれ用のものがあってバスでもマスタリングでも安心して使うことが出来ます。
Rootoneのバスやマスタリング用プリセット
■理論的なことは別として
理知的な検証は個人的にとても大切だと思っています。実際に素晴らしい効果を上げているということはそれ相応の理由や秘密があり、それを知ることは自分のレベルアップに繋がりますし、失敗を避けるヒントにもなります。
とはいえプログラムのソースコードを見ることが出来るわけではなく、また見ても理解出来ないですし、理屈云々も大切ですが、音楽なのですから耳で聞いて感覚的な問題としてどうか?という判断も大切です。
「すごく良かった」「格好いい音になる」などの評価は非常に主観的でその人の耳の良さ、センス、バックボーン、作る音楽の種類によって変わってきますので時には当てにならないこともよくあるのですが、個人的には当たりのプラグインでした。
近年は音楽製作における一通りのプラグインというものが既に出揃ったのでもう十分かな?と思っても現場で使う我々の側からは想像出来ないような面白い、あるいは切り口の鋭いプラグインがまだまだ出てきたりするので侮れません。
特にAIによる補助系プラグインは従来エンジニアさんが耳とセンスとノウハウでやってきた作業を素人でも出来るように機械が補助して良い結果を上げることも増えて来ているので初心者や中級者でもある程度ミックスの勉強をした上での話ですが、そういったツールを駆使すればかなり高いクオリティーの2mixを作れる時代に徐々になってきました。
中には「それは反則だよー」と言いたくなるようなプラグインもあったりするのでまた折りをみて記事を書いていきたいと思います。
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