フルートの奏法の続きで今回はホロートーン(バンブートーン)についてです。
ホロートーンやバンブートーンと呼ばれる奏法はくぐもったような、虚ろな音色を得る特殊奏法でこれはベーム式のフルートで敢えてやる必要のないクロスフィンガリングによって得られます。
これは現代音楽でよく使われる奏法でその目的とするところはフルートの音色の拡張やピッチの不安定さによる効果です。
○クロスフィンガリングとは
ガチフルート奏者よりもフルート経験のないDTMerの方がこの記事を読まれることが多いと思うのでDTMや現代音楽で使うときにどういう原理でホロートーンが用いられるのかというを知るために軽くクロスフィンガリング(フォークフィンガリングとも)について軽く触れてみます。
バロックフルートやリコーダーの運指(wikiから転載)
難しいことをすべて端折るとバロックフルートやリコーダーの運指は歌口から遠いところから指を離していくと長音階が鳴ります。
義務教育でリコーダーをやったことがあれば全部の穴を抑えた状態から口元から遠い順に指を離すとドレミファソラシドになるのを覚えていらしゃる方もおられると思います。
穴の1つ1つが長音階の各音に関係を持っていますが、これだとダイアトニック以外の半音階を出すことが出来ません。
クロスフィンガリング
この種の笛では半音階を出すためには出したい音より半音上の穴を開き、下側の穴をいくつか閉じて音程を調節するような指使いをします。上がっている指と下がっている指が交差するのでクロスフィンガリング呼びます。
途中の穴から空気が幾らか抜ける
この方法の欠点?特性?は途中の穴から抜ける空気と管の最後まで抜けていく空気の2つの流れがあるため音色やピッチが不安定になることです。
2つの複雑な空気の流れによって得られる半音は単純に1つだけの流れと比べて悪く言えば問題、よく言えば個性があるわけです。
それなら半音を出すための専用の穴があればいいのでは?ということで開発されたのが現在のベーム式フルートです。オクターヴ中12個の音を出すための穴が全て備わっているのでクロスフィンガリングを用いずに全ての音を明快に出すことができるので安定した音色とピッチを得られます。
モダンフルートは指が10本で12個の穴を抑えるために(それ以外の目的もありますが)複雑なキーメカニズムになっていてEメカとかG/Aトリルキーなどのオプションパーツもあり、かなりそうでなくてもフルート奏者ではない人から見れば随分と複雑な見た目になっています。
木や竹の筒に穴を開けただけの原始的な笛とは比較にならないくらい進歩しています。
○ホロートーン
ホロートーン(hollow)とはそのまま虚ろという意味で、バンブートーン(bamboo=竹)とも呼ばれます。これはクロスフィンガリングを用いる民族的な笛が竹を用いたものが多いからでしょう。
中間を開けている運指に注意
近現代に入ってからはベーム式フルートでは必要なくなった半音階を出すためのクロスフィンガリングを敢えて音色の拡張のために使うようになり、特に現代音楽ではこの特殊な、ある意味で民族楽器的な音色を求めてこの奏法を用いる曲がたくさんあります。
武満徹「そして、それが風であることを知った」より抜粋
ホロートーンの指使いが指定されている
また音程が多少低くなる傾向があり、四分音を求めて使われることもあります。個人的な感覚では絶対に必ず四分音低くなるというわけではなく、おそらく運指によって違いがあり、また最後はフルート奏者の音感や技術に依存するのではないかと感じています。
○スペクトラム
通常の奏法 G4
フルートの輝かしい、華やかな音色は豊富な倍音によるものでシンセでフルートっぽい音を作るときもそれを真似ます。上の画像では1の基音よりも6倍音あたりまで基音よりも大きい、最低でも同じ音量が出ています。FMや減算シンセでこんな感じの倍音を作りエンヴェロープも笛っぽくすればかなり近い音になります(ノイズなども加えるとさらに良いです)。
ホロートーン G4
ホロートーンでは倍音は極端に減衰し、基音の黄色い線を上回っている倍音は1つも存在しません。これがHolow(虚ろ)に聞こえるのでそう呼ばれます。やはりシンセで似たようなことが出来そうですし、普通のフルートの音にLPFを掛けてもまぁそれなりに近い音になります(ホロートーンのピッチや音量の揺らぎまではLPFだけでは再現出来ません)。
○まとめ
現代音楽の特徴の1つは作曲家が和声や対位法以外のものに興味を持ったことです。それは特殊なコンセプトだったり、シチュエーションだったり、図形楽譜だったり、記譜だったり色々ですが、その1つが音色で同じ音程を出すにしても一風変わった音色を出せば新しい音楽を得ることが出来ます。
またいわゆる現代音楽系のフルート教本に載っている特殊奏法は普通の奏者に嫌がられる傾向があります。特殊な訓練に長い時間を割かねばならず、難易度が高い割には使用頻度も少なく、時には曲芸のように思える奏法もあります。
笛のビートボクシング奏法はちょっと特殊ですが、すごいとは思うもののこれは芸術音楽というよりはサーカスの曲芸でしょう。ここまで行かなくても現代音楽の中には「特殊奏法を使いまくってすごいでしょ?」みたいな曲がたくさんあります。
特殊奏法や音色そのものが作曲の第1目的になっている曲を聴くと、個人的にはなんとも言えない気持ちになります。特殊な奏法と音色はあくまで作曲で表現したいものを表現する手段であって目的ではないと感じるからです(現代音楽が一般受けしない理由の一つでもある)。
要は作曲の本質が何処にあるのか?を決める作曲家の意識の問題ですが、譜面や奏法の見た目は派手でもただの特殊奏法紹介曲みたいな曲は作曲家の領分というよりは演奏家の技巧紹介であって、その線引きは非常に難しいものになります。
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