今フルートを駆使した自作の曲を書いているのですが、今までなんとなくフルートのハーモニクス奏法を使ってきましたが、厳密にどのようなことが起こっているのかに興味が沸きました。
現代音楽で用いられるフルートのハーモニクス奏法は普通の奏法と出てくる音色が違いその魅力的な音色から度々用いられるものですが、具体的にどのような現象が起きているのかを知ることが今回の記事の目的です。
○ちょっとだけ前置き
フルートは現代音楽の時代になってから様々な特殊奏法が研究され、今では色々な変な?特殊奏法がたくさん存在します。
現代フルート奏者のために ウィル・オッフェルマン
立場がフルート奏者なのか、作曲家なのかでどの本がお勧めなのかは変わってきますが個人的に面白かったのが上記の本です。現代フルートのための教則本は何冊もあります。
ウィル・オッフェルマンは現代音楽のフルート界では著名な人物で自身もフルートの特殊奏法を駆使した作品を残しています。
興味深い音色はたくさんありますが、後日書く予定のバンブートーンと今回のハーモニクスについてなんとなくではくしっかりとした理解を持ちたいという方は是非下記の記事をご覧ください。
○倍音奏法の倍音
フルートのハーモニクス奏法では一体何が起こっているのか?というのが疑問でした。
息を強く吹き込めば容易く倍音は出ますし、アンブシュアの調整によっても色々な倍音を出すことが出来ます。そもそもフルートの最低のオクターブ以外は倍音奏法でもあるのですが、今回はいわゆる現代音楽のハーモニクス奏法のみに焦点を当てます。
・3倍音
3倍音
鳴っている音
1.指使いの音
2.C管の音
3.目的の倍音からの倍音列
上の図はフルートの中央ドの2度上のレの3倍音を出したときのスペクトラムです。下のひし形の音が基音でA5が出したい倍音です。
記譜されている出したい倍音のA5の音が一番大きいのでもちろんA5に聞こえますが、D4の基音とD5の2倍音も小さいですが出ています。これはフルート全体がDの音が出る指使いになっているからでしょう。目的の倍音だけではなく、その倍音列の下の音も一緒に少しですが出るわけです。
しかし黄色で書かれたC4、C5、G5、C6、E6、G6・・・・とCの音からの倍音列も出ています。Dの指使いのはずなのになぜと思ったのですが、これはフルートそのものがC管楽器だからと思われます。
もちろんメインのDの指使いに比べて音は小さいのですが、全音ぶつかりで倍音が発生し、これがこの音におけるハーモニクス奏法の独特の音色を生み出しています。
また目的の倍音であるA5からの倍音列には☆マークを付けていますが、A5(基音)、A6(2倍音)、E6(3倍音)、A7(4倍音)、C#7(5倍音)・・・・と目的の倍音列を起点としてそこから倍音列が発生しています。
つまり「指使いの音(目的の倍音以下の倍音もあり)」「C管としての倍音」「目的の倍音からのさらなる倍音列」という3つの複雑な倍音が鳴っていることがわかります。これはもちろん通常の奏法ではありえない倍音列になります。
・2倍音
2倍音
鳴っている音
1.指使いの音
2.よくわからない倍音
3.目的の倍音からの倍音列
2倍音はシンプルで基音の1oct上です。F5の目的の倍音列に対してF4の基音も鳴っています。
目的の倍音であるF5からの倍音列は☆マークのように目的の倍音列を起点としてそこから倍音列が発生しています。
薄い紫のG#5、A#5、C6という全音関係はよくわからないですが、C管であることや指使いによる空気の流れによって生まれる倍音と思われます。
3倍音の時と同じく3種類の倍音がありますが、その内容は異なります。全音違いで鳴っているわけでもなく、よくわからない音まで鳴っているのが面白いです。
おそらくすべての倍音奏法に言えることですが、同じ2倍音や3倍音でも出す音や指使いによって発生するスペクトラムは変化するのではないか?と思われます。
・4倍音
4倍音
鳴っている音
1.指使いの音
2.よくわからない倍音
3.目的の倍音からの倍音列
4倍音は2倍音と似ています。
基音から目的の倍音を含む指使いの音、目的の倍音からの倍音列、よくわからない音の3種類です。
・5倍音
5倍音
鳴っている音
1.指使いの音
2.C管の音
3.目的の倍音からの倍音列
ここでは目的の5倍音はF#6ですが、3倍音の時と同じく基音は中央ドの2度上のレなので指使いによるD4からの倍音列とC管であるフルートのC4からの倍音列が発生しています。
・6倍音
6倍音
鳴っている音
1.指使いの音
2.よくわからない倍音
3.目的の倍音からの倍音列
中央ドからの倍音列なのですが、D6やF#6という指使いやC管という構造との無関係な倍音が発生しています。これもおそらく指使いによる管内での空気の流れによるものと思われます。
○まとめ
理論上は何倍音でもあり得ますが実際には6倍音くらいが現実的のようです。7倍音は少し低いですし、それ以上はおそらく演奏上難しいのでしょう。
よほど耳の良い人は別として倍音列を見ないとわからないような複雑なことが起こっているのは個人的に興味深かったです。
フルートのすべての音階と指使いや強く吹いたときのそうでない時の倍音など研究のサンプルを増やせばもっとたくさんのことがわかるはずですが、私は科学者ではありませんのでこれだけわかれば十分です。
ハイドンの時代はフルートとオーボエの持ち替えという現代では考えられない楽器の持ち替えが存在しました。クラリネットのA管とB管の持ち替えのように異なる楽器を持ち替えるわけですが、これは楽器奏者にそれほど高いレベルが求められていなかったことを意味します。それなりに音階が吹ければOKという時代で実際この時代のフルートやオーボエパートを見ても極端に難しいフレーズは出てきません。
各楽器の可能性を追求し始めたのはベートーヴェンがコントラバスでしたように古典の終わりくらいからでしょうか。もっともバロック時代にも名人と呼ばれる楽器奏者はたくさんいましたが、2世以上を経て演奏家に求められる技巧はもはや比べるべくもなく複雑なものになりました。
古典だけがレパートリーであれば問題ないかもしれませんが、現代音楽はこういう変な?奏法が色々な楽器で用いられます。これは音色に対する興味と言い換えることも出来ます。
音色は楽譜に書けない部分もあり、難しいところですが、個人的には和声や旋律やリズムも大切ですが音色にもとても強い関心を持っています。ある意味で現代のウェーブテーブルシンセやFMシンセの音作りと通じるところがあります。
EDMが好きなので色々作りますが、減算やFMシンセの使い方を理解していることが今回のように繋がっていくので色々やっておいて良かった・・・とも思いました。
なんとなく、ぼんやりとではなく、ちゃんと理解していくことで現代音楽を作る上で見えてくるものがきっとたくさんあるはずです。
続きます。
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