前回のフルートのハーモニクス奏法研究の記事の続きです。

 

ある生徒さんからフルートの最低のオクターブ以外はそもそもハーモニクス奏法なのに、特別にハーモニクス奏法として記譜されるものとはどう違うのか?という質問を頂きました。

 

前回の記事でもそのことについては触れていたのですが、せっかくなのでどう違うのか?を書いてみます。

 

ただ私自身はフルート奏者ではなく、フルートに触った経験はごく僅かしかありません。あらゆるハーモニクスを自由に、且つ上手に出せる熟練のフルート奏者ではなく、あくまで私のフルートの知識は経験ではなく管弦楽法などの書物から得たものになります。

 

演奏の世界も日々進歩していますし、先生によって教える内容が異なるというのは音楽の世界ではよくあることですので、そのことを踏まえた上で読んでみて下さい。

 

 

 

○フルートの上部吹奏

 

上の画像はピストンの管弦楽法からの抜粋でフルートが中央ドから1oct上のド#までのよりも高い音を出すときにどんな倍音を使って音を出しているのか?を述べたものです。

 

現代のフルート奏者が100%これを用いているのかはわかりませんが、基本的に倍音は数字が小さい方が出しやすいので後述の特別な意図がない限りこれが一般的かと思われます。

 

特別な意図として特殊な音色を求めて用いるハーモニクス奏法ではなく通常の演奏においても難しいパッセージを容易にするためにアンブシュアの調整によって上の画像よりも高い倍音を用いることもあります。運指が通常の奏法では複雑で難しい場合でもより高い倍音を用いることで簡単な運指に出来る場合があるからです。

 

ヴァイオリンでも2倍音を使って似たようなことをしますし、木管楽器のいわゆる替指にはこのことが関係しています(同じ運指でも息の入れ方で出る音が変わるのは違う倍音を出している)。

 

 

上の画像では音域の下にハーモニクス番号が書かれていて、例えばが中央ドから1oct上のレと長7度上のド#までは2倍音を使います。

 

 

 

 

つまり約3オクターブあるフルートの音域の下2オクターブまでは基音と2倍音だけで用いられるということ、そして1オクターブ目が牧神の冒頭のようなくぐもった音色なのは基音だからであり、2オクターブ目からの輝かしいいわゆるフルートらしい音色は倍音を用いるからです。

 

 

 

○ではなぜハーモニクス奏法が別にある?

2オクターブ目から上の音を倍音で出すならなぜハーモニクス奏法が別にあるのか?という疑問が起きるかと思いますが、ここまで読めば既にお分かりの方もいらっしゃるかもしれませんが、本来出すはずではない倍音を意図的に用いるからでしょう。

 

 

息の強さ次第で出る音は変わりますがこれが倍音奏法であり、なんならストローでもペットボトルでも可能です。

 

 

 

・G6を6倍音で出したときのスペクトラム

G6を6倍音のハーモニクス奏法で出した時のスペクトラム

 

 

上の画像は前回の記事で出てきた6倍音のハーモニクスです。最高のオクターブのソを6倍音で出しています。

 

 

しかし通常この音は4倍音で出します。

 

 

 

G6を通常の奏法(4倍音)で出した時のスペクトラム

 

ハーモニクス奏法(6倍音)と通常の奏法(4倍音)の時のスペクトラムを見比べて下さい。通常の奏法と言っても4倍音なのですが、6倍音で同じ音を出すときよりもずっと濁りのない美しいソの倍音が目立ちます。

 

これはフルートの構造そのものがそのように設計されているからと思われます。

 

 

極僅かに、ほとんど無視して良いような、音程としては感じられないC音やD#音を確認することが出来ますが、これらのフルート内の複雑な気流によって生まれる変な音?が意図されていないハーモニクス奏法の時に助長されるのでしょう。

 

 

・A5を3倍音で出したときのスペクトラム

A5を3倍音のハーモニクス奏法で出した時のスペクトラム

 

上の画像は前回の記事で出てきた3倍音です。2オクターブ目のラを3倍音で出しています。

 

しかし通常この音は2倍音で出します。

 

 

A5を通常の奏法(2倍音)で出した時のスペクトラム

 

やはり通常の奏法(2倍音)の方が美しい濁りのないスペクトラムになります。極僅かに出ているE6は記譜音のA5の1oct下の3倍音でしょう。フルートの設計上意図されない吹き方をした時とは音の濁りが全然違います。美しいA音のスペクトラムです。

 

 

○まとめ

一般的に管弦楽法でのフルートのハーモニクス奏法というと本来出すべき音よりもより高い倍音を使って音を出す奏法を言います。これらのハーモニクス奏法の音色が通常の奏法と音色が異なることは前回の記事のスペクトラムからわかりますが、設計上意図されない吹き方で音を鳴らすと変な倍音がたくさん発生して多少曇ったような濁ったような音色になります。

 

 

ラヴェル ダフニスとクロエより抜粋

 

 

ラヴェルはダフニスとクロエでこの効果を非常に強調して使っていますし、現代音楽では珍しくもない奏法です。

 

 

実際には色々なバリエーションがあり同じ音を出すのに異なる運指と異なる倍音を用いることが出来ます。そしてそれらによってスペクトラムの構造が変化するのは前回の記事で見た通りですが、すべてのパターンを網羅するのに実際にフルート奏者を連れてきてすべての運指のすべての倍音奏法を録音して分析してみれば何かもっと特定のパターンなどを見出すことが出来るかもしれません。

 

私は科学者ではありませんのでそこまでしようとは思いませんが、一般には濁った?霞がかった?ヴェールを掛けたような?音色がフルートの設計上意図されていない倍音を無理やり出すと得られるため作曲家が好んで用いるものです。

 

 

もちろん必ずしも特殊な音色を求めるだけに限らず、最初に述べたように難しいパッセージを容易にするためにこれらを利用することも人によってはあるはずです。しかしそれは演奏家の裁量の問題であり、私が知らないところで奏者が任意できっとやっているはずですが、特にそれを大問題と感じたこともありません。

 

 

フルートはおそらく木管楽器の中で最も特殊奏法が発達している楽器であり、それが現代音楽で大いに利用されています。現代音楽を作りたい方でそれらの特殊奏法について学びたい方は是非専門書を読んでみて下さい

 

 

現代フルート奏者のために ウィル・オッフェルマン

 

個人的にはこの本がお勧めです。但し現代音楽の特殊奏法に関しては紹介的な意味合いが強く、フルートの演奏家の方にとっては、具体的な運指や練習方法などにあまりページを割いてないのでどちらかと言うと作曲家側の人間が現代音楽のフルート奏法を色々と知るのに適している本だと思います。

 

 

 

 


指使いなどについてはフルートの現代奏法というの本の方がたくさん載っているのでこちらの本もお勧めです。これ以外にも現代音楽のフルート奏法に関する本は何冊かありますし、ネット等でもたくさんの情報を得ることができます。

 

 

 


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