　最近ではエアコンの性能が格段に上がって、暖房として使う家庭が増えているそうだが、まだまだ主流は石油ストーブだろう。しかし、今から50年前の主流は何といっても石炭ストーブだった。我が家で使っていたのはフクロク(福禄)ストーブ。資料[※1]によると、「角型2号」だったのだろうと思う。下はずんぐり、上はのっぽといった形が印象に残って居る。昭和44年に家を建て直した際に石油ストーブに変えるまで使用していた筈だ。このストーブに繋いだ煙突の一部が真っ赤になっていたのを思い出す。自分はその煙突に右腕をくっつけてしまいやけどをしたことがある。石炭ストーブは非常に暖かかったが、部屋のど真ん中に設置しなければならないため、邪魔な面もあった。特にストーブ設置直後など慣れない内のやけどの危険は非常に高かったと思う。
　さて、燃料のその石炭の入手はどうしていたかというと、うちの場合はご近所と共同でトラック1台分を購入していた。秋のある日大型トラックがやってきて、庭にドシャーンと大量に石炭を落として行く。それを各家が家族総出でバケツで持ち運ぶというやり方だった。バケツが足りず、ペンキ缶で即席にバケツを作ったりもした記憶がある。我が家に石炭貯蔵庫はなかったので、寝室と仏間の畳の下に運び入れた。もちろん家族総出、家が汚れるのでビニールシートを敷いての作業だった。みな鼻の孔を真っ黒にしての作業で、小学生には結構きつい作業だったが、みんな笑顔だった事が忘れられない。

　薪ストーブを使っていた時期もある。その頃は家の周りは薪だらけで、その隙間を狙って入り込んで近所の猫が隠れ家にしていた時もあった。ただ、ひとシーズン通して使用していたかどうかは自信がない。というのは、火力は石炭とそれほど差はないが、すぐ燃え尽きてしまうので持続性がない。だから、冬の初めは薪ストーブ。真冬になると石炭ストーブに変換するということをしていたかも知れない。

　さて、石炭ストーブ、薪ストーブ共に悩みは煙突の煤掃除である。高所作業があることもあり、うちでは専門家の煙突掃除のおじさんにお願いしていた。小学校4年の時だったと思うが、煙突掃除のおじさんが事情で来られなくなり、川向う（菊水）まで行って新しい煙突掃除のおじさんに依頼しに親父と行き、一緒に頭を下げた記憶がある。
　今は煙突掃除を専門にする業者はいるのだろうか？と思ってぐぐってみたが、便利屋さんを含め、思った以上に請け負ってくれる業者はいるみたいで安心した。
　自分にとって”石炭ストーブの時代”は古き良き時代であるが、すべてが薔薇色という訳ではない。特に思い出すのは雪の上に降り積もる煤煙である。特に都市部の雪は煤煙で黒く汚れていたので、雪が降ったばかりの時以外は決してきれいな雪景色ではなかったのだ。これは余談だが、石油ストーブに変わったら雪はきれいになっただろうと思う人もいるかもしれないが、必ずしもそうではなかった。石油ストーブで綺麗になる筈だったが、その分、スパイクタイヤで走り回る自動車が増え、道路を削ったアスファルトの屑が雪に降りかかってこれも汚れて見えた。本当に雪が綺麗になったのは、スパイクタイヤが禁止になって以降だといえるだろう。

　最後に、ダルマストーブについて。石炭ストーブといえば、やはりダルマストーブだろう。自分の頃には既に鉄道列車の中で使用されていることはなかったが、駅の待合室にはまだまだダルマストーブが使用されていた。そのまんまるい形が愛嬌があって人気があった。いや今でも人気者なようで、通販サイトでいまだに販売されているのはスゴイ。親が若い頃、客車内ではこれが焚かれており、その上にスルメや干物などを乗せて焼いて食べたりもしていたそうだ。今はJR北海道が観光用として「流氷ノロッコ号」や、「冬の湿原号」でダルマストーブの客車を運行している。もちろん、スルメや干物などを焼いて食べることもできるそうだ。

※1 宇田哲雄　『福禄石炭ストーブの製品開発について』2008年

http://sts.kahaku.go.jp/tokutei/pdfs/0417.pdf