自分が子供の頃、冬場に掛け布団の下にかける寝具は”"丹前”だった。他県では”"掻巻"”というそうだが、北海道ではそうではない。いや、大きく出過ぎた。札幌では。いんや、自分の家付近では。あ、いや、少なくとも自分の家では、”丹前”は寝具であった。「バカ言え。丹前は”褞袍”(どてら)のことだ。着るものだ!」とおっしゃる方もいらっさる事であろう。しかし自分は断言する。”丹前”は”褞袍”ではない。”丹前”はあくまで寝具であって、これを着ることはない。仮にあったとしても、臨時的に一時、夜中トイレに立つときにひっかける程度である。用を足した後は、”丹前”を掛け、その上に布団を掛けて寝るのだ。
そして起きた時は、布団と一緒に畳んで押入れへ入れて仕舞う。どんなに寒い日でも、決してそれを着て過ごすことはない。・・・・・・少なくとも我が家では。
中学2、3年の頃、太宰治の小説で「褞袍を着たまま云々・・・」とう一節があり、「”褞袍”って何だろう??」と思って百科事典で調べてみたら、なんと”丹前”のことだと知り、「ゲッ、津軽の人は”丹前”を着て歩くのか!」と非常に驚いたのを覚えている。自分の祖母は新潟の山奥の出身なので、もしかしたらその地域の風習だったのかもしれない。北海道は東北出身者が多いのだけれど、新潟と青森でも相当風習が違うのかもしれない。とか考えたものだ。
その”丹前”。暖かい毛布が普及するに連れ、我が家から消えて行った。今から40年以上前のことである。
そして、現在。自分は部屋着として、厚手の”ちゃんちゃんこ”を着ている。”ちゃんちゃんこ”。調べてみたら”羽織”と出る。いやいやいや、羽織はもっと薄い着物だ。外へ着て出られるきちんとした着物だ。ちゃんちゃんこではない。”袢纏”はかなり近い。同義といってもいいかもしれない。でも袢纏は”丹前”ではない。”丹前”はもっといっぱい綿が入って居て、足元位まで長いものだ。ああ、訳わからんくなってきた。
”丹前”。今もこれを掛けないと眠れないという人はいるのだろうか?仮にいるとして、きっとかなり高齢の方々なのだろうな。