先日アメリカの大学の学校新聞で「あなたの人生を変えたアルバム15枚をあげてください」というアンケートがありました。この「無人島に持っていくとしたら……」的なベスト盤企画は参加する度に相当悩むのですが、ふつうは1枚か、5枚か、多くて10枚ぐらいじゃないですか? もうなんか「あんたらに10枚に絞り込むのは無理でしょ?」みたいな意思が感じられます。でも15枚でもやっぱり難しいです。
「誰も知らないような自分だけの名盤」を挙げていこうかとも思いましたが、読み手は学生なので、「お前らこれ知らないだろ?」と知識をひけらかすのも嫌なので、私が作編曲家として影響を受けた数多くの作品から最も王道的なものでアメリカで入手しやすいものを素直に選びました。
1. Jerry Goldsmith 『First Knight』
最も影響を受けた作曲家を一人挙げるなら間違いなくJerry Goldsmithです。同じ作品でも出直す度に購入しているので、今iTunesに入っているJerry Goldmsithのアルバムは393枚、計7458曲で、連続して再生すると14日17時間かかるそうです。もうゴールドスミスだけで15枚選ぼうと思ったぐらいですが、その中でゴールドスミスに夢中になるきっかけになった作品です。できればLa-La Land Recordsから出ている2枚組完全版を手に入るうちに!
2. Alan Menken 『Der Glöckner Von Notre Dame』
ディズニー音楽にも多大な影響を受けていて、特にAlan MenkenとRandy Newmanは自分の中で大きな存在です。Alan Menkenらしさが最も発揮されるのは「リトルショップ・オブ・ホラーズ」「リトル・マーメイド」「ヘラクレス」といった軽快でコミカルな作品だと思っているのですが、ベイジル・ポールドゥリスのコナン・ザ・グレートを意識して書いた「ノートルダムの鐘」の破壊力は大きく、このドイツ語舞台版のアルバムは何度も聴いています。これの英語版をテレビ映画として制作する話が随分前からあるのですが、実現して欲しいです。
3. Randy Newman『A Bug's Life』
Randy Newmanのアニメ音楽もどれも傑作揃いです。私にとって「アメリカらしい音楽」として最もしっくりくるのがRandy Newmanの作品です。「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」などとも迷いましたが、いろいろな要素がバランスよく入っているのでこれにしました。
4. Bruce Broughton『Tombstone』
何でもっと評価されないのか不思議で仕方ないBruce Broughton。オーケストラによる正統なハリウッド音楽が書ける人なのですが、今のハリウッド映画にはこういう音楽はあまり求められていないようで悔しいです。ブロートンの音は商業音楽における私の理想のオーケストレーションです。どの作品も素晴らしいですが、一番よく聴いたアルバムということで。
5. Michel Legrand 『The Essential Film Music Collection』
ミシェル・ルグランもジャズアルバムからサントラまで愛聴盤が多すぎて、もうどれを選んでいいか迷ったので、いっそのこと作曲者自身によるベスト盤を挙げました。選曲もアレンジも演奏もよく、素晴らしい映画音楽のコンサートになっています。
6. Maria Schneider 『Sky Blue』
ニューヨークに住んでいた頃に何度もライブで聴いていたこともあってマリア・シュナイダーにもかなり影響を受けています。このアルバムの中のCerulean Skiesは聴く度に涙が出てしまいます。12月の2度目の来日も楽しみです。
7. Bob Florence 『Earth』
Bob FlorenceのLimited Editionも全アルバム繰り返し聴きこんでいます。このアルバムに収録されているEmilyについては、前にブログで紹介しています。
8. Bert Joris 『Dangerous Liaison』
ヨーロッパジャズだとこの人。このアルバムも以前ブログで紹介しています。
9. Count Basie 『Straight Ahead』
曲がりなりにもアレンジを仕事にするものにとってSammy Nesticoは神ですから、Nestico時代のCount Basie Orchestraに影響を受けないはずがありません。どのアルバムを挙げても良かったのですが、最初に聴くならこれかなと思って選びました。
10. Jean Martinon 『Debussy & Ravel: Orchestral Works』
もちろんクラシック音楽にも影響を受けまくっています。中でもフランス音楽は私にとって初恋のような存在です。デュトワ、サロネン、ブーレーズ、アバドなど好きな演奏は多数ありますが、一番良く聞いているのはやっぱりマルティノンです。「人生を変えた15枚」というアンケートで、8枚組のボックスを挙げるのは反則かなと思いましたが、他の投票者のを見たら「バッハ全集」とか「モーツァルト全集」など100枚ぐらいのセットを挙げている人が何人もいて、おいおい!と思いましたww
11. Yan Pascal Tortelier 『Dutilleux: Orchestral Works』
フランス音楽が好きなのでもう1つ。Henri Dutilleuxの作品集です。20世紀から21世紀の作曲家としてはJennifer HigdonやChristopher Rouseをはじめ誰を挙げるべきか最後まで迷いました。Chandosのセットは代表曲がまとめて聴けるのでオススメです。
12. Sir Colin Davis 『Stravinsky: Petrushka - The Firebird - The Rite of Spring - Orpheus』
オーケストラの音楽を書く人でストラヴィンスキーの影響を受けていない人はいないのではないでしょうか。シリアスな楽曲でもユーモアがたっぷり入っていることに惹かれます。「Symphony In 3 Movements」や「Symphony of Psalms」が特に好きなのですが、学生に聴いてもらうのはやはり3大バレエかなと思いました。無数に好きな演奏はあるのですが、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の響きが素晴らしいSir Colin Davisにしました。この1枚に絞り込むのに相当悩んだのに、自作自演のWorks of Igor Stravinskyという22枚組ボックスを挙げている人が大勢いて「なんだよ!」と思いましたww
その他にもバーンスタインのマーラー全集とかアーノンクールのベートーヴェン全集とかショルティのバルトークとか、他にもホルストやショスタコーヴィチなど挙げたかった作品は無数にあります。
13. Claude-Michel Schonberg 『Les Miserables (Original London Cast)』
ミュージカルの「レ・ミゼラブル」はブロードウェイで舞台を見て、楽曲の素晴らしさや斬新な演出にも感銘を受けましたが、何よりJohn Cameronのオーケストレーションの素晴らしさに衝撃を受けました。未だにこの編曲が私の中での大きな目標になっています。映画版ではじめてこのミュージカルを見た人も多いでしょうけど、私はJohn Cameronの編曲でなかったのでがっかりしました。ぜひオリジナルを聞いて欲しいです。その後で「Les Miserables: 10th Anniversary Concert」もぜひ。
14. The Beau Hunks & Metropole Orchestra『Raymond Scott: The Chesterfield Arrangements, 1937-1938』
Raymond Scottの音楽もRandy Newmanと並んで私にとっての理想のアメリカンサウンドです。The Beau HunksのRaymond Scottアルバムはどれも良いですが、これまたアメリカ音楽で重要な存在であるPaul Whitemanのためのオーケストラアレンジということで、これを選びました。
15. 植松伸夫 『FINAL FANTASY IV: Celtic Moon』
私は前世はアイルランド人だったのではと思うほどケルト音楽やアイリッシュ・ダンスを熱狂的に愛していて、所有しているアルバムが数えきれないほどです。その中から1枚選ぼうかと思っていたのですが、思い返してみるとケルト音楽にはまったきっかけは、このファイナルファンタジーのアレンジアルバムだった気がします。今回はアメリカの大学生向けの企画なので日本のアーチストは入れなかったのですが、全くないのも寂しいと思い、調べてみたらアメリカのiTunesでこのアルバムの入手が可能だったので選びました。
これが今回のアンケートで答えた15作品です。最後の最後まで迷っていたのがBlue Mitchellの『Blue's Moods』。これがトランペットをはじめたきっかけなのです。もちろんClifford Brownなどにも影響を受けていますが、『Blue's Moods』に一番思い入れがあります。ちなみに今一番好きなトランペット奏者はCarl Saundersです。