永遠の0 | S A L O N

八月十五日で77年目の“終戦の日”をむかえた。
当時を知る人が日々・年々少なくなると同時に…
その記憶・記録自体に関しても、今世の人々の関心が薄れてきているようにも思う。
それもあってか、実録的戦争邦画となると、島尾ミホ島尾敏雄夫妻自身の体験などを小説とした原作をもとにした、2017年公開の満島ひかり主演映画『海辺の生と死』…また、三田紀房による同名漫画を原作として製作された空想的なものを含めれば、『聯合艦隊司令長官 山本五十六』でも少し紹介させていただいた、2019年公開の菅田将暉主演映画『アルキメデスの大戦』あたりが、最近・最新のものとして思いつくくらいである。
この『アルキメデスの大戦』で監督・脚本を手掛けたのが、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズでお馴染みの山崎 貴
その山崎監督が、百田尚樹による同名小説を原作に、2013年に岡田准一主演で製作したのが映画『永遠の0 THE ETERNAL ZERO』である。
 

永遠の0 THE ETERNAL ZERO』(2013年)


 
“戦争映画”自体が、そもそもドキュメンタリー・ドラマではなく…
たとえ史実を基にしているといっても、多かれ少なかれのフィクションと、それを効果的に見せるための脚色が盛り込まれているのが常である。
ましてや“特攻”モノの映画では、実際の特攻要員・特攻隊員たちの証言や文章など…脚本を構成するに当たっての“感動的”素材にも事欠かず…これまでも、いわゆる“特攻”モノ映画に限っても…
鶴田浩二主演の『雲ながるる果てに』(1953年)、その鶴田浩二をはじめ…高倉健、松方弘樹、千葉真一、西村晃、天知茂という超豪華な出演陣に加え…残念ながら、『永遠の0』が映画としての遺作となってしまった夏八木勲も出演している『あゝ同期の桜』(1967年)。
木村拓也が長髪のまま出演して話題ともなった『君を忘れない』(1995年)などという変化球もあった。
因みに、当時の海軍では准士官以上では原則として髪型は自由とされ“長髪”も許されていたとはいえ…それはあくまでも“丸刈り”に比してある程度髪を伸ばすというものであり、さすがにポニーテールの隊員はいなかったものとは思うが…(苦笑)
“戦闘機”モノではないが…『北緯30度43分、東経128度4分』でも紹介させていただいた…『君を忘れない』にも出演している反町隆史、そして中村獅童、松山ケンイチ、仲代達矢などが出演した、戦艦“大和”による水上特攻を描いた『男たちの大和/YAMATO』(2005年)。
市川海老蔵主演で、人間魚雷“回天”による特攻作戦を描いた『出口のない海』(2006年)。

製作総指揮と脚本を石原慎太郎が手掛けたことでも話題となった…陸軍の特別攻撃隊の基地があった鹿児島県の知覧で“富屋食堂”を経営し、そこに集う多くの特攻隊員たちに“特攻の母”と慕われた鳥濱トメとの逸話などを基に映画化された『俺は、君のためにこそ死ににいく』(2007年)…などなど、その時々の旬の俳優たちを起用し、多くの戦争…反戦映画が製作されてきた。

 

 

暫く前の作品はまだしも…ここ最近の戦争映画・ドラマでは…どうも出演者に時代的リアリティが感じられず…
『永遠の0』に関しても、ストーリーテラー的役回りの三浦春馬(佐伯健太郎役)、その(実)祖父である主人公の宮部久蔵役の岡田准一などの出演陣への短慮なイメージから…観る前は少々懐疑的な思い込みをしていたのだが、144分という長編にもかかわらず、中弛みすることなく…それどころか尺が進むにつれ一層、物語に引き込まれていった。
現代劇(人間ドラマ)&証言シーン、そして回想・戦闘シーンなどが上手く盛り込まれ…
それも、“特攻”モノにありがちな、単なるお涙頂戴的進行ではなく…
久蔵の思いの丈を推し量るべく…観る者各人が己の内に投影して…様々な思いを巡らせられる作品となっている。
岡田准一をはじめ、一昨年、残念ながら急逝した三浦春馬…
松乃役の井上真央、佐伯慶子役の吹石一恵、他…
当時(戦時中)のシーンにおける若手俳優陣の演技も然る事ながら…
証言シーンで脇を固める、景浦役の田中泯、武田役の山本學、井崎役の橋爪功…そして何といっても、今は亡き…長谷川役の平幹二郎、祖父・大石賢一郎役の夏八木勲といった名優陣の存在は大きいものと思う。
CGやVFXなどといった技法が駆使された戦闘シーンのリアル風な映像の、まさにその“視覚効果”も見応え充分である。



原作の小説も、やはり575頁と、かなり読み応えのある長編であるが…
小説にせよ、漫画にせよ、先ず原作をを読んでから観るか…映画を観てから読むかは個々の判断すべきことではあろうが…
私的には、こうした場合は後者を選択している。
それはさておき、まだご覧になられていない方は、是非、ご覧になり、それぞれに何かを感じて頂ければと思う作品である。

 

因みに、テレビ東京開局50周年特別企画として、2015年に向井 理主演ドラマ『永遠の0』(三部作)も制作されている。

 

 

ここまで紹介しておきながら今更に言うのも憚られるのだが、おそらくは多くの評価とは異にするかもしれないが…岡田准一は確かに凄い役者だとは思うのだが、私的には“宮部久蔵”はドラマスペシャル版の向井 理の方が個人的にはそれだと思う。

 
“宮部久蔵”のモデルに関しては、原作者の百田尚樹氏の思い描いた架空の人物であり、様々な人物の人間像と思いを集約したカタチとなっている。

人間の翼 最後のキャッチボール』でも紹介させていただいた“富安俊助海軍中尉”の他、そのモデルの一人ともされているのが…
1945年4月11日14時43分、低空飛行により戦艦ミズーリの右舷甲板に体当たりを敢行した爆装零戦の搭乗員である。
下がまさに突入せんとするその瞬間を撮らえた写真である。



突入させた機体の右翼をミズーリの第3副砲塔上部にぶつけ、燃料に引火し炎上。
ただし搭載爆弾は不発で、艦は表面に損傷を受けた程度で速やかに消火作業が行われ鎮火している。
その後、搭乗員の遺体(ほぼ上半身のみ)が40mm機銃座から回収された。
ミズーリ乗組員たちからすれば、狂気の沙汰とも思える自艦に対し“自爆”を強行した搭乗員の肉片などすぐに処分してしまいたいところだったのは言うまでもないが…
ミズーリ艦長ウイリアム・キャラハン海軍大佐は、多くの乗組員の不満の声があがるなか、この搭乗員を…「この日本のパイロットは我々と同じ軍人である。生きている時は敵であっても今は違う。激しい対空砲火を掻い潜ってここまで接近してきたパイロットの勇気と技量は、同じ武人として称賛に値する。よってこのパイロットに敬意を表し、水葬に付したい」とし、翌朝9時、艦上において米海軍のしきたりに則り、星条旗に包まれた遺体は木製の担架に乗せられ、5発礼砲とともに海に葬られた。


 
聯合艦隊告示によると昭和20年4月11日に、海軍では鹿児島県にあった以下の二つの航空基地から四つの部隊が特攻に出撃している。
 
【第一国分基地】
第二一〇隊:3機
第三御盾/第二五二隊:2機
第三御盾/第六〇一隊:2機
 
【鹿屋基地】
第五建武隊:16機
 
さらに検証をすすめると、ミズーリの砲台に突き刺さっていた“九九式二号20mm機銃”を装備していたのは第五建武隊の16機の零戦五二型だけだったようである。
また各搭乗機からのモールス信号による打電報告、米軍側のアクション・リポート、ミズーリの航海日誌などから推測される事実が浮かび上がった。
それによると、第五建武隊のうち第4区隊(区隊最東側)をペアを組み索敵していた3番機搭乗の石井兼吉二等飛行兵曹と4番機搭乗の石野節雄二等飛行兵曹は、レーダーに捉えられぬよう低空飛行を選択。

(※二等飛行兵曹=“二飛曹”と省略呼称)
しかし、機動部隊を見付けられなかったかめ右に旋回し北上。
石野二飛曹からの打電によると…
14時39分、突然視界に…喜界島南方に展開していた敵艦(第58機動部隊第4隊)を発見。
米軍側も零戦2機を確認し、戦闘機をスクランブル発進。
石野二飛曹は14時41分に「テキセントウキミユ」と打電し…その2分後の14時43分、敵機の攻撃および対空砲火を掻い潜り…上記したように、空母イントレピッドを護衛していたミズーリに体当りしたという。
これらの結果を踏まえ、体当たりを敢行したのは、4番機搭乗の石野二飛曹の機の可能性が高いという報告をしている。
勿論、体当たりを敢行したのが石井二飛曹の可能性もある。
ミズーリの航海日誌によれば、体当たりから3分後の14時46分に2機目の突入が試みられたとの報告がある。
ただし、この機は対空砲火により撃墜されている。
石井二飛曹からの打電報告は当初から何もなかったが、もしかしたら無線機が故障していたのかもしれない。
もしも石井二飛曹が先に突っ込んだのならば…その3分間の間に、石野二飛曹からの「ワレモトツニュウス」などの打電が打たれた可能性もある。
結局、突入報告はどちらからもなかったが…このような状況下では既にそれどころではなかったのかもしれない。
いずれにしても、ミズーリに体当りしたのは石野、石井の両二飛曹である可能性が高いようである。


 
因みに、同部隊の第3区隊を索敵していた4機のなかに…
14時10分に「トツニュウス」と打電をした2機のうち(もう一人は第1区隊の西本政弘一飛曹)の1機に搭乗していた宮崎久夫一飛曹がいる。
宮部久蔵…名前的には、この人物がその命名の由来などとも思ってしまったのだが…??
 
 

●閑話休題

最後に、また映画に関する独り言的話題を…
それは、映画にはもはやつきものともなっている主題歌に関して…
たいていの映画はラスト間近になると、その主題歌が流れはじめ…そしてエンディングロールへと続いていくのが常のようになってきているが…
本編の余韻・感動をさらに掻き立てるべく…確かに、その効果は否めない。
そのため洋画・邦画を問わず、映画のイメージを左右しかねないイメージソング≒主題歌には話題となるアーティストの楽曲がチョイスされることが多い。
この作品ではサザンオールスターズの「」が主題歌となり、これも話題となった。
ただ、これは…あくまでも私見であるが…
楽曲そのものはメロディ、歌詞ともなかなかのバラードではあるのだが、本編のラストのあとの楽曲にしては少々軽い印象を受けてしまった。
因みに、上記した各作品では…
『君を忘れない』 岩田雅之Nobody loves me like my baby
『出口のない海』 竹内まりや返信
『俺は、君のためにこそ死ににいく』 B'z永遠の翼
『男たちの大和/YAMATO』 長渕 剛CLOSE YOUR EYES
…など、『君を忘れない』は別にして、錚々たるアーティストが楽曲を提供している。
因みに、役所広司が山本五十六役を演じた『聯合艦隊­司令長官 山本五十六』 の主題歌として使われたのは小椋 佳の「」。


楽曲自体は、どれもよい曲なので、お聴きになられたことのない方は是非、お聴きになられてみて頂きたいところではあるのだが…
ただ、これも、あくまでも私見ではあるのだが…
こうした散華する者を見送る場面に流れる曲としては、どれもイマイチ“ぴん”とこない。
『連合艦隊』(1981年)で挿入された谷村新司の「群青」…
時代設定は少々違うものの…豪華メンバー総出演による戦争スペクタクル巨編とでも言うべき作品の『二百三高地』(1980年)で挿入されたさだまさしの「防人の詩」などが、私のなかでのイメージとしてはドンピシャ(死語?)…更なる感涙間違いなしだったことだろう…(苦笑)
…ということで、「群青」「防人の詩」をBGMにしたイメージビデオがありましたので、ご覧下さい!