さて、松竹氏の裁判はどうなるのだろうか?

 

1.訴訟の構成と名誉毀損裁判

 

先日の弁護団同席の記者会見では、こういうことがわかっている。

 

 

①裁判は東京地方裁判所で提訴する。

 

②名誉棄損(または信用棄損)の損害賠償請求訴訟であるが、共同不法行為として除名処分を行った日本共産党京都南地区委員会常任委員会および京都府委員会常任委員会の除名処分を訴訟対象とする

 

③どの言動を名誉棄損(または信用棄損)の対象とするかは今後詰める

 

また、争点となるいくつかのポイントはつぎの点だと思われる。 

 

a.袴田里見裁判(昭和63年)との関係について

 

・除名処分について、撤回を求めた袴田里見訴訟では部分社会の法理を用いて、党内部の問題には立ち入れないとなったが、除名処分の手続きなどで今回は争える余地がある

 

・袴田裁判のときに判例の前提となった昭和35年裁判は令和2年に判例変更されているので、今回の判決でどうなるかはわからない

 

 

b.令和4年の自民党での除名撤回裁判は影響するか?

 

自民党の裁判では慰謝料請求が認められなかった。しかし、今回の松竹裁判のケースには妥当しない。
 

c.党員からの党の内部事情を暴露する資料などは裁判で有効か?

 

民事裁判では違法収集証拠とされるハードルは低い。つまり、証拠として採用される可能性は高い。

 

 

d.どういう事例が名誉棄損となるのか?

 

実際の行為以上のことを表現されている場合などだ。

 

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訴訟の構成では、名誉毀損で東京地裁に提訴し、その不法行為を南地区委員会、京都府委員会と中央委員会の共同不法行為とする。

 

まず、この名誉毀損裁判がどうなるのかは、すでにパトラとソクラが解説した。

 

 

 

 

 

 

 

 

何を名誉毀損として取り上げるのかは、松竹伸幸氏と弁護団がどう考えるかなので、よくわからない。

しかし、これまでの展開から「かく乱者」「権力の側に取り込まれている」「こんな連中」ということが予想される。

その前提で、パトラとソクラが解説した。

 

結論として、「こんな連中」というのは、内田裕委員長の誤解の部分が多く、鈴木元氏と松竹伸幸氏の発言の整理もされていないので名誉毀損が成立しても棄却対象になるのではないかと書いた。

しかし、「かく乱者」「権力の側に取り込まれている」という共産党側の表現は、松竹伸幸氏の社会的地位を下げることになるので名誉毀損は成立し、そう考えたことの真実性や真実性の証明が認められず、棄却対象にもならないと思われる。

つまり、名誉毀損は成立する。

 

その次の「除名処分」に関する共同不法行為については、法律構成が難しいので、また改めて解説する。

 

そこもクリアしたとして、除名処分取消の地位確認で除名の有効性について、これまで1980年代の袴田里見氏の裁判を見てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

何のために袴田里見氏の判決文を読んで、解説してきたかというと、袴田里見氏が裁判に敗訴した要因がそのまま、松竹伸幸氏の除名処分では勝訴要因になるのではないかと思ったからだ。

 

 

2.除名処分の事実認定での争点

 

除名処分となった松竹伸幸氏は、第29回党大会に対して除名処分の撤回をもとめる「再審査請求書」を2023年11月1日付で日本共産党に提出していた。

 

http://matutake-nobuyuki.com/assets/pdf/20231113_saisinnsaseikyuusyo_no1.pdf

 

松竹氏が再審再請求書(第Ⅰ部)に書いていた請求趣旨は以下の通りだった。

 


A 除名手続きについての異議

①    支部での規約上の処分権限を取り上げたことが規約50条違反であること
②    支部委員会の同意がなかったという虚構が規約50条違反であること
③    処分を決定する会議で意見を述べる権利を与えられなかった党規約違反(第5条第10項、第54条、第55条への違反)
④    調査の前から結論は決まっていたという「特別事情」を理由とした規約50条違反であること

B 除名理由についての異議

⑤    自衛隊問題での私の主張を除名理由にすることへの異議
⑥    『シン・日本共産党宣言』の出版を規約違反とすることへの異議

 

これらに対して、山下副委員長の報告で、Aについては実質的には何も答えていない。

支部や地区委員会、府委員会に対して、手続きに瑕疵がなかったのかどうかを双方に調査した形跡はないし、松竹伸幸氏に対して再度弁明の機会を与えたりもしていない。

松竹氏が再審査で求めていた除名理由のひとつである「分派活動」の定義についても回答していない。

 

それに対して、Bについては、日本共産党の綱領・規約に対する攻撃であることを除名の理由として述べている。

 

したがって、裁判ではこういうことが争点になるのではないかと思う。

 

A 除名理由について

① 自衛隊問題での松竹氏の主張を除名理由にする妥当性
②    『シン・日本共産党宣言』の出版を規約違反とすることの妥当性

B 除名手続きについて


⑤    支部での規約上の処分権限を取り上げたことが規約50条違反であること
⑥    支部委員会の同意がなかったという虚構が規約50条違反であること
⑦    処分を決定する会議で意見を述べる権利を与えられなかった党規約違反(第5条第10項、第54条、第55条への違反)
⑧    調査の前から結論は決まっていたという「特別事情」を理由とした規約50条違反であること

⑨ 除名理由である「分派活動」について、適用が党規約第3条第4項の適用違反であること

⑩ 再審査について、実質的な再審査を行っていないことが第55条違反であること

 

 

3.除名理由の妥当性

 

これについては、山下芳生副委員長が再審査報告で述べている。

 

このことへの反論は可能だが、どこまで踏み込んで司法審査の対象になるかは不明だ。

これまでの裁判では、地方議会、大学、宗教法人、政党等で内部自治との問題が争われたことがある。

しかし、本尊の審議が争われた「板まんだら寄付金返還請求事件」(最高裁昭和56年4月7日)では、信仰上の宗教的価値に関する判断として裁判所は踏み込まなかった。

「正信会代表役員等地位不存在確認請求訴訟」(最高裁平成5年9月7日)でも、血脈相承を受け、代表役員の地位に就くことが宗教上の理由によるときに裁判所は審理・判断できないとした。

「除名処分と比例代表選挙無効請求事件」(最高裁平成7年5月25日)でも参議院の選挙会が除名の有効性を認めたものを除名によりその有効性を審査することは政党の自律性について「行政権」の介入になるとした。

 

除名処分の理由にまで司法が踏み込むと画期的な裁判となるが、それは憲法裁判となり、パトラとソクラにはその展開はわからない。

判例変更になると、多くの影響がありすぎるとは思う。

 

 

 

4.除名手続きの妥当性について

 

しかし、除名手続きの妥当性については、すでに袴田里見の家屋明渡事件で司法審査されている。

その視点から裁判の展開を予想したい。

 

つまり、上に書いた「B 除名手続きについて」についての以下の点である。


⑤    支部での規約上の処分権限を取り上げたことが規約50条違反であること
⑥    支部委員会の同意がなかったという虚構が規約50条違反であること
⑦    処分を決定する会議で意見を述べる権利を与えられなかった党規約違反(第5条第10項、第54条、第55条への違反)
⑧    調査の前から結論は決まっていたという「特別事情」を理由とした規約50条違反であること
⑨ 除名理由である「分派活動」について、適用が党規約第3条第4項の適用違反であること
⑩ 再審査について、実質的な再審査を行っていないことが第55条違反であること

 

これらをそれぞれ袴田裁判の判決文、松竹伸幸氏の除名処分に関する共産党の見解とで比較するとこうなる。

                            

  

言語 袴田里見氏の場合 松竹伸幸氏場合 ▼共産党の主張 ▽松竹氏の主張
③支部での処分権限の取り上げ 党中央委員会の役員でなくなっていたし、特定の基礎組織(支部等)にも所属していないという特殊事情のもとにあったので、党規約64条2項が適用され、本件除名処分は党の統制委員会が行なったものである。そして被告の党規約違反の事実については、前記のとおり、党常任幹部会内の調査委員会による調査の結果、その違反行為が明らかになっている。(地裁判決) ▼松竹伸幸氏の所属党組織は南地区委員会の職場支部だったが、松竹伸幸氏がすでに全国メディアや記者会見などで公然と党攻撃をおこなっているという「特別な事情」にかんがみ、当該職場支部委員会の同意のもと、党規約第50条にもとづき、南地区委員会常任委員会として決定した。(南地区委員会)

私の除名処分にあたって、党員が所属する支部に処分の権限を取り上げたことは「特別な事情」を与えた意味の脱法的な解釈と言わざるをえない(松竹伸幸氏の再審査請求)
④支部委員会の同意 該当なし ▼松竹氏の規律違反に関する調査は全国的に大きな話題になっており、特別な事情があるもとで地区常任委員会が調査することを支部と合意して進めたものであります。支部からも、このような問題は対応できないという意見があがっていました。(第29回党大会での 河合秀和代議員の発言)

同意は完全な虚構。支部委員会はそもそも私に対する除名処分への同意を求められていません。処分の決定後、地区委員会から個別の支部委員に対して電話がありましたが、そこでは地区が処分した事実と、翌日の京都府委員会の会議で承認されるという事実が伝えられただけです。(松竹伸幸氏の再審査請求)
⑤弁明の機会 原告としては、右調査の段階で、被告に対し、党常任幹部会、又は、調査委員会への出席弁明の機会を再三与えたのに、被告はその出席を拒否して弁明をしようとしなかったうえ、中央委員会役員でなくなった後も、右統制委員会から再三出頭を要請されながら、これを拒否していたのであるから、党規約69条所定の被処分者の弁明の権利を自ら放棄したものというほかはない。(地裁判決) ▼私から2月5日の地区常任委員会で処分を決定することを告げましたが、この会議への出席を求める言及はありませんでした。(第29回党大会での 河合秀和代議員の発言)

私に対する処分を決めたとされる二月五日の京都南地区常任委員会の会議では、私は意見を表明する機会を与えられていません。会議への出席も求められていません。それどころか、二月五日に会議が開かれることは伝えられましたが、何時にどこで開催するのかさえ知らされませんでした。(松竹伸幸氏の再審査請求)
⑥「特別理由」の妥当性 被告は、党中央委員会の役員でなくなっていたし、特定の基礎組織(支部等)にも所属していないという特殊事情のもとにあったので、党規約64条2項が適用され、本件除名処分は党の統制委員会が行なったものである。
・・・・
党員に対する除名処分は党としての最も重い制裁であるところから、党統制委員会としては控訴人から十分な弁明を聴いたうえで処分を決めようとしたが(党規約第69条第1項にも、本人に十分な弁明の機会を与えなければならないと規定されている。)、前述のとおり控訴人が出頭を拒否したことから、これは自ら弁明の機会を放棄したものであるとして党常任幹部会の承認を得たうえで、控訴人からの弁明を聴くことなく、同月30日、控訴人の前記党規約違反の事実、特に、「週刊新潮」に掲載した前記「手記」の内容は党の規律を乱す重大な党規約違反であるとして、控訴人を除名処分とすることを決定し、直ちにその旨の決定を控訴人に通知した。(高裁判決)
▼松竹伸幸氏がすでに全国メディアや記者会見などで公然と党攻撃をおこなっているという「特別な事情」(南地区委員会)
松竹氏の規律違反に関する調査は全国的に大きな開題になっており、特別な事情があるもとで地区常任委員会が調査することを支部と合意して進めたものであります。支部からも、このような問題は対応できないという意見があがっていました。(第29回党大会での 河合秀和代議員の発言)

本来であれば、どういう場合に限定されるのかが規約等で明示されるべきなのです。明示されない場合は特別に抑制的に運用されるべきものです。(松竹伸幸氏の再審査請求)
⑦分派活動の妥当性 ・妻や身辺の同志などにまで、党中央の方針や活動を非難するなどしたことは、党中央に反対する自分の同調者を作ろうとする悪質な分派活動に通ずる。(地裁判決での共産党の主張) ▼松竹伸幸氏は、『週刊文春』1月26日号において、わが党に対して「およそ近代政党とは言い難い『個人独裁』的党運営」などとする攻撃を書き連ねた鈴木元氏の本(1月発行)を、「『同じ時期に出た方が話題になりますよ』と言って、鈴木氏には無理をして早めに書き上げていただいた」と出版を急ぐことを働きかけたことを認めています。(南地区委員会)

「分派活動」の定義を示すべき。過去に宮本顕治氏が述べていた分派とは「特殊の政綱」をもつものであったが、今回はそれにあてはまらない。(松竹伸幸氏の再審査請求)
⑧再審査、異議申立への回答 控訴人は、叙上のとおり被控訴人から党員としての権利制限の措置をとられたのに、その際、党中央委員会に対し異議の申立や解除請求(党規約第3条(四))をせず、その後開催された党大会への出席要求をすることもなくこれを放置して、党の右措置に従っており、また、除名処分をされた際にも、党規約第69条第2項に救済方法が定められているのに、再審査を求めるとか、党の上級機関に救済を求めるなどの手続は全くとっておらず、当該措置や処分の適否をいずれも争うことはなかった。(高裁判決) ▼日本共産党第29回党大会は16日、規律違反で除名処分となった松竹伸幸氏から提出された除名処分撤回を求める「再審査請求書」について大会幹部団が再審査し、請求を却下することを決定、代議員全体の拍手で承認しました。

 除名処分の再審査は、規約第55条「被除名者が処分に不服な場合は、中央委員会および党大会に再審査を求めることができる」との規定にもとづくもので、過去にも例があります。今回も過去の対応を踏襲して、大会幹部団が再審査し、山下芳生副委員長がその結果を大会に報告、代議員の拍手で承認されたものです。

 山下氏は、京都南地区委員会常任委員会と京都府委員会常任委員会の連名による「除名処分決定文」に明記されている処分理由に対して、松竹氏の「再審査請求書」がいずれも反論できていないことを3点にわたって説明。松竹氏の言動が党規約や党綱領を攻撃するもので除名処分は覆るものではないことを確認し、手続き上も党規約にもとづき適正におこなわれたことを報告しました。また、松竹氏が除名処分後、同調者を組織する活動をおこない、同調者に本心を隠して大会代議員になるよう呼びかけたことも指摘。党規約第4条「党の綱領と規約を認める人は党員となることができる」の規定に照らし、「松竹氏が党員の立場を喪失していることは明瞭」だとのべました。(「しんぶん赤旗」2024年1月17日)

党規約第55条は「被除名者が処分に不服な場合は、中央委員会および党大会に再審査をもとめることができる。」としている。
しかし、今回の大会での「再審査」というのは、大会代議員による審査ではなく、大会で選ばれたわずが21人の大会幹部団によるものだと述べる。そうしたのは、過去の再審査の例をふまえたものだと言うのだ。これらは党規約違反である。
(松竹伸幸氏のブログより)

 

右の部分の▼と▽には争いがある。

 

③⑥は「特別な事情」という理由が問題になる。全国で話題になっているという理由で支部の審査を地区委員会が取り上げるのはあまりにも不明確だ。それをどこが決めたのかは共同不法行為にも関わるが、地区委員会、府委員会、あるいは中央委員会の裁量権の逸脱かもしれない。

 

それに、④で支部委員会は同意していないと松竹氏は言っている。裁判で証言があればすぐにわかることだ。

もしも、本当に支部の同意がないのなら地区委員会の虚偽報告が問題になる。

 

⑤の弁明の機会については、松竹氏が録音を証拠に出せばすぐわかる。

時間と場所を告げなかったのが本当なら弁明の機会を与えていないのに等しい。

袴田里見の除名手続きは規約に沿って弁明の機会を与え、適切に告知していた。

それとの対比で見ると、いかに松竹氏の除名手続きがいいかげんなのかがわかる。

 

⑦は共産党が裁判でどう答えるか楽しみだ。しかし、裁判所は「分派活動」の定義について、党中央委員会の裁量の範囲とする可能性もある。

 

⑧は再調査、再審査が実質的に行われたかどうか、松竹氏に再度弁明の機会を与えなかったのはなぜかなどが問題になるだろう。

 

松竹氏は審査する前から除名処分は決まっていたという仮説を提示している。

その証拠になる証言などがあると、除名処分は「恣意的」なのがわかるだろう。

 

袴田氏の裁判では、袴田氏の手続き上の瑕疵から「その理由の有無の認定が著しく恣意的であるとか、その処分が不法な動機に基づきあるいは制裁の目的を著しく逸脱する等の制裁権の濫用にわたることをうかがわせる事情は見当たらず、他に右のような事情を認めるに足りる証拠はない。」と裁判所が判断した。

 

今回、松竹氏に手続き上の瑕疵は見当たらない。

むしろ、共産党側に「支部の同意」や「弁明の機会」、「再審査」での瑕疵があるように思う。

これらは「除名の理由の有無の認定が著しく恣意的であるとか、その処分が不法な動機に基づきあるいは制裁の目的を著しく逸脱する等の制裁権の濫用にあたる」のではないか?

 

裁判所の事実認定の仕方は袴田裁判の例でわかっている。

同じように事実認定されれば、どちらに手続き上の瑕疵があるのかがわかる。

 

そういうことになれば、裁判で松竹氏の勝利の可能性は高いと、パトラとソクラは思う。