5.「相当性の法理」で要求されるものは何か?

 

戦後、刑法では、230条ノ2が挿入され、名誉毀損が構成要件として成立しても、真実性の証明が認められれば、処罰されることがないとされた。また、真実であることの「誤信」に相当の理由があるときには、なお、名誉毀損罪が成立しない場合があることを明らかにされた。これは「相当性の法理」と呼ばれている。

 

「夕刊和歌山時事」事件と呼ばれる最高裁判決の解説が、『憲法判例百選Ⅰ(第7版)』(有斐閣)にも掲載されている。

これは刑事事件だが、このときの「相当性の法理」が民事事件でも適用されているのだ。

 

本判決は、表現の自由の保障範囲を拡張しているようにみえるが、実際の名誉毀損の成立範囲は「確実な資料、根拠に照らし」という要件の厳格度に左右される。そして、後の判例は、誤信の相当性の肯定に慎重な姿勢を示し、客観的な裏付けと取材内容の慎重・公正な分析を要求している。

 

 

 

これには例えば、捜査当局の発表前の捜査の関係者への取材について、誤信の相当性が認められないとした判例(最判昭和47年11月16日)や、通信社の配信記事をそのまま掲載した地方の新聞社の主張を退けて、誤信の相当性を否定した判例(最判平成14年1月29日)などがある。

 

いずれも誤信したとする相当性の根拠が求められているのだ。

 

つまり、いいかげんな根拠で誰かの社会的地位を落とすような報道や発言は民事上も名誉毀損が成立し、不法行為となるということだ。

 

 

6.射程③誤信:「こんな連中に絶対に負けるわけにはいかない」

 

そこで検討したいのが、ネットでも話題になった福岡県党委員会の内田裕委員長の「こんな連中」発言だ。

 

映像も一部流れており、かなり感情むきだしの発言だった。

 

 

問題の部分はこれだ。

 

内田裕静岡県委員長 1月15日大会初日の発言より 

問題発言部分のみ

 

「こともあろうに、こうした福岡県党の頑張りを名指しで攻撃している人たちがいます。綱領と規約を攻撃して除名されたごくごく一部の人たちです。党員拡大数を水増ししているのではないか、とか、出来もせず、全党を苦しめているだけの130%目標とか、福岡で矛盾が露呈するなどと、執拗に妨害をし続けてきました。こんな連中に絶対に負けるわけにはいかない。反共攻撃には、党勢拡大で回答を突きつけようではないかと、そういう全支部への訴えを県委員長、地区委員長の連名で出しました。福岡県党の大運動の失敗を願い、口汚く攻撃を続けた連中に対して、ここで私は言いたいと思います。我々は大会現勢を回復突破した。どんな攻撃されようと、我が党は、不当な攻撃とは断固戦い、屈することなく、必ず前進の道を切り開く。それがあなた方への回答だと。」


しかし、、1月17日に「しんぶん赤旗」紙面に載ったのはこうなっていた。

 

「このがんばりを、党を除名されたごく一部の人たちが「入党数を水増ししている」だとか攻撃しました。絶対に負けるわけにはいきません。反共攻撃には党勢拡大で回答しようではないかと全支部への訴えを県委員長、地区委員長の連名で出しました。私はいいたい。わが党は不当な攻撃に屈することなく全身の道を切り開く。それが回答だと。」

 

「しんぶん赤旗」紙上で「こんな連中」は消されている。

やはり、「しんぶん赤旗」編集部もマズイと思ったのだろうか?

 

全文だとこうなる。

 

 

1/15党大会初日 内田裕 福岡県委員長発言 全文

 

福岡の内田です。

福岡県党は、党員の大会現勢を回復突破して、この党大会にやってまいりました。大運動を通して、後退から前進へ、その第一歩を党員拡大で踏み出したことは、県党全体の大きな確信となっております。

志位委員長挨拶での党員拡大についての歴史的分析によって、特に90年代において、党員拡大が事実上後景へ押しやられ、空白の期間が生まれたことが、今日、党の年齢構成に大きな傷跡を残し、困難を作り出していることもよくわかりました。

党員拡大は意識的に継続的に戦略的に取り組んでこそ前進の軌道に乗せられることも、党の歴史を踏まえてよくわかりました。大運動期間を通した福岡県における党員拡大は、3457人に働きかけて、408人の入党決意を勝ち取りました。福岡県は12の地区で構成されていますが、この大運動に入って半年間、毎月毎月全地区が入党者を迎え続けました。

まさに継続こそ力でした。党勢拡大、とりわけその根幹であります党員拡大は、様々な困難を乗り越える粘り強い努力が必要であります。前進していくためには、党機関の構えがどのくらい確固としているか、ここが大事となります。私はどんな困難に直面しようとも、自ら立てた目標は堅持する、これだけは絶対に譲らないと自分に言い聞かせてきました。ここを譲ったら、選挙には勝てないし、日本の夜明けもやってこないのだ。県委員長として、さらに県常任委員会として、地区委員会や支部の意見は丁寧に聞くし、指導援助も丁寧に行うことは当然でありますが、やり取りの中で目標を堅持し、その実現達成を目指すという点は絶対に譲ってはならない。断固貫徹する。大会現勢を突破する上で、この党機関、とりわけ県委員長と県常任委員会の構えが決定的だったと思います。

県委員会や地区委員会の自ら掲げた目標はどんな困難があっても、貫く、その姿勢に多くの支部が応えてくれました。いくつもの支部の奮闘記、経験がたくさん生まれました。その中の一つ、東博多地区委員会の若舞支部の経験を紹介したいと思います。若舞支部は、一昨年の参議院選挙の直後に支部長が赤旗配達中の事故で急死して、大きな痛手を受けました。本当に大きな痛手でした。統一地方選挙では、福岡市東区の県議の議席を守り抜けず、悔しい結果に終わりました。支部は選挙に勝てる地力をつけようと臨戦態勢も強化して、大運動で頑張りました。何としても新しい党員を迎えようと、19人に入党を働きかけ1人を迎えました。読者拡大でも、日刊紙12人、日曜版42人を拡大し、両方とも大会現勢を突破しました。

亡くなられた支部長の連れ合いも、夫の遺志を継ぐと、入党されました。党歴ちょうど1年の新入党員であります。そして、夫はお経を上げてもらうよりも、赤旗を読みたいだろうと。毎朝、遺影に向かって赤旗を1時間音読しているということであります。下りの支部総会では、副支部長を引き受ける決意もされており、立派に夫の意思は受け継がれています。こうした一つ一つの支部の苦労と努力、目標達成を目指す党機関の執念、頑張りによって勝ち取られたのが、党員拡大での大会現勢回復・突破なのであります。

 

こともあろうに、こうした福岡県党の頑張りを名指しで攻撃している人たちがいます。綱領と規約を攻撃して除名されたごくごく一部の人たちです。党員拡大数を水増ししているのではないか、とか、出来もせず、全党を苦しめているだけの130%目標とか、福岡で矛盾が露呈するなどと、執拗に妨害をし続けてきました。こんな連中に絶対に負けるわけにはいかない。反共攻撃には、党勢拡大で回答を突きつけようではないかと、そういう全支部への訴えを県委員長、地区委員長の連名で出しました。福岡県党の大運動の失敗を願い、口汚く攻撃を続けた連中に対して、ここで私は言いたいと思います。我々は大会現勢を回復突破した。どんな攻撃されようと、我が党は、不当な攻撃とは断固戦い、屈することなく、必ず前進の道を切り開く。それがあなた方への回答だと。

 

党員拡大で、前回大会水準を回復突破しました。しかし、私達の目標はもっと先にあります。中央委員会報告は、2028年末までに期限を切って、130%の党作りを提起しています。この提起を片時も忘れることなく、正面から挑戦する決意であります。どうすれば130%の党への道を切り開けるのか。鍵は全支部全党員の運動にすることであり、そのための党の質的強化にあります。党員拡大では、大運動期間中を通して、6割の支部が入党の働きかけに足を踏み出し、3割の支部が入党者を迎えました。逆に言えば、7割の支部は入党者を迎えられないまま、4割の支部は働きかけさえできていないままとなっています。支部の立ち上がりで、県内で最も進んでいるのが、中央委員会報告でも紹介されました、福岡西部地区であります。大運動の中で8割を超える支部が新入党の働きかけに踏み出し、6割を超える支部が新入党員を迎えています。最大の教訓は、支部会議の開催、定例化であります。西部地区では、毎月9割以上の支部が支部会議を開き、6割以上は毎週開催です。その会議で政治討議を積み重ね、地道な学習を続けています。支部会議を軸とした党の質的建設を抜本的に進めることが、130%への道だと確信します。当面する総選挙とともに来年1月、ちょうど1年後には北九州市議選挙もたたかわれます。大会決定の徹底、全党員読了と全支部討議を力に、党の質的強化を図り、これらの選挙を勝ち抜いて、次の党大会では大会県勢回復突破にとどまらず、文字通り130%の党作りを、こうやってやり抜いたという報告ができるように頑張ります。ともに頑張りましょう。

 

 

 

「除名されたごくごく一部の人たち」とは、「鈴木元氏と松竹伸幸氏」だと事情を知っている者なら誰もがそう思うだろう。

その人たちが「党員拡大数を水増ししているのではないか、とか、出来もせず、全党を苦しめているだけの130%目標とか、福岡で矛盾が露呈する」と言ったことになっている。

誰がどういったか内田県委員長の発言のなかでは明確ではない。

 

だが、鈴木元氏は、たしかに自らのYoutubeで、福岡県党委員会のことを殆ど部数が増えていないとか、130%の目標は止めるべきだ言っている。

 

 

では、松竹伸幸氏はどうなのだろうか?

 

9月29日のブログで松竹氏はこう書いている。

 

共産党が現在、全力で進めている「130%の党づくり」を成し遂げる方針の核心は何か。9月15日に行われた志位さんの記念講演(党創立101周年の)を視聴し、それを力にすることだ。28日付「赤旗」党活動欄のトップの見出しも「記念講演をエネルギーに党勢拡大飛躍へ力集中」というものだった。毎日の「赤旗」のなかでは、あらゆるところで志位講演の重要性、それを視聴することの大切さが、くり返しくり返し説かれている。

 

ところがだ。この福岡の連名の訴えのなかでは、本文でちょろっと志位講演の大事さが書かれているが、先ほど紹介したとおり、全体の大方針を打ち出すべきタイトルのなかでも、具体的な二つの方針のなかでも、「志位講演を視聴してがんばろう」ということが書かれていないのである。

 

・・・ 

 

これを力にして党勢拡大しようと呼びかけられていたが、そんなことを方針にしたら、読み終わらないうちに9月が終わってしまうという感想をもった。福岡の内田県委員長も似たような感想を持ったので、志位講演の意義は書いたけれども、方針にはしなかったというのが、実際のところではないだろうか(ついでに言えば、本日の「赤旗」には福岡市議が支部に宛てた手紙が掲載されているが、そこにも志位講演という言葉は一つも出てこない)。

 

 ・・・

 

私がこんなことを書いたら、「反革命勢力の松竹がまた反共攻撃をしてきた。党員を増やして目標を達成することが攻撃を打ち破る力だ」とかもっと強く言えるようになって、福岡県党全体にがんばる力が湧いてくるかもしれない。だから、こんな本日の記事を、あえて書いてみた。

 

 

このことを内田県委員長は言っているみたいだが、まあ、松竹伸幸氏についてはまったく事実無根と言える。

 

もし裁判でこのことを取り上げられたら、内田県委員長側は「ごくごく一部の人たち」とは言ったが、「松竹伸幸」とは言っていないと言うかもしれない。

 

では、「たち」という複数形は鈴木元氏と誰のことなのか?

 

というような、しょうもない応酬になる可能性がある。

 

内田裕氏がこの発言で「松竹伸幸氏」のことを念頭に置いていたとしたら、「相当性の法理」の「確実な資料、根拠に照らし」という要件の厳格度は満たしていないだろう。

しかし、「これは松竹伸幸氏のことを指していない、鈴木元氏のことである」と言い張ればなかなか主張を崩すこともできないだろう。

 

でも、この内田裕と言う人、もともとこういう人物なのだ。

 

 

 

党中央の市田副委員長ががこう言うとそのまま信じる。

 

党の外から党を攻撃すること、例えば規律違反で除名された元党員などのように数か月も前から周到に著作の出版を準備していました。本の出版は一日二日で準備できるものではありません。まるで計ったようにこの本が出版されたときに、この本が出版された日に週刊文春の文藝春秋者が記者会見をお膳立てをして、その日に週刊文春に除名された人間のインタビューが載る。党の調査のなかで、この除名された党員はこの本ので明らかにした内容を一度も党の正規のルートに則って意見を上げたことはない、そう表明しました。

 

そして処分が決定されたその日に日本記者クラブで記者会見した。記者クラブというのは会見したいからと言ってすぐ応じてくれるところはないです。周到な準備なしにはできません。

 

除名したのは統一地方選挙の前でタイミングが悪すぎたことがある。統一地方選挙が終わってからならよかった。しかし、統一地方選挙の前のタイミングを選んで、鈴木という男といっしょにこの本を統一地方選挙の前に出したら、効果は抜群だという相談までしていた。善意の党の改革者だったら、こんなことしませんね。私ほど党を愛している人間はいませんということで、松竹氏は共産党を批判する。

 

鈴木っちゅう男は、もう自民党以下になっていますね。産経新聞のインタビューにも応じる。鈴木という男は私(市田)のことを、タワーマンションに住んでいる。ほんとはその隣のタワーマンションの谷間のマンションに住んでいるんですが、8000万円もするマンションを党に金を出してもらって住んでいる。議員を辞めたのに議員並みの生活をしている。普通の党員は汗して働いているのにというようなことを本に書いている。 

なのに彼の本を読んで、いいこと書いてあるなと、党の8中総を読まずに、鈴木の本の窓から見ると、党を解体することに繋がるわけですね。こう言う行為はどこから見ても規律違反です。

 

そして、党中央の言うことをすべて信じ、鈴木元氏と松竹伸幸氏を一心同体のように扱う。

 

思い込みが激しい人たちの集まりなのだろう。

 

さきの内田県委員長の発言のなかでこういうエピソードが紹介されていた。

 

支部長が赤旗配達中の事故で急死して、・・・亡くなられた支部長の連れ合いも、夫の遺志を継ぐと、入党されました。党歴ちょうど1年の新入党員であります。そして、夫はお経を上げてもらうよりも、赤旗を読みたいだろうと。毎朝、遺影に向かって赤旗を1時間音読しているということであります。

 

これを感動する話と捉えるか、まるでカルト教団のようだと捉えるかは、ひと様々だろう。

 

でも、お経と日々の赤旗が同列になっているのはスゴいとしか言いようがない。

 

すくなくとも内田県委員長はこれを感動するエピソードとして紹介している。

内田県委員長は、いろんなことを「誤信」しているのか、事実と妄想がごっちゃになっているのかよくわからない。

 

でも、内田委員長の「こんな連中」発言で、名誉毀損は残念ながら成立しないだろう。