(提訴の記者会見を行う松竹伸幸氏)

 

3.真実性の証明とはなにか?

 

次に問題にしたいのが、真実性の証明というテーマです。

 

その人の名誉を棄損したとき、指摘した事実が真実でなかったとしても、それを真実だと信じた根拠があれば、名誉棄損が成立しない場合があるのです。

では、民事裁判で、真実だと思って、誰かを名誉棄損したときに、それが真実でなかったら、名誉棄損した人が不法行為になるときと、ならないときとはどういう場合でしょうか?

 

 

 

またまた、この本にこういう記述があります。

 

民事裁判でも、某新聞が某政党を非難する趣旨で、「……と伝えられる」「……だといわれる」「当局は見ている」「当局は注目している」等の表現を多用した記事について争いとなった事件があった。東京地裁の判決は、「他人の名誉を傷つける性質を有する具体的事項の風評を、その風評の内容である事項についての真実性に何等の顧慮を払わず、記事として掲載したとすれば、その記事の掲載が違法のものであることは疑いを容れない」とし、また記事が「伝えられる」「いわれる」とされた具体的事実についての証明またはその実在を信ずることに通常人より見て相当の理由がある場合でないかぎり、記事の違法性は免れないとしている(東京地判昭和三七年匸一月二五日、判時三三二号一八頁)。

かくして、現在、事実の証明の対象となるのは、風評そのものが存在することではなく、その風評の内容たる事実の真否であるという考え方が主流となっているのである。この考えによれば、被告らの証明すべき事実の対象となるのは、風評そのものが存在することではなく、その風評の内容たる事実の真否である。

 

 

 

 

名誉棄損裁判は、刑法のように構成要件該当性と棄却事由の構造は、民事事件にはありませんが、真実についての「相当性」という概念で刑法にならっています。

このあたりのことを『憲法判例百選(第6版)』(有斐閣)にはこう書かれています。 

 

民法上の不法行為としての名誉毀損に関しては,刑法のような免責規定は存在しないが,最高裁は,最判昭和41・6・23(民集20巻5号1118頁)において,刑法230条の2の規定の法理が妥当するとした。そして,「もし,右事実が真実であることが証明されなくても,その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには,右行為には故意もしくは過失がなく,結局,不法行為は成立しない」と判示して,真実性の証明の要件を緩和した。

 

(略)
 

名誉毀損に関する刑事事件はその数が非常に少ないが,最高裁は,本判決後の最初のケ-スである松川事件第1審で有罪判決を下した裁判長に対する事件(最決昭和46・10・22刑集25巻7号838頁)やいわゆる丸正名誉毀損事件(殼決昭和51・3・23刑集30巻2号229頁)において,誤信について「相当の理由」があるとはいえないとした。

その傾向は下級審の判決にも顕著にみられる。たとえば,「月刊ペン」事件の差戻後第1審判決(東京地判昭和58・6・10判時1084号37頁)は,「その事実の真実性,例えば関係情報の出所の信頼性,資料内容の正確性等につきあらかじめ克明な調査・検討をし,確実な資料・根拠に照らし真実であると信ずるに足りる相当な理由があることを確かめる」ことが必要であるとして,「相当の理由」の存在について非常にきびしい判断をしている。その他の下級審の判例についても同じ傾向がみられ,「相当の理由」があるとして刑事免責が認められた判例はきわめて少ない。

 4 他方,名誉毀損に関する民事訴訟は頻発・急増してきているか,最高裁は民事訴訟においても「相当の理由」について厳格に判断してきており,最判平成11・10 ・ 26 (民集53巻7号1313頁)は『相当の理由』の存在を肯定した異例のケースであろう。この事件では刑事第1審判決の認定した事実を真実と誤信して,書籍の中でその事実を摘示したことについて,「相当の理由」があると判示したのである。

 

(略)

 

民事上の名誉毀損訴訟においては,前述した判例のように,刑事判決の認定した事実を摘示した場合や,捜査当局の公式発表にもとづいて事実を摘示した場合には,「相当の理由」の存在が肯定されると類型化できよう。が,それ以外の場合には,事実の摘示をめぐる諸般の事情を総合的に考慮して,個別の事案ごとに「相当の理由」の存在を厳格に判断するという傾向がみられる。その結果,わが国の名誉毀損訴訟においては,名誉権を保護することの方に重点がおかれ,優越的地位にある表現の自由との調整が十分でないと批判されている。

 

 

 

つまり、「名誉棄損裁判」は、表現の自由と名誉権の争いと言えます。判例では一定、表現の自由への緩和がなされましたが、やはり日本では真実性の追及を重んじて、名誉権の保護を重視しているのです。

 

その際に、真実性の追及とは、「その事実の真実性,例えば関係情報の出所の信頼性,資料内容の正確性等につきあらかじめ克明な調査・検討をし,確実な資料・根拠に照らし真実であると信ずるに足りる相当な理由があることを確かめる」ことが必要だということです。
いい加減な情報源や思い込みで発言や報道をすると、その真実性の証明ができなくなるのです。

そこが今回でもポイントでしょう。

 

 

4.射程②真実性の証明:「権力の側に取り込まれている」「そういう勢力と結託している」ことは真実と信じられるのか?

 

まずは、2月19日に市田忠義副委員長が行った京都乙訓での演説です。

 

「彼(松竹伸幸さん)は周到な準備をして出版物を発行して、記者会見を開き、だいたいですね、日本記者クラブがその場を提供するということは、誰もやれる場所ではない。そういところを提供したということは、共産党バッシングを大いにやれ、平和の大攻勢をかけられたら困るから、そういう勢力と結託している。松竹さんが出された本はどこからでているか。文藝春秋なんですね。文春と相談し、党内をかく乱するためには値段も安くしましょう。記者会見で公然と語っています。」



次に伊藤岳参議院議員は、二月末に仲間内の共産党後援会とでこう発言しています。

 

「そこに目をつけたのが今の権力側なんですね。共産党の中にいる松竹伸幸という人の主張に目をつけて本を出さないか、雑誌のインタビューに応じないか、いろいろ攻勢をかけていたことが明らかになりました。彼はそれに応じて本を出しました。彼のブログなんか見ますと、完全に権力の側に取り込まれちゃっているんです。利用されている。敵権力は党の内部でもこういうことを言っている人がいる、という事を外に漏らして、いかにも共産党が時代遅れだと言うようなことを醸し出そうとした。それにまんまと乗せられた。これが松竹問題の真相だと思うんですね。」

 

これらは松竹伸幸氏のブログからですが、ここまで会話を忠実に再現しているということは、音源も入手しているのだと思われます。
 

 

 


2023年10月6日に行われた第9回中央委員会総会での小池晃書記長の結語が意味深長です。

 

「しんぶん赤旗」の中祖寅一政治部長は、いまの党攻撃が、権力、メディアと一体となった大掛かりな党攻撃であることをリアルに示しました。全体像が非常に深まったのではないでしょうか。」

 

 

 

党の中央委員会総会でのこの発言には重みがあります。

でもちょっと何のことかわかりませんね。


ここで発言された「権力、メディアと一体となった大掛かりな党攻撃であることをリアルに示しました」とは何のことでしょうか?

松竹氏のブログによると、この小池氏の発言を「赤旗」幹部記者会議(10月10日)で、中祖氏が説明したようです。

 

「(2023年)2月9日の夜、大手紙関係者と懇談。『松竹氏が私を取り上げてほしいと言ってきた。各社に行っているようだ』。……

 

 松竹氏はメディアに働きかけ、大手メディアが対応し、松竹氏の主張に追随してきたのが実態だ。朝日はウェブ論座で3回も松竹氏を取り上げた。

 

 年初のタイミング、統一地方選前を選んでいたのは、松竹氏とメディアだ。この時期が効果的だとメディアが判断した。

 

 なぜメディアが松竹氏の後押しに動いたのか。それは、松竹氏の主張が支配層にとって歓迎すべきものだからだ。安保政策の変更、党首公選制、民主集中制の放棄など干渉的攻撃と一致するものだ。

 

 とくに2021年の総選挙後、野党共闘は崩壊したとし、日本共産党への攻撃を強めてきた。支配層やメディアは松竹氏を使えると考えたのだと思う。……

 

 今起きていることは、支配階級の大掛かりな攻撃だということを認めて、正面からたたかうことが必要だ。」

 

 

 

 

さて、松竹伸幸氏が「権力の側に取り込まれている」「そういう勢力と結託している」ことは真実なのでしょうか?

 

「権力の側に取り込まれている」という事実の真実性、例えば関係情報の出所の信頼性はあるのでしょうか?

 

だいたい「権力の側」と呼ばれている「権力」とは文藝春秋社?

文藝春秋社って、田中角栄の金脈を暴いたり、ロッキード事件をスクープしていましたよね。

権力を批判したりもする権力?

 

大手出版社から出版したことが問題なら、不破哲三氏は新潮社から出版していますよね。

 

 

 

 

果たして、共産党の幹部たちは、「資料内容の正確性等につきあらかじめ克明な調査・検討をし、確実な資料・根拠に照らし真実であると信ずるに足りる相当な理由があることを確かめること」を行ったのでしょうか?

 

松竹氏はブログでこんなことも書いています。

 

あなた(中祖氏)は、2月9日には大手紙関係者(おそらくあなたの旧知の朝日新聞記者でしょう)と懇談して事実をつかんだとして、得意げに報告していました。あなたの取材能力はすごいのですね。

 

びっくりしたこともあります。私はいま述べたように、本の刊行直前、伝手を使っていろいろなメディアに連絡をとり、政治部の責任ある方に今回の本の説明をしたいと申し入れたのですが、中祖さんの話のなかでは、私のそういう「工作」の失敗例が得々と語られていたからです。

 

確かに私は、中祖さんが指摘したように、東京新聞にはお会いすることができませんでした。とはいえ、それが中祖さんに知られてしまって「びっくりした」のではありません。その事実は、党と中祖さんの私への批判の根拠をみずから掘り崩すものだから、なぜそんなことを堂々とお話ししたのかに驚いたのです。

 

 

 

 

たぶん、このときの音源があるか、証言者がいるのでしょうね。

これまた忠実に会話が文章に再現されています。

 

それがあれば、中祖氏が言っている「メディアが松竹氏の後押しに動いた」「松竹氏の主張が支配層にとって歓迎すべきもの」というより、松竹氏が自身の除名処分に抗して、自ら営業努力を重ねて、メディアがそれにニュース価値を見出したにすぎないことがわかります。

 

真実性の証明はこれでアウト!

 

つまり、市田忠義副委員長、伊藤岳参議院議員、中祖寅一「しんぶん赤旗」政治部長による松竹伸幸氏への名誉棄損は成立する可能性が高いでしょう。

 

ほかにも松竹氏を名誉棄損したような音源や録画があれば、松竹氏の弁護士団に集まってきそうな気もします。