TOMORROW 明日/桃井かおり
¥3,799
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↑Amazonでは下で紹介する音楽のCDが在庫切れのようですので、とりあえずDVDの方をリンク貼っています。
梅雨も明け、また暑い暑い夏がやってきました。そしてもうすぐ広島・長崎に訪れる63回目の夏。
私が原爆の事実を知ったのは、おそらく朝の連続ドラマ小説「鳩子の海」(今から35年ぐらい前の朝ドラです)を見てからだろうと。
成人した主人公の記憶喪失の原因が、実は子供時代の広島での被ばくによるショックだったことが明らかにされる回があり、それを見た小学校低学年の私は、子供時代の主人公とそれほど年が変わらないこともあって、主人公が狂わされた人生にとても衝撃を受けました
その衝撃が私にとって原爆を考えるきっかけになったのか、それ以降少しずついろんな書物や読み、原爆関連のテレビ番組、ドラマを見て考えるようになりました。
そして出会ったのがこの映画「TOMORROW 明日」(1988年)です。
長崎の原爆投下の「前日」を生きる戦時下の人々の営みを淡々と切々と描いている秀作です。人々が愛おしく思え、そしてとても残酷で切ない映画です。
1945年8月8日。次女(南果歩)の祝言をメインに描きながら、長女(桃井かおり)が挑む初めてのお産や母親(馬淵晴子)の娘たちに対する献身的な姿、女学生である三女(仙道敦子)が経験する入隊する恋人との別れ…など、実に様々な人たちの一日が描かれています。
戦争に対する不満は端々に出てくるものの、人々はいつかは終わるだろうと思っていて、終わったらこんなこともしてみたいと未来に思いを馳せている。
私が好きなシーンは、結婚した次女が夫(佐野史郎)に、祝言の時の残り物である肉天(天ぷらの一種みたいです)を差し出した時、夫が分け合おうとするところです。
それを次女がお腹いっぱいだから、と言って断ると、夫は今度は「じゃあ半分は明日の弁当のおかずに」と言う。でも明日の弁当のおかずはもう用意しているからと言われて、ようやく一枚の肉天を口にする。
何てことのない、と思われる描写かもしれませんが、このやり取りがとても好きです。
人間の基本中の基本ともいうべき相手に対する優しさ、労り、譲り合いというのでしょうか。
昔だから、物がない時代だからとかそんなことは関係なく、人間としてきっと誠実な人たちなのだと思うのです。この映画では随所にこういうシーンがあり、なんだか頭が下がります。
この映画は、それまで私がドラマなどで見てきた原爆作品とは異なるものでした。
今まで見てきた原爆作品は、どちらかと言えば直接的なシーンを描くことで原爆投下直後の惨さを戦争を知らない世代に伝えたい、というメッセージが強いものだったように思います。
そのメッセージは確かに必要で、継続していくべきことと思います。
なぜならその惨さを私たちは知らないから。
でも、この映画ではラストに原爆が炸裂します。きのこ雲が映し出されるのみ。
戦時下の生活を窮屈に、でも真面目につつましく生きていた様々な人たちが
まさか自分たちに明日が来ないとは誰が想像しただろう、
そしてなぜこの人たちの頭上に落されなければならなかったのだろう、という
悲壮なまでの問いをラストになって初めて観客に投げかけてくるのです。
そして投下後の状況をあえて見せずに観客の「想像力」に委ねる映画です。
この委ねられた部分は、ある意味観客を突き放しているのかもしれません。
直接的なシーンを見せずに「あなたたちはこの事実をどう考えますか?」と
聞いてきているように思うからです。
これほど果てしなく重いものはありません。
その重さを知り、私は呆然となるのです。
何回見ても、ラストを見たその印象が覆ることはありません。
そして何度でもこの先、この映画を見続けようと思っています。
この映画には劇作家の竹内銃一郎さんが脚本に入っていたり、黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」の脚本にも参加した松田正隆さんが、この「TOMORROW明日」を見て劇作家になろうと思ったこととか、三池崇史監督も関わっていたことも最近知りました。私が大切に思う映画に、才気ばしった当時の若手の人たちが仕事をしていたり、思いを寄せたりしていたことは、とても嬉しく思います。
そして語らなければならないのは、全編に流れる松村禎三さんの音楽。
管弦楽器と思われる、美しく悲しげで糸をピンと張ったような緊張感のある旋律が、
映画の中で密やかに流れます。旋律を繰り返し繰り返し奏でるので、最初はあまり気付かなかった音楽の存在に段々と気付くようになるのですが、映像を決して邪魔することなく、静かに支えているよう。
ところが、この美しい旋律がラストに向かうに従って、時計を刻むような音とともに強く、繰り返し、繰り返し鳴り続けるのです。映画の最初から鳴っていた旋律なので同じはずなのに、違って聞こえてきます。それはまるで怒っているような、悲しんでいるような、そんな激しさを感じるのです。
音楽も映画と同じように、原爆に対して怒りを抱いているという現れ(意思表明)のようにも思えます。
このラストに向かう部分は、何度聞いても胸が塞がります。
そして、原爆が落ちた後の旋律は激しさは消え、いつもと同じように奏でるだけ。
それは聞いているとまるで鎮魂歌のようです。長年聞いてきた音楽ですが、最近ようやくそんな風に思い始めています。
↓下の写真は、松村禎三さんのCD「松村禎三の世界」です。上でも書きましたが、
残念ながら現在は在庫がない模様。映画でお仕事をされた曲が入っています。
1.「朝やけの詩」
2.「地の群れ」
3.「忍ぶ川」
4.「とべない沈黙」
5.「キューバの恋人」
6.「わが愛・北海道」
7.「祭りの準備」
8.「ぼくのなかの夜と朝」
9.「ラス・メニナス」
10.「道成寺」
11.「月山」
12.「暗室」
13.「息子」
14.「ダウンタウン・ヒーローズ」
15.「深い河」
16.「千利休 本覺坊遺文」
17.「浪人街」
18.「TOMORROW 明日」