こだわりのつっこみ -14ページ目

こだわりのつっこみ

素人が音楽、小説、映画などを自己中心的に語ります。

レベル:若干長めですが中学2~3年生レベルなので1日くらいで読めると思います。


ジャンル:ノンフィクション小説


あらすじ(背表紙から):

He is not beautiful.
His mother does not want him, children run away from him.
People laugh at him, and call him 'The Elephant Man'.

Then someone speaks to him - and listens to him!
At the age of 27, Joseph Merrick finds a friend for the first time in his life.

This is a true and tragic story.
It is also a famous film.


面白さ:★★★☆


※以下、結末まで話します。嫌な方は見ないでください。











The Elephant Man: Level 1 (Oxford Bookworms Lib.../Tim Vicary
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内容:
1884年のある日、医者のTreveは自身が勤める病院の近くのある店で、奇妙な写真を見つけます。
気になったTreveは、その店に入り、店主にその写真に写っていた「生物」を見ることにするのですが、その「生物」は人間で、なんともいえないほどの異臭と醜い面をしていたのです。さらに、その人間の左手が若い女性のように異様に綺麗だったことがTreveに興味を抱かせ、その人間、Joseph Merrickを病院で検査をしようと連れ出します。

さて、その後再び店に連れて帰ったのはいいものの、店主とJosephはどこかに消えてしまいます。何年も経ったある日、Josephは警察に保護されたことから、再びTreveの病院へと搬送されるのです。
Josephの不幸な境遇を新聞紙で知った人々は、次第に寄付をするようになり、彼は病院で、読書をしたり、時には看護師たちに工作物をプレゼントしたりしながら、次第に人間としての心を持っていきます。

さらには、皇太子妃をはじめとする様々な人々との交流により、彼を「醜く汚い奇妙な生物」とみなす人はいなくなってきていました。

農村でしばらく滞在し、満喫した後に病院に戻ったJosephですが、ある時、突然亡くなってしまいます。
頭が以上に大きく、重かったので、普段布団を抱くようにして座りながら睡眠をとっていたJosephでしたが、その日、彼は普通の人間と同じような格好で寝たのです。
それが重い彼の頭に血を上らせ、首の骨が折れてしまったのでした。


感想:

なんという不運な運命、そして悲劇的な結末ショック!!!

次第に人間としての心を持ち始めたJosephがさらに普通の人間としての営みを体現したかったのでしょうか。
人間のように仰向けで寝る、ということが彼にとっての致命傷になってしまったのだと思うと、なんだか胸が苦しくなりました。

どうやらこれは、映画化されているようで、しかもなんと監督は、私の敬愛する、愛すべき巨匠デヴィッド・リンチとのこと。
ぜひぜひ、近々に鑑賞しようと思いました。

あの奇才(鬼才)はどのようにこの物語を料理するのかなぁニコニコ

 1996年に公開された市川準監督、本木雅弘主演の日本映画です。
実在した「トキワ荘」と、そのトキワ荘に住む後に有名になる
駆け出しの漫画家たちの青春を描いたフィクション映画です。

ストーリーや感想については、ネタバレが含まれますので、下記をご覧ください。



ストーリー★★★★
配役★★★★(おそらく、今では考えられない豪華な布陣です)
音楽★★★★☆
オープニング★★★☆



スタッフ
・監督 市川準
・原案 梶井純『トキワ荘の時代―寺田ヒロオのまんが道』
・脚本 市川準、鈴木秀幸、森川幸治
・撮影 小林達比古、田沢美夫
・美術 間野重雄
・音楽 清水一登、れいち

キャスト
・寺田ヒロオ                本木雅弘
・安孫子素雄(のちの藤子不二雄A)  鈴木卓爾
・藤本弘(のちの藤子・F・不二夫)    阿部サダヲ
・石森章太郎                さとうこうじ
・赤塚不二夫                大森嘉之
・森安直哉                  古田新太
・鈴木伸一                 生瀬勝久
・つのだじろう               翁華栄
・水野英子                 松梨智子
・手塚治虫                 北村想
・つげ義春                 土屋良太
・棚下照生                 柳ユーレイ




~2010.4.18~

アップストーリーダウン

「トキワ荘」というアパートには、「マンガの神様」と言われる手塚治虫が住んでいたことから、やがて彼を慕った漫画家たちがこのアパートに住み着くようになります。
例えば藤子不二雄石森章太郎赤塚不二夫
彼は一時期同じアパートで暮らし、ともにその才能を研磨しあったのです。

そして、寺田ヒロオ、この映画の主人公、彼もまた漫画家であり、このトキワ荘の古株として、
また兄貴分として、若き才能たちを時にやさしく、時に厳しく見守っていました。

真面目で、きちんとした生活を送る寺田の描く作品は、性格を反映しているような、純真な子供心を育む、柔道や相撲、野球などを題材に描くスポーツ漫画。
登場人物もいい人ばかりで、ストーリーも優しい。

しかし、時代は映画のような刺激的なストーリーを求めるようになっており、そんな「古い」タイプの寺田の作風は次第に
、時代から遅れだしてきたのです。

同じトキワ荘に住む漫画家たちの卵も、すでに頭角を現し始めた藤子不二雄や石森章太郎たちと、なかなか芽の出ない赤塚不二夫や森安直哉鈴木伸一たちの売れない漫画家に二分されつつありました。

さて、物語中盤では、泣かず飛ばずだった赤塚不二夫がようやく認められるようになったものの、鈴木伸一はアニメーターとして生きていくことを決意、森安直哉も漫画の道から足を洗い故郷へと帰っていくことでトキワ荘を去っていきます。

売れてはいたのだが次第に時代に取り残されていく最年長の寺田ヒロオ。
時代に合わせた漫画を「描けない」のではなく、「描かない」という自身の美意識を捨てることをせず、彼もまた漫画界から身を引いていくのでした。



音譜感想と見所音譜

さて、この作品は、あくまでもフィクションとして作られたものなので、若干現実とは異なる部分があるとは思うのですが、
そうであっても、あの時代の雰囲気、今は取り壊されてしまったマンガの聖地「トキワ荘」と、そこに暮らす若き漫画家たちの青春を見事に描いたなぁと感激いたしましたビックリマーク


①ストーリーについて
まず、ストーリーですが、寺田ヒロオを主人公にしているので、やはり重くなりがちで、サクセスストーリー的なものを味わえるものではありません。
さらに、成功してきている石森や藤子よりも、売れない側の赤塚や森安にスポットが当たっているために、その感もひとしおです。

むしろ、作品に流れる雰囲気は非常にもの静かで、盛り上がるという場面はほとんどありません

しかし、それだけに寺田の心理描写、活躍していく漫画家とそうでない漫画家の悲哀を良く伝えているのです。

なんだか「新漫画党」の結成の場面や飲み会の場面では、おどろくほどあっさりした関係で、ぜんぜんべたべたしていないのですが、
こうした関係にありながらも、お互いはライバルとして、一つ屋根の下に暮らす者として、漫画同士で繋がっているという部分の表現はすごく細やかだと思います。
例えば寺田の赤塚にかける言葉や、石森の赤塚への優しさ。
さらに寺田の森安の作品への寸評や、寺田が石森の姉に語る、石森章太郎という天才について。

しかし、当の寺田も、時代に取り残されてきているとはいえ、彼の実直な漫画を否定するシーンばかりではありません。
例えば…
 ①石森の姉が、「私は寺田さんの作品、好きです」と語る。
 ②(漫画家志望?の)学生が寺田の部屋で、寺田に感想を語る。
 ③ラスト・シーン、土手で野球を観ていた寺田のもとに流れ飛んできたボールが。それを取りにきた野球少年のユニフォームは「背番号0」(これは寺田の代表作の一つなのです)。そして、少年が発した言葉は2つの意味に取れる「ありがとうございました」

特に、③に関しては、寺田がトキワ荘を出る直前、藤子らとともに相撲を取る(これもおそらく寺田の代表作「スポーツマン金太郎」のオマージュに思えます)シーンともあいまって、胸がつまりますしょぼん

寺田はかわいそうな人ではなく、プライドをもって漫画を描き、その漫画が多くの人に愛されていたのだ、ということがひしひしと伝わるのです。


②キャラクターについて
キャラクターも、ほんと、きっちりうまくはまっているなと思います。

古田新太さんや阿部サダヲさん、生瀬勝久さんなんかは公開当時(1996年)はそんなにテレビに出ている印象はなく、まさに役者としての彼らの立場と、トキワ荘の駆け出していく才能の立場が重なっている気がして、演技も非常に面白いです。

特に、森安直哉役の古田新太さんの憎めない感じと、赤塚不二夫役の大森嘉之さんの才能を開花させきれない感じの演技はすばらしいですよ目


漫画家として売れないために、牛乳屋でバイト(?)をしている森安。
その牛乳屋での主人と森安の会話。

主人「やめとけ、売れない漫画家なんか。やめろやめろ。」
森安「これがなかなかやめれんのですわ。」
(85分付近)

この森安直哉に、監督の伝えたかったことがあるんじゃないかなぁ、という気がしてなりません。
この言葉、実際に色んな夢を見てきた人が現実にぶつかる際に、親・友人・恋人なんかに言われる経験があると思います。

ああ、そうそう、
もちろん主役、寺田ヒロオ役の本木雅弘さんの演技もすばらしいです。
頼れるが、実は無理をしている部分もあり、現実と理想に悩む青年漫画家をよく演じていると思います。


③音楽について
次に音楽ですが、オリジナルの音源もありまして、それもまた綺麗なのですが、それよりも漫画家たちの部屋から聴こえる当時の歌謡曲などがそのままBGMとして多用されています。
それがまた高度成長のあの雰囲気を伝えるようでいいんだまた。

それに、演出としての音楽の使い方もすばらしい

例を挙げると(とはいえ、ここは私自身の思い込みかもしれませんが汗)

(1)
藤子不二雄や石森章太郎が聴く音楽=ジャズやクラシック音楽=当時の最先端。

一方、

寺田が聴く音楽=歌謡曲=ちょっと遅れている。

というのがそのまま彼らの作風を表しているよう。

(2)
石森と赤塚の食事中に(といっても石森は漫画を描いているが・・・)、流れている音楽はバッハ。

赤塚が出て行った後、石森と石森姉だけになった部屋にに流れる音楽はモーツァルト。

バッハは今でこそ有名な音楽家、「音楽の父」と称されていますが、メンデルスゾーンと言う作曲家が発掘するまで埋もれていた存在。
つまりここでバッハ=赤塚を想起させます。

モーツァルトは神童・天才、多作として有名で、
同じく神童と呼ばれた石森と重なるのです。


そういえば、この映画を観ながらなんだかふと、あの映画史に残る大傑作『アマデウス』を思い出してしまうのでした。

もちろん、モーツァルトは石森や藤子、サリエリは寺田ですが。

寺田もサリエリも、同様に

「才能があり、それなりに尊敬もされているが、その才能は天才的とは言えず、身近に現れた天才が作る潮流に、次第に離されていく」

という切ない運命を背負っています。

しかし、寺田は自らのプライドを捨てずに、自ら消え入るように去っていきます。

さ らに、同じような「天才と秀才」という構図は同じではありながら、『アマデウス』はキラキラと華やかな宮廷が描かれているのに対し、この『トキワ荘の青 春』では古きよき日本のけっして華やかでない漫画家が集うアパートを描いているという異なった点も非常に面白いなぁと思いました。

漫画に(特に黎明・発展期の漫画に)まったく興味ない。という人にはお勧めできませんが、そうでない方は1度は観た方がいいと思える作品でした!!

レベル:若干長めですが中学2~3年生レベルなので1日くらいで読めると思います。


ジャンル:冒険・歴史


あらすじ(背表紙から):

In the summer of 1910, a race began.
A race to be the first man at the South Pole, in Antarctica.

Robert Falcon Scott, an Englishman, left London in his ship, the Terra Nova, and began the long journey south.

Five years later, another ship also began to travel south.
And on this ship was Roald Amundsen, a Norwegian.


But Antarctica is the coldest place on earth, and it is a long, hard journey over the ice to the South Pole.
Some of the travellers never returned to their homes again.


This is the story of Scott and Amundsen, and of one of the most famous and dangerous races in history.


面白さ:★★☆


※以下、結末まで話します。嫌な方は見ないでください。











The Coldest Place on Earth (Oxford Bookworms Li.../Tim Vicary
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内容:
1910年、南極点到達競争が始まりました。
6月1日にTerra Nova号でロンドンを発ったスコット隊と、6月6日にFram号でノルウェーを発ったアムンゼン隊との競争です。

アムンゼン隊は当初、北極点に向かう予定だったのですが、2年前にアメリカの隊が人類初到達を果たしていたことから、残る南極点に自国の旗を立てるべく、目標を南極点に変更したのでした。

スコット隊はモーター車や寒さに強いといわれるポニーを用意し、アムンゼン隊は犬ぞりを主力に構えました。
装備だけで言えば、スコット隊のほうがより近代的ではあったのですが、競争は思わぬ方向に。

スコット隊においては南極走破中、さまざまなアクシデントに見舞われてしまいます。
頼りのモーター車は早々に壊れ、ポニーもあまりの寒さに死んでしまう。
当然、隊員たちの士気も下がり、言い争いや隊長であるスコットに対しての不満が噴出します。

一方のアムンゼン隊は、設備の上では劣っていましたが、しかし犬ぞりを主力としていたことが功を奏します。
寒さはポニーより強く、また、殺して犬や隊員たちの食料にもなり得たからです。

さて、競争のほうですが、アムンゼン隊が1911年12月14日に南極点に人類初到達
遅れて翌1912年1月17日にスコット隊が到着するのでした。
スコット隊はモーター車もポニーも欠いたまま、人力で食料などが詰まれたそりを引かなければならず、文字通り満身創痍の状態。

スコット隊の帰路、それは悲しい悲しい最後でした
スコット隊は体力がつき、最後に張ったテント内で息を引き取るのです。

ゴール地点の基地で待っていた隊員が冬を越したその年の10月に捜索を開始し、そこでテントを発見。雪の下にスコットら3人が永遠の眠りについていました。

スコットが残した日記にはこう書かれてあったのです。
「私たちは全員死ぬ。私たちを忘れないでいてくれ、そして家族たちを頼む。私たちは全力を尽くした。」


感想:

数10ページしかないのだから、両隊の動向を併記するのではなく、どちらかにスポットを書いてくれればもっと面白かったかなぁと思いましたガーン

だって、スコット隊の悲劇がものすごく胸にくるものがあるのですから。


特に個人的に胸を打たれたのは、スコット隊隊員、オーツ大尉の最期です。

帰路にオーツ大尉は足に重度の凍傷を負ってしまい、切り落としてくれとスコットに嘆願するほどにひどい状態に陥ってしまいます。

デポ(前進基地)に戻っても極々わずかな食料しかなく、さらに寒さも増してきます。

そんな中迎えた3月17日。この日はオーツの32歳の誕生日でした。


オーツは母親に手紙を書き、それを隊員の一人に渡した後、

「ちょっと、外に行ってくるよ。すぐ戻ってくる。」
という言葉を残し、テントを出て行方不明になるのでした。

誕生日になんという悲しいことか、、、

現在、スコット隊はイギリスでは英雄視されているようですが、オーツもスコットはじめ他の隊員も、生きて歓声を浴びながらイギリスの地を踏みしめることを望んでいたことを思えば、涙なくしては語れませんしょぼん
アムンゼン隊ももちろんですが、スコット隊にもささやかながら、拍手を送りたいですビックリマーク
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 歳三は本来、眼ばかり光った土色の顔の男だが、ここ数日来、ひどく血色がいい。
 生得の喧嘩ずきなのだ。
 それに、たとえ、一戦二戦に敗れても、このさき百年でも喧嘩をつづけてやるはらはある。
 (いまにみろ)
 歳三は、ふしぎと心がおどった。どういうことであろう、――自分の人生はこれからだ、というえたいの知れぬ喜悦がわきあがってくるのである。多摩川べりで喧嘩にあけくれをしていた少年の歳三が、いま歴史的な大喧嘩をやろうとしている。
 その昂奮かもしれない。
 やがて暮れも押しつまり、年が明けた。
 明治元年。
(p138-139より)

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さあ、前回紹介した上巻に続き、今回燃えよ剣の下巻の紹介です。

上巻のつっこみはこちら

上巻では、新選組の結成や、幕府の先鋭となって池田屋事件などで活躍したということが主でしたが、下巻では時勢が変わり、逆賊されながらも最後の最後まで抵抗していった不器用な新選組と土方歳三を読むことができます。



ではあらすじいきます


新選組副長として、京の街を震撼させるまでなった土方歳三
彼にはまず、多摩時代の置き土産だった
七里研之助との対決が待っていました。
七里の策略によりあわや命を落としそうになるものの、辛くも七里を討ち取ります。

そして、お雪と契りを交わし、京での生活も安泰かと思われますが、次第に時勢は新選組、幕府には反するものとなっていくのです。

江戸幕府は明治天皇に大政奉還し、政治の天皇に返します。
さらに、薩摩と長州両藩による旧幕府つぶしも拍車がかかっていくのです。

もちろん、新選組はそれらに迎え撃つことになります。
この時点で、政権は天皇に返されたものの、依然として勢力は新選組を含む旧幕府側が優勢だったのです。

まず始まった鳥羽伏見の戦いにおいて、薩摩・長州の軍に奮戦するも、前将軍徳川慶喜や会津藩主松平容保に裏切られ、次第に追い詰められる新選組ら旧幕府軍。
さらに新選組内部でも局長の近藤勇が銃により負傷(のち、捕捉されて斬首)、沖田総司も病により参戦できず(のち、病死)、いよいよ後退をはじめます。

次第に勢力をつけた薩摩・長州軍は、錦の御旗をかかげ、天皇の軍として旧幕府軍を粉砕していきます。
新選組は何度か名前を変えるものの、やがては旧幕府の中枢にも見放されていきます。

しかし土方は、まるで軍神に憑かれたような孤軍奮闘をみせ、最後の希望として蝦夷地(北海道)で新政権を樹立し、薩長を中心とする新政府と対峙する構えをみせますが、しかし、運も尽き、北海道の地で最後のときを迎えるのでした。





では以下は感想です。
 







燃えよ剣〈下〉 (新潮文庫)/司馬 遼太郎
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~1回目 2010.4.3~

いや~、上巻でも書いたとおり、下巻は非常に面白かったですビックリマーク
というのも、これも上巻で書いたとおり、近藤勇率いる新選組というより、軍神土方歳三の奮闘がピックアップされているので、分かりやすく土方に感情移入できたからです。

特に面白かった部分は、

当初、優勢だった旧幕府軍がどうして新政府軍に負けていったのか、という点に関して非常に細かくその流れがつかむことができたのです。

小説の中で「時勢」という言葉がよく出てきましたが、「時勢」に取り残されると、あらゆる面で不運であったり、タイミングが悪かったりするんだなぁということがひしひしと感じます。
土方の予想や作戦は、「時勢」に乗っていれば成功できたかもしれない。
例えば鳥羽伏見の戦いであったり、宮古湾海戦での甲鉄艦強奪であったり。

結果論でしかないのかも知れないけれど、尊王論が伝統の水戸藩出身の一橋慶喜が将軍となり、「朝敵」を恐れて戦意がなかったことも、土方や新選組はこうなる運命だったのではないか、とも思えてしまいます。


さらに西昭庵でのお雪と土方の、切ない切ないストーリー
戦わなければならない運命の土方と、永遠に土方と一緒にいれればと願うお雪。
わずか二晩だったけれど、夫婦としての生活を送ることができたことがせめてもの救いか、それとも、より2人を苦しめる種になったか。
読んでるこっちも苦しくなりますしょぼん


そして、皮肉にも局長の近藤勇が負傷により戦線離脱したことにより、土方の勇猛果敢な戦いっぷりが浮き立ち、よかった。
下巻においても近藤勇は相変わらずの「凡人」のように描かれています(むしろ、局長というより、土方の親友のような感じです)。
もう近藤のタイミングずれの才能には慣れたもので、土方の意見を無視して向かった先で銃撃を受けるわ、甲州に向かう途中で遊んだりなんだで新政府軍に先を越されて甲府城を押さえることはできないわ・・・汗

土方と近藤が別れる最後の場面での発言、これがこの本における近藤勇の位置だったのかもしれません。

「歳、自由にさせてくれ。お前は新選組の組織を作った。その組織の長であるおれをも作った。京にいた近藤勇は、いま思えばあれはおれじゃなさそうな気がする。もう解きはなって、自由にさせてくれ。」(p333)


あ、誤解を招くといけませんが、けっして個人的には近藤勇が凡人だとは思っていません
むしろ、この作品を読むまでは、陰の土方、陽の近藤であり、
近藤勇という男は、カリスマ的な存在で荒くれ共の集まる新選組をまとめあげた非凡の人だと思っていました。
その感は変わることはありませんが、あくまでも、「この小説において」ということです。


しかし、唯一納得できなかった点があります。
それは、
お雪との仲、ひっぱりすぎガーン!!

西昭庵で別れた、あの感じで終わっても良かったんじゃないかなぁと思うのです。
あの別れ方は、今生の別れだったように思えたんですが、なぜかお雪と土方は、再び函館の地で会うのです。

でもこれははっきり言って蛇足のような感が否めません。

だって西昭庵でしたこととさほどやってることは変わらないし、そこでお雪を登場させる意味がよく分からないのです。
むしろ、西昭庵で土方と別れた後にお雪が描いた夕焼けの絵が、土方のもとに届く、というだけでも十分だったんじゃないかなぁ~と思いました。


とはいえ、下巻は必読に値するほど、熱の入った文章とストーリーで、読んだが最後、一気に読んでしまうことうけあいです。

確かにこの本を読んでしまえば、新選組をもっともっと知りたくなるなぁ~アップ

   
総合評価:★★★★
読みやすさ:★★☆
キャラ:★★★★
読み返したい度:★★★☆
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 歳三は、歩く。
 (もともと女へ薄情な男なのだ。女のほうはそれがわかっている。こういう男に惚れる馬鹿はない)
 しかし、剣がある。新選組がある。これへの実意はたれにもおとらない。近藤がいる。沖田がいる。かれらへの友情は、たれにもおとらない。それでいい。それだけで、十分、手ごたえのある生涯が送れるのではないか。
 (わかったか、歳。――)
(p344より)

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さて、今回は歴史小説の古典といってもいいほど、有名で名作として知られる、燃えよ剣です。

新選組の「鬼の副長」として知られる、土方歳三を主人公においた小説です。
上下巻ありますが、今回は上巻を。
下巻は早々に読もうと思っていますが。

まず、新選組、それから幕末の情勢をなんとな~くでよいので知っておかないと読むのが苦しいかなと思いました。
そこで、まずは整理してからあらすじに入りたいと思います。

まず、1854年の日米和親条約、1858年の日米修好通商条約という有名な2つの条約を時の政府、江戸幕府が締結したことで、日本は激動の時代に入っていきます。
事実、修好通商条約が結ばれた後、10年足らずして約260年間続いた江戸幕府の歴史は幕を閉じることになるのですから。

2つの条約締結の後、欧米との貿易が本格的に開始されると、貿易による品不足で物価が上昇、さらに外国人に慣れていない江戸の人々の外国人嫌いなど様々な原因により、外国人を追い出そう、という考えが出てきます。これを攘夷(じょうい)といいます。

この攘夷という考えは、江戸時代の人々には一般的にあった感情だと思いますが、外国に対してどのような態度を取るのか、考え方に若干の違いが出ます。

① 武力によって外国人を追い出す過激な攘夷。つまり即刻開国をやめようという考え方。

② しばらくは耐えて外国に負けない強い国づくりをして、実力をつけてから外国人と対等の関係を結ぶ穏健な攘夷。つまり現状では開国したままでよいという考え方。


さらに、攘夷とは別に、現状を打破するために国内で誰がリーダーシップを取るのかで、以下の思想に二分されていきます。

(1) もはや江戸幕府は政治をする能力を失っているので、天皇に政治の権力を戻すことで日本一丸となって改革をすすめようという考え方。これを尊王といいます。この考え方によると、つまり幕府を倒そうということになります。

(2) あくまでも幕府が政権を保ったまま、改革をしていこうという考え方。これを佐幕といいます。

という考え方です。

さて、例えば(1)の考え方を持つならば、
武力によって外国を追い出しさらに幕府を倒して政権を天皇に戻すことで日本を一新する、という思想になります。例えば、今の山口県である長州藩はこの考え方をもつひとが多かったようです。

さらに(2)の考え方を持つならば、
武力によって外国を追い出したいが現状では不可能なので幕府による改革で日本を打開していくべきだ、という思想になります。例えば、今の鹿児島県である薩摩藩や福島県である会津藩は当初、この考え方の人が多かったようです。

もちろん、この思想は変わっていきます。
当初は対立していた長州と薩摩ですが、
長州はに、薩摩は(2)(1)に変えていきます。
つまり、お互い(1)の考え方になったこと
(武力によって外国を追い出したいが、現状では不可能なので幕府を倒して天皇のもとで日本を改革して、外国に追いつくようにしようという考え)
で、坂本龍馬の仲介によって同盟が結ばれることになり、幕府を倒すという目的のもと、行動をすることになるのです。


さて、
話が逸れましたが、新選組の立場はというと、攘夷の考え方としては最初ははっきりを掲げましたが、それよりもあくまでも(2)を主張し、幕府を守ろうとするのです。

つまり攘夷云々はともかくとして、幕府を守る。
そのために倒幕を掲げる長州藩や変わり身を遂げた薩摩藩にあくまでも対決していくのです。


ではあらすじいきます


バラガキ(不良少年)だった多摩の百姓の子、土方歳三
しかし、彼は天性の才能をもち、近藤勇沖田総司と共に道場で剣の腕を磨きます。

また、土方はその端正な顔立ちゆえ、女に欠くことがありません。とはいえそれが現代でいう「恋愛」というものではありませんでしたが。
ある時、府中で行われたある祭りで出会ったわりと家柄が良い女と知り合い、その後何回か秘密で通じることになります。「秘密で」というのはもちろん、彼女が高貴な身分ゆえです。
しかし、彼女との関係がある時漏れそうになり、口を封じるために、土方はその男を殺します。

さて、その殺した男がいけなかった。
その男には多摩地方で有名な道場の師範代、七里研之助という男が後ろにいて、以後、土方を必要以上に付け回し、狙うのです。
もちろん、土方も七里の作戦を見抜いたり、その凄腕で切り抜けたりするなど、なかなか決着はつきません。

そんな折、江戸幕府14代将軍徳川家茂が、京都に赴くとのことで、その護衛を募集しているとのことを耳にします。
京都は天皇が住んでいることから、攘夷派の総本山とも言える場所で、そんな危険な土地には剣がたつ男たちが必要だったのです。
「百姓が武士になれるかもしれない」そう思った土方、近藤は、沖田や他の道場の同志らと共にその護衛に募集をするのです。

しかし、京に着くや将軍の護衛という目的からズレた行動を始めた護衛本隊と土方らは分派し、あくまでも幕府を守るという目的を達しようと京都に駐屯を続けることにします。
そして、同じ幕府を守るという会津藩の後ろ盾を手にし、「新選組」が結成されるのです。

途中、隊を引き締めるために隊の掟である局中法度を制定したり、新選組の士道に背く隊士らを粛清したりしながら、土方主導の下で新選組は大きく、そして確固たる地位を築いていくのです。

京都では、時勢に乗り、尊王攘夷をかかげる長州藩士らを斬り、彼らの倒幕作戦をつぶすなど、近藤勇を局長、土方歳三を副長におく新選組は八面六臂の活躍をします。
さらに土方は、京で江戸で育った女、お雪と出会い、今までの女とは違う何かを感じるのでした。

武士よりも武士らしく、思想云々ではなく幕府への忠義により動く新選組でしたが、しかし時勢は次第に彼らにはつらいものになっていきます。
時勢は、次第に倒幕へと動いていたのです。

さて、多摩で何度も死闘を繰り広げていた七里との対決は、京都の場でも行われます。
七里は攘夷派の片棒を担ぐ剣士となっており、ここでも土方とはライバル同士。
ついに決着をつけるために、土方は七里と最後の決闘場所に向かうのでした。


上巻はここまで。



では以下は感想です。
 







燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)/司馬 遼太郎
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~1回目 2010.3.25~

感想ですが、この作品は新選組の小説の定番となっていて、それだけに非常に期待が大きかったのですが、なんとなく可もなく不可もなくあせるという印象を受けました。

まずは可の部分、面白かった部分ですが、

立ち合いシーンが面白い
特に七里との幾度となく繰り広げられる決闘。
ただの剣術だけでなく、2人の心理戦も冴えていて、史実として考えてみれば当然土方が七里に斬られるということはありえないわけですが、しかしドキドキハラハラしてしまいます。

さらに新選組最大の功績ともいえる、池田屋事件。
脚色を加えながら(当然「小説」なのですから当たり前ですが)、より緊迫感があり、かつ迫力を感じる内容で、非常に面白かった。


次に面白かった部分といえば、鬼の副長土方が、かわいらしい一面をのぞかせる、ということ。
ケンカの天才、土方ではありますが、唯一の戦いから離れた趣味ともいえるのが、下手な俳句を詠むということ。
さらにそのことを隊士には知らせず、しれーっと詠む感じがいい。
知らせていないのに知っている沖田にからかわれている感じもいい。
これによって、土方のクールなケンカの天才という面だけでなく、かわいらしくもある面がうかがえて好感がもてるのです。


そして不可、つまり面白く感じられなかった部分です。

なんといっても局長である近藤勇が凡な人物にえがかれているという印象が強いことです。
そもそも、土方と沖田が絡む場面はかなりありますが、あまりにも土方と近藤が絡むシーンが少ないんじゃないかなぁと思います。
確かに登場人物が多岐に渡るので、いちいちすべて土方と絡ませる必要はないとは思います。
その意味では新選組古参の山南や永倉、原田が一脇役となっているのも別に頷けはします。

しかし、この作品における近藤を要約してしまうと

「インテリと権力が大好きで、インテリに憧れる、迫力はあるが強いのか弱いのかはよく分からない女好き」としか思えませんガーン

それならば、なぜ土方は近藤を慕い、ともに生死を誓ったのかがぼやけてしまうのです。

話の端々に、土方が近藤を局長として敬っている部分は伝わってきますが、それ以上に、京都に赴任してからの近藤と土方の考え方の違いが明確化されているので、土方は別に近藤がいなくてもいいんじゃないか、むしろ近藤を操り人形として扱っているんじゃないかはてなマークとも思えてしまいます。
ま、それならそれで、そっちのほうがすっきりするんですけどねぇDASH!

史実で言えば、のちに近藤勇は負傷し、土方が新選組を率いることになりますが、土方が新選組を率いた方がよかったりして(笑)
下巻ではおそらく近藤抜きの新選組が読めると思うので、期待します。


さらにあまりうなずけなかった部分として、別に本筋とはかすりもしないサイドストーリーが結構多いのかな?という印象を受けたことです。
なまじ史実を入れすぎると、史実的な面から見ても、小説的な面から見てもなんか中途半端な感じになってしまう気がしました。

そう考えると、かつて読んだ『男子の本懐』 は、同じ史実をもとにした小説でありながら、登場人物を極力抑えて浜口雄幸と井上準之助の2人にスポットをあてているので、焦点がぼやけず、当時の時勢も伝わって来たなぁと思ったのです。

しかし、なにはともあれ、七里との決闘の行方や、新選組・土方歳三の末路、お雪との恋愛の結末など、下巻にもちこされたものが多いので、楽しみですビックリマーク


   
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