『燃えよ剣(上)』/司馬遼太郎 | こだわりのつっこみ

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 歳三は、歩く。
 (もともと女へ薄情な男なのだ。女のほうはそれがわかっている。こういう男に惚れる馬鹿はない)
 しかし、剣がある。新選組がある。これへの実意はたれにもおとらない。近藤がいる。沖田がいる。かれらへの友情は、たれにもおとらない。それでいい。それだけで、十分、手ごたえのある生涯が送れるのではないか。
 (わかったか、歳。――)
(p344より)

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さて、今回は歴史小説の古典といってもいいほど、有名で名作として知られる、燃えよ剣です。

新選組の「鬼の副長」として知られる、土方歳三を主人公においた小説です。
上下巻ありますが、今回は上巻を。
下巻は早々に読もうと思っていますが。

まず、新選組、それから幕末の情勢をなんとな~くでよいので知っておかないと読むのが苦しいかなと思いました。
そこで、まずは整理してからあらすじに入りたいと思います。

まず、1854年の日米和親条約、1858年の日米修好通商条約という有名な2つの条約を時の政府、江戸幕府が締結したことで、日本は激動の時代に入っていきます。
事実、修好通商条約が結ばれた後、10年足らずして約260年間続いた江戸幕府の歴史は幕を閉じることになるのですから。

2つの条約締結の後、欧米との貿易が本格的に開始されると、貿易による品不足で物価が上昇、さらに外国人に慣れていない江戸の人々の外国人嫌いなど様々な原因により、外国人を追い出そう、という考えが出てきます。これを攘夷(じょうい)といいます。

この攘夷という考えは、江戸時代の人々には一般的にあった感情だと思いますが、外国に対してどのような態度を取るのか、考え方に若干の違いが出ます。

① 武力によって外国人を追い出す過激な攘夷。つまり即刻開国をやめようという考え方。

② しばらくは耐えて外国に負けない強い国づくりをして、実力をつけてから外国人と対等の関係を結ぶ穏健な攘夷。つまり現状では開国したままでよいという考え方。


さらに、攘夷とは別に、現状を打破するために国内で誰がリーダーシップを取るのかで、以下の思想に二分されていきます。

(1) もはや江戸幕府は政治をする能力を失っているので、天皇に政治の権力を戻すことで日本一丸となって改革をすすめようという考え方。これを尊王といいます。この考え方によると、つまり幕府を倒そうということになります。

(2) あくまでも幕府が政権を保ったまま、改革をしていこうという考え方。これを佐幕といいます。

という考え方です。

さて、例えば(1)の考え方を持つならば、
武力によって外国を追い出しさらに幕府を倒して政権を天皇に戻すことで日本を一新する、という思想になります。例えば、今の山口県である長州藩はこの考え方をもつひとが多かったようです。

さらに(2)の考え方を持つならば、
武力によって外国を追い出したいが現状では不可能なので幕府による改革で日本を打開していくべきだ、という思想になります。例えば、今の鹿児島県である薩摩藩や福島県である会津藩は当初、この考え方の人が多かったようです。

もちろん、この思想は変わっていきます。
当初は対立していた長州と薩摩ですが、
長州はに、薩摩は(2)(1)に変えていきます。
つまり、お互い(1)の考え方になったこと
(武力によって外国を追い出したいが、現状では不可能なので幕府を倒して天皇のもとで日本を改革して、外国に追いつくようにしようという考え)
で、坂本龍馬の仲介によって同盟が結ばれることになり、幕府を倒すという目的のもと、行動をすることになるのです。


さて、
話が逸れましたが、新選組の立場はというと、攘夷の考え方としては最初ははっきりを掲げましたが、それよりもあくまでも(2)を主張し、幕府を守ろうとするのです。

つまり攘夷云々はともかくとして、幕府を守る。
そのために倒幕を掲げる長州藩や変わり身を遂げた薩摩藩にあくまでも対決していくのです。


ではあらすじいきます


バラガキ(不良少年)だった多摩の百姓の子、土方歳三
しかし、彼は天性の才能をもち、近藤勇沖田総司と共に道場で剣の腕を磨きます。

また、土方はその端正な顔立ちゆえ、女に欠くことがありません。とはいえそれが現代でいう「恋愛」というものではありませんでしたが。
ある時、府中で行われたある祭りで出会ったわりと家柄が良い女と知り合い、その後何回か秘密で通じることになります。「秘密で」というのはもちろん、彼女が高貴な身分ゆえです。
しかし、彼女との関係がある時漏れそうになり、口を封じるために、土方はその男を殺します。

さて、その殺した男がいけなかった。
その男には多摩地方で有名な道場の師範代、七里研之助という男が後ろにいて、以後、土方を必要以上に付け回し、狙うのです。
もちろん、土方も七里の作戦を見抜いたり、その凄腕で切り抜けたりするなど、なかなか決着はつきません。

そんな折、江戸幕府14代将軍徳川家茂が、京都に赴くとのことで、その護衛を募集しているとのことを耳にします。
京都は天皇が住んでいることから、攘夷派の総本山とも言える場所で、そんな危険な土地には剣がたつ男たちが必要だったのです。
「百姓が武士になれるかもしれない」そう思った土方、近藤は、沖田や他の道場の同志らと共にその護衛に募集をするのです。

しかし、京に着くや将軍の護衛という目的からズレた行動を始めた護衛本隊と土方らは分派し、あくまでも幕府を守るという目的を達しようと京都に駐屯を続けることにします。
そして、同じ幕府を守るという会津藩の後ろ盾を手にし、「新選組」が結成されるのです。

途中、隊を引き締めるために隊の掟である局中法度を制定したり、新選組の士道に背く隊士らを粛清したりしながら、土方主導の下で新選組は大きく、そして確固たる地位を築いていくのです。

京都では、時勢に乗り、尊王攘夷をかかげる長州藩士らを斬り、彼らの倒幕作戦をつぶすなど、近藤勇を局長、土方歳三を副長におく新選組は八面六臂の活躍をします。
さらに土方は、京で江戸で育った女、お雪と出会い、今までの女とは違う何かを感じるのでした。

武士よりも武士らしく、思想云々ではなく幕府への忠義により動く新選組でしたが、しかし時勢は次第に彼らにはつらいものになっていきます。
時勢は、次第に倒幕へと動いていたのです。

さて、多摩で何度も死闘を繰り広げていた七里との対決は、京都の場でも行われます。
七里は攘夷派の片棒を担ぐ剣士となっており、ここでも土方とはライバル同士。
ついに決着をつけるために、土方は七里と最後の決闘場所に向かうのでした。


上巻はここまで。



では以下は感想です。
 







燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)/司馬 遼太郎
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~1回目 2010.3.25~

感想ですが、この作品は新選組の小説の定番となっていて、それだけに非常に期待が大きかったのですが、なんとなく可もなく不可もなくあせるという印象を受けました。

まずは可の部分、面白かった部分ですが、

立ち合いシーンが面白い
特に七里との幾度となく繰り広げられる決闘。
ただの剣術だけでなく、2人の心理戦も冴えていて、史実として考えてみれば当然土方が七里に斬られるということはありえないわけですが、しかしドキドキハラハラしてしまいます。

さらに新選組最大の功績ともいえる、池田屋事件。
脚色を加えながら(当然「小説」なのですから当たり前ですが)、より緊迫感があり、かつ迫力を感じる内容で、非常に面白かった。


次に面白かった部分といえば、鬼の副長土方が、かわいらしい一面をのぞかせる、ということ。
ケンカの天才、土方ではありますが、唯一の戦いから離れた趣味ともいえるのが、下手な俳句を詠むということ。
さらにそのことを隊士には知らせず、しれーっと詠む感じがいい。
知らせていないのに知っている沖田にからかわれている感じもいい。
これによって、土方のクールなケンカの天才という面だけでなく、かわいらしくもある面がうかがえて好感がもてるのです。


そして不可、つまり面白く感じられなかった部分です。

なんといっても局長である近藤勇が凡な人物にえがかれているという印象が強いことです。
そもそも、土方と沖田が絡む場面はかなりありますが、あまりにも土方と近藤が絡むシーンが少ないんじゃないかなぁと思います。
確かに登場人物が多岐に渡るので、いちいちすべて土方と絡ませる必要はないとは思います。
その意味では新選組古参の山南や永倉、原田が一脇役となっているのも別に頷けはします。

しかし、この作品における近藤を要約してしまうと

「インテリと権力が大好きで、インテリに憧れる、迫力はあるが強いのか弱いのかはよく分からない女好き」としか思えませんガーン

それならば、なぜ土方は近藤を慕い、ともに生死を誓ったのかがぼやけてしまうのです。

話の端々に、土方が近藤を局長として敬っている部分は伝わってきますが、それ以上に、京都に赴任してからの近藤と土方の考え方の違いが明確化されているので、土方は別に近藤がいなくてもいいんじゃないか、むしろ近藤を操り人形として扱っているんじゃないかはてなマークとも思えてしまいます。
ま、それならそれで、そっちのほうがすっきりするんですけどねぇDASH!

史実で言えば、のちに近藤勇は負傷し、土方が新選組を率いることになりますが、土方が新選組を率いた方がよかったりして(笑)
下巻ではおそらく近藤抜きの新選組が読めると思うので、期待します。


さらにあまりうなずけなかった部分として、別に本筋とはかすりもしないサイドストーリーが結構多いのかな?という印象を受けたことです。
なまじ史実を入れすぎると、史実的な面から見ても、小説的な面から見てもなんか中途半端な感じになってしまう気がしました。

そう考えると、かつて読んだ『男子の本懐』 は、同じ史実をもとにした小説でありながら、登場人物を極力抑えて浜口雄幸と井上準之助の2人にスポットをあてているので、焦点がぼやけず、当時の時勢も伝わって来たなぁと思ったのです。

しかし、なにはともあれ、七里との決闘の行方や、新選組・土方歳三の末路、お雪との恋愛の結末など、下巻にもちこされたものが多いので、楽しみですビックリマーク


   
総合評価:★★☆
読みやすさ:★★☆
キャラ:★★★☆
読み返したい度:★★☆