『燃えよ剣(下)』/司馬遼太郎 | こだわりのつっこみ

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 歳三は本来、眼ばかり光った土色の顔の男だが、ここ数日来、ひどく血色がいい。
 生得の喧嘩ずきなのだ。
 それに、たとえ、一戦二戦に敗れても、このさき百年でも喧嘩をつづけてやるはらはある。
 (いまにみろ)
 歳三は、ふしぎと心がおどった。どういうことであろう、――自分の人生はこれからだ、というえたいの知れぬ喜悦がわきあがってくるのである。多摩川べりで喧嘩にあけくれをしていた少年の歳三が、いま歴史的な大喧嘩をやろうとしている。
 その昂奮かもしれない。
 やがて暮れも押しつまり、年が明けた。
 明治元年。
(p138-139より)

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さあ、前回紹介した上巻に続き、今回燃えよ剣の下巻の紹介です。

上巻のつっこみはこちら

上巻では、新選組の結成や、幕府の先鋭となって池田屋事件などで活躍したということが主でしたが、下巻では時勢が変わり、逆賊されながらも最後の最後まで抵抗していった不器用な新選組と土方歳三を読むことができます。



ではあらすじいきます


新選組副長として、京の街を震撼させるまでなった土方歳三
彼にはまず、多摩時代の置き土産だった
七里研之助との対決が待っていました。
七里の策略によりあわや命を落としそうになるものの、辛くも七里を討ち取ります。

そして、お雪と契りを交わし、京での生活も安泰かと思われますが、次第に時勢は新選組、幕府には反するものとなっていくのです。

江戸幕府は明治天皇に大政奉還し、政治の天皇に返します。
さらに、薩摩と長州両藩による旧幕府つぶしも拍車がかかっていくのです。

もちろん、新選組はそれらに迎え撃つことになります。
この時点で、政権は天皇に返されたものの、依然として勢力は新選組を含む旧幕府側が優勢だったのです。

まず始まった鳥羽伏見の戦いにおいて、薩摩・長州の軍に奮戦するも、前将軍徳川慶喜や会津藩主松平容保に裏切られ、次第に追い詰められる新選組ら旧幕府軍。
さらに新選組内部でも局長の近藤勇が銃により負傷(のち、捕捉されて斬首)、沖田総司も病により参戦できず(のち、病死)、いよいよ後退をはじめます。

次第に勢力をつけた薩摩・長州軍は、錦の御旗をかかげ、天皇の軍として旧幕府軍を粉砕していきます。
新選組は何度か名前を変えるものの、やがては旧幕府の中枢にも見放されていきます。

しかし土方は、まるで軍神に憑かれたような孤軍奮闘をみせ、最後の希望として蝦夷地(北海道)で新政権を樹立し、薩長を中心とする新政府と対峙する構えをみせますが、しかし、運も尽き、北海道の地で最後のときを迎えるのでした。





では以下は感想です。
 







燃えよ剣〈下〉 (新潮文庫)/司馬 遼太郎
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~1回目 2010.4.3~

いや~、上巻でも書いたとおり、下巻は非常に面白かったですビックリマーク
というのも、これも上巻で書いたとおり、近藤勇率いる新選組というより、軍神土方歳三の奮闘がピックアップされているので、分かりやすく土方に感情移入できたからです。

特に面白かった部分は、

当初、優勢だった旧幕府軍がどうして新政府軍に負けていったのか、という点に関して非常に細かくその流れがつかむことができたのです。

小説の中で「時勢」という言葉がよく出てきましたが、「時勢」に取り残されると、あらゆる面で不運であったり、タイミングが悪かったりするんだなぁということがひしひしと感じます。
土方の予想や作戦は、「時勢」に乗っていれば成功できたかもしれない。
例えば鳥羽伏見の戦いであったり、宮古湾海戦での甲鉄艦強奪であったり。

結果論でしかないのかも知れないけれど、尊王論が伝統の水戸藩出身の一橋慶喜が将軍となり、「朝敵」を恐れて戦意がなかったことも、土方や新選組はこうなる運命だったのではないか、とも思えてしまいます。


さらに西昭庵でのお雪と土方の、切ない切ないストーリー
戦わなければならない運命の土方と、永遠に土方と一緒にいれればと願うお雪。
わずか二晩だったけれど、夫婦としての生活を送ることができたことがせめてもの救いか、それとも、より2人を苦しめる種になったか。
読んでるこっちも苦しくなりますしょぼん


そして、皮肉にも局長の近藤勇が負傷により戦線離脱したことにより、土方の勇猛果敢な戦いっぷりが浮き立ち、よかった。
下巻においても近藤勇は相変わらずの「凡人」のように描かれています(むしろ、局長というより、土方の親友のような感じです)。
もう近藤のタイミングずれの才能には慣れたもので、土方の意見を無視して向かった先で銃撃を受けるわ、甲州に向かう途中で遊んだりなんだで新政府軍に先を越されて甲府城を押さえることはできないわ・・・汗

土方と近藤が別れる最後の場面での発言、これがこの本における近藤勇の位置だったのかもしれません。

「歳、自由にさせてくれ。お前は新選組の組織を作った。その組織の長であるおれをも作った。京にいた近藤勇は、いま思えばあれはおれじゃなさそうな気がする。もう解きはなって、自由にさせてくれ。」(p333)


あ、誤解を招くといけませんが、けっして個人的には近藤勇が凡人だとは思っていません
むしろ、この作品を読むまでは、陰の土方、陽の近藤であり、
近藤勇という男は、カリスマ的な存在で荒くれ共の集まる新選組をまとめあげた非凡の人だと思っていました。
その感は変わることはありませんが、あくまでも、「この小説において」ということです。


しかし、唯一納得できなかった点があります。
それは、
お雪との仲、ひっぱりすぎガーン!!

西昭庵で別れた、あの感じで終わっても良かったんじゃないかなぁと思うのです。
あの別れ方は、今生の別れだったように思えたんですが、なぜかお雪と土方は、再び函館の地で会うのです。

でもこれははっきり言って蛇足のような感が否めません。

だって西昭庵でしたこととさほどやってることは変わらないし、そこでお雪を登場させる意味がよく分からないのです。
むしろ、西昭庵で土方と別れた後にお雪が描いた夕焼けの絵が、土方のもとに届く、というだけでも十分だったんじゃないかなぁ~と思いました。


とはいえ、下巻は必読に値するほど、熱の入った文章とストーリーで、読んだが最後、一気に読んでしまうことうけあいです。

確かにこの本を読んでしまえば、新選組をもっともっと知りたくなるなぁ~アップ

   
総合評価:★★★★
読みやすさ:★★☆
キャラ:★★★★
読み返したい度:★★★☆