こだわりのつっこみ -15ページ目

こだわりのつっこみ

素人が音楽、小説、映画などを自己中心的に語ります。

レベル:若干長めですが中学2~3年生レベルなので1日くらいで読めると思います。


ジャンル:恋愛物


あらすじ(背表紙から):

Anna is a new student at Oxford University.
When she arrives in Oxford, she meets Selim, and they become good friends.
But Selim is not English, and living in a different country is not easy for him.

Anna tries to help - but she knows that her father isn't going to like it.

Selim and Anna have each other.

But is that enough?
And they find true happiness together?


面白さ:★★★☆


※以下、結末まで話します。嫌な方は見ないでください。












From the Heart/著者不明
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内容:
オクスフォード大学に入学するAnna。父のDerekや父の女友達のJaneに見送られ、オックスフォード行きのバスに乗ります。
そのとき、父親は「外人には気をつけろ」という言葉をAnnaにかけます。

オクスフォードの入学ダンスパーティでAnnaは男に絡まれているところをバーテンダーのSelimに助けられ、それをきっかけにAnnaとSelimは次第に打ち解け、仲良くなっていきます。
しかし、Selimの生い立ちはなかなか複雑で、まず彼はイギリス人ではなくボスニア生まれで、さらに現在は不法移民なのだというのです。
そんなSelimですが、親切でClibmingが好きということでAnnaと趣味が合い、次第に二人は恋に落ちていくのです。

ですがAnnaは父にSelimのことを話せません。
というのも、父はかつて友人だと思っていたスウェーデン人の会社の同僚に妻を略奪された過去があり、そのことで外国人を毛嫌いするようになっていたからなのです。
さらに悪いことに、本社をスウェーデンに置く父の勤める会社が、イギリス支店を突如閉鎖し、イギリス支店の社員をいわば見殺し状態にするという方針をとったことから、父の外国人嫌いはさらに悪化します。

そんな折、クリスマスで実家に帰っていたAnnaはふとした口論の末、Selimのことをぶちまけ、父との関係が極度に悪化。
それでも、母が出て行った後、父を慕って支えとなっていた女友達のJaneは、この状況をなんとかしようと懸命に尽力。
その結果、あるコネクションから、イギリス支店は存続することが決まり、父は次第にAnnaとSelimとの仲を認めることに。

さて、打ち解けた彼らは父、Anna、Selimの3人で共通の趣味であるClibmingに出かけることにしました。
そして、山でSelimはAnnaにプロポーズをするのです。
亡き母の形見の指輪を渡して、そして素敵な言葉をAnnaにかけるのです。
「I give it to you with love, Anna. It comes from me, from the heart.」


感想:

外国人移民の問題をも含んだラブ・ストーリーとして、なかなか面白かったです。

しかし、不満もあります
というのも、父親の外国人嫌いが、そんなことで一気によくなってしまうの?という部分で納得しかねたからですガーン
イギリス支店存続で、急にSelimとハグするまで仲良くなるなんて、なんとなく不自然でした。

そして、別にいらないんじゃないか、もしくは結論を急いてしまっているんじゃないか?という記述も目立ちました。
例えば、最後の山中で父親が怪我をする場面。そこで、結果的に父親とJaneの関係が友人と言うよりも愛で結ばれているということになるのですが、別にここで終わらせなくてもいいのになぁと思います。

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  裕福な国と家庭に生まれ落ち
  悪さをしてオヤジによく蹴り飛ばされた
  人生のほとんどを堂々と生きてきたけど
  気を抜くといつも折檻を食らってる犬みたいになっちまう
  僕は日本で生まれた
  僕は日本で生まれた

 そう、
 僕は、日本で、生まれた。
(p19-20より)

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今回は、直木賞を受賞した青春恋愛小説、GOです。

しかし、単なる青春小説にはあらず、ここに重いテーマをこめているのです。
それは、

主人公の高校生、杉原が在日朝鮮人(のち韓国人)だということ

これにより、多くの日本人が体験・経験する高校生活とは一線を画するものとなっているので、なかなか新しい視点で描かれているなぁというのが第一印象です。

さらに、作品の背表紙には「感動の青春恋愛小説」とありますが、それだけではなく、個人的には興味あるんだけど、なかなか知る機会がない、朝鮮学校内の学校生活が描かれていて(もちろん、小説というからには若干の誇張が入っているとは思うのですが)、これもなかなか面白いです音譜


あらすじいきます

在日朝鮮人の杉原は、一般の私立高校に通う高校生。
しかし、朝鮮学校時代には人並み以上の悪さをし、高校に入ってからはそれまで以上にマイノリティとして生きるために自分を強くもって生活をしていました。
そんな中で、同じくマイノリティのヤクザの親分の父を持つ加藤と知り合い、加藤自身が主催する、自身の誕生パーティに用心棒役として招待されることになります。

そのパーティ会場で杉原はその場には似つかわしくない女性と出会うのです。
その女性、桜井は杉原を見つけると、2人で会場を抜け出します。
もちろん、杉原は桜井のことを知りませんが、桜井は杉原を知っていたかの様子。
いずれにしろ、この奇妙な出会いをきっかけにして、桜井と杉原の恋が生まれていくのです。



 では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。









GO (講談社文庫)/金城 一紀
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~1回目 2010.3.25~

さて、あらすじの続きですが、

その後、杉原と桜井は「恋人」としての関係を徐々に深いものにしていきます。
趣味や興味を共有し、それなりの肉体関係を結び(とはいえ、セックスはしていない)、さらに桜井の家庭に招待されたりもするのです。

さて、親密になるにつれ、杉原には桜井に言わなければならないことについて考えなければならなくなります。

自分の出自、つまり、自分は日本人ではなく、在日韓国人であるということ。

しかし、2人の信頼関係や恋愛感情はこんなことでは揺るがないはず。
そういうある種の覚悟をもって杉原は、桜井に打ち明けることにします。
それは、2人がいよいよ初めてのセックスをする直前。

しかししかし、桜井の反応は冷ややかなもの。
出自は関係ないではないか、という杉原に対し、「なんとなく怖い」という桜井のはっきりと、絶望的な拒絶により、2人の関係は終わってしまうのです。

その後、杉原は弱々しい警察官や、同じ高校に通う実は在日の闘う高校生、朝鮮高等学校に通うアナログ的な荒々しい元同級生、さらに時代を強く生きてきた父親との交流を通じて、自分の将来や行く末、在日のあり方などを考えていくのです。

そんな中迎えたクリスマス・イブ。
突然、最悪の形で離れ離れになってしまった、桜井から急に電話がきます。

あの事件以来、桜井は勉強し、どの国籍であろうと、そんなものは関係がないという結論に達したのだということを杉原に告白、2人はその障害を越え、本当の隠し事のない恋愛がスタートするのでした。


さて、感想です

一言で言えば、個人的にはあまり面白く感じませんでしたダウン
もちろん、前述したように、新しい視点で描かれている青春恋愛小説であるということ、そして朝鮮学校の雰囲気の一端を知ることができたことは、なかなか興味深かったのですが、大きくいえば、ストーリーと主人公杉原の考え方に共感ができなかったことがあります。
なんだか全編に渡って「ご都合主義」を感じてしまいます。

まず、ストーリーに関して。

なぜ、あれだけの悪いことをやっており、さらに中学時代の成績が底辺らへんにいる高校生が、そんなに理論武装できるのかなぁ~はてなマークという杉原にも若干の違和感がありますが、それよりなにより、ヒロインの桜井に対して思うことがあります。

たしかに、杉原の覚悟の告白(自分が在日だということ)により、躊躇があることは認めます。
さらにそこで別れてしまうということは(悲しいことだけれども)、あり得る。

むしろ、桜井の「血が汚い」とか「なんだか怖い」という反応は、在日の方々に対する、日本人のある種典型的な反応で、おそらく作者も言われた経験があるんじゃないか、と思えるくらい、リアルに問いかける部分で、ここはすごく読むべき箇所です!!

しかし、その後の桜井の身の軽さ
個人的主観でラストシーンの桜井の発言をつなぐと、

「私が間違ってたわ、生まれなんてどうでもいいってことに気づいたの。私はあなたを以前見たことがあって、それ以来あなたに惹かれていたの。
だってそれが証拠にあなたをはじめてみてから、あなたに会うと濡れちゃうのよ。それくらい好きなのよ。」

的な横暴極まりない告白をするのです。

杉原の告白の際、絶望的な、それまでの楽しい恋人としての時間や杉原のアイデンティティを否定する言葉を吐いて別れたにもかかわらず、数ヵ月後に電話をかけて杉原と会うなんてどんな神経なんだガーン

まずは謝って、自分の思っていることを話し、杉原の動向を伺うのがすじだとは思うのですが、、、

まあ、最後は杉原もまんざらではないような感じで再び桜井と付き合うことになるので、ここらへんが、あんまり考えていない高校生=青春なのかなぁという風にも穿って読めるのですが(笑)


そして、杉原の思想について。この点に関しては個人的な政治思想も絡んでくるので大それたことは言えませんが・・・

たとえば、杉原の国籍がある本国、韓国には徴兵制度があります。
つまり、韓国人であるからにはある一定期間、兵隊としての訓練をする義務があるということ。
これに関して言えば、在日韓国人にはその義務がありません(というか在日ということで免除されている)。
逆に、日本政府は朝鮮学校に対して補助金を出し、日本人では得ることのできないなんらかの恩恵をうけています。

そんな中で、

「俺が国籍を変えないのは、もうこれ以上、国なんてものに新しく組み込まれたり、取り込まれたり、締めつけられたりされるのが嫌だからだ。もうこれ以上、大きなものに帰属してる、なんて感覚を抱えながら生きてくのは、まっぴらごめんなんだよ。」(p231)

とか

「俺は《在日》でも、韓国人でも朝鮮人でも、モンゴロイドでもねえんだ。俺を狭いところに押し込めるのはやめてくれ。俺は俺なんだ。」(p246)

なぞといってほしくありません。

だって現に《在日》であるから免除されていること、《在日》であるから受けている恩恵はあるのです。それが嫌でも何でも。
それを棚上げしておいて、「俺は俺」なんていう、ある種のコスモポリタニズムを発揮されても頷けませんガーン

よく言われるように、権利を主張するならば、義務を果たさなければならないし(たとえそれは自分の考えにそぐわないものでも)、それをすべて放棄するならば、それこそ日本、韓国すべてを捨ててあらゆる束縛から出て行ったほうがいい。
しかし、それも不可能かもしれません。嫌でも現在は、国民国家という中でしか我々は生活していけないのですから。

ということで、桜井の「ご都合主義」、杉原の「ご都合主義」により、なんだかなぁ~という読後感でした。



  
総合評価:★★
読みやすさ:★★★
キャラ:★☆
読み返したい度:★★
レベル:若干長めですが中学2~3年生レベルなので1日くらいで読めると思います。


ジャンル:ヒューマン


あらすじ(背表紙から):

In a house in Oxford three people are having breakfast - Carol, her husband Jan, and his father Josef.
They are talking about Prague, because Carol wants them all to go there for Christmas.

Josef was born in Prague, but he left his home city when he was a young man.
He is an old man now, and he would like to see Prague again before he dies.
But he is afraid.
He still remembers another Christmas in Prague, many long years ago - a Christmas that changed his life for ever...


面白さ:★★★☆


※以下、結末まで話します。嫌な方は見ないでください。













Christmas in Prague (Bookworms Series)/Joyce Hannam
¥599
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内容:
オクスフォードに暮らしていたキャロル、夫のジャン、そしてジャンの父親であるジョセフ。
キャロルはオーケストラのハープ奏者として、その年にプラハで催される演奏会に出演するとのことで、ジョセフの出身地であるプラハに家族3人で一緒に行こうと提案します。

しかし、プラハで暮らしていたというジョセフですが、これまでその地での生活について、キャロルはおろか息子のジャンにまで語ろうとはしなかったので、プラハに行くのかどうか迷いますが、ジョセフは死ぬ前にもう一度プラハに行くのも良いだろう、ということでプラハ行きを決心します。

出演する演奏会の練習のため、一足先にプラハに来たキャロルは、練習後の自由時間でプラハの街を散策、するとイギリスにおり数日後にここプラハに来るはずだった夫のジャンが向かいの通りを歩いているではありませんか。
呼びかけても反応を見せないジャンに近づこうとキャロルは道路を渡ろうとしたとき、バスに当たって事故にあってしまいうのでした。

さて、イギリスでは、キャロルの事故を聞いたジャンと父ジョセフが慌ててプラハに駆けつけます。
同時に、キャロルがジャンと思っていた男、彼も自分に近づこうとしてキャロルが事故にあったことを気づいており、キャロルのいる病院に向かいます。

そしてジャン、ジョセフ、ジャンに酷似した男が同時に病院で会うことに。
狼狽するジャンと男(名前はPavel)でしたが、ジョセフは何かを悟ったように話し始めます。
実は男はジョセフの息子であり、彼らが生き別れた兄弟なのだということを。

時は冷戦最中のチェコ。当時自由を求める活動家だったジョセフは、同じく自由を求めるレンカと恋に落ち、双子を授かります。
しかし、政府に目を付けられた2人はイギリスに亡命することにします。
1957年のクリスマス・イブに、まずジョセフが赤ん坊だったジャンを連れて亡命し、成功。
翌日のクリスマスにレンカと双子のもう一人の男の子が亡命しようとしますが、失敗し、レンカは銃弾に倒れます。幸いに一命をとりとめた男の子は以後、チェコでレンカの母親に育てられた、ということだったのです。

「レンカとPavelはあなたのせいで死んだ、もう連絡をしてくるな」
というレンカの母親からの手紙を受け取ったジョセフは以後、2人は死んだのだとしてイギリスでチェコと、思い出を捨てて生きてきたのでした。

当初は自分を捨てたと思い、ジョセフを恨んだPavelでしたが、その経緯を聞いてジョセフと邂逅、さらに兄であるジャンと涙ながらに抱き合うのでした。

さて、事故にあったキャロルでしたが、なんとかその日のコンサートに出演できる様子。
キャロルはジョセフ、ジャン、Pavelをコンサートに来てくれと言います。
新しく大切な家族が加わった記念のクリスマスのコンサートに。


感想:

何はともあれ、この物語で一番、胸をついたのは、冒頭の文章。つたない英語力ですが、意訳和訳してみます。


あなたは家族のことについて、全てを知っているだろうか?
家族はあなたについて全てを知っているだろうか?
どんな家族でもなにがしかの秘密を持っている。それは大きな秘密、小さな秘密、笑ってしまうような秘密、そして、それは悲しい秘密かもしれない。 

ジャンは妻のキャロル、そして父のジョセフとオクスフォードに住んでいる。
ジャンはプラハで生まれたが、父と共に幼い頃にイギリスに来たのだ。
母親は彼が生まれたときに死んだので母のことをまったく知らない。
また父も母について多くを語らない。
しかし、ジョセフは未だに妻の写真を持ち歩いているのだ。

キャロルはオーケストラのハープ奏者で、クリスマスにプラハでのコンサートをすることになった。
プラハは義父と夫のゆかりの地であり、キャロルはジャンとジョセフと一緒に行きたかった。

しかし、プラハでは彼らの秘密が待ち受けているのだ。
素敵な、幸せな、そして悲しい秘密が。



なんすか、秘密って~!!!!
と思わず、一気読みしてしまいました。
今紹介した序文の中の、最初の2文はこの小説に限らず、一般的・本質的な問いかけとして迫ってきます。

内容は、なんとなくありがちな平凡な感じではありましたが、それでも今紹介した序文や、それに続く1957年のプラハの惨劇(最初に母の死を持ってきているので、この時点ではなんのこっちゃ分かりませんが)、すごくいい展開です。

歴史上の悲劇って結構いいストーリーつくりの場になるんだなぁと改めて思います。
例えばナチによるユダヤ人虐殺や、冷戦など。

もちろん、それらの出来事によって、現実にもっともっと苦しい悲劇に遭われた(遭われている)方もいらっしゃいますが、物語の書き手としては、こうした「個人ではどうしようもない大きな力によって別離を余儀なくされている」という状況は書きやすいのかもしれません。
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 「観光?」
 こんななにひとつない所になにをしに来たんだろうと思って私はそうたずねた。
 「うん。知ってる? もうすぐここで百年に一度の見ものがあるのよ。」
 彼女は言った。
 「見もの?」
 「うん。条件がそろえばね。」
 「どんなこと?」
 「まだ秘密。でも必ず教える。お茶をくれたから。」
(p157より)

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角川文庫に所収された『キッチン』の最後の短編です。
ストーリー的には『キッチン』と『満月』とは繋がってはいませんが、前2編と同様に愛する者の「死」を扱っているという点で共通したものがあります。

一応あらすじですが、

愛し合っていた恋人、を事故で亡くしたさつき
恋人の死に対して向き合うことが出来ず、ろくに寝られもしない生活を送っていたさつきは、夜明けのジョギングを日課としています。
その日も熱いお茶を持って、ジョギングをし、彼との思い出の川にかかる橋の前でいつものように一休みしていると、ふと明るい顔をした女性、うららに声をかけられ、仲良くなるのです。
冒頭に引用した部分はこの女性、うららとさつきの会話です。

観光とは思えないこの街に来て、うららはあるものを見に来たのだと言います。

うららとはその場で別れるのですが、そのとき、ふと振り返ったうららの顔は、先ほどとは違い、何とも物悲しそうな顔をして川を見つめていたのでした。

一方、等にはという弟がいました。柊にもゆみこさんという恋人が。
さつき、等、そして柊、ゆみこは互いに仲が良く、4人で遊ぶこともしばしばありました。
しかし、柊は、等という兄と恋人であるゆみこさんを一気に失うことになる。
つまり、ある日、ゆみこさんを送るということで乗せた等の車が事故、2人はそれが原因で死んでしまったということなのです。
以来、柊はゆみこさんの高校の制服を着ている、という生活を送っていました。
さつきにとっての夜明けのジョギングと本質的には同じ行動なのでしょう。

さてさて、さつきも柊も、等とゆみこの死を乗り越えられないまま変わらぬ苦しさを胸に抱えていたのですが、うららの言っていた、百年に一度の見ものが見られる日が迫ってきました。

百年に一度の見ものとは?
うららの悲しい顔の原因とは?
さつきと柊は、愛するものの死を乗り越えられることができるのか?




 では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。










キッチン (角川文庫)/吉本 ばなな
¥420









~1回目 2010.3.17~

結果を言ってしまえば、
百年に一度の見ものというのは、先に述べた橋で起こった不思議なできごと。
それは、七夕現象といって、大きな川のところで、死んだ人の残した思念と残された人の悲しみとがうまく反応することでかげろうとなって、残された人の目の前に死んだ人が現れる、というものなのです。

さつきは見るのです。等を。
そして、その七夕現象を知ったうららはこの街にやってきたのです。
うららもまた、変な形で死に別れた恋人と、最後の別れができたのでした。

さて、その後、さつきは“もっと強くなりたい”という気持ちを持って、次第に彼の死を受け入れ、前に向かって進むようになります。
一方、柊ですが、彼もその後会った時には、ゆみこの制服を着ていない。
なぜなら、彼も夢うつつの中、ゆみこが部屋に入ってきて、制服を持っていってしまったからでした。
彼もそれにより死を乗り越え、再び歩き始めるのでした。


さて、感想ですが、なんとな~く百年の見ものって死んだ人と何かがあるんじゃないかなぁとは予想できたのですが、予想できたとはいえ、なかなかその部分の記述が素敵です。

少し長いですが、その部分を紹介します。

「 等がいた。
  川の向こう、夢や狂気でないのなら、こっちを向いて立っている人影は等だった。川をはさんで――なつかしさが胸にこみ上げ、その姿形すべてが心の中にある思い出の像と焦点を合わせる。
  彼は青い夜明けのかすみの中で、こちらを見ていた。私が無茶をした時にいつもする、心配そうな瞳をしていた。ポケットに手を入れて、まっすぐ見ていた。私はその腕の中で過ごした年月を近く遠く、想った。私たちはただ見つめ合った。二人をへだてるあまりにも激しい流れを、あまりにも遠い距離を、薄れゆく月だけが見ていた。私の髪と、なつかしい等のシャツのえりが川風で夢のようにぼんやりとなびいた。
  等、私と話したい?私は等と話がしたい。そばに行って、抱き合って再会を喜び合いたい。でも、でも――涙があふれた――運命はもう、私とあなたを、こんなにはっきりと川の向こうとこっちに分けてしまって、私にはなすすべがない。涙をこぼしながら、私には見ていることしかできない。等もまた、悲しそうに私を見つめる。時間が止まればいいと思い―しかし、夜明けの最初の光が射した時にすべてはゆっくりと薄れはじめた。見ている目の前で、等は遠ざかってゆく。私があせると、等は笑って手を振った。なつかしい等、そのなつかしい肩や腕の線のすべてを目に焼きつけたかった。この淡い景色も、ほほをつたう涙の熱さも、すべてを記憶したいと私は切望した。彼の腕が描くラインが残像になって空に映る。それでも彼はゆっくりと薄れ、消えていった。」
(p193-194より)


過去を懐かしみ、恋人と一緒に居たい、という気持ちはもちろんありますが、しかし運命を受け入れ、さようならの挨拶(大きく手を振る)を交し合うのです。
ここで、この時点でさつきはその悲しい運命と向き合うことになるのです。

この場面は非常に非科学的な感じがしますが、そんなことは決して問題ではなく、むしろ生きている以上誰もが何回かは経験するであろう(もちろん、恋人に限らず親や親友など)最愛の人の死に対して、この本を読んで心構えをすることが出来ましたし、救いがあると思いました。

自分が死に別れた人を愛していたのと同様に、死に別れた人も自分のことを同じくらい愛していたことが分かり、確信できれば、それだけである種の安らぎを得られるような気もします。

その吉本ばななさんの瑞々しい文章が相成って、非常に苦しくも救いのある内容に仕上がっているように感じましたビックリマーク

しかし、
しかし!!!!
この作品において全然納得のできない点が1点あります。
それは、

「川ではなく、夢うつつの中で柊もゆみこを見た」ということ。

それじゃあ大きな川で起こる七夕現象って一体・・・
ならば別に日だってその日じゃなくていいじゃんかあせる
さらにゆみこが制服を持っていってしまったから制服を着ることがなくなった、っていう感じも釈然としません。

それならば、なんらかの形で柊もその川に行くことになり、さらに「自発的に」ゆみこの制服を着ないという決心を固める、という風にしてほしかったです。

物語の核心的な部分を壊しかねないこの柊の一件のために冷めてしまったことは否定できません。
それ以外のストーリーはすごくすごく好きで、個人的には『キッチン』や『満月』以上に楽しめましたニコニコ


  
総合評価:★★★★
読みやすさ:★★★★★
キャラ:★★★
読み返したい度:★★★
レベル:中学2~3年生レベルで1時間以内に読めると思います。


ジャンル:ユーモア


あらすじ(背表紙から):

Billy and Rox are staying with their grandmother in Brighton.
They dream of having expensive new bikes, but where will they find the money?
Gran has a plan.

The only things they need are a camera, a bit of luck and the Queen of England!

面白さ:


※以下、結末まで話します。嫌な方は見ないでください。













Billy and the Queen (Penguin Joint Venture Read.../Stephen Rabley
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内容:
新しい自転車が欲しかったビリーは、「女王と一緒に自分を写真をおさめる競争(1番早い人に500ポンド)」という記事を見つけ、姉のロックスと女王との写真を撮りに行きます。

しかし、警護に阻まれたり、人ごみのせいで顔が写らなかったりと、全然うまくいきません。

諦めかけたビリーでしたが、姉のロックスが何かひらめいた様子。

それは、マダムタッソー(蝋人形館)で、女王の蝋人形と写真を撮ればよいのでは、ということ。

2週間後、グランおばあちゃんの庭で楽しそうにビリーとロックスは新しい自転車をこいでいたのでした。


感想:
全然納得できませんむっ

①そもそも、そんな写真で500ポンドをくれるわけがないではないか。
②よしんばその写真が「なかなか機転が利いている」という評価を受けたからOKだったとしても、蝋人形とはいえ女王陛下に肩をくむとは何事か!!
イギリス国民を敵に回すのでは?と思えて仕方ありません。

あまりにも現実離れしすぎていて、面白くありませんでした。