『GO』/金城一紀 | こだわりのつっこみ

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素人が音楽、小説、映画などを自己中心的に語ります。

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  裕福な国と家庭に生まれ落ち
  悪さをしてオヤジによく蹴り飛ばされた
  人生のほとんどを堂々と生きてきたけど
  気を抜くといつも折檻を食らってる犬みたいになっちまう
  僕は日本で生まれた
  僕は日本で生まれた

 そう、
 僕は、日本で、生まれた。
(p19-20より)

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今回は、直木賞を受賞した青春恋愛小説、GOです。

しかし、単なる青春小説にはあらず、ここに重いテーマをこめているのです。
それは、

主人公の高校生、杉原が在日朝鮮人(のち韓国人)だということ

これにより、多くの日本人が体験・経験する高校生活とは一線を画するものとなっているので、なかなか新しい視点で描かれているなぁというのが第一印象です。

さらに、作品の背表紙には「感動の青春恋愛小説」とありますが、それだけではなく、個人的には興味あるんだけど、なかなか知る機会がない、朝鮮学校内の学校生活が描かれていて(もちろん、小説というからには若干の誇張が入っているとは思うのですが)、これもなかなか面白いです音譜


あらすじいきます

在日朝鮮人の杉原は、一般の私立高校に通う高校生。
しかし、朝鮮学校時代には人並み以上の悪さをし、高校に入ってからはそれまで以上にマイノリティとして生きるために自分を強くもって生活をしていました。
そんな中で、同じくマイノリティのヤクザの親分の父を持つ加藤と知り合い、加藤自身が主催する、自身の誕生パーティに用心棒役として招待されることになります。

そのパーティ会場で杉原はその場には似つかわしくない女性と出会うのです。
その女性、桜井は杉原を見つけると、2人で会場を抜け出します。
もちろん、杉原は桜井のことを知りませんが、桜井は杉原を知っていたかの様子。
いずれにしろ、この奇妙な出会いをきっかけにして、桜井と杉原の恋が生まれていくのです。



 では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。









GO (講談社文庫)/金城 一紀
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~1回目 2010.3.25~

さて、あらすじの続きですが、

その後、杉原と桜井は「恋人」としての関係を徐々に深いものにしていきます。
趣味や興味を共有し、それなりの肉体関係を結び(とはいえ、セックスはしていない)、さらに桜井の家庭に招待されたりもするのです。

さて、親密になるにつれ、杉原には桜井に言わなければならないことについて考えなければならなくなります。

自分の出自、つまり、自分は日本人ではなく、在日韓国人であるということ。

しかし、2人の信頼関係や恋愛感情はこんなことでは揺るがないはず。
そういうある種の覚悟をもって杉原は、桜井に打ち明けることにします。
それは、2人がいよいよ初めてのセックスをする直前。

しかししかし、桜井の反応は冷ややかなもの。
出自は関係ないではないか、という杉原に対し、「なんとなく怖い」という桜井のはっきりと、絶望的な拒絶により、2人の関係は終わってしまうのです。

その後、杉原は弱々しい警察官や、同じ高校に通う実は在日の闘う高校生、朝鮮高等学校に通うアナログ的な荒々しい元同級生、さらに時代を強く生きてきた父親との交流を通じて、自分の将来や行く末、在日のあり方などを考えていくのです。

そんな中迎えたクリスマス・イブ。
突然、最悪の形で離れ離れになってしまった、桜井から急に電話がきます。

あの事件以来、桜井は勉強し、どの国籍であろうと、そんなものは関係がないという結論に達したのだということを杉原に告白、2人はその障害を越え、本当の隠し事のない恋愛がスタートするのでした。


さて、感想です

一言で言えば、個人的にはあまり面白く感じませんでしたダウン
もちろん、前述したように、新しい視点で描かれている青春恋愛小説であるということ、そして朝鮮学校の雰囲気の一端を知ることができたことは、なかなか興味深かったのですが、大きくいえば、ストーリーと主人公杉原の考え方に共感ができなかったことがあります。
なんだか全編に渡って「ご都合主義」を感じてしまいます。

まず、ストーリーに関して。

なぜ、あれだけの悪いことをやっており、さらに中学時代の成績が底辺らへんにいる高校生が、そんなに理論武装できるのかなぁ~はてなマークという杉原にも若干の違和感がありますが、それよりなにより、ヒロインの桜井に対して思うことがあります。

たしかに、杉原の覚悟の告白(自分が在日だということ)により、躊躇があることは認めます。
さらにそこで別れてしまうということは(悲しいことだけれども)、あり得る。

むしろ、桜井の「血が汚い」とか「なんだか怖い」という反応は、在日の方々に対する、日本人のある種典型的な反応で、おそらく作者も言われた経験があるんじゃないか、と思えるくらい、リアルに問いかける部分で、ここはすごく読むべき箇所です!!

しかし、その後の桜井の身の軽さ
個人的主観でラストシーンの桜井の発言をつなぐと、

「私が間違ってたわ、生まれなんてどうでもいいってことに気づいたの。私はあなたを以前見たことがあって、それ以来あなたに惹かれていたの。
だってそれが証拠にあなたをはじめてみてから、あなたに会うと濡れちゃうのよ。それくらい好きなのよ。」

的な横暴極まりない告白をするのです。

杉原の告白の際、絶望的な、それまでの楽しい恋人としての時間や杉原のアイデンティティを否定する言葉を吐いて別れたにもかかわらず、数ヵ月後に電話をかけて杉原と会うなんてどんな神経なんだガーン

まずは謝って、自分の思っていることを話し、杉原の動向を伺うのがすじだとは思うのですが、、、

まあ、最後は杉原もまんざらではないような感じで再び桜井と付き合うことになるので、ここらへんが、あんまり考えていない高校生=青春なのかなぁという風にも穿って読めるのですが(笑)


そして、杉原の思想について。この点に関しては個人的な政治思想も絡んでくるので大それたことは言えませんが・・・

たとえば、杉原の国籍がある本国、韓国には徴兵制度があります。
つまり、韓国人であるからにはある一定期間、兵隊としての訓練をする義務があるということ。
これに関して言えば、在日韓国人にはその義務がありません(というか在日ということで免除されている)。
逆に、日本政府は朝鮮学校に対して補助金を出し、日本人では得ることのできないなんらかの恩恵をうけています。

そんな中で、

「俺が国籍を変えないのは、もうこれ以上、国なんてものに新しく組み込まれたり、取り込まれたり、締めつけられたりされるのが嫌だからだ。もうこれ以上、大きなものに帰属してる、なんて感覚を抱えながら生きてくのは、まっぴらごめんなんだよ。」(p231)

とか

「俺は《在日》でも、韓国人でも朝鮮人でも、モンゴロイドでもねえんだ。俺を狭いところに押し込めるのはやめてくれ。俺は俺なんだ。」(p246)

なぞといってほしくありません。

だって現に《在日》であるから免除されていること、《在日》であるから受けている恩恵はあるのです。それが嫌でも何でも。
それを棚上げしておいて、「俺は俺」なんていう、ある種のコスモポリタニズムを発揮されても頷けませんガーン

よく言われるように、権利を主張するならば、義務を果たさなければならないし(たとえそれは自分の考えにそぐわないものでも)、それをすべて放棄するならば、それこそ日本、韓国すべてを捨ててあらゆる束縛から出て行ったほうがいい。
しかし、それも不可能かもしれません。嫌でも現在は、国民国家という中でしか我々は生活していけないのですから。

ということで、桜井の「ご都合主義」、杉原の「ご都合主義」により、なんだかなぁ~という読後感でした。



  
総合評価:★★
読みやすさ:★★★
キャラ:★☆
読み返したい度:★★