京都のくぼちゃんです。
今年もやってまいりました、夏柑糖(なつかんとう)の季節。
夏柑糖とは、京都の花街・上七軒にある老舗和菓子店『老松(おいまつ)』さんが提供する、丸ごとの夏みかんを器にした水菓子です。甘夏ではなく、昔ながらの酸分の多い夏みかん(ナツダイダイイ)を使用しています。生産者は今では原産地の萩や和歌山の一部に限られ、販売は4月1日から夏みかんの収穫が終わるまでの期間に限られます。
この夏柑糖には、思い出が詰まっています。亡き夫が大病を患い、奇跡的に助かったものの重い障がいが残り、胃ろう造設手術を受けることになりました。主治医は、誤嚥性肺炎を心配して口から食べることを勧めませんでしたが、リスクを承知で、慎重に進めました。少しずつゼリー状のものやトロミ状のもの、ミキサー食が食べられるようになりました。食べたことで肺炎になったことは一度もありませんでした。夫のむせない丁度良いゼリーのかたさ加減が「老松」さんの夏柑糖でした。
4月になると、実家の母からクール便で夏柑糖が届きました。入院中は食事リハビリが思うように進まず、栄養は経管栄養に頼らざるを得ませんでしたが、口から食べる喜びを少しずつ取り戻し、口から食べられる幸せを噛みしめました。そのきっかけが、夏柑糖でした。
食べることは生活の質を向上させ、生きる力に直結していることを日々実感しました。夏柑糖は、食べることの喜びを再確認させてくれました。
夏柑糖を題材にした手作り絵本を2冊作りました。ご指導いただいたのは、しまし乃さんです。
1冊は、夏みかんの気持ちになって制作しました。夫がリハビリ中に一生懸命に色を塗ったり、新聞紙やマーブリング紙などをちぎったりして作った素材を使用。表紙は、老松さんの包装紙と紐を再利用しました。一部を紹介します。
「私、純粋種の夏みかんです。ナツダイダイとも呼ばれます。山口県萩市の出身です。今では仲間は、和歌山県の一部にだけになりました。」
「私は、4月になると京都の老舗和菓子店『老松』へ届けられ、”夏柑糖”に仕上げられます。季節限定で、遠方からも買いに来られます。私は、すぐにお客様の思いがこもった贈り物として、箱に詰められました。」
「私は、長旅をしました。」
「私は、どこに来たのかしら?」
「そして、私は娘さんの旦那さんの両手の中へ…。「もぎ立てみたいやな」爽やかな香りと共に冷たくてゴツゴツした肌触り、ずしっと重たい私をしっかりと感じて下さいました。」
「私は、『老松』の職人さんの手によって、皮を傷つけないように中身を丁寧にくり抜かれ、しぼった果汁と寒天を合わせ、再び皮に注いで、冷やし固められた寒天菓子です。」
「飲みこみが難しい旦那さんは、私だけはむせずに召し上がりました。「うまい!うまい!」と言って下さいました。天然の酸味とほのかな苦み、ほどよい柔らかさは喉ごしがよく、後味はさっぱりしていると好評でした。」
「皮だけになった私は、砂糖煮にされ、夏みかんピールに変身しました。皮にはビタミンがたっぷり含まれています。私は、これで1か月保存可能です。お菓子からおかずまで、レシピ次第で私の可能性は無限大です。」
「ピールとチョコ・蒸しパン・寒天ゼリー・ヨーグルトのトッピング・パウンドケーキ・ポンデケージョ・ピールとかしわ(鶏肉)のおかず・クッキー」
物語の終わりは「最後まで味わっていただき、私はとても幸せでした」という言葉で締めくくりました。
もう一冊は、母への感謝の気持ちを込めて、写真を使用して夏みかんの形をした絵本を制作しました。
風呂敷は、実家の染工場で染めた日傘の布の端切れを使用しました。
最後に、母への感謝の言葉を添えました。
今日、紹介する絵本は…
『食べたいな』
作・絵: みやまつともみ
出版社: 福音館書店
発行日: 2024年04月12日
美味しそうなおやつがいろいろ登場します。和紙などの素材を使って表現されています。おやつの絵がとっても魅力的に描かれています。特に涼しげなゼリーの質感が何とも言えません。
夏柑糖は、食べてなくなりましたが、ページをめくるたびに、味や匂いが蘇ります。今年は、1歳の孫と一緒に夏柑糖を楽しむことができました。幸せを噛みしめられた、きょう一日でした。