特別編 小説「みふのもちつき」第一話の9(終)
「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 9(終)9鶴ヶ丘病院の外はもう大分暗くなっていた。残務整理などで遅くなってしまったが、安江法子の鶴ヶ丘病院での日々はこれで終わった。ロッカーのカギを返し忘れたが、後で郵送すればいいだろう。もう病院には戻りたくない。清清とした気持ちになる。体調も今までになく良くなった気がする。無能な院長や事務長の顔を見ずに済むようになるのは勿論、あの阿部川田みふと縁が切れると考えると踊り出したくなる程嬉しくなる。今日入職した望月拓真はどのくらい持つだろうか。根性がなさそうだから半月が限度か。安江は鼻歌交じりに病院の正門に向かった。その時、安江は門から頭をちょこんと出して覗いている不審な人影を発見した。「あなた何しているの」安江が声を掛けると、人影は素直に姿を現した。ショートカットの若い女性で照れくさそうに笑っている。八重歯が可愛らしい。女ははにかみながらこの病院で働きたいのだと言った。安江は内心仰天したが、顔には出さなかった。理由を問うと、えへへと照れ笑いをしてはぐらかされた。ここでストレスから解放された安江は親切心を起こす。「この病院で働くなんて絶対に止めた方が良いわよ」何でですかとうるうるした目で女は安江を見上げる。まだ若いこの女性を正しい道に導かなければならないと安江は正義感に燃え、鶴ヶ丘病院の良くないところを滔々と女に説明した。その弁舌はバスを待つ間だけに留まらず、バスに乗り込んで駅に向かう間も続いた。退職は安江から責任感を取り払った。開放的になった心は拍車をかけて口を軽くする。最後には聞き上手な女を連れて駅前の居酒屋に入り酒を酌み交わしながら、安江は病院の内情を暴露し続けた。(終)※当ブログを気に入って頂けましたら、フォローをお願いします!☆以前の小説「みふのもちつき」はコチラ!『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の1』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 11「鶴ヶ丘病院前」長い時間バスに揺られていたので望月拓真はうたた寝をしていた。「あっ、降ります」降車…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の2』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 22「うちは脳梗塞や骨折などで体の動きが不自由になった患者さんがまた日常生活を遅れるようにリハビリを…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の3』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 33「大丈夫ですか、安江師長」一番初めに看護師に駆け寄ったのは平良だった。手近にあった椅子を素早く持…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の4』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 44半ば強引に鶴ヶ丘に背中を押されて拓真は会議室を出た。鶴ヶ丘からは病棟三階東側奥の院長室にいる阿部川…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の5』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 55勢いよく会議室に入ると鶴ヶ丘と平良が窓際で並んで前庭を眺めていた。「春だな」「散りゆく桜がとても風…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の6』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 66「毎度ありがとうございます」高田屋の主人が愛想良く頭を下げた。拓真は涙目になる。財布がすっからかん…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の7』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 77石川親子が病院を去ると、鶴ヶ丘は「ガハハ」と機嫌良く笑いながら裏口からこっそり覗いていた拓真を手招…ameblo.jp『特別編 小説「みふのもちつき」第一話の8』「みふのもちつき」第一話 ボーイ ミーツ みふ 88イチゴ大福の袋を抱え拓真は東側エレベーターで三階まで上がった。降りて左手に院長室のドアはある。拓真…ameblo.jp