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柔道が足りてない!

昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

前回に続き、東京五輪の注目選手を挙げてみたいと思います。

今回は中量級が対象。

 

2021年7月26日(月)

◆57kg級(芳田 司選手が出場)

ジェシカ クリムカイト選手(カナダ)
出口 クリスタ選手とのカナダ代表争いを逆転で制し、世界王者として東京五輪に出てきます。
右組みで、組むや否や背負投を連発してきますので、如何に主導権を握らせないかが重要になってきそうです。


◆73kg級(大野 将平選手が出場)

アン チャンリン選手(韓国)
在日韓国人3世で、過去の対戦内容から見ても、大野選手の牙城に一番近い選手ではないでしょうか。
左組みで、韓国仕込みのテクニカルな背負投が武器ですが、かつては石井慧氏の「何が何でも勝つ」という姿勢に憧れていたとのこと。
日本育ちなので、今回ホームゲームなのも有利に働くか?

ラシャ シャヴダトゥアシヴィリ選手(ジョージア)

ロンドン五輪66kg級で金メダル、リオ五輪73kg級で銅メダルを取っている強豪。

三度目の五輪なので、本番にコンディションを合わせてくるのも慣れており、先日の世界選手権も優勝しています。

ジョージア出身選手の例にもれず怪力の持ち主で、背中を持っての接近戦は脅威です。


2021年7月27日(火)

◆63kg級(田代 未来選手が出場)

クラリス アグベネヌー選手(フランス)
左組み。奥襟や背中を持っての大外刈や払腰が得意ですが、力が強いため強引に持っていかれてしまいます。
田代選手も過去一度しか勝てていない相手ですが、差は少しずつ縮まっている印象。


◆81kg級(永瀬 貴規選手が出場)

タト グリガラシヴィリ選手(ジョージア)
当ブログでも以前取り上げましたが、接近戦も遠間からの技もこなせる多才な選手。
目下急成長中で、東京五輪でも最有力のひとりと言って良いかと思います。
強いて言えば、若干粗削りな部分が残っているところが付け入る隙か?

 

サイード モラエイ選手(モンゴル)

「居反り」風の肩車を得意としてます。

イランの選手でしたが、イスラエル選手との試合を拒否するよう強要する国に反発してモンゴルに移籍しました。

最近は若干調子を落としている印象ですが、五輪に向けて調子を上げてくる可能性はあります。

五輪の柔道競技開催が近づいてきました。各階級で注目選手を挙げてみたいと思います。
今回は軽量級。

2021年7月24日(土)

◆48kg級(渡名喜 風南選手が出場)

ダリア ビロディド選手(ウクライナ)
副業でモデルもやっている美人で有名ですが、試合では相手の髪の毛を掴んだりする場面も見られ、かなり気性の荒い選手のようです。
この階級ではかなりの長身なので、長い手足で遠間から大内刈などの技を掛けてきますが、減量苦から来るスタミナ不安が弱点か?

渡名喜選手とはかなりの身長差があり、やりにくい相手ですが、打倒ビロディドの対策は当然準備していると思います。


ディストリア クラスニキ選手(コソボ)
右組み。背は高く無いですが、比較的オーソドックスな構えから奥襟を叩いてくるパワー柔道タイプといった印象です。
渡名喜選手からするとケンカ四つなので、比較的力をいなしやすく、身長差もそれほど無いので、油断さえしなければやりにくい相手ではなさそうです。


◆60kg級(高藤 直寿選手が出場)


ロベルト ムシュヴィドバゼ選手(ロシア)
組み手や足技も巧く、最近のロシア勢に多い「柔道が巧いタイプ」です。
ただし、わりと正統派の柔道なので、高藤選手としてはやりにくい相手では無いと思います。


ルフミ チフヴィミアニ選手(ジョージア)
背中を持って強引な腰技を打ってくるパワー系。左メインですが左右どちらでも技を掛けてきます。
返し技が巧く、驚異的なボディバランスでこちらの技を凌いで返し技を狙ってきます。

前述のムシュヴィドバゼ選手と比べると、チフヴィミアニ選手の方が厄介な相手かも。



2021年7月25日(日)

◆52kg級(阿部 詩選手が出場)

マイリンダ ケルメンディ選手(コソボ)
前回リオ五輪の覇者。左組みですが、48kg級の同国代表クラスニキ選手と似たパワー柔道タイプです。
阿部選手、過去の直接対決では寝技で仕留めていますが、一筋縄ではいかない相手です。


アマンディーヌ ブシャー選手(フランス)
右組み。徹底して肩車を狙ってきます。阿部選手もこの技で過去に苦杯を喫しており、要警戒の相手。


◆66kg級(阿部 一二三選手が出場)

マヌエル ロンバルド選手(イタリア)
2021欧州選手権の覇者。右組み。身体の力が強く、一旦凌いだと思った肩車を執拗に押し込んでポイントを奪ってきます。
阿部選手も過去にこの肩車で投げられており、勝った試合も苦戦していて、相性的にも嫌な相手。

アン バウル選手(韓国)
前回リオ五輪の銀メダリスト。左組み。厳しく粘り強い組み手と、極めまで執拗に追ってくる背負投という、韓国の軽量級選手に多く見られるスタイルの選手。根競べの展開には持ち込みたくない相手です。

先日受講したオンライン審判講習会の中で、絞め技で「落ちた(失神した)」際の活法についての講義がありました。

簡単に内容を紹介しますと、

・柔道で用いる活法には「総活」「襟活」「誘活」「下腿挙上活(仮名)」などがある。

・柔道の試合で選手が「落ちた」際にドクターが居合わせない場合は、主審が「総活」を施す。

・「総活」は、落ちた人の横隔膜を押し上げるようにして施す活法。



ちなみに活法とは、絞め技などで意識を失った人に「活を入れ」て目覚めさせる方法です。

よく、『昔の武術は「活法」と「殺法」から成り立っており、活法は治療法として柔道整復に発展、殺法は武道としての柔道に発展した。』的な説明を目にしますが、それを裏付ける古い資料は無く、比較的近代になって作られた俗説ではないかとの情報もあります。


ここで、なぜ絞め技で「落ちる」のか、ググってみました。

絞め技で頸動脈洞(けいどうみゃくどう)という部分が圧迫されると、血圧が低下する「頸動脈洞反射」という反射が起こり、脳幹への血流が低下することで失神に至る、というメカニズムのようです。

なので、絞め技を解いて脳幹への血流が回復すれば、意識も戻ると考えられます。

失神するのが上記の理由だとすると、活法として最も効率が良いのは「下腿挙上活」、つまり落ちた人の足を高く挙げて脳への血流を促進してやる方法ではないかと思われます。

一方、前述の「総活」は、横隔膜を押し上げる動作から判断すると、いわゆる窒息(呼吸が阻害された状態)からの回復を意図した活法と思われますので、脳幹への血流が阻害されて落ちた人を回復させる効果には疑問を感じます。


では何故、柔道の規定では「総活」が推奨されるのか?

真意は不明ですが、おそらく窒息で意識を失った場合であっても対処できるように、汎用性を考慮して「総活」を推奨している(名称に「総」が付くのは汎用性を表している?)、といった理由が考えられます。

一方の手で相手の手首を取り、もう一方の手は相手の肘の下を通して自分の手首を持ち、テコを効かせて関節を極める技です。
ちなみに「腕絡」ではなく「腕緘」と書きますが、柔道の前身でもある天神真楊流の技名称を踏襲しているようです。

相手の腕を外旋させて極める形、内旋させて極める形、伸展させて極める形などがありますが、柔道ではいずれも腕緘に分類されます。

今回はその中で、外旋型の腕緘について取り上げてみたいと思います。


腕緘(外旋型)
「固の形」で行う腕緘の形です。腕を外旋させることで、肘の内側を極めます。

 

他の格闘技では「V1アームロック」、「アメリカーナ」、「トップリストロック」などの名称で呼ばれています。

下記動画の前半で紹介されているのが外旋型の腕緘です。

 

横四方固で抑え込んだ状態からこの腕緘を狙うのが基本形ですが、コツとしては相手の脇を閉めさせるようなイメージで捻じり上げると、巧く極めることができます。

逆に、横四方固からの外旋腕緘から逃げたい場合、受は脇を開けるようにすると極まり辛くなります。


注意点としては、相手の肘の角度が90度ぐらいの状態で捻ると、相手の肩にトルク(捻じる力)が加わり、肩関節が極まってしまう場合があります(T型コルク抜きと同じ原理)。

ググって見つけたこちらの論文では、肘角度90度の外旋腕緘の場合、22人中14人は肩が極まったという結果が出ているようです。
柔道関節技の効果に関する研究:痛む部位について

柔道のルールでは、関節技で極めて良いのは肘関節のみなので、肩関節を極めた場合は厳密に言うと反則になってしまいます。

しかしながら、腕緘は
・一見、肘を攻めているように見えること
・極め方によっては肘を極める事もできるため、肩と肘のどちらが極まっているか判別が難しいこと
などから、実質的には肩が極まっていても反則を取られる事は稀で、扱いとしてはグレーゾーンとなっている印象です。

とはいえ、やはりルールで定められている以上、柔道で意図的に肩を極めるのは避けるべきでしょう。

ひとつのやり方としてはストレートアームバーの要領で、相手の肘を過伸展させて極める方法があります。この方法であれば肘関節のみを極める事ができます。

また、相手の肘の角度が鈍角になるような状態(一般的に120度ぐらいが良いとされているようです)で捻じることで、肩よりも肘の方が極まりやすくなるようです(バイオメカニクス等の分野に関しては当方全くの素人なので、原理は良く分かっていませんが笑)。

8日間に渡って開催された世界柔道選手権も終わり、若干柔道ロス状態ではありますが、個人的に「見ていて面白かった」選手を挙げてみたいと思います。


81kg級 グリガラシヴィリ選手(ジョージア)


ジョージアの選手といえば怪力を生かした接近戦勝負の印象が強く、グリガラシヴィリ選手も例に漏れず相手の背中を持った接近戦を得意としているのですが、組み手争いの中に支釣込足による崩しを挟んで来たり、一本背負投や組み手とは逆方向への体落などの「飛び道具」的な技を使ったりと、柔道センス抜群といった印象でした。


100kg級 フォンセカ選手(ポルトガル)


ディフェンディング・チャンピオンですが、背負投や両袖の袖釣込腰といった担ぎ技で投げ捲って見事連覇を達成し、赤ゼッケンを死守。優勝を決めた瞬間、嬉しくなって踊りだしてしまうあたりが、いかにもラテン系といった感じです。ポルトガルは、テクニカルな選手が多い印象です。


48kg級 角田選手(日本)


分かっていても掛かってしまう腕挫十字固の威力!
巴投のキレも抜群で、仮に巴投で取れなくても、そのまま寝技で十字固に仕留める、といった必勝パターンが非常に効果的でした。

また、元々上の階級から落としてきたこともあり、減量が大変だと想像しますが、減量苦を感じさせない活躍でした。


78kg超級 冨田選手(日本)


動画を見ても、他の78kg超級の選手と比べて体格で大幅に劣っているのが分かるのですが、大きな相手を物ともせず次々と投げ飛ばして決勝進出。朝比奈選手との決勝戦では脚を負傷した模様で怪我の具合が心配ですが、柔道の醍醐味を見事に体現した活躍でした。