コロナ読書シリーズです。

新潮2020.6月号に載っていた、金原ひとみさんの短編が良かった。最近の文芸界、社会の動きと連動してて頼もしい。

主人公は二人の若いカップル。子供の頃から死ぬことに取り憑かれている沙南と、生きることに前向きになれない幸希。コロナで就職もうまくいかず、未来に希望はもてない、母親の過干渉、自殺願望、だけどなんとなく生きていけちゃう現代の日本。コロナでロックダウンになる前に、心中旅行に出かけることにした二人の顛末は…。

私は今の若い人たちを見ると、この人たちがこの先の世界を作っていくなら大丈夫だな、と思う一方、就活中の疲れきったコメントなど見かけるにつけ、いまの若い人たちは大丈夫だろうか…?と真逆の感想を思う。で、沙南と幸希は後者の若者。

なんつーか、生きてるけど生きてなさがすごい。あー自分も昔はこうだったかもしれないと思う。唯一、心中旅行中だけ、イキイキできる沙南と幸希を見るにつけ、切なくなる。私が見たあのイキイキした若い人たちが、社会に出てイキイキをなくしてしまうとしたら、絶対に社会のほうがおかしいんですよ。

「でもずっとそうだった、コロナは世間に似ている。人の気持ちなんてお構いなしで、自分の目的のために強大な力で他を圧倒する。免疫や抗体を持った者だけ生存を許し、それを身に付けられない人を厳しく排除していく。生きている限り自分は何も成し遂げない。漠然とした確信が、年を重ねるにつれどんどん強くなっていっている。コロナ関連のTLを映し出すスマホを握る手に力が入らなくなっていく」

ここを読んだとき、私の心は子どもに戻って、社会に対する怒りが再燃。私は彼らの年頃から見たらめっちゃ歳上なので、生きることって大変だけど楽しいよ、というのを人生で表現することが大人の責任だと思って生きよう。それがこの社会に対する、せめてものカウンターにもなる気がする。