『アラサー男子の老化ウォッチング』へようこそ。
これは、私がアラサーに突入してから逐一メモっていた心身の老化を、アラサーのうちに書き残しておこうというただの思いつきです。
せっかくみんなで見ないことにして済ませていた老化のはじまりを、よせばいいのにほじくり返します。
毎週日曜日に一本ずつアップしていく予定。
薄~い目で、ご覧いただけたら幸いです。
アラサー男子の老化ウォッチング⑪『フツーのパンがうまい』
小学生のころ、塾に行く途中、どうしてもお腹がすいてしまい、よくパン屋に寄った。
店内に漂うあの小麦のふっくらと焼けてゆく香りに、幸せを感じない人はいるでしょうか。
プラスチックのトレー片手にトングをカチカチさせながら、少ない小遣いで買える、かつ今日の気分に合うパンを一個だけえらぶ。
甘いパンならチョココロネとかメロンパン。総菜系なら、チーズフランスやウインナーパンが好きでした。
おばさんに顔を覚えられてからは、頼むとたまにパンの耳をもらえた。
家に帰って、母にそれを細かく切って揚げてもらい、砂糖をふりかけたやつをおやつに食べるのがまた至福のひととき。パンの幸せはいつまでも続くんじゃないかと思えました。
今は違う。
何も予定のない、よく晴れた朝に、パン屋に行きたくなる。それも街でいちばんおいしいと評判のパン屋さんまで、自転車をとばして出かけてゆく。
そんなときに買うパンは、「とりあえずビール」みたいな感じで、とりあえずクロワッサン、の一択。
スーパーとかで売ってる袋詰めのクロワッサンは、しっとりしているので好きではない。やっぱりクロワッサンは、焼き立てじゃないとね。そしてそんなクロワッサンは、パン屋さんでしか買えないのだ。
チョコやいろんなものがかかっている余計なクロワッサンや、趣向をこらした特殊なクロワッサン、さらに小さいのがたくさん袋に入った量産型クロワッサンは全スルー。伝統的な、10~15センチ程度の、貝殻のようなクロワッサンを、一つだけ買う。
そしてそれを、テイクアウトした苦めの深煎りブラックコーヒーとともに、公園のベンチなどで食べるのです。歯をあてれば、木の葉のようにはらりと落ちるパリパリの皮と、何層にもふんわりと重なった生地のあいだからたちのぼり、鼻腔を満たすバターの香り。これが幸せでなかったら、なんとしょう。
そしてコンビニやスーパーでパンを買う場合。昔は山崎のダブルメロンやウェハースサンドなど、ポップでカラフルで、わかりやすい甘いパンが大好物でした。とくにダブルメロンは、食べるのがもったいなくて、少しでも幸せを持続させようと、3つに分解して一本ずつ食べていたくらい。
今は違う。
店内のパンコーナーに行くと、安心の定番系のパンをつかみ、ひっくり返します。原材料をチェックするためです。
そこに「マーガリン」や「乳化剤」、保存料の類を発見したら、すみやかに棚に戻します。
アラサーは健康が一番。味や見た目は後回しでよいのです。私の経験上、あんぱんはわりと添加物が少なくて優秀ですね。さらに国産のアズキを使っていれば、もう決まりです。
ことほどさように、パンを選ぶとき、私の目に映る景色はすっかり変わってしまった。
どうせ食べるなら、半世紀以上食べ継がれているような、昔からある定番のパンがよいのです。
昨日今日生まれたような味のわかんないパンなんて、買ったのに口に合わなくて、今夜事故って死んだら、取り返しがつかないじゃないですか。そんな小手先のトリックで、お金使わせようとしたってそうはいかない。アラサーをなめてもらっちゃ困るのだ。
その点、長い間淘汰されずに残っているパンなら、まあ味は保証されているし、今夜死んでもあきらめがつきます。
そう、パンのフロンティアを追いかけるのは若い人に任せて、アラサーはたどってきたその道を守るほうを選ぶのです。
もう変なピンク色のパンとか、人気キャラクターの顔をかたどっているというだけで高いパンとか、食べたくないのです。
こうやってめんどくさい客になっていくんでしょうねぇ……。
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