弱い紐帯の強さ

『弱い紐帯の強さ』とは、1973年に米国の社会学者のマーク・S・グラノヴェターが発表した、情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間のような強いつながりよりも、ちょっとした知り合いや知人の知人といったような、社会的に弱いつながりが重要であるという、社会ネットワークの理論です。

 

強いネットワーク内では、同じような環境、生活スタイル、価値観の中で過ごすことになるので、情報は、相互に既知ものであることが多いです。そういう中では話が通じやすいですし、それが関係を深めたりチームの連帯感を形成することにもつながっていきます。

しかし、ネットワーク内は、当然閉鎖的になりがちで新しい情報が入りにくく、いわゆる空気を読みあう行動が増えて、何か起きてもそれまでの慣習的なことで解決してしまうので、似たようなことば繰り返されたり、重大な問題が起きていてもそれに気付かないなどのことが起きやすいと言われています。

 

対して、その外部にある弱いネットワークの相手は、自分の知りえない、新規性の高い情報をもたらしてくれます。また、違う価値観を受け入れることは、個人にも組織にも創造的な変化をもたらします。

グラノヴェターは、弱い紐帯は、価値ある情報が広く伝わっていく上で重要な役割を果たすこと、また強いつながり同士を結び付けるブリッジとしての機能も持っていることを述べています。

 

新型ウイルスの流行で、関係性ということを否応なく考えさせられる時期が続きました。

身近な生活の中では、近しい関係者以外のつながりが閉ざされていった一方で、オンラインでの研修会などが増えて、より薄く広いネットワークが広がっていき(毎週画面上で会って色んなお話をしているというのに、いったい相手が普段何をしているのか、どんな人なのか実はよくわからないというつながりもあったりします)、未知の情報に触れる機会は格段に増えました。

弱い紐帯ということの質もどんどん変化してきているように思います。

 

メンタルヘルスという意味でも、ネットが利用できるようになったことで、以前より気軽にカウンセリングを利用してくださるかたが増えているなあということは実感しています。

これまで特に問題らしきものを感じていなかったのに、閉ざされた生活の中で、ふと今までは感じたことのない自分の声に気付き、「自分のことを知りたい」「誰かの声が聴きたい」「ココとは関係ない誰かとつながりたい」と思いたち、連絡をくださったり。

太く濃いつながりでなくてもいい、人ひとりのネットワークの中に、細い細い、微かででも確かなつながりがあるということが、生きる上では意外なほどに意味があることもあるものです。

そして、そこで起きるわずかなの変化が、少しづつ日常を変えていくこともあったりします。

 

ウイルスが今後どうなっていくかわかりませんが、閉じた箱の中に人が集まって共同していくあり方は、今後ますます変質していくように思います。

色んな人たちと関わり合いながら思うのは、弱いつながりを張り巡らせた世界は、一見弱そうに見えるかもしれませんが、流動的だったり、曖昧だったりしながら、弱さを補完的し合い、成長し続ける、やさしいシステムとして機能していくのではないかな、、ということ。

 

そんな未来を一緒に想像していけたら楽しいですね。