老化(加齢)のメカニズムの一つとして、「老化に伴うホルモン分泌の減少」
が挙げられる。減少するホルモンには、メラトニン、DHEA(デヒドロエピ
アンドロステロン)、性ホルモン、成長ホルモン――などがある。
個人差もあるが、これらのホルモンの分泌は、大体30代のころから減り
始めるとされる。それに伴い、夜よく眠れない、性的ときめきや精力の
低下、運動能力や筋力の弱体化――など、老化の症状が表に出てくる
ようになる。
こうした老化の進行を抑えるため、アンチエイジング(抗加齢)医療では、
低下したホルモンの補充などが行われている。これらのホルモンの中で、
比較的簡単に補うことができるのが「メラトニン」だ。しかもメラトニンは、
生活習慣を少し変えるだけでも、分泌量を増やすことができるという。
メラトニンは、脳にある「松果体」という部分から分泌されるホルモン。
体内時計を介して睡眠と覚醒の周期を整え、睡眠の質を高める役割
をする。メラトニンの分泌量は子供の頃が最も高く、20歳以降に
なると急激に低下する。年を取ると共に寝つきが悪くなったり、寝ている
途中に起きてしまう中途覚醒を起こしやすくなるのは、メラトニン分泌の
低下が原因の一つだと考えられる。
実は、「睡眠」は、アンチエイジングにとって重要な要素だ。例えば、
過剰なストレスは老化の大敵だが、質の高い睡眠をとることで、ストレス
を解消できる。また、十分な睡眠は、加齢とともに減少する成長ホルモン
の分泌を促がす。
またメラトニンには、ビタミンEの2倍近い「抗酸化作用」があると
いわれる。抗酸化作用とは、細胞にダメージを与える「活性酸素」を
除去する作用のこと。活性酸素が増えると細胞や組織が酸化して変質し、
機能が衰えてしまう──。つまり、老化が進みやすくなるわけだが、
メラトニンの抗酸化作用により、活性酸素による老化も防ぐことが
期待できる。
満尾クリニック(東京都港区)の満尾正院長は、「朝は日の光を
十分に浴び、夜は夜更かしせず早めに寝る。こうした規則正しい生活を
送ることで、メラトニンの分泌量を自然な形で増やすことができる」と言う。
メラトニンの分泌量は、夕方から増え始め、夜に向かってどんどん
増加、午前2時~3時にはピークに達し、朝が近づくと急激に減り
始める――というパターンを取る。しかし、夜更かしなど、体内時計が
狂うような生活を続けると、メラトニンの分泌量は減ってしまう。逆に、
規則正しい生活を送り、体内時計を正常な状態にすることで、夜間に
十分なメラトニンが分泌されるという。
もっとも、夜更かしをせずに規則正しい生活を続けるのは、多忙な
ビジネスパーソンの場合、難しいことも多いだろう。こういう時に
役立つのが、メラトニンのサプリメントだ。メラトニンは日本の薬局や
医師の処方で入手することはできないが、米国などから比較的簡単に
個人輸入できる。1日当たりの摂取量は0.5~10mg程度とされている。
ただし、メラトニンには副作用は無いが、飲んだ翌日に頭痛がする
など体に合わない人もいるようだ。そういう人には、「トリプトファンの
サプリメントもいい」と満尾氏は言う。トリプトファンはメラトニンの材料
となるアミノ酸の一種。そのためトリプトファンを補充すれば、メラトニン
の分泌量増加が期待できるというわけだ。
なお、トリプトファンは人間が体内で合成できない必須アミノ酸の
一種であり、牛乳や鳥肉に多く含まれている。昔から「寝る前に
牛乳を飲むとよく眠れる」と言うのは、トリプトファンを摂取すること
でメラトニンの分泌が活発になることを、昔の人は経験的に知って
いたためだと考えられる。
トリプトファンを含有するサプリメントは、日本のドラッグ・ストア
でも購入できる。
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