警告 | SFショートショート集

SFショートショート集

SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「停戦」…続編です。

 

 帰還したスカイ・フォーは拘束された4人があっさりと仲間に殺害されてしまったことに強い憤りを感じていた。そして、彼らが現地で目にした光景は負傷した罪もない多くの市民たちだ。攻撃の対象は軍事施設だけではなかった。一般市民の生活の場である公共施設や医療施設、さらには住居となっている高層マンションであった。無差別の度合いが深まっていたが、スカイ・フォーの介入以後はしばらく鳴りを潜めている。スカイ・フォーの介入によってユリウスの当初の計画が大きく変更せざるを得なくなったといわれていた。

 一方のスカイ・フォーにとっても大きな問題を改めて突き付けられていた。DMウイルス兵器の脅威だ。敵味方関係なくサイボーグにとっては防御するすべのない殺戮兵器なのである。単に相手をフラッシュリングで拘束するだけでは、ユリウスの仲間の犠牲をいとわない無差別殺戮に対しての効果は微少にとどまる。拘束したところで命を救うことはできないのだ。ユリウスのサイボーグ兵士の数は数万人はいるだろうから、キリがない。そうなると、膠着状態のうちは負傷者の手当と難民の保護が優先される。

 ウィン博士は、カーラ・ファーナムとメグ・バークリーに対して、ヒューム政府へのいっそうの協力要請を打診していた。内政干渉という場合の多くは対応が慎重になるのはやむを得ないが、きわめて極秘裏に、という条件付きで医療機器の供与を承諾してくれた。さらにDMウイルス兵器に対処する方法についてのヒントも提供してくれた。しかし、地球人とヒューム人のDNAは完全に一致しないので医療機器やDMウイルス兵器対処法は、ヒュームのテクノロジーをそのまま適用するには、少々難があった。実用化までには少し時間が必要だ。とはいえ、医療機器についてはスカイ・フォーのミニョンが治療に実践した”緑の光線”のノウハウが応用できるだろう。

 

 

 数日後、ウィン博士の研究所に現れたのはカーラ・ファーナムとメグ・バークリー、そして2人のヒューム人であった。ヒューム人のひとりはあの宇宙公安特捜部のシャリーであった。そしてもうひとりは地球へ初来地のアルヴィという。彼は医師であり星間紛争の難民支援スペシャリストだという。彼らの目的は、あくまでも非公式ではあるが地球の内紛にかかわる人道支援だ。表向きは、地球に大量に送られてきたヒュームの医療機器を地球人向けに調整するためのアドバイザーとしてアルヴィは同行してきた。そして、シャリーは実のところ、ウィン博士やスカイ・フォーメンバーさえも知らない極秘情報とともにやってきたのである。でなければ一見小さな惑星の内紛にかかわるほど暇ではないのだ。全銀河系の存亡を左右するくらい重大な懸念に発展しかねない問題なのである。害悪は小さな芽のうちに摘んでおくのがよいということである。

 メレンチーと接触してきた麻薬の売人たちの裏に凶悪犯罪組織が関与しているかもしれないという可能性は無きにしも非ずだ。シャリーたちはすでに売人たちが偽造IDで地球に入港したことをつかんでいた。売人とつながる裏組織とは、銀河の独裁をもくろむマリコフだ。

 

 国連難民高等弁務官事務所のノバクもやってきた。スカイ・フォーメンバーも加わり、地球とヒューム人の非公式な双方の代表が揃ったところでシャリーが切り出した。

「本来なら私の出る幕ではないのですが、皆さんに地球の存亡に発展しかねない重大な懸念をお話しするためです。懸念というよりも警告ですね。小惑星に幽閉された犯罪者集団が処理した核ミサイルの一件はよくご存じだと思いますが、地球にはいったいどれくらいの核ミサイルが存在しているか、私なりに調べてみました。核保有国が現在12か国ですね。配備されている核弾頭保有総数は約4,000発です。惑星一つが何十回、いや何百回も滅亡してしまう数です。ヒュームの過去の歴史でも核が大きな脅威になっていた時代がありました。ヒューム星は核戦争のために、惑星の半分が放射能で汚染され人が住むことができなくなりました。多くのヒューム人は汚染地帯を逃れて母星に残ったが、一方ではヒュームを去り新天地を探す宇宙の旅に出た者も多くいました。地球歴で約10万年前です。新天地を探していたヒューム人の一行が地球にたどり着き、住み着いた子孫の血を受け継いでいるのがここにいるカーラとメグさんであることはご存じのとおりです。このような過去の反省から、現在ヒュームを含む多くの銀河通商連合に加盟している惑星は核を持っていません。核を持っている惑星は銀河通商連合に加盟できないのです。核の拡散を防止するためです。しかしながら、さきほどお話ししたように地球はある意味枝分かれした子孫の住む星です。おそらく探せばカーラとメグさん以外にももっと多くの血の継承者が見つかるかもしれませんが、それだけで十分です。私たちは子孫の住む星として地球を認定しました。地球は核保有の星ですがヒュームとの交易に限って許可されているのです。ただし・・・私たちの地球に対する核の監視体制は今まで以上に強化していますよ。それと、他の銀河通商連合に加盟している惑星との交易は核廃絶しない限りできません。話を戻しますが・・・メレンチーに接触してきた密売人のルートに浮上してきたマリコフという組織ですが、彼らは核を欲しがっています」

ジョージがここで質問した。

「あなた方のテクノロジーでは核はもう脅威ではなくなっているんじゃないでしょうか?核ミサイルが発射されても捕捉して転送すればすむことじゃないでしょうか?」

「地球の核ミサイルにはアンチシステムが装備されていません。転送ビームを感知すると作動して転送を無効にする装置です。この技術を搭載した核ミサイルはやはり大きな脅威となります。さいわいなことに核ミサイルを作るためのテクノロジーは銀河通商連合では永久封印されていますし、監視体制が敷かれています。兆候があればすぐに摘発されます。つまり、すでに完成している核ミサイルを手に入れることしか方法はありません。手に入れた核ミサイルにアンチシステムを装備すれば大変な脅威になるでしょう」

 

 シャリーの警告は地球人が誰も予想だにしないものであった。

 

 

 

…続く