初めての買い物?! | SFショートショート集

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SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「止まらない好奇心」…続編です。

 

 5匹のデイノニクスたちは真夜中の市街を探索し始めた。

 

 昼間であれば、当然ながら人間たちに目撃されて大変な騒ぎになるところである。時間は午前2時を過ぎていたので、人っ子一人見当たらないし、ここは都心から離れているため閑散とした郊外である。だが、時折泥酔した人間が徘徊している場面に出くわすこともある。

 

 街角にはポツンと自動販売機が置かれていた。その自販機では暖かいハンバーガーと飲み物を買うことができる。今時の自販機はすべてキャッシュレス決済である。指紋認証、カードもしくはスマホ端末で決済するのである。だから、そこにおいしそうなハンバーガーが3Dで表示されていても、デイノニクスには手も足も出せない。

 

 一匹のデイノニクスが自動販売機に興味を示していた。よほど腹が減っているのだろうか、表示されているハンバーガーを手でつかもうとしていたのだ。

 


 

 そこへやってきたのがひとりの酔っ払いだ。

 

「飲みすぎた・・・腹減ったなぁ・・・」

 

と、つぶやきながら自販機のところにやってきた。

 

「兄ちゃん迷ってるんだったら俺が先に買うぜ!」

 

 

・・・なんと、その酔っ払いはデイノニクスを見ても驚かないどころか話しかけてきたのである。デイノニクスを着ぐるみと間違えているのだろうか。

 

酔っ払いはポケットからスマホを取り出すとお目当ての3D表示のハンバーガーの前にかざした。すると、やがて暖かいハンバーガーが取り出し口から出てきた。

 

それを見ていたデイノニクスはすぐに学習した。

 

酔っ払いがハンバーガーを取り出し、スマホをポケットに戻すタイミングで、起用に男のスマホを盗んでしまったのである。

 

酔っ払いはそのことに気づくはずもなく、ハンバーガーにかぶりつきながら

 

「兄ちゃん待たせたな」

 

と言ってその場をよろよろと立ち去って行った。

 

 

 

 デイノニクスはさっそく手にしたスマホを3D表示のハンバーガーの前にかざした。するとお目当てのハンバーガーが出てきたではないか。

 

そして、おいしそうにかぶりついた。

 

それを見ていた仲間のデイノニクスが3匹集まってきた。ハンバーガーにかぶりついている仲間からスマホを取り上げると、同じように表示ハンバーガーの前にかざした。

 

そうして彼らはついに、デイノニクス全員がハンバーガーにありつくことができてしまったのである。

 

 

彼らにとっては初めての買い物だ・・・違法だけど!

 

 

 おなかを満たした彼らは、さらに近くのコンビニエンスストアに侵入した。コンビニも無人営業である。深夜なので客もいない。興味をひく品物を物色してはスマホをかざすと取り出すことができた。取り出しては匂いを嗅ぎ、食べ物でないことがわかると、その場で床に散らかしていった。

 

彼らはここでもいくつかの食べ物を手に入れることができてしまった。

 

 そうこうしていると、ついに買い物に来た3人の人間たちに見つかってしまった。デイノニクスを初めて見た買い物客は、コンビニの外からであるが、最初不審そうに眺めていた。

 

「何・・・コンビニの中に人がいっぱい、誰かいるよ!」

「よく見ろよ・・・着ぐるみ着てるんじゃないか?」

「いや違うよ、よく見ろよ。出した食べ物をそのまま食べてる・・・本物の恐竜だよ!そこの施設から逃げ出してきたんだぞ、きっと・・・」

 

彼らはやっと、それが本物の小型恐竜であることを確信した。

 

その場を逃げ出したふたり、スマホで通報しようとするひとりの客。デイノニクスたちもそれに気づく。

 

 

 コンビニ周辺は一気に騒がしくなってきた。逃げ出したふたりの客たちに、コンビニに恐竜がいると聞きつけた野次馬たちが集まってきたのである。

 

しばらくすると、アミューズメント施設の職員とポリスが駆けつけてきた。

 

 やがて逃げ遅れた1匹のデイノニクスは施設の職員におとなしくつかまったが、残りのデイノニクスたちはちりぢりに逃げてしまった。しかし、デイノニクスたちはいったんは離れ離れになったものの、夜が明けるころ、何組かに分かれていたがまた一か所に集まってきていた。

 

 

翌日、アミューズメント施設はメディアに対して、園内の小型恐竜デイノニクス5匹が脱走したことを発表した。

 

「・・・脱走したデイノニクスたちは好奇心旺盛でいたずら好きですが、決して人を襲うことはありません。危害を加えることはありませんので、見つけたらすぐに通報してください!」

 

・・・と、繰り返し報道していた。

 

 

しかし、さらなるデイノニクスの好奇心が周辺に波及する事態になるとは誰も予想していなかった。

 

 

…続く