前回に続いて 勁 についての文献からの抜粋を紹介します。
「四十八式太極拳」 李徳印
”勁”と”力”とは、もともと同じ意味を持った言葉であったが、太極拳の世界では、”勁”は意識的な目的をもった、技をともなった力をさしていい、“力”は技をともなわない普通の力を指していう。
太極拳の勁力は綿で包んだ鉄のようだと形容され、それは外から見れば柔らかだが、内側は堅く”内勁”に満ちあふれている。 常に、柔中の剛を含んだ”掤力(ポン・リー)”といわれる使い方、つまり空気が十分に満ち満ちた気球のように、柔らかくはあるが力のこもったものであり、外へと張り出し、四方八方へ広がる弾力性に富んだ力がみなぎっていなければならない。 太極拳は糸を操るように力(勁力)を使って動作する。 つまり、力はむらなく柔らかに、途切れることのないことを原則としている。
太極拳理論の要諦 銭育才
○ 十三勢は譬えて言えば、定理や公式のようなもので、太極の”内勁”を生かして護身に応用する基本的、原則的な方法です。 十三種類の”勁”とも言えます。 その数は限られたものですが、その応用の可能性は限られたものではありません。 太極拳で言う”勁”は、もともと我々が日常使う言葉の“力”とは一致しません。 太極拳の“勁”は、体のどこも力まずに、関節が緩んだまま、体が一つになって内部から平均して出される、一定の方向に向けられた力です。 名人たちの話によりますと、十三種類の勁に分けられていても、実践においては、これらが単独に使われることは極めて少ないのです。 多くの場合は二、三種類の勁の組み合わせの形で表れます。 しかもそれがその場その場の主観的な計算で決めたものではなく、ただただ体がその時自然に動いた結果だということです。
○ ”八法掤為首”(八法は掤をかしらとする)ということわざの意味は、”掤勁”の八法での地位、その実質上の重要さを強調しているのです。 ”掤”は他の七法の何れにも、太極拳のどの動作にも含まれていなければならない一番重要な根本を成す”勁”だという意味です。
○ 掤の勁を”如水負舟行”(水が舟を載せて行くが如し)と譬える解釈がある。 水は大船をも軽々と載せて行くことができる。 と同時に指を水につけて、水を割ることが出来る。 水は強いのか?弱いのか? 水は”柔らかい”けども、一定の条件下では相当の力を示します。
○ 太極拳の掤勁は、水のようなもの、空気の入ったゴムまりのようなもの、柔らかくて弾力性を持ったもの、弓を引く時感ずる弦とゆがらの抵抗力のようなものと色々と譬えることが出来る。
筆者注 ゆがら とは、弓の木・竹の部分 弓幹とも書く 広辞苑より
次回は「太極拳譜」から学びたいと思います。