暫くヨタハチから遠ざかっておりますね(笑)
まぁ当方のヨタハチに関しては特に何事も無いですし最近はパブリカに乗る機会も多いのでネタも無いのですが、そろそろyota1967さんのエンジンをやろうかな・・・なんて思っていましたら、神奈川のIさんの銀ヨタハチミッションが頻繁にギア抜け症状が出ていて、その内に3・4速ギアが入らなくなってしまったそうです。
今回ご依頼のミッションはフルシンクロ化される以前のノンシンクロミッションですので、今時ノンシンクロミッションを載せようという強者は少ないでしょうから参考にはならないかも知れません(笑)
自宅でミッション下ろして先日我が家まで軽トラで運んでこられました。ご丁寧にパレットに乗っておりますが、こちらとしても作業台を兼ねてばらせるので楽ですね。


インプットシャフトは手で回す分には特に大きな抵抗も無く回ります。アウトプットシャフトも同調して回ります。
Iさんがミッションを下ろす際に抜いたオイルはシンクロナイザリングが破損したであろう真鍮色の粉を多量に含んだ物だったそうです。
感じとしては重大なトラブルでは無さそうですね・・・。あとミッションよりオイル漏れがあるそうですので併せて点検します。
確かにクラッチハウジング内部にオイルが滴っていますね・・・。匂いも明らかにギアオイルです。
ここにギアオイルが漏れるとなればフロントベアリングリテーナ内のオイルシール不良が考えられますね。

余談ですがパブリカ・ヨタハチあるあるでレリーズベアリングフォークとスリーブを固定するクリップが上下に付くのですが、下側のクリップは先ず落ちます(笑)
落ちても動作に支障は無いのですが、新品のクリップ付けても大抵落ちますので気にしなくてもいいかと思います。思い切って下のクリップは省略しても大丈夫です。

でフロントベアリングリテーナを外して直ぐに原因が判明(とこの時点では思ったのは後述します)。
リテーナがパブリカ用でした。ノンシンクロミッションの場合、ヨタハチ以外はオイルシールレス構造で、リテーナ内部に螺旋状に溝を入れる事でオイルを切っています。
ヨタハチ用のインプットシャフトはオイルシール仕様なのでパブリカ用のリテーナではオイルが漏れても仕方無いですね(とこの時点では思った)。



パブリカ・ヨタハチ用のミッションは非常に簡便な構造でメインの機構はケース右側に集約されており、左側のケースは単なる蓋に過ぎません。
リヤエクステンションハウジングを外して先程のフロントベアリングリテーナを外すとケースを割る事が出来ます。
クラッチハウジング内にもケースを留めるボルトが付いているので外し忘れない様に気を付ける必要がありますが、修理書が無くても注意して見れば全てのボルトは目視で確認出来ます。
・・・で内部とご対面!なんですがこれってヨタハチ用のミッションでは無いですね。パブリカミッションです。前出のフロントベアリングリテーナがパブリカ用が付いていたのは間違いでは無く、パブリカ用ミッションだから必然的に付いていただけだったのでした。
インプットシャフトの2・3速ギアに1条の彫りが入っていますが、これはパブリカギアです。ノンシンクロ時代のヨタハチ用の識別は2条の彫りになります。良く3速のギア比が違うと言うのはヨタハチ乗りでは常識ですが、それは後期型のフルシンクロミッションであり、ノンシンクロミッション時代はセダン・バン系のミッションとは2速と3速各々がギア比が違いました。
以前のミッションネタブログは →こちら

って事はフロントベアリングリテーナがパブリカ用が付いていたのは間違いで無かった事になります。となるとIさんがオイルを1.3リットル入れたとの事ですので、異常では無くオイル過多による吹き出しの可能性が大ですね。
ノンシンクロミッションはオイル容量は1.0リットル、フルシンクロミッションになってオイル容量が300ml増えて1.3リットルとなりました。
参考データ
ノンシンクロミッション 変速比
UP20・UP26系 1速4.444 2速2.643 3速1.684 4速1.125
UP15・UP20S 1速4.444 2速2.400 3速1.550 4速1.125
ギア歯数比
UP20・UP26系 40/9 37/14 32/19 27/24
UP15/UP20S 40/9 36/15 31/20 27/24
取り敢えずパブリカミッションである事は間違いないですが、さて不調の原因は何でしょうか?
バラした際にケース内部やエクステンションハウジングにシンクロナイザリングの摩耗粉が所々に沈殿しておりました。


しかし見た目は別に異常ぽく無いですね。
インプット・アウトプットシャフトを右側ケースから抜いてみると・・・
原因発見!アウトプットシャフトのロックナットが緩んでおりました。ロックワッシャには本来2本の爪があるのですが、恐らく留めたであろう爪は破損したのかワッシャから根こそぎ折れて無くなっています。
写真に写っているのは残ったもう1本の爪ですね。これだけ緩んでいれば内部のシンクロハブがスラスト方向へガクガク動きますからギア抜けするのは当然です。

今回の件とは関係ないのですが、リバースアイドラギアの歯面も荒れてますね・・・。インプットシャフト前方のベアリングもケース内で回転した跡が残っています。

インプットシャフト側のファーストギア表面も荒れております。アウトプット側のファーストギアも歯面が偏摩耗していて、元々スパーギア独特のノイズが出るのが正常ですが、これだけ荒れていると不安を抱える様な音が出ていたと思います。インプットシャフトフロントベアリングのアウターレース外側が光っているのはケース内でアウターレースが共回りした跡です。ケースの勘合具合によるのでこうなるとケース交換が前提となりますが、軽微のものは液体パッキンを塗布して固定するだけでもストリートユースであれば十分な気もします。

今回の主原因であるロックワッシャの爪破損。
因みにフルシンクロはロックナットがプロペラシャフト側に付きますので、ノンシンクロは前方に付くタイプで全く内部部品に互換性はありません。

緩んだままの状態でそこそこの距離を走られていますので、内部の部品にいかほどに影響が出ているのでしょうか?
症状としては3・4速の変速異常だったのですが、実際多大な影響を受けたのはセカンドギアでした。
セカンドギア内部とブッシュ(ノンシンクロは2.3速一体型)に傷が入ってしまっております。ロックナットはフロント側なので一番遊びが出てしまうのが1・2速側なので納得ですね。


またハブがスラスト方向へ多大に遊んだ故に影響が出た2速のシンクロナイザリング。
キー溝三箇所全て回転方向に叩かれて斜めに変形しています。更に一箇所はクラックが入ってリングが切れていました。


シフトフォーク先端は抜けを防ぐ為にずっとシフトレバーを手で押さえ付けていたので、スリーブとの接触面に焼けがあるものの、表面処理を変化させる程のものでも無さそうです。

ケース内を探索すると破損して折れたロックワッシャの爪が出てきました。

さて困ったのは部品です。
と言うのもノンシンクロミッションの部品は当方がヨタハチを始めた頃から既に供給は無いに等しかったのです。それもそのはず、フルシンクロとは部品の互換性こそありませんがAssyであれば互換性があります。
わざわざノンシンクロミッションの内部をバラシて部品交換するのなら、当時中古で多数流通していたフルシンクロミッションと交換してしまった方が早い訳です。人気の無いノンシンクロミッションは相当淘汰されていて、現在
は中々中古品でも出てきません。ましてこれがヨタハチギア付きのノンシンクロミッションであれば激レアで、先ず入手は難しいでしょう・・・。
ただ幸か不幸かこのミッションはパブリカ用であった為、ダメージを受けた2速ギアを部品取りのパブリカミッションからそのまま融通する事が出来ます。
以前ヨタハチ用ノンシンクロミッションを41パブリカのミッションとニコイチで組んだ残党がある筈・・・と車庫内を捜索したところありました。
コイツをバラシて確認してみると、率直に言って現状のミッション内部の部品より状態いいじゃん(笑)
インプットシャフトや2・3速ギアの表面が赤茶けてるのは以前バラした以前より発生した参加したオイルです。


嬉しい事にロックワッシャも状態が良いので十分再使用可能です。本当は原則新品交換ですが、そんな事を言っていたら旧車は維持出来ませんからね。勿論状態の見極めは大事です。

これも今のミッションに付いていなかったオイルバッフルプレートも移植しましょう。これが無いとブリーザからオイルが吹き出し易くなります。

ギア比はパブリカのままでも良いとして、アウトプットシャフトに付くスピードドライブギアの歯数を数えたら6枚。という事は純粋なパブリカ用です。(OPのファイナル3.556なら6枚ですが)このドリブンギアもノンシンクロとフルシンクロでは部品が違って、前者は焼嵌めで固定し後者はサークリップ留めでギア自体に廻り止めのキーも入ります。
ヨタハチ用のノンシンクロ用スピードメータードライブギアを入手するのは困難かと思うのですが、この辺はIさんとご相談ですね。