1.寄託
破産の場合、敷金の扱いについて法律が他の手立てを用意してくれていると「大家さんの破産①」で書きました。
破産法70条は以下のように規定されています。
「停止条件付債権又は将来の請求権を有する者は、破産者に対する債務を弁済する場合には、後に相殺をするため、その債権額の限度において弁済額の寄託を請求することができる。敷金の返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債務を弁済する場合も、同様とする。 」
例えば、月10万の賃料で40万の敷金だったします。
破産手続が開始決定されますと、賃借人は、大家さんじゃなく破産管財人に対して賃料を支払うことになります。
ただ支払うのではなく、4ヶ月分寄託しておくと、破産管財人のところに40万行きますが、これは破産手続きでは使われず、その後退去の際に、40万円返ってきます。
ただし、破産手続きが終わってから退去ですと、40万円返ってくるどころか、寄託したお金は自分を含めた破産債権者に配当されてしまうので、要注意です。
最悪でも、破産手続きが終わるまでに退去する必要があります(破産法198条2項参照)。
2.転付命令
なんだ、破産のほうが有利なのかとお思いかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。
そもそもなぜ破産するかというと借金でクビが回らなくなって、弁済期にある債務を継続的に弁済できない状態(破産法2条11号)になるから、破産するわけです。
金融機関はお金を貸すときには担保を取ります。大家さんがもっている不動産には確実といっていいほど抵当権を設定します。
大家さんが金融機関にきちんとローンを払ってくれていれば、問題ないのですが、払わなくなると、金融機関は、抵当権を実行して競売するか、賃料を差し押さえて、自分に支払うように転付命令を裁判所に出してもらうかのいずれかを選択します。
競売の場合は、「大家さんの破産①」で書いたとおり抵当権設定の時期が建物引渡しの前後で運命が決まります。
転付命令が出てしまうと、大家さんに家賃を支払っても無意味で、金融機関に支払わなくてはいけません。
ですので、転付命令が出た時には、寄託は使えません。
転付命令が出る時期というのは、大きな傷がばっくり空いてそこから血がドバドバ出はじめた頃のイメージでしょうか。うまく治療されれば助かりますし、そうじゃなければ死んでしまう。
なので、転付命令が出た場合は、ゆっくりしていると、敷金については泣くことになります。
破産の場合配当率は数パーセントとも言われていますから。先程の例ですと40万の敷金が数パーセントしか配当されないって痛いですよね。
敷金の金額が多額な場合に転付命令が出た場合は急いで賃貸借契約を解除して、敷金返還請求訴訟を行い、自分も差押等可能なように勝訴判決を得て債務名義を獲得しておくことも必要なこともあるでしょうね。
裁判中に破産手続きが始まってしまえば、裁判手続は停止することもある(破産法24条)ので、スピード勝負でしょう。
また、破産手続きが開始した時に退去するかしないかも決める必要が出てきます。敷金が低額だったり、その部屋に愛着があるときはそのまま住み続けてもいいでしょう。
破産管財人に手続終了までどれくらいかかるかの目安か聞いておくことも必要でしょうね。
参考文献
山本和彦(2008年)『倒産処理法入門』有斐閣
次回は、「法律婚と事実婚の違い」の予定です。
法律関係で興味があることや聞きたい事例などありましたら是非。