僕は食べ物をよく噛んで食べます。
それは良いのですが、
同時に口の中(頬っぺたの裏や舌)を噛んでしまう事がよくあります
噛んだ時の激痛も去る事ながら、
後で口内炎になってしまうのが実に厄介です。
原因は「早食い」でした。
人間、何かを早くやろうとすると何かとミスが起こります。
早い分、精度や正確性が下がってしまうからです
そこで、努めて「ゆっくり」食べるように心掛ける事にしたら、
効果てきめんでした。
改善前と後では、噛む頻度が大幅に削減しています。
やはり、何にしても急ぐとロクな事はないようです
以上のような事態は、人間の脳内でも起こります。
皆さんも、物事を早合点して失敗した経験がありませんか
ロクに考えもせずに、安易に思い込んだり、勝手に決め付けたりして、
手に入るはずだった物がフイになったり、
他人に迷惑を掛けたりした事は、人生の中で何度もあったはずです。
これらは、必ずしも「急いでいる」から起こる訳ではありません。
人間の脳には、生まれつき「早合点」する癖が具わっているのです。
これを、心理学ではヒューリスティックといいます。
ヒューリスティックは、
脳が活動エネルギーをセーブする事で起こります
知っての通り「考える」という行為は疲れます
もし、僕らが、物事を何でも逐一ジックリ考えて判断していたら、
あまりの激務に脳がオーバーヒートしてしまい、
ぶっ倒れてしまうでしょう
そうならないために、物事を簡素化して認知したり、
思考を省いて過去データ(先入観)で判断するなどして、
疲労とエネルギー消費を抑えようとする訳です。
結果、物事に対する認知や判断の制度は確実に低下しますが
脳の処理スピードは格段にアップするので、
日常的な作業や仕事の効率性は大幅に上昇します
例えるならば、PCで映像データをDVDに焼く時は、
データ量を落として画質を劣化させた方が早く出来上がりますね。
つまり、これがヒューリスティックです。
確かに精度は下がりますが、それだけ物事を瞬時に捉え、
即座に判断する事が出来るのであれば、
実に便利で快適な機能といえます。
問題は、早合点による勘違いや誤解です。
実際、このヒューリスティックによって、
我々は日常で様々な不利益を被っています
しかも、自身では全く気付かないので、実に厄介です
それでは、誰もが陥りがちなヒューリスティック傾向について、
以下に説明したいと思います。
・利用可能性ヒューリスティック
人間には、僅か1つの実例だけで、
物事の全体を判断しようとする傾向があります。
それを示すデータが僅か一例に過ぎなくても、
あたかも客観的な根拠のように信じて、
簡単に決め付けてしまうのです。
例えば、世間には、以下のように考える人がいます。
「サウナに入って倒れた人がいる」→「サウナは禁止すべきだ」、
「コーヒーを飲んで胃潰瘍になった」→「コーヒーは健康に悪い」、
「生活保護をゴマかす人がいる」→「生活保護は減額すべき」、
「ダイエットをして彼氏が出来た」→「痩せるとモテる」。
全て、根拠なき思い込みです
統計によると、サウナに入って倒れる人は極僅かしかいません。
実際に倒れているのは、「長く入り過ぎ」、「持病がある」、
「酒を飲んでいた」、などの条件が当てはまる人たちです。
客観的に考えると、サウナには様々なメリットがあり、
上手に利用すれば、健康増進、病気予防などの効果が見込めます。
コーヒーもそうですよね
あらゆる物事には、メリットとデメリット、リスクとリターンがあります。
これらを客観的に考慮すれば、より多くの利益を得られ、
また、損害から逃れる事が出来るでしょう。
当然、それを知るには、相応のデータと時間、
そして思考が必要になります。
でも、日々を忙しく過ごす我々には、
そんな気力も根気も暇もありません。
だから、考える事を放棄し、一例だけを見て、
短絡的かつ手軽に決め付けてしまいます。
結果、余計な被害を受けたり、
せっかくのチャンスを棒に振ったりしてしまうのです
・感情ヒューリスティック
人間には、第一印象に強く流される傾向があります。
人は、ある物に対して初めて見た時に
「良さそう」、「いい感じ」だと思うと、
その後も同じようにポジティブな印象を持ち続けます
本当のところ、物事の良し悪しを判断するには、
それなりのデータを得て、それなりに分析して、
客観的に判断せねばなりません
でも、実際の我々は、理知的な判断を厭い、
簡単に好き嫌いや感情で決めてしまいます。
初めに何となく「いいね」、「好きだ」と思うと、
後で「本当は大した事ない」という根拠が見付かっても、
なかなか受け容れようとしません
一旦、「良い」と思うと、後で「悪い」要素には目が向かなくなるのです。
この傾向は、日常で我々が物を買う時にも見られます。
例えば、新発売の飲料を店頭で見掛けた時、
「旨そうだな」と思えば、直感で簡単に買いますよね。
ラベルをじっくり見て、「体に悪くないか」、
「内容物と価格は釣り合っているか?」、「表示に矛盾はないか?」、
などと、いちいち考えたりはしないはずです。
「商品を買う」、「着ていく服を選ぶ」などの日常的な場面ならば、
気分任せでも特に支障ありません。
しかし、得てして人間は、生命の危機に関するような場面でも、
直感的な感覚だけで簡単に判断しようとするのです。
例えば、『がん』や心筋梗塞などの怖い病気、
原発の再稼動などについて、
直感や勘で判断したらどうなるでしょうか
世の中には、病気や原発事故のリスクについて
「大丈夫だよ」と楽観視する人が多いようです。
病気になるリスクよりも、
好きな食べ物を食べまくるメリットの方が大きいからでしょう。
原発についても、再稼動に賛成する人は、
生命の危険や地域の未来よりも、
『経済』という目先の利益を重視します
人間は、欲が絡むほど、直感や勘で判断しようとするようです。
他にも、我々の生命や生活に関する社会的な問題は、色々あります。
特に議論も討論もせず、
一部の人間が欲と直感で簡単に決めてしまっていいのでしょうか
これは、一般庶民にとっても、
けして他人事ではない課題だと思います。
・代表性ヒューリスティック
人間は、物事や人物を判断する時、得てして固定観念に囚われます。
皆さんも、坊主頭でヒゲを生やした大柄な男性を見ると、
「怖い人」、「ヤバい人」だと簡単に決め付けたりしませんか
美人で表情に乏しい人は、他人から「冷たい性格」、
「性格キツい」と見られがちですし、
さらに職業が検事であれば、「堅物」、「理屈っぽい性格」、
…なんて短絡的に決め付けられたりもするでしょう。
人間には、物事や人物を「型に填める」傾向があります。
予め分かりやすい基準(キャラ、カテゴリ)を作って、
それを頼りに判断しようとする訳です。
型は山ほどあります。
『医者』→「金持ち」、「頭がいい」、
『銀行員』→「真面目」、「細かい」
『キャバ嬢』→「酒呑み」、「金遣い荒い」
『イケメン』→「遊び人」、「浮気する」、
…などなど…。
しかし、現実には、これらに全く当てはまらない人が大勢いますよね。
結果、あらぬ誤解で他人を傷付けたり、
簡単に信じて痛い目に遭ったりもする訳です
そもそも、一人の人間を
『キャラ』や『カテゴリ』で当て填めるのは、不可能です。
それぞれが異なる特性や様々な側面を持ち、
個人ならではの心理傾向や行動パターンを持っています。
これらを掴むには、それ相応の時間と経験が必要です。
いや、それでも、簡単には解りませんよね
元より、人間には、物事や人物を正確に判断する事など出来ません。
だから、簡単に決め付けたりせず、
「解らない」事を素直に認めるべきだと思います。
「解らない」と思えば、解るために頭を使うようになります。
そうすれば、勝手に思い込んだりせずに、
確実なデータや実体験を考慮して、
客観的な判断が出来るようになれるはずです。
以上、3つのヒューリスティックについて紹介しました。
そこから解ったのは、「人間は、ほとんど何も考えていない」、
…という驚愕の実態です。
誰もが、無意識に浮かんでくる先入観や固定観念を、
「自ら考えた判断」だと思い込んでいます。
実際は考えれば見抜けるものなのに、その努力を惜しみ、
短絡的に決め付けて、簡単に済まそうとするのです。
特に忙しい日々を過ごす現代人ほど、その傾向は強いでしょう。
時間に追われ、効率を迫られる余り、
物事をしっかりと考える余裕がなくなっているのです
でも、もう心配ありません
ヒューリスティックの厄介な手口については、既に判明しました。
勘違いや誤解は、慌てたり、焦ったりする時ほど激しくなります。
必要なのは、ゆとりと落ち着きです
食事の際は、「ゆっくり食べる」事を、先ず心掛けてください。
これで、万事OKです