ぴいなつの頭ん中 -16ページ目

ぴいなつの頭ん中

殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる

大学生の時の話をしようか。


高校の時にうつっぽくなり被害妄想を起こし毎日不眠で勉強しかしていなかったわたしは、大学生になったら友達をたくさん作ろうと思った。確かにちゃんと友達はたくさんできた。医学部にも歯学部にも別の専攻にもたくさんできた。


一年生の6月、介護していた母がいよいよあかんということになり、学校をさぼりくさって1週間24時間病院にて付き添い続けた。食事も全く取れなかった。食事を摂らず、風呂にも入らず過ごしていた。学校もあったしじゅうぶんな介護ができていたとはいえなかったから、全てを犠牲にして付き添うことが最期の使命だと勝手に思っていた。父はわたしとどう接していいかわからないようで少し遠くから見ていて、時々チョコレートを差し入れしてくれた。

難病というのはもう治しようがないので、呼吸や身体の痛みなど苦しみを取り除くケアをとりあえずしながら、ただ死を待つしかなかった。母は時々目を覚ましては、どこかが痛いけどどこが痛いのかよくわからない、と言った。


ある日、「あ、わかったー!  ちょっとさわってみて、この背中のところ、そう、そこが痛かったんだ、やっとわかった」と言った。わたしはさわりながら、下手くそな体位変換でマッサージを続けた。腕がものすごくだるくなったけど、「学問にかまけて母を見捨てた罪の償いだ」と、だるい腕を必死に動かした。


やっと痛いとこがわかったその日、母は死んだ。


母を亡くしてしまったわたしは、とりあえず自暴自棄になった。介護のため止められていた部活をやり、朝早くから遅くまでバイトし、電気あんかのコードで首を吊り、死ねないと泣き、母のギター(絶対触るなと言われていた)が触るなと話しかけてくるような気がして恐れ慄きつつ憧れに負けて少しだけ触ったり、ひとりで夜中じゅう歩き、ふらりと鈍行で長崎や北海道に行き、飲み会し、頻回にオールし、学校に泊まり込み、友人宅を泊り歩いた。


真面目な子が多い大学だった。みんな優しいし面白いけど、やるときはやる、ものすごいギャルとかものすごいおとなしい人とかはいなかった。そんな中で、自分は一人だけ、なんかおかしいやつだった。大体の授業はさぼっていた。カバンを持って、「トイレ行ってきます」と言って帰ってこないこともあった。教室の席にいても、自分の思いを分厚い日記ノートに何冊も何冊も書くので必死だった。興味のある授業だけは、先生の講義に注釈を入れたいところをこっそり自分のレジュメに書きまくり、准教授に声をかけられて大学院の授業に潜入して意見交換したりするのに、それ以外の授業の時はほぼいないか聞いていないかだった。


そんな浮きまくったやつなのに学生時代の友人たちはよくみんなわたしを受け入れてくれたなと思う。違和感はあった。わたしは他の人とどうも違うようだ、生育歴や経験をとってもまあ違うし、できはよくないし、家族はいないし。だからキラキラした清潔な大学生を見ると、その子の背景もろくに顧みずに、なんかむかつくな、何も知らんくせにやな、とか思ったこともあった。


きょう最寄の駅に着いた時、つるんでいたわけじゃなかったが仲良かった同級生と似ている女の子をみつけた。顔つきは似てるのに、表情はだいぶ違ったので、別人だとすぐにわかった。わたしの同級生はいつもニコニコしていたので、頰にちらばるたくさんのニキビ跡も全然気になりはしなかった。きょうみかけた女の子は、めちゃくちゃ不機嫌なようすで周囲を睨め付けていたのだ。不機嫌な顔をしたその子にはあまり魅力を感じなかった。ほんのそれだけのことで、いややっぱ顔の美醜が云々よりも笑顔が大事だよねとオチをつけたかったわけでもなく、ただ、同級生の女の子の笑顔を思い出したら、懺悔したいような気持ちにかられたのだ。たくさんのひとのあの笑顔に甘えて、わたしは4年間苦しみを苦しみ抜くことしかできなかった。癒される必要性を撒き散らし、周りの人がどれだけ片付けてくれても散らかし続けることしかできなかった。そういうことがわかるようになったのも、それからだいぶ後のことなのだ。今は誰かが散らかした涙とか苦しみを、笑顔で片付ける仕事をしている。しているうーんできているとよいのだが。

知りませんと

わたしはいった


だけど

知りませんと

言うには

あの人のことを

誰よりも

知っている必要があった


命令や運命に従ったなんて言えば

誰かのせいにできるのかもね

でもわたしは

あの人を誰より大切に思うから

わたしはわたしの口から言ったのだ

知りませんと

言ったのだ


あの人は牙をむき

わたしに唾を吐いた

少なくともわたしには

顔についた冷たい軽蔑を知覚することができた

そこに誰も居なかったから

誰もそれを確かめられないけど

蔑む瞳は燃えて

あかく

美しいとさえ思った


わたしのゆるく萎えたこころを加熱する

あかく発熱した軽蔑

あの人の牙は光っていて

ふたりはいつもより生きていた


知りませんと言ったものの

わたしは知っていた

あの人が知りたいことを

わたしは知っていた

あの人の愛した男の居場所

あの人自身のこれから

わたしは誰よりも知っている必要があった

けれど

誰よりも知っているからこそ

わたしは

知りませんと

いうしかなかった。


営業と称し飲みに行った白衣とスーツとスーツの背中を見ていた

みっつならんで真ん中の白がスーツになった

オセロは俺の勝ちだ

伝わらない言葉を伝えに行く、スーツの侵攻を見ていた

わたしの意図は白にも黒にも伝わってなくて

グレーの服を着て背中を見ていた


見た目のすべては演出なのよ。

そう言って彼女は一枚の表を見せてくれた。

体重、髪型、メイク、服装、態度

それらすべては綿密に計算されていた

脂肪は30%前後、

これはぽっちゃりしている方が親しみやすいため、

痩せそうになったらあわててミルクセーキをかっ込むのだという

太りそうになったらあわてて部屋の中を走り回るのだという

髪型は真っ黒なロング、少し老けて見せたいから白髪をはやかしておく。

メイクは薄付き、口だけ大きく。

自信を持ってるように見せたいのだという。

すっぴんはたよりないからダメなのだそうだ

服装はいつもグレー

白黒はっきりつけないと気が済まない完璧主義たちへ、グレーの存在を知らしめるためだ

全身グレーであらわれるすがたはねずみのようになりすぎぬよう配色と模様を工夫されている。

態度はやわらかく、あたりさわりなく、しかし芯は強く太く、持っていねばならない。そして芯の部分はなるべく人目のつかぬよう設置し、ここぞという時にだけひらく。


いつでも最高密度の職人でいたいの!

そう言って彼女はひとをすくう職人をしている。

湖に立って、大きなポイを両手で持って、それっとひと思いにすくう。

すくってからが大事なのだという

すくったあと、気に入ってもらえなければひとびとは湖に戻ってしまう。

気に入ってもらえればカウンセリングタイムだ。

昔々の楽しい話を聞かせてくれる。


あの人の笑顔が見たかった。

儚げで、やわらかくて

でも生活感に溢れて

埋もれかかって

諦めた顔をしてる

あの人の笑顔が見たかった。


わたしたちの関係は贈与を禁止されている

ただ同じ空間の共有と

コミュニケーションのみが課されていた

罰を受ける覚悟で

あのひとの愛した花を

一輪

手にして行った

あのひとのもとへ

深い森の奥に住まうあのひとのもとへ。


息を弾ませて

あの人の部屋のとびらをあけた

新しい石器のこと

韓国の俳優のスキャンダル

今度観れる、

300年に一度の大きな赤い月のこと

そんなことを、いっぱい話そうと

そしてあのひとが笑ったらとてもあたたかくなるだろう、と

とびらをあけた


あのひとはうみのなか

だれともめをあわさずに

よこたわっていた

顔を隠している手をどけると

あのひとはうみのなか

だれともめをあわさずに

よこたわっていた


いかづちでしょうか

いいえ、誰しも

脳にひかるひとすじの痛みを

やわらかく見逃して

あのひとはだれのことも愛さぬまま

よこたわっていた


無防備なすがたをみて

そのときはじめて

あの人の目が

きれいなエメラルドグリーンをしていると

知った


ひざしがゆるく、だんだんとあの人のからだにのぼってくる

まだ冷える朝方の、少しずつ時間が経っていることをあのひとの腹の上をなぞるひかりで知る


あのひとはうみのなか

だれとも目を合わさずに

よこたわっていた


最後にした話はなんについてだったか

もう声さえも忘れていて

いつもは電話口で聞く

あのけだるい声さえも

聞き慣れたはずなのに

冷たい手を 鼻先を 感じたとたん

あの人の声が

遠のいていく

録音も留守電もたくさん探すけど

たとえ数秒のあの人の記憶を聞いたとて

現実の声が

どんどん

遠のいていく


まだ冷える朝だった

あのひとの目の色を知った

もう人ではない皮膚が

もうひとではないくせに

日の光をとかして虹色に

うぶげが

およいでいる。


握りつぶされた贈与がばれないように

固まったくちびるのなかに

花を

押し込んだ

惨めだなぁと思いながら

浴槽に広がるオレンジ色に

マシュマロをなすりつけて

食べた

跪いて

上の方で誰かが何か言ってて

それは自転車の途中で思い出したのだけれど今はもうわからない

着物を着ていた

ともだちが揃って美しく着飾り

いちばん、かっこよくみられたいと思ってたわたしはなにを着ているかわからない

首都高を歩いていた首の長い長い花瓶みたいな女の人は緑の口紅を塗ってその薄い唇はなんだか無意識にひっかかりを残した

約束と上手に打てなくて忘れ果てたい夕暮れ、電話もなかったことにしたい雨垂れ、得意技の「ごめんね」はいらんときに使いすぎたのでMPが残ってないみたいなの、また未来のあなたを守ってあげに帰る。

長期型の投資としての、煙草と食事。

あなたは煙草で緩く死に、わたしは砂糖で緩く死ぬ。

二人でおんなじタイミングでお墓に入れたらすごいね?