一期一会 -28ページ目

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

chapter1:イーグルF22



その時だった。格納庫内にジリジリとベルが鳴り響いた。

「なんの音だ?」

ミキが何事かと、平らになった座席から慌てて起きあがった。

「本日の作業終了の合図のベルです。もう定時か」

 アドルフは腕時計を確認しながら説明した。

 どうやら定刻にはベルが鳴るらしい。確かに外で訓練や作業をしていると、時間は把握しにくいからな。

 ミキはこの後、どうしようか考えあぐねていると、アドルフが声を掛けた。

「宿舎を案内しましょうか?」

「でも……今日の作業はもういいのか?」

「いえ、まだ続きはあるのですが、僕はまだ後で戻って作業します。とりあえずお腹もへったし、続きは腹ごしらえに一度宿舎に戻ってから」

「そうか。じゃあ、案内を頼む」

二人は格納庫から敷地内にある宿舎へと向かった。

 

宿舎は敷地内にあると言っても、徒歩で二十分以上はかかる。

ミキは受付に預けた荷物を引き取り、そこにたどり付くまでには、すでに辺りは暗くなり始めていた。

アドルフは宿舎に着くと、さっそくミキの部屋を案内した。ミキの部屋は最上階から一つ下の階だ。アドルフはカードを取り出すと、おもむろに差し込んだ。

部屋に入ると、2DKの個室だった。白を基調とした清潔感のある部屋で、とても軍人の住む官舎だとは思えない。宿舎生活の長いミキも、今までよくて二人部屋しか経験のない待遇からすると雲泥の差である。 

「これがカードキーです。一応キッチンもバスついていますが、もちろん、下の食堂も大浴場も利用できますよ」

 アドルフは持っていたカードを、ミキに手渡した。

「随分広いんだな」

「ミキさんはエースパイロットですからね。待遇がいいんですよ」

「アドルフの部屋は?」

「僕の部屋はこの一つ下です。こんなに広くはないけれど、ここではみんな個室が貰えるのです。僕達の部屋はバスがついていないので、大浴場を使いますが。もし、集合住宅が嫌だというのなら多少お金はかかりますが、少し離れたところに戸建てもあります。少々一般の住宅よりは小さいようですけど」

「へぇ」

さすがは無国籍軍最大の基地の待遇というところだろうか。

「荷物を置いたら、食堂に案内しましょうか」

「おう、頼む」


to be  continued……

chapter1:イーグルF22  


 4


「中を見てみますか?」

「いいのか?まだ整備中なんじゃ……」

「パイロットのミキさんなら。特別ですよ」

アドルフは少し肩をすぼめながら、ウインクしてそう言った。

「こちらへ来て下さい」

アドルフは手招きして機体の後方へ案内した。側にはキャスター付きの移動式のハシゴが機体に備え付けられていて、先にアドルフがハシゴを登ると、コックピットのキャノピーを開ける。

「どうぞ」

アドルフがミキの手を取り、コックピットへ招き入れた。

外見では機体は小さそうに見えたのに、実際中に入ってみると、案外ゆったりとしている。従来のものより、余裕があるくらいだ。

革張りの新品のシートと、薄く漂うオイルとガソリンの匂い。ミキは座席に座るなり、目の前にある操縦桿を握り混む。グリップの太さも、握り混んだ時の滑り具合も、今までミキが操縦していた戦闘機のものより自分の体になじむ気がする。

うん。悪くない。

ミキが座席に座わり、恐る恐る操縦桿や他の計器に手を伸ばそうとした瞬間、アドルフが機内の内側のドアにあったボタンを押した。

「わっ!」

「ははは! 驚かしてすいません」

アドルフがボタンを押したと同時に座席の背もたれが後方に倒れ、ゆうに一人は寝るぐらいのスペースが広がる。ミキがキャノピーを仰ぎ見る姿勢で寝ていると、真上に笑顔でのぞき込むアドルフの顔が見えた。

「どうです?」

人なつっこい笑顔を浮かべながらアドルフが声をかけた。

「うん……思ったより悪くない。コイツ、いつ動かせる?」

「でしょう? 僕もこの種の戦闘機を扱うのは初めてですが、悪くないと思います。調整はまだ少し時間がかかりますね。そう……あと四、五日。いいや最短で三日ってところかな」

「三日も?」

「戦闘機はデリケートなものなのです。整備を怠ると、パイロットの命まで奪ってしまう。戦車みたいに多少調整できなくても転がせるものとは違いますからね。僕も急いでやりますからあと三日は待ってください」

「三日後か……。わかった。しかし、この計器の見方がわからん。取説とかあるのか?」

「ええ。もちろんありますよ。この機は最新のスチルス式のモジュールとテクノロジーを用いていますので、わからなくて当然だと思います。扱いも少し旧式と違うところもあるようですが、ミキさんならすぐに慣れるでしょう。後で取扱説明書をお渡ししますね」

「ああ、頼むな」



to be  continued……

chapter1:イーグルF22 3




小さくなるミュンホの後ろ姿をミホが見ていると、側にいたアドルフが小さくつぶやいた。

「今日の相手はどんな人なのかな……」

「相手?」

「ここだけの話……と言っても、これはみんな周知の事実ですが、ミュンホさん、かなりプレイボーイらしいのですよ。毎晩会う女性が違うのだとか」

「へぇ」

「まあ、上官のプライベートの時間までうるさく言う人はいませんし、仕事はバリバリやる人だから、誰もその事に対しては文句が言えないんですよ。なにしろ、ここは男ばかりの職場ですからね。あ、すいません。貴方も女性でした」

 アドルフは慌てて失言したと、口元に手を持っていったが、ミキは「別に」とその場を濁した。

「貴方が噂のミキさんなのですね」

「噂?」

「ああ……。気を悪くされたらすいません。あんな戦い方ができるのは、もっと熟練パイロットの年長者の方だと思っていたので」

どうやらアドルフは、今までのミキを知っているようだった。

時代によってもエースパイロット(撃墜王)と呼ばれる定義は若干違ってくる。航空機ができたばかりの昔は一度の対戦で、十機以上は打ち落とさなければそう呼ばれなかったけれど、近年になるごとに、レーダーや他の計器の性能も機体進化し、プロペラからジェットへ様変わりしてからはぐっとその数は減った。

地域によっても数の差はあるけれど、通常、五機以上撃墜すれば『エースパイロット』の称号は自動的についてまわるだろう。ミキの場合、戦いに出る度に、敵の機を撃墜する数が通常のエースパイロットが撃沈する数の倍以上に昇るのだから、自覚していなくとも、どこからともなく「何事もおそれを知らない鉄のような心を持つエースパイロット」だと噂されるようになっていたとしても仕方のないことだ。

「若くて、女で悪かったな」

「いいえ。そんなことは。小柄なのはパイロットにとって好ましい体型です。体重が軽い方が機体の負担にならずにすむんです。ミキさんの体型はパイロットとしては理想的なのですよ」

今まで女だとか、小さいとか、軍人なのに小柄な体型に劣等感を持っていたミキは、その言葉を聞いて少なからず安堵した。



to be  continued……

chapter1:イーグルF22 2




「すいません。……つい。でも、ホント困るんですよ」

繋ぎの制服を着て、手にはスパナを持ったまま、困った顔をした青年が一人。

「ミキ、紹介する。彼がこの戦闘機の専属整備士のアドルフ・バイルシュミットだ。普段は優しいヤツなんだがな、戦闘機の整備の事になると鬼になるからな」

ミュンホは改めて彼を紹介した。

「はじめまして。アドルフ・バイルシュミットです。此所で整備の仕事をしています。どうぞよろしく」

アドルフは手に持ったスパナを片手に移し、汚れた手を繋ぎのズボンの横あたりでぬぐいながら握手を求めてくる。ミホはそれを人ごとのように傍観していた。

「おい、ミキ。どうした?」

ミキは驚いていた。目の前にいる整備士の青年は、ミキにとって、忘れたくても忘れられない人によく似ていたからだ。

「ミキ!」

再びミュンホに名前を呼ばれて、やっとミキは我に返った。

「ああ……すいません。リズレイ=プリチャード ・美紀です」

「貴方がミキさん? お会いできて光栄です。こちらこそよろしく」

ミキがそっと差し出した手を、アドルフが握りしめる。人なつっこい笑顔と共に、しっかりと握りしめられると、ミキは胸の奥がきゅんとして、涙があふれそうになるのを必死にこらえた。

「ミキ、お前にこの戦闘機を預ける。最新型の戦闘機だからな。くれぐれもかわいがってくれよ」

「オレが……この戦闘機のパイロット……?」

「ああ、そうだ。何か不満か?」

「いいえ、そんな事は」

「今日からお前がこの戦闘機のパイロットで、アドルフが専属整備士だ。自分の飛び方の好みやら、エンジンの好みなんかは二人で相談してやってくれてかまわん。アドルフは若いが、腕の立つ整備士だ。彼ならお前好みの戦闘機に仕立て上げてくれるだろう。くれぐれもエースパイロットの名に恥じないようにな。そうそう、ついでに彼も宿舎住まいだから、わからない事があったら彼に聞いてくれ。私はこれから人と会う約束があるから、また明日」

ミュンホはそれだけ言うと、浮き足だってその場を去っていった。




to be  continued……

 chapter1:イーグルF22




 二人は敷地内の渡り廊下を進み、司令本部のある棟から別棟になっている格納庫へと向かった。

途中、部下らしい兵士と廊下ですれ違うと、皆一斉に立ち止まって、ミュンホに向かい丁寧に敬礼をする。やはり見ためは若くても、この人は長官の身分なのだと、嫌でもミキは感じずにはいられなかった。

だが、皆、ミュンホに向かって一端敬礼をすると、急に笑顔になり、気軽に挨拶を兼ねた報告をしてゆく。ミキが以前いた基地の長官とは大違いだ。

前にいた基地の長官は一見、年齢的にも、外見的にも長官として申し分ない風貌の上官だったが、自分以外の扱いの人間の扱いは最悪だった。人を人とは思っておらず、部下ではなく下僕としか扱っていない長官の部下の評判は、どれをとってもお世辞にもよいとは思えなかった。

しかし、ミュンホは違うようだ。長官としては若い部類に入るのは否めないが、きびきびとした中にも十分に部下とのコミュニケーションがとれている様子を見て、上官だからと言って威張り散らす長官ではないのだと裏付けているようだった。


「ここがウチの自慢の場所だ」

いくつものシャッターとシールドを抜け、最後の格納庫へ通じるシャッターを抜けると、そこは巨大な大空間が広がっていた。

「ほぅ……」

思わずため息がこぼれる。

おそらく最新式の建物の格納庫だろう。

天井高さも軽く三階建て分の建物の高さはあり、ドーム状になった天井には採光の為か、所々に盗撮予防の為のフィルターが張られた強化ガラスのトップライトが設置してある。

格納庫といいつつ、整備工場も兼ねているらしいこの場所には、まだ整備中の戦闘機や、給油中の戦闘機がずらりと並び、整備員の人員もミキが以前いた基地の二倍はおり、活気にあふれているように見えた。

「ミキ、お前の機はこれだ」

ミキが周りの様子に見とれていると、先をゆくミュンホが遠くから前方を指さす。

慌ててミュンホの側に掛け寄より、指をさす方を見ると、目の前にはあの戦闘機が鎮座していた。そう、昼間見た新型のものだ。

間近に見ると、思っていたものよりも随分小さい。鈍く光るシルバーの機体に、あの時遠目にみた赤いラインがすうっと入り、一目でミキは気に入った。

「これは我軍が誇る、最新式のF22イーグス系戦闘機だ。どうだ?この機体の感想は?」

ミュンホが機体をペタペタとなでながら、ミキに自慢気に話しかける。ミキが返事をしようとすると、機体の後部の方からそれを咎める声が響いた。

「長官、ワックスを塗ったばかりなんですから、素手で触らないでください!手形がつきます!」

いきなり長官に抗議するとは何ごとだろう。

「お、そうだったか。それは悪かった。まったく機体の整備の事になると、アドにはかなわないな」

苦笑浮かべながら、慌ててミュンホは機体から手を離した。

「アド?」

ミキが驚いていると、奥から声の主が現れた。




to be  continued……


プロローグ 2



ミキが基地に到着すると、すぐに司令本部の一室に通された。

応接間らしいこの部屋の壁一面には、先の対戦での輝かしい功績を物語る写真と杯が飾られていて、ミキは思わず顔を背けずにはいられなかった。

あの時の恐怖が再び脳裏によみがえる。

自然と自分の身がこわばっていくのを感じ、額には脂汗がにじみ出す。ミキはソファに座った姿勢でズボンの膝のあたりの布を握りしめると、どうにか思い出さないようにと必死にこらえた。それを制するように突然ドアをノックする音が聞こえ、一人の男が入ってきた。

「待たせて悪かったな」

一瞬にして恐怖の回想はかき消され、かわりに別の緊張がミキを包んだ。

「いえ、そんな事は。はじめまして。パイロットのリズレイ=プリチャード・美紀です」

ミキはソファから直立不動にたち上がり、すぐに敬礼をする。敬礼をされた男は、それには応じず、すぐに着席を勧めた。

「私はここの司令室の責任者、長官のイ・ミュンホだ。君がミキだね? イギリス国籍か。噂はかねがね聞いていたよ」

「噂ですか……」

 ミキは少しうんざりした顔をしたが、上官に対して失礼かと慌てて顔をそむけた。

「鉄の心を持つエースパイロットだとね。心配しなくていい。とらえようによっては、軍人には悪い批評ではない。前の基地でも君は女だてらに相当な腕前で、最年少でエースパイロットを努めたと聞いている。少々ブランクはあるようだが、期待しているよ。」

「はあ……」

漆黒の髪と瞳。名前からすると韓国籍だろうか。無国籍軍だから、当然のごとくいろんな国籍の者がいる。きっと軍服よりも流行のスーツの方が似合うだろうと思われる少し童顔っぽい甘い容姿は、とても長官とは思えない。

まだ歳も三十路そこそこにしか見えず、コネもなく、実力だけでその歳でこの階級まで上り詰めたと言うのなら、相当の策士なのか、どん欲な男なのだろう。

「まあ君は若いし、すぐに此所にもなれるだろう。しばらく戦闘の予定はないし、適当にやってくれ」

ミュンホの見かけよりも単刀直入にズバリと言うものの言い方に、ミキは内心ほっとしていた。

無国籍軍最大の空軍基地だと聞いていたから、もっとお堅い所だと思っていたのに。

少々予想と反するが、その方が自分に合っている。ミキは先程まで緊張して体がこわばっているのが、段々とほぐれていくのがわかった。

「ウチの戦闘機は見たか?」

「いいえ。格納庫にはまだ」

「一緒に見に行くか?ついでに、お前の相棒になるヤツを紹介しておくよ」

ミュンホは静かに席を立つと、ミキ従えて格納庫へと向かった。


to be  continued……



プロローグ 1





リズレイ=プリチャード・美紀は丘の上に立っていた。

ゴォーと言う飛行機の騒音と共に、あたりに風が舞い上がる。懐かしい騒音と、オイルの匂い。ポニーテールにしたミキの長い金髪が、風と共に舞い上がる。

コートをなびかせ、辺りを見下ろすと、緑一面の草原の先には、背丈よりも高いフェンスがあたりを囲い、その内側にはどこまでも灰色をしたアルファルトの滑走路が広がっていた。

遠くには、規則正しく配列された戦闘機が並んでいて、中に見慣れないものが一機混じっていた。

「へぇ」

ミキはそれを見付けると、まるで珍しいおもちゃを見付けた子供のように、目をきらきらさせながら、じっと視線を送る。鈍く光る銀色のボディに、この基地のトレードカラーである赤いラインがくっきりと浮かび上がっている。新型の戦闘機かもしれない。一体、どんな最新の機能と能力があるのだろう。

新型の戦闘機を見ると、ミキはどうしてもパイロットとしての血が騒ぎ、すぐにでも飛ばしたいと思ってしまう。あんな事があったのに。ミキは脳裏に暗い影が覆いそうな予感がして頭を振った。

いいや……もう考えるのはよそう。

結局、オレにはこの道しかないのだから。

ミキの思考は、頭の上からそう離れてはいない上空を通り過ぎる戦闘機のジェット音でかき消された。聞き慣れた音だ。

上空を通り過ぎた戦闘機を見上げると、すぐに空の彼方へ豆粒ほどの大きさになり、太陽の光を受けてキラリと一瞬光ると、やがて見えなくなった。

ここはルフトヴァッフェ(無国籍空軍基地)の中でも最大規模の空軍基地だ。先程目にした新型戦闘機はもちろん、どんなパイロットがいるのか興味深い。この戦争が、第三次世界大戦に発展するかどうかは、自分達の腕にかかっている。ミキは使い慣れた旅行鞄を握り直すと、ゆっくりと基地へ足を向けた。



to be  continued……


エピローグ 2



「今日で一周忌だなんて早いよね」

「そうだね。いろいろあったよね」


カヲルとヒカルは、千秋の墓の前に来ていた。

享年十九歳。若すぎる死だった。

千秋が好きだったという白い百合の花をたくさん持って、二人はそろって墓参りにやってきた。

日差しはまだ夏日が残るのに、風はどこか秋風を感じる。墓地を吹き抜ける風は、心なしか寂しく思われた。


千秋は自分の死を予測していたのだろうか。

本当のところはわからない。

「ヒカルさん。あの時、僕に目をくれると言ってくれたでしょう?」

「ああ……あの時はね」

 ヒカルは、カヲルの言葉にはにかんだ。

「あの時、僕は本当に嬉しかったんですよ。ありがとう」

「今更何を……」

ヒカルは照れ笑いしながら恥ずかしがっていたが、カヲルが真剣な眼差しで自分を見つめているのがわかると、ヒカルもカヲルを黙って見つめ返した。


「あの時はとにかく必死だったの。とにかく、カヲルに生きる希望を持たせてあげたくて」

「ヒカルさん……?」

「私はカヲルとずっと一緒にいたいけど、あの時のカヲルは、私と一緒にいると迷惑をかけるとか、自分の目が見えない事をどこか恥じて自分の存在を謙遜していたところがあったでしょ?私にとっては、カヲルの持った障害はどうでもよかったの。弟のカヲルの事だってあったし。弟に似ているから、単に身代わりだと思われているのも、なんか癪だったの。とにかく生きてほしい。生きていてくれさえすれば、障害があってもかまわない。

あの時は単純にとにかく自信をつけてあげられるには、私がカヲルと同じ条件になればいい。そう思ってみたけれど、実際はそんなに甘くないんだよね。私も思い上がっていた。ごめん。あ、だけどカヲルなら目でもなんでも上げられる気持ちは今だって変わってないよ。本当にそう心から思った。もし目が見えなくなったとしても、

「瞳をとじて。

心の瞳をあければ。

いつでもカヲルの心は見えるから」

「ヒカルさん……」

「ちょっと今のはクサかったね?」

ヒカルは照れ笑いのつもりなのか、えへへと笑った。

「案外ロマンチストなんですね。ヒカルさんは」

カヲルはヒカルと向き合うと、肩手に両手をおいた。

「僕は、千秋のくれた目のおかげでこうやって貴方を見つめる事ができます。貴方が僕を思ってくれているのがわかったから、生きる希望ももてたのです。僕は、その事を一生忘れない」 

カヲルはヒカルと向き合うと、ヒカルの瞳にやさしくキスを落した。

「カヲル……」

「ありがとう、ヒカルさん。これからもよろしく」

「礼は私じゃなく、千秋に言うのね」


二人並んで千秋の墓前に立ち、カヲルが講師になって働く事を報告した。


「やっぱりね。私は最初からこうなると思っていたわよ」


二人は、かすかに千秋の笑い声を聞いた気がした。

                                          




end







エピローグ 1





それから一年後。


「あらためまして。僕は北川カヲル。今日からここで点字と指文字その他盲者のコミュニケーションの講師として、ここで働く事になりました」

少し照れながら笑うカヲルの横には、ヒカル、森夫妻、山下、ジュリーばあちゃんの姿があった。

カヲルが子供達の前で自己紹介をすると、どこからともなく歓声と、拍手がわき起こる。

「みんなも知ってのとおり、みんなのよく知っているカヲルだ。これからはカヲルおにいちゃんじゃなく、カヲル先生だからな」

雅美がそう子供達に説明すると、はい!と素直で元気な声が返ってきた。

「どうだ?カヲル。これまで生徒としてここで生活をしていたのに、今は講師としてここに立つ気分は?」

少し照れながらカヲルは微笑む。

 

あれから手術は無事に成功し、カヲルの目は光を取り戻した。

全盲者が視覚を取り戻すと、それはそれなりに大変だ。カヲルは生まれた時から全盲だった為、物の形、色のイメージ等の概念がまったくないからだ。

多少なりとも過去に目が見えた経験があれば、そこから想像したりできるものだが、成人してから目が見えると言う事は、見える物全ての形と名前を一致させて覚えていかねばならない。文字ももちろんそうであるし、幼児が親にあれなに?と一つ一つ尋ねるような事から始めるのだ。

カヲルも、手術が無事に終わりほっとしたものの、どのくらい視覚があるのか調べるまでは本人も周りの者も安心できなかった。

せっかく眼球を移植したとしても、全盲とまではいかなくとも、視覚障害者止まりと言う事もあるからだ。

普通社会的盲と言われるのは矯正視力で両目の視覚が0・0二以下、社会的準盲は両目の視力が0・0二以上0・0四。社会的弱視は両目で0・0四以上0・三とされている。

心配されたカヲルの視力は両目で0・八はあり、通常の社会生活もなんら問題はないとの眼科医の判断だった。

それからは勉強熱心なカヲルと、献身的なヒカルの介助もあり、一つずつ、モノの形の名称から、色の名前。素材の名前。あらとあらゆる世の目に見えるものの名前、仕組みを学んでいった。

それは大変な事だったが、今まで見えなかった世界が、見えると言う事はカヲルにとってとても幸せだった。


自分の顔を鏡でみた時も感動したものだったが、特に一生見ることがないと思っていたヒカルの顔を見た時の感動は、絶対に忘れられないだろう。

美しい金髪を一つに束ねて、蒼い瞳で見つめられた時は、感動のあまり涙が出そうになった。

生きていて本当によかった。まさか自分の目が見えるようになる日が来るとは。

こんな感動をくれたのも、全て千秋おかげである。


カヲルは全盲の時は『夢』は見なかった。あえて夢を見ると言うと、たまに音だけの夢はみたけれど。

不思議な事に、モノの形、色が判別できるようになったら『夢』をみるようになった。

人間の視覚は、脳に直結し、構築され、それが記憶の一部となる。見たこと、感じたことがない情報は、脳には構築されず記憶にも残らない。

人間の脳は、まるでコンピュータなのだ。


カヲルの目には、にこやかに自分の話を聞いてくれる目の前の子供達がいる。

表情を直接自分で見ることができるのは、人に状況を説明してもらわなくていいし、とても嬉しい事だ。

千秋がくれた幸せ。自分にもらった幸せを誰かに分けてあげたい。

大人になる事を、社会人になる事を、カヲルは心のどこかで拒否していた。一生、誰かの世話にならなければならない事を、恥じていた。

けれど、実際自分が全盲者から健常者になった今ではそれが間違いだと気づいた。

障害を持っていても、持っていなくても、この世に生をうけたからには、人間として平等だ。恥じる事など、何もない。

自分が全盲で苦しんだ経験を生かして、障害で悩む子供がいたら助けてあげたいし、視覚障害者と健常者のコミュニケーションの橋渡しができるのなら、その生き方をあゆみたい。

今まで後ろ向きだったカヲルの表情は、とても明るかった。



to be  continued……







鋼の錬金術師 25 (ガンガンコミックス)/荒川 弘
¥420
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やっと出ました!鋼最新刊。

表紙がアルだよ。アル。

帯の「ずっと待ってた、おかえり」が、なんだか泣ける。

*ネタばれ注意!





アニメもそうだけど、最近の鋼は目を離せません。

無理矢理人体錬成をさせられて、大佐があんな目にあうとは。

でも、自分で真理の扉をあけたわけじゃないので、このあたりにホムンクルスに対する勝因がある気がする。

今回、一番気になったのが、アルの肉体と魂の再会。

バリーの時にあったけど、魂と肉体が出会って、拒否反応しないの?とか(このあたりはまだ融合? していないからか?)自分の意志と関係なく、魂が勝手に本当の肉体に入っちゃうというのはないのか。

アルの肉体の方は、何か知ってて悟っているようだけど、凄く気になります。

やっぱり、アルの身体を元に戻すのは、かなりデメリットも伴うニュアンス。



ここからは勝手な妄想。(勝手な仮設ともいう)

ホムンクルスと現在戦っていますが、賢者の石を使いすぎて、その力は残りがわずか。

アルの身体をもどすのに、賢者の石が必要となり、父の身体(賢者の石で出来ているからね)を使って、兄弟は究極の選択を迫られる。


その1:賢者の石を使い、アルの身体を元に戻す。→でも父は亡くなる。

その2:賢者の石は使わず、アルの身体は死ぬまでそのまま。


当然、兄弟はその2を選択。

でも、父、ホーエンハイムは、400年以上生きていて死ねない身体に飽きていた。

トリシアとの約束もあるので、「早くかあさんとあの世で会わせて欲しい」と懇願。

兄弟は究極の選択に悩みつつも、最後はホーエンの賢者の石を使い、アルは元の身体に戻る……とか。


うーん。ホント、最後どうなっちゃうんだろう。

怖いけど、早く最後が見たい!!