エピローグ 2
「今日で一周忌だなんて早いよね」
「そうだね。いろいろあったよね」
カヲルとヒカルは、千秋の墓の前に来ていた。
享年十九歳。若すぎる死だった。
千秋が好きだったという白い百合の花をたくさん持って、二人はそろって墓参りにやってきた。
日差しはまだ夏日が残るのに、風はどこか秋風を感じる。墓地を吹き抜ける風は、心なしか寂しく思われた。
千秋は自分の死を予測していたのだろうか。
本当のところはわからない。
「ヒカルさん。あの時、僕に目をくれると言ってくれたでしょう?」
「ああ……あの時はね」
ヒカルは、カヲルの言葉にはにかんだ。
「あの時、僕は本当に嬉しかったんですよ。ありがとう」
「今更何を……」
ヒカルは照れ笑いしながら恥ずかしがっていたが、カヲルが真剣な眼差しで自分を見つめているのがわかると、ヒカルもカヲルを黙って見つめ返した。
「あの時はとにかく必死だったの。とにかく、カヲルに生きる希望を持たせてあげたくて」
「ヒカルさん……?」
「私はカヲルとずっと一緒にいたいけど、あの時のカヲルは、私と一緒にいると迷惑をかけるとか、自分の目が見えない事をどこか恥じて自分の存在を謙遜していたところがあったでしょ?私にとっては、カヲルの持った障害はどうでもよかったの。弟のカヲルの事だってあったし。弟に似ているから、単に身代わりだと思われているのも、なんか癪だったの。とにかく生きてほしい。生きていてくれさえすれば、障害があってもかまわない。
あの時は単純にとにかく自信をつけてあげられるには、私がカヲルと同じ条件になればいい。そう思ってみたけれど、実際はそんなに甘くないんだよね。私も思い上がっていた。ごめん。あ、だけどカヲルなら目でもなんでも上げられる気持ちは今だって変わってないよ。本当にそう心から思った。もし目が見えなくなったとしても、
「瞳をとじて。
心の瞳をあければ。
いつでもカヲルの心は見えるから」
「ヒカルさん……」
「ちょっと今のはクサかったね?」
ヒカルは照れ笑いのつもりなのか、えへへと笑った。
「案外ロマンチストなんですね。ヒカルさんは」
カヲルはヒカルと向き合うと、肩手に両手をおいた。
「僕は、千秋のくれた目のおかげでこうやって貴方を見つめる事ができます。貴方が僕を思ってくれているのがわかったから、生きる希望ももてたのです。僕は、その事を一生忘れない」
カヲルはヒカルと向き合うと、ヒカルの瞳にやさしくキスを落した。
「カヲル……」
「ありがとう、ヒカルさん。これからもよろしく」
「礼は私じゃなく、千秋に言うのね」
二人並んで千秋の墓前に立ち、カヲルが講師になって働く事を報告した。
「やっぱりね。私は最初からこうなると思っていたわよ」
二人は、かすかに千秋の笑い声を聞いた気がした。
end