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「カイ!こ れ見てみろよ」
「なになに?」
小学校に上がったエリスは、その行き帰りにいつも珍しい虫や季節の草花を採ってきてはカイに見せてくれた。
病気がちでなかなか外に出る事ができないカイは、それが楽しみでならない。
発作が起きて苦しい時もカイは嬉しそうにベッドから起きあがり、エリスはベッドサイドになにやら大事そうに両手を合わせたまま詰め寄った。
いつもわくわくしながらエリスの手が開かれる瞬間がカイは大好きだ。エリスがそっと囲んだ両手をひろげると、中から蝶が飛び出した。
「わぁ……蝶々?」
「ああ、綺麗だろ?」
蝶は部屋の天井あたりを美しい羽を羽ばたかせながら踊るように舞い、時折、照明の青銅の飾りの端や、カーテンポールに止まってはゆっくりと羽休めた。
「綺麗……」
「だろ?」
カイが喜ぶ顔が見れたエリスは、満足げに鼻の下をこすった。
「すごいね。蝶々ってこんなに綺麗なんだ」
いつもベッドの中で過ごす事の多いカイにとっては、生きた生物を見ることはまれであった。
蝶々にしろ、ほかの昆虫にしろ、図鑑の中ではみた事があるものの、本物は違う。
蝶はポールに止まったまま羽をゆっくりと閉じたり開いたりして、蝶はこんな風に羽を動かすのだと、カイは感動を覚えた。図鑑で見たよりもずっと美しい。だが、美しいけれど、その様子は本当はもっと広い世界へ飛び出したくて、この狭い空間にぞぐわなく、どこか悲しげにも見えた。
じっとその様子を見ていたカイは、その蝶がエリスのような気がしてならなかった。
活発なエリスの事だ。体の弱い自分を気にしてなるべく一緒に部屋の中で一緒に過ごしてくれるが、本当はもっと他の子供のように元気に遊びたいのではないだろうか。
今までも、幾度となくエリスに、外で遊びたいのなら自分と一緒に部屋の中で遊ぶよりも、元気に遊んでいる男の子と一緒に遊んできてもいいよと言ったことがあったが「オレが何の為にこの家に養女としてやってきたのかわかっているのか?」と、その度にいつもエリスにこっぴどく怒られてしまう。
本当は、自由な世界に飛び出して仕方がないのに。
エリスは自分のせいでここに囲われた生活をしているのではないかと思うと、カイはなんだか申し訳ないように思われてならない。
けれどそんなカイの気持を察してか、エリスが嫌な顔一つせずに自分に合わせてくれるのを、心の中でいつも感謝していた。
to be continued……