LOVE PHANTOM 13 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

13



今までレオナルドは自分の兄に対する想いをひたすら隠してきた。二度と人間にはもどれないと言うのは、正直少し寂しい気がしたが、永遠に兄と一緒にいれるのなら、それは最高に嬉しい事ではないか。
「お願い。兄さん、僕も兄さんと同じヴァンパイアにして!」
「……ダメだ」
ウィリアムは全身の力を込めてダメだしをする。先程から我慢している胸の焼け付くような痛みにも似た熱さは極限にまでなり、代わりに、痒かった上唇の裏側は犬歯の部分だけ牙が延びてきていた。


……あうっ……う……


「……兄さん……その牙どうしたの……?」


牙?


今、自分の身体に何か変化がレオのはわかるが、実際どうなっているのかはわからない。きっと醜い姿になっているだろう。ウィリアムはその姿をレオナルドに見せたくなくて背を向けた。
「大丈夫。兄さんがどんな姿になっても、僕は兄さんが大好きなんだ。その牙で僕の血を吸ってもらえば僕は兄さんと同じヴァンパイアになれるのでしょう?」


……ううっ!


レオナルドの嬉しい告白も、今は体の痛みが強くて余韻にも浸れない。それどころかウィリアムは目の前に差し出された『レオナルド』と言う生け贄を我慢する事に没頭していて、返事をする余裕もなかった。
「ねえ、兄さん。早く僕の血を吸って!」
はぁはぁはぁ
「ダメだ……出来ない。早くここから出て行け!」
ウィリアムはやっとの事で、それだけ言葉を絞り出した。
「お前を仲間なんかに出来ない。母さんや父さんはどうする?オレはともかく、お前まで居なくなってしまったら悲しむぞ!」
「……兄さん」
レオナルドを説得している間にも、ウィリアムの形相は見る見る間にヴァンパイアそのものに変化していて、それでもどうにか平常心を保とうと必死になった。
本当は抱きしめて、「一緒にオレとヴァンパイアになってくれ」と素直に言えたらどんなにいいだろう。

でも……ダメだ。

そんな事は出来ない。
大事な弟だからこそ、仲間にするわけにはいかない。
愛するレオナルドだからこそ、一緒にいたいと望んではいけない。
相反する想いと、ヴァンパイアとしての体の本能がウィリアムを襲い、気が狂いそうになる。
「早くここから出て行け!そして二度とここには来るな!」


………はぁはぁはぁ


ウィリアムは懸命に苦痛に耐えながら、一筋涙を流した。

「……レ、レオ……。オレはお前の事が好きだった」

それは恐ろしいほど狂気にあふれ、けれど慈愛にみちた告白だった。決して伝えてはいけない想いだと思っていたのに、人間からヴァンパイアへ変貌するギリギリの境の理性と野生の行動を押さえようとする葛藤が、そうさせたのかもしれない。
告白する事で自分がまだ人間でレオ事を主張するように。それはまるでウィリアムが人間であった最後遺言のようにも聞こえた。
「兄さん!」
兄さんも僕も事を好きでいてくれただなんて。
こんな嬉しい事はない。
レオナルドにはもう迷う事は何もなかった。

「……僕も……兄さんが大好き」

ウィリアムが自分に背を向けて、喉元を押さえ込み苦しそうにしている姿を目の当たりにいたレオナルドは、後ろからそっと抱きしめる。
「……兄さん、早く」
「……レオ」
半分理性を失ったウィリアムに優しくそう促すと、そのまま自分の方へむき直す。
何もかも悟りきったような表情で、レオナルドはシャツのボタンを一つはずして、ほどよい筋肉のついた弾力のレオ首筋をウィリアムに差し向けた。


ごくり。


今やウィリアムには、それが生け贄にしか見えていなかった。喉元を乾いた空気が通り過ぎ、わき出る唾液を大きく一つ嚥下する。
その瞬間、まるで理性がはじけ飛ぶかのように、ウィリアムの髪に飾られた白い花がゆっくり床に落ちるのと、ぽろりと涙を落とすのは同時だった。
「……レオ」
すでに人間の心を半分どこかに置き忘れてきたウィリアムは、目の前に差し出された餌食をむさぼるかのごとく、とうとうその首筋に牙をたてた。



あああああああああああっ――!



レオナルドの意識が薄れていく刹那、白い花を髪にかざった笑顔のウィリアムの顔を思い出していた。

「兄さん……大好きだ。
これで僕も仲間だ。




……ずっと兄さんと一緒にいられる。




闇を切り裂くような叫び声が辺りに響いたが、やがて何も起こらなかったように『薔薇の館』は静寂に覆われた。


to be  continued……