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「もう、僕だってずっと我慢してきたのに。なんで兄さんは見ず知らずの人そう簡単に許してしまうのかな」
顔の表情は薄暗くて十分見て取れないけれど、レオナルドが憤慨しているのが声の調子からわかる。
「え?」
レオナルドも自分の事を?
一瞬、想いが通じ合っていた事がわかってウィリアムは嬉しい気持で一杯になった。
けれど、自分の体がこうなった以上、想いを伝える事の意味がないとわかる。喉元までこみ上げる熱いをぐっと飲み込み、平然を装った。
「兄さん、本当にヴァンパイアになっちゃったの?」
「……わからん。今のところ何も変わったところはないようにみえるけど」
「変わったよ。なんでこんなに体温が冷たいの?」
レオナルドはウィリアムを恥ずかし気もなくぎゅっと抱きしめる。
抱きしめられたレオナルドの腕からは、生気あふれる人間らしい温かさが伝わってきて、なんだかとてもおいしそう……。
このまま食べてしまいたいくらいに……。
そう考えてウィリアムは頭を振った。
なんだって?
おかしい。
弟なのに、おいしそうだって?
オレはどうかしちゃったんじゃないか?
今までレオナルドの側にいて、「可愛い弟」「格好いい弟」と思った事はあっても「食べたい」とは思わなかった。
もしかして、これがヴァンパイアになったと言う事なのか?
ウィリアムは自分の考えが恐ろしくなって、抱きしめられたレオナルドの腕を振り払った。
「兄さん……?」
「レオ、オレから離れてくれ」
「どうしたの?兄さん!」
……ううっ……
なんだか自分の身体が変だ。
レオナルドを見て「食べたい」と思った瞬間、胸の奥底が焼けるように熱くなり、薄暗い中に浮かび上がるレオナルドの柔らかそうなほっぺや、しなやかな首筋につい、目がいってしまう。
「兄さん……?どうしたの?」
……うう……うう…
ウィリアムは苦しそうなうめき声を上げてはぁはぁと息を荒げる。明らかに様子がおかしいのを、突き飛ばされたレオナルドは心配してウィリアムの側に寄る。
「いいから離れろ。お前とはもう二度と会わない。オレの事は忘れてくれ」
「なんで急にそんな事言うの? ボクの兄さんは、兄さんだけだよ!二度と会わないだなんて」
レオナルドは再びウィリアムを抱きしめようと、エドワオードの肩を抱こうとした。
「こっちに来るな!」
ウィリアムにピシャリとそう言われると、さすがのレオナルドも広げた両腕をぎゅっと握りしめ、空を掴む。
ウィリアムは上唇の裏側がむずむずとかゆくて仕方が舞い。先程から続く胸の奥の熱い痛みは、更にひどくなり、喉が渇いて体中から枯渇するのを感じる。
「だめだ。オレに近づくな。でないと……オレは……」
人間だった時は感じなかったが、薄暗い中でもウィリアムの目がよく見える事に気づく。
心配そうな瞳のレオナルド。
その体の回りには、エナジーの炎がゆらめいていて、それだけでとても魅力的に見える。
あの柔らかな首筋を一かじりしたら、どんなに美味しいだろう。
ウィリアムは形のよい唇をゆっくりとしたなめずりした。その様子を横でみていたハイデリヒはさも満足げな顔をして、ほほえみを浮かべる。
「ほう。ウィリアムさんも感じるんだね。やっぱり僕が見込んだだけのことはある人物だよ。貴方の弟さんはさぞ魅力的だろう?」
「……お前……」
思考を読み取られたのが悔しいのか、ウィリアムはハイデリヒに反抗的な目を向けた。
to be continued……