13
それから五年後。
エリスの横には、カイはいなかった。
「ママ! パパのお墓こっち?」
「そうそう、カイ。よくわかったな」
「ママ、早く! 早く!」
カイそっくりな金髪を短髪にし、エリスにそっくりな金色の瞳をキラキラさせながら一心に手を振る。
丘の上の墓地をかけずる愛息子の姿は、カイの幼い頃にそっくりだった。
あの夜、エリスはカイと一夜を過ごし、朝方、カイは来た時と同じようにそっと窓から去って行った。
エリスはベッドの中で目を覚ましたが、声をかけなかった。
もし、声をかけたなら、もっと一緒にいたくて離れられなくなってしまう。
このまま二人でどこかへ逃げてゆけたなら。そう考えなくはなかったが、エリスはカイの体の事を考えると無理もできなかったし、なによりカイの両親にも迷惑をかけてしまう。 もう二度と会えないと思っていた人と逢えたと言うこと。一度でも契りを交わせたという事だけでエリスは満足だったし、後悔してはいなかった。
今日はカイの命日。
カイと契りを交わした三ヶ月後、手当の甲斐もなく、あっけなく彼はこの世を去った。 ちょうど庭の白木蓮の花が満開の頃だった。
それはエリスの体に、もう一つの命が宿ったがわかった当日の事だった。
未婚の母でもかまわない。この子はきっとカイの生まれ変わりだから何がなんでも生みたいと、エリスは初めて周りの人に我が儘を言った。
その理由を誰もわかりはしなかったが、赤ん坊が生まれてみて、初めてそれは明かされた。
エリスは伯爵家に来てから、ハイデリヒ家には戻っていない。
あれがカイを感じた最初で最後の夜になった。
短い生涯だったけれど、エリスはけして義弟の事を忘れない。
義弟を感じた事もけして後悔はしていない。
「ありがとな……オレに宝物を残してくれて」
エリスは毎年命日になると、ここに愛息子と一緒にやってきては墓標に手を合わせる。
カイと過ごすことはもう二度とできないけれど、代わりに彼は自分に宝物を残してくれた。
それが今のエリスにとってなによりも嬉しい。
愛息子を、父親と同じ名前にしたのは、なによりエリスの希望だった。
たとえ人の命はつきたとしても、こうやって命を引き継いでいいける限り、人を愛する気持は巡るものだと思うから――。
End