白木蓮の咲くころ 6 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。



    6
エリスがバタバタと騒がしく戻ってきたのもわからなかった。
「待たせたな!」
カイの母から、こっぴどくお説教を受けたエリスは部屋に入ってくると、カイが勝手に卓上机の上に広げた手紙と写真を見付けた。
「おい!ちょっと、勝手に見るなよ」
慌ててカイの側に駆け寄ったが、すでには中身を見た後だと判り、エリスは黙ってにらみつけた。
「返せ」
 エリスはそれだけ言うと、カイの見ていた手紙をとりあげた。
「ごめん……。そんな手紙だと知らなくて」
 何か言い訳を考えたが、今のカイの頭の中には何も考えつかなかった。ただ、見なければよかったという後悔と、エリスの返事が気になって仕方がなかった。
エリスはカイから奪った手紙と写真をくしゃりと握りしめ、真っ赤になってうつむく。じっと自分の靴の先を穴があくほど見つめ、耳まで赤く染め上げていた。
こんなエリスの様子を見るのは、初めてこの家に来た時、手の甲にキスをしたとき以来だろうか。なんとなく声をかけづらく、こんな雰囲気の場は二人とも初めてで、カイはどう声をかけてよいものか悩んだ。
確かに黙って手紙をよんでしまった自分が悪いのだけど、今までのエリスなら、隠し事もなくなんでも自分に話してくれただろう。どうして今回は言ってくれなかったのか。
先に謝るべきなのだろうが、内緒にされた事が自分の存在を無視されたようで、カイは素直になれない。それよりもエリスがその男の子になんと返事をしたのか、気になって仕方がなかった。
エリスは黙ったまま手紙をぐしゃぐしゃにし、握り込んでうつむいた姿勢を崩さなかった。
彼女もまた、どう説明をしていいのか悩んでいるのかもしれない。いつものように笑って冗談だと笑い飛ばしてくれたのなら、こんなに動揺はしないのに。
うつむいたエリスの首筋がとても白くて、細い。窓から差し込む夕日が、金髪の三つ編みに溶けてとても綺麗だった。今まで気づかなかったけれど、彼女はこんなに美しかっただろうか?いつも女の子らしくない行動と言動で気がつかなかったけれど、改めてみると整った顔立ち。すっとのびた手足。こんなにも、彼女は魅力的じゃないか。ラブレターの一つや二つもらっても、おかしくはないだろう。それとも、自分が知らないだけですでに何度か告白だってされているかもしれない。 
何か謝罪の言葉をかけなければと思うカイだが、自分に秘密にされた事と、エリスの姿の美しさに見入ってしまい、言葉が出てこなかった。重い空気が、当たりを包んだ。
沈黙を先に破ったのはカイだった。
「ねえ。それ……返事したの?」
「返事?まあな。でも、お前には関係ないだろ!」
「……」
エリスの有無をいわせぬ返事に、カイは何も言えなかった。
エリスは半分怒ったようにそう言い放つと、側にあった鞄にノートを詰め込んだ。
エリスを怒らせてしまった。こんなつもりではなかったのに。自分の浅はかな好奇心と軽率な態度をカイは心から後悔していた。
エリスは鞄と握りしめると、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
このまま彼女が出て行くのかと見守っていると、突然、彼女はカイの方を振り返り、まだ怒りに震える声で言い放った。
「付き合う気はないって速攻で返事してやった。これで満足か?」
「……そう」
「今日の勉強は終わりだ。さっきの問題だけやっとけな!」
 エリスはそれだけ言い放つと、バンと大きく扉を閉めてその場を後にした。意識した事はなかったけれど、慌ただしくスカートをひるがえしながら部屋を出ていくエリスの後ろ姿は、まさしく女の子のものだ。
自分と比べると小さな肩も。華奢な腰も。まだ胸のふくらみは小さいけれど、病気がちだとはいえ、男の自分とは体つきが明らかに違っている。
「…ごめん」
 カイはエリスの居なくなった部屋で、小さな声で謝った。今頃謝ったって仕方ないのに。小さく謝罪の言葉が出たと同時に、心の中ではよかった。断ってくれたんだ。とほっとする自分がいる事に驚いた。
一体、自分は何に安堵しているのだろう。
カイは自分の知らないところで自分を置いて、エリスがどんどん先に成長していくような気になって不安で仕方がなかった。
けれど自分の中に目覚めた、エリスを異性とし見ている自分に気づかないほど、カイは鈍感ではなかった。



to be  continued……