白木蓮の咲くころ 9 | 一期一会

一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

 

   9



「ねえ、お母さん、最近エリスさん、ここに来ないね」
「そうね。学校の勉強が忙しくて来れないみたいよ」
「そう……僕もエリスさんと同じ学校に行きたかったな」
寂しそうなカイの様子を察すると、両親は心苦しくてたまらない。だが、段々病状が悪化するカイを見ていると、本当の事を告げるのは酷だと、つい他の言い訳をしてしまう。
 医者からは、カイの体が、二十歳まで持つかどうかと言われると、このまま知らずにいてくれたらと両親は密かに願うしかない。カイには可愛そうだけれど、それが息子にとってもエリスにとっても一番よい方法だと、両親は頑なに信じていた。


     *



 エリスが伯爵家に来て、初めての冬が近づいていた。
 ハイデリヒ家も裕福な家庭の部類に入るだろうが、伯爵家ともなると比べようがないくらいの差があった。
 エリス一人の為に専属のメイドと執事がいて、いちいち着替えをするのにも一人ではできない。ここにいれば何不自由ない生活は一生保証されるものの、エリスにとっては退屈なものでしかなかった。
思い出されるのは、カイと一緒に過ごした日々。
 格別どこかに出かけたりした思い出はなかったけれど、ただ一緒にいて、たわいのない話をするだけで、とても幸せに思えた。
 せめてカイに挨拶ぐらいはしておきたかったな……。
 もう二度と逢えなくなるのなら、なおさら。
エリスはカイに逢わずに家を出た事を、今更ながらとても後悔していた。
自分から逢いに行きたいけれど、それもできない。
エリスはカイ家を出るときに、カイの両親から堅く約束をさせられていた。カイには二度と会わないで居て欲しい――。
もちろん、エリスからは二度と息子に連絡をとらないで欲しいと。
最愛の息子の病状も悪化しているせいもあるのだろう。カイが少しでもショックを受けないように、エリスにとっても一日も早く伯爵家の孫娘となれるよう願って必死にそう言われると、今まで孤児院からひきとってここまで育ててくれた恩もあり、エリスは黙って義父母に従うしかなかった。


to be  continued……